アスタリスクの声
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「へえー、あたしがいないときにそんなことがあったんだ」
穂花は、「ほーほー」と相槌を打ちながら私の話を聞いていた。
「………大変だったね、千奈」
穂花は、私の目をじっと見つめながら言う。穂花の表情が空気からも伝わって、なんとなく痛いと感じてしまう。
「ねぇ、あたし図書委員だし、本の話していい?」
「えっ?」
え、なんで?なんで急に本の話?
「本とかでさ、場面切り替わる時に記号が使われるじゃん?あたし気になって調べてみたんだけどね」
穂花はそこまで続けると、空中に指で何かを書き始める。
「こーんな感じで、真ん中から6本の線が伸びてるやつ!」
シュッシュッシュ、と穂花が空中に書いた記号を頭の中で想像する。星みたいな記号なのかな。見たことあるやつだ。
「その記号ね、『アスタリスク』っていうんだって、アスタリスク!!あたしと千奈ちゃんの声って、場面によって変わっちゃうよね。だからアスタリスクに親近感持っちゃって」
穂花はニコニコと話し続ける。本に対する熱量の高さが伺える。
「………アスタリスクか。なんかかわいい響きだね」
私はそう答えると、ロッカーの中に入っている本を取り出す。
そして、その本のページをパラパラとめくる。
「ほんとだ、あった!アスタリスク!」
私が指をさした場所には、3つのアスタリスクが置かれていた。
アスタリスクが、まるで肩を寄せ合う小さな子どものような、無邪気な存在に見えたのはなぜだろう──。
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「……で、私のところに美香ちゃんを連れてきたんだね」
私が心晴に経緯を説明したら、案外心晴は「へー」とクールな反応をした。
ここは放課後のいちょう公園。だんだん伸びていく影と、夕日というシチュエーションも相まって、結構エモくなっている。
まあ、私なんで「エモい」の意味なんてわかんないんだけど。おしゃれ女子が使ってる言葉なイメージがあるから、少しだけ憧れていただけだ。
「………美香ちゃんと……宵乃、ちゃん」
心晴は気まずさからなのか言葉が切れてしまう。ペースを戻そうと、一旦深呼吸をして再び口を開く。
「……今日はなんでここに?」
2人は顔を見合わせて、何かを目で伝え合っている。その後、美香が口を開く。
「……2人に、言わなきゃいけないことがあって」
美香は私達から目を逸らす。心配そうに、体操服のズボンを手で掴んでいた。
訪れる沈黙。
私達は美香と宵乃の言葉を待つ。ただそれだけしかできない。
2人が言い出さないことには、こっちも対応のしようがなくて……。
「あの、えっと……」
美香は宵乃の背中を掴むと、勢いよく背中を下に押す。
「本当に、ごめんなさい……!!」
言葉を発したのは、美香だけだった。
「全て話させてください」
美香はそう言って、私達をベンチに案内した。美香は座らないらしい。
それが謝る側の心だと言っていた。
しかし、美香はこんなに必死に頑張っているのに、宵乃はさっきから一言も喋っていない。きっと怒っている。
……美香に怒っているのか。宵乃は、美香にここへ連れてこられたんだ。




