私は許さないよ
「お前ら、ちゃんと練習しろよーー」
体育教師がこっちに来て、ダルそうにそんなことを呼びかける。
「面倒だな」と思っていることが見えてしまう。こっちまで嫌な気持ちになる。
「おー、美香、ちゃんと練習してるかー?」
でた、この教師のダル絡み。
結構生徒の間では「うざいよね」と噂されている。別に私も事情だと思う。たまに、あるじゃないか、理不尽なほど先生を批判する人が。
私はそういう人が嫌いだった。
きっと美香とこの教師は仲良くない。美香は苦笑いすらしていない。
美香の表情はみるみる曇っていく。笑えてくるくらいに。まるで誇張しすぎた漫画の表現のような、おかしさ。
「こうな、投げるフォームは」
固まっていた美香に向けてボールの投げるフォームを説明しだす。
美香は顔を向けるだけで、何も反応しない。
そんな状況が続き、だんだんと美香と先生のことが可哀想に思えてきてしまう。
「……こう、ですか?」
私は美香と先生の間に入って、ボールを投げるフォームをやってみせる。
すると、先生は一瞬だけ驚いた表情をするが──「あぁ、そうだ、それだ!!」と笑う。
私も、この人のことは苦手だ。話し方とか、絡み方が、何故か嫌なのだ。
何故だろうか。考えたくはないんだけど。
「よし、美香と千奈も投げよう!またアドバイスするからな!!」
私は先生の言葉に背中を押され、強引に美香や穂花と引き剥がされた。
……マジで、今まで会った人の中でトップレベルに苦手な人かもしれない……。
そう思ったころには、美香に向けてボールを投げていた。
***
「……千奈、ごめんなさい」
授業が終わり、1人で荷物をまとめているところ、美香に突然謝られた。
「やっぱり、うちのこと助けてくれた。悔しいけど、助けられた!!」
そう告げた美香の表情は晴れているように見えた。………なぜだろう。
あれ、だんだん曇っていく……?
「……悔しい、けど……。今まで、うちら散々酷いことしてきたし……。穂花にも迷惑かけちゃってたし………」
後半は歯を食いしばっていて、上手く発音できていなかった。それが伝わるのが辛い。どう反応するのが正解なのだろう。
周りを見て、美香しかいないことを確認する。喉をおさえても、きっと暴走してしまう。
「私は許さないよ」
低い声。さっきとは違う。でも、この声には『怒り』が混ざっている。
まるで攪拌棒で溶媒と溶質を混ぜているときのような、ちっぽけな気持ち。
ただの低い声ではない。
「本物の怒り」を使ってしまった。「怖がらせる」なんて心配してなかった。
喉は抑えてしまったけど。
「……ごめんなさい。ずっと千奈のこと嫌って、嫌がらせして」
美香はもう全てを諦めたような顔で、私に言った。




