小学6年生のあの日
「うちらは、2人の噂を流してたんです」
「告ってフラれた、という根も葉もない噂を」
「……『宵乃が流した』が正解」
宵乃が、この場ではじめて口を開く。
心晴は、そんな宵乃をまんまるの目で見つめている。さぞかしびっくりしたのだろう。
「……宵乃ちゃんは、3人組で『ハブられてる』って感じたんだよね。心晴ちゃんと千奈ちゃんが仲良くて」
美香の言葉に、宵乃も続く。
「千奈が、心晴を独り占めみたいにしてて、ムカついた」
拗ねた幼い子どものように、ボソッと言う。私は、そんなことを言う宵乃達に遂に耐え切れなくなり、
「はぁ!?何その言い分!」
と態度を荒げる。
「………ちょっと千奈、落ち着いて。だって私達が宵乃ちゃんを1人にしちゃってたのは、事実かもしれないじゃん?私にも思い当たる節があるし」
「え、心晴……」
心晴は表情ひとつ変えずに、淡々と告げている。そんな心晴が、心晴じゃないみたいで私はふっと声がでてしまう。
心晴は、昔はもっと人情に厚かった気がする。
少なくとも、小学6年生のあの日までは。だって、私達を裏切った宵乃のことを気にしていたくらいなんだから。
「だから、噂を流した。バカにできると思ったから。イライラしたから、バカみたいな嘘の噂を流した」
宵乃は感情の見えない声で話し続けている。怖い。低いという訳でもないし、高いという訳でもない。
ただ抑揚がない、一定の話し方。
「……うちら、宵乃の嘘の噂に乗っかってたの。嘘だってわかっていたけど、乗っかっちゃった」
美香の目はさっきからぐるぐると目まぐるしく動いている。きっとどこに目線をおいても落ち着かないのだろう。
すると、心晴はもう全てが振り切れたような顔をして「………そうだったんだ。……2人とも、教えてくれてありがとう」と言う。私もびっくりしてしまうほどの、晴れやかな顔だった。
「心晴……?」
宵乃がびっくりしたように声を出す。
この人も、「小学6年生のあの日」で変わってしまった人の1人だ。前よりもっとクールになった、と表現するのは違うかもしれない。「じゃあ宵乃は」と考えると、答えはすぐに頭に浮かぶ。感情が見えないロボットのような人間になった。冷酷で、冷静だけど、怒りのスイッチが入ってしまうと影から攻撃してくるような。
一言でまとめていいのならば、宵乃は「めんどくさい存在」になった。
そのため、女子達は宵乃のことを否定できない。
宵乃に「やって」と言われたらやらなければならないし、宵乃が「あいつうざいよね」と言ったら同調しなければならない。
そんな空気が、いつしか流れ始めていた。
あの日から。3人組でいろいろあったあの日から。あの日を境に、宵乃は悪い方向に持って行かれた。
そんな宵乃が、驚いたように心晴を見ている……?
そんな宵乃、信じられない。
何年ぶりに、宵乃のこんな表情を見た……?




