ちょっとだけね
「……宵乃ちゃん?」
いつもとは違う宵乃の表情に、美香もびっくりしたようだ。美香は心配そうに宵乃の表情を見る。
宵乃は大きく息を吸う。
辺りが一瞬だけ静かになる。
「……寂しかったんだ。小学6年生の、宵乃という人間は……2人が仲良くて寂しかったんだ」
「……その寂しさから取り巻きが欲しくなって、力で自分を誇張して……。人を傷つけて、下げることで自分を上げた気になっていた。そういうことだったんだ…」
宵乃は不意に寂しそうな横顔を、私達に見せる。その顔を見て、私の心臓はなぜか騒ぎ出す。
あぁそうか。私も罪悪感を感じているのか。
宵乃を1人にしてしまって、最悪の結果を招いてしまったことを。
私がもっと上手に行動できていれば。
私がもっと平等に接していれば。
私がもっと宵乃と話していれば。
こんなにすれ違うことはなかったのかもな。
こんなに最悪な結果になることはなかったのかもな。
「………宵乃ちゃん。確かに、人を傷つけて下げるのはよくないよね。でも、私達も宵乃ちゃんのことを傷つけちゃってた」
心晴は宵乃の目を見てゆっくりと話す。やっぱり心晴の声には何か不思議な力があるのかも。
「……そっか。ごめん、宵乃」
私は宵乃達に向かって頭を下げる。
そんな私を見て、心晴も続く。
「宵乃ちゃんのこと全然わかってなかった。……ごめんなさい」
そんな私達を見て、宵乃は「はあ……?なんでこっちに謝るわけ?」と強い口調で言う。
「自分が人間関係下手だっただけ。そっちに謝られる筋合いはないし」
宵乃は不満そうに口を尖らせる。
そんな表情、「昔どこかで見たかもしれない」と懐かしい気持ちになった。
「………美香もごめん。美香のこと、力で無理やりねじ伏せた。怖かった?」
宵乃は美香にも謝る。「怖かった?」と聞いてしまうところが、宵乃っぽい。
「……ちょっとだけね」
美香はさっきの「怖かった?」に「ちょっとだけね」とこたえる。
絶対「ちょっとだけ」じゃないけど、ここで「怖い」と肯定できてしまうのがすごい。
だけど、宵乃は嫌な顔をしない。
「そっか」とだけ呟く。否定でも肯定でもない。だけどこれはきっと大きな一歩だ。
「さー、話もひと段落したし、自販機でジュースでも飲も!!」
心晴が3人に向けてそう言う。
ニコニコと、心から楽しそうに笑っていた。
私は冗談で
「心晴の心は、晴れた?」
と聞く。
心晴は、
「え、心晴だけに?」
とくすくすと笑う。
すると、美香が心配そうに話す。
「……うちは、いた方がいい?3人組で仲良くやってた方が……」
「……美香、帰らないで」
「美香ちゃん!」
「美香……」
私達3人の声が重なる。最初が宵乃、真ん中が心晴、最後が私だ。
「……みんな、ありがとう……。うちなんかで良いの……?」
美香は悲しい顔で私達のことを見る。
すかさず心晴が、
「もちろん!美香ちゃんも心晴ちゃんもね!昔のことは昔のこと。だけど明日からは、今までみたいなことはやめてね!!」
と2人に笑いかける。
心晴の髪が風でなびいた。心晴は髪をおさえる。
「みんなは何買うー?」
心晴の無邪気な声が、いちょう公園に響いた。




