立場逆転
私は、穂花にボールを預ける。
さっき美香が投げた、私達ペアのものだ。
穂花は、美香に拾ってもらったものと私達のボール2つを抱える。
地面に置いておけばいいのに、抱えているのはきっと心配だからだ。
穂花の口元もモゴモゴと動いている。でも言葉は聞こえない。
いや、私が穂花から物理的に離れてしまったからなのか───?
風で砂埃が舞う。
美香は砂埃が舞っているところに背を向ける。それは私に背を向けることと等しい。
まるで美香は感じ悪い人だ………って、部分的には事実なのか?
…………酷いなあ、私の考え。
嫌いな人には、昔からこうだったっけ。いや、「私のことが嫌いな人」のことを、私が嫌ってたんだっけ。
砂埃は一瞬で通り過ぎた。
少しだけ考えすぎてしまった。
いつの間にか美香はくるっと私のことを見ていた。
睨むような目つきに、私の心臓はキュッと縮こまってしまう。
なぜだろう、立場が逆転している。
私が怖がらせる側だったのに。
私は、キョロキョロと困ったように周りを見てしまっていたらしい。
自分の無意識の行動を悔やむ。でも悔やみきれない………。
「千奈、何?」
美香はゴミを見るような目で私のことを見る。
その目がたまらなく怖い。だけど、ここから動かないと私は変われない。
今までと同じ私のままじゃ、ダメなんだよな。
勇気を振り絞るために。
一瞬で吸って、胸に空気を送る。
怖さを紛らわすために、唇をギュッと噛む。
「み、美香………もう、やめよう、こんなこと……」
自分でも驚いてしまう。自分の喉から発せられた声に。
低い。だけれども、どこか腑抜けて、ふにゃふにゃになっている声。
「はあ、千奈……!?」
美香は、カッと目を見開いて私のことを見る。
何秒、睨み合っていただろうか。
美香がその状態に耐えきれなくなり、私から目を逸らす。
「うるさいよ、千奈」
美香は他の方向を見ながら言う。
さっきから、美香の右足はサッカーボールを蹴るような動作をしている。
不満そうな表情で。
どうしよう………。
怖い、声が………出ない。
低い声ですら、出ない。
声を出そうとすると、掠れて咳が出てしまう。
私はギュッと目を瞑って天を仰ぐ。
…………苦しいよ、私は、美香のことを救えるのだろうか。そして、本当にその決断は正しかったの………?
その瞬間、私の肩に何かが触れる。
私はびっくりしてその『何か』を両目で見る。
穂花だった。
表情こそ不安そうなものの、勇気を出してここまで来てくれた………。
いつの間にか、私は泣きそうになっていた。これが友情、本当の友情なんだ………と。
「千奈、ねえ、気づいてない?」
そこまで一気に言うと、穂花は息を吸って、もう一度続ける。
「千奈は、ひとりじゃないんだよ!!あたしだっている、じゃん……!!」




