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アスタリスクの声

***


「へえー、あたしがいないときにそんなことがあったんだ」


穂花は、「ほーほー」と相槌を打ちながら私の話を聞いていた。



「………大変だったね、千奈」


穂花は、私の目をじっと見つめながら言う。穂花の表情が空気からも伝わって、なんとなく痛いと感じてしまう。




「ねぇ、あたし図書委員だし、本の話していい?」


「えっ?」


え、なんで?なんで急に本の話?


「本とかでさ、場面切り替わる時に記号が使われるじゃん?あたし気になって調べてみたんだけどね」


穂花はそこまで続けると、空中に指で何かを書き始める。

「こーんな感じで、真ん中から6本の線が伸びてるやつ!」


シュッシュッシュ、と穂花が空中に書いた記号を頭の中で想像する。星みたいな記号なのかな。見たことあるやつだ。


「その記号ね、『アスタリスク』っていうんだって、アスタリスク!!あたしと千奈ちゃんの声って、場面によって変わっちゃうよね。だからアスタリスクに親近感持っちゃって」


穂花はニコニコと話し続ける。本に対する熱量の高さが伺える。



「………アスタリスクか。なんかかわいい響きだね」

私はそう答えると、ロッカーの中に入っている本を取り出す。


そして、その本のページをパラパラとめくる。



「ほんとだ、あった!アスタリスク!」


私が指をさした場所には、3つのアスタリスクが置かれていた。

アスタリスクが、まるで肩を寄せ合う小さな子どものような、無邪気な存在に見えたのはなぜだろう──。



***


「……で、私のところに美香ちゃんを連れてきたんだね」


私が心晴に経緯を説明したら、案外心晴は「へー」とクールな反応をした。


ここは放課後のいちょう公園。だんだん伸びていく影と、夕日というシチュエーションも相まって、結構エモくなっている。

まあ、私なんで「エモい」の意味なんてわかんないんだけど。おしゃれ女子が使ってる言葉なイメージがあるから、少しだけ憧れていただけだ。



「………美香ちゃんと……宵乃、ちゃん」


心晴は気まずさからなのか言葉が切れてしまう。ペースを戻そうと、一旦深呼吸をして再び口を開く。

「……今日はなんでここに?」



2人は顔を見合わせて、何かを目で伝え合っている。その後、美香が口を開く。


「……2人に、言わなきゃいけないことがあって」


美香は私達から目を逸らす。心配そうに、体操服のズボンを手で掴んでいた。



訪れる沈黙。

私達は美香と宵乃の言葉を待つ。ただそれだけしかできない。

2人が言い出さないことには、こっちも対応のしようがなくて……。



「あの、えっと……」


美香は宵乃の背中を掴むと、勢いよく背中を下に押す。


「本当に、ごめんなさい……!!」


言葉を発したのは、美香だけだった。


「全て話させてください」

美香はそう言って、私達をベンチに案内した。美香は座らないらしい。

それが謝る側の心だと言っていた。


しかし、美香はこんなに必死に頑張っているのに、宵乃はさっきから一言も喋っていない。きっと怒っている。


……美香に怒っているのか。宵乃は、美香にここへ連れてこられたんだ。

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