本望
「………!!」
穂花に指摘された美香の表情は、まるで悪魔のように醜いものになっていく。
眉間にしわがよって、目つきも鋭くなって。
「……は、うるさいなあ。今取ろうと思ってたんだけど」
めちゃくちゃ怒ってる……!!
美香、ものすごく怒ってる……。
女子達からは「美香ちゃんってこんな子だった?」「こんなこと言う子だったんだ……」と声が聞こえる。
───あれ?
これっていい展開なのかな。
私は、自分のことを嘲笑っていた美香や宵乃のことを忘れてない。小6のあの日のことを忘れていない。今だって鮮明に思い出せる。
あの思い出で私達は傷つけられた。
精神的に痛かったし、辛かった。
だけど頑張って、頑張って、頑張って、もがいた。苦しかったけど……心晴がいたから、頑張れた。
だからこそ、もう傷つきたくない。
心晴のことも傷つけてほしくない。
だけど、今の状況はおかしい。
だって美香が傷つきそうな場面なんだから。
きっとこのままだと、美香はこのクラスから浮いて嫌な思いをしてしまう。
私は、その気持ちは痛いほどわかる。
私の去年なんて、ひどかった。
友達なんていなかった。私から拒絶してしまった。
「ねぇ、千奈ちゃん……まずいよ。どうしよ」
穂花は、私の耳元で囁くように言う。表情を見なくても、眉がハの字になっているのが感じられる。
………ん?『どうしよ』……?
「ねぇ、穂花。私今までさ、穂花と心晴の仇を取るってことばっか考えてた。だって美香達は、私と心晴と穂花のこと傷つけたから。だけど、それっておかしい?違う?私の考えってやっぱおかしいよね?」
私の手足は震えている。
ドクンドクンと、心臓が大袈裟に動いている。
私の言葉を聞いた穂花は、少しだけ驚いた表情をして唇をかむ。そして、
「そ………うだね、千奈ちゃん、あたしの仇なんて取らなくていいんだよ、千奈ちゃんがもっと辛くなっちゃうじゃん。それに、傷ついたからこそ、傷つけるのってダメじゃない?自分がされて嫌だったことって、相手にもしたくなっちゃうのはわかるけど───相手と同じ土俵で戦っちゃダメ──」
言う。話の途中で切れたが、穂花はもう一度、
「ダメ、絶対ダメ。もっと頭使ってさ、相手も傷つけずにこの場を良くする方法考えてみない………?あたしだって、怖いけどさ。美香ちゃんがあんな風になってるところ、見たことないもん」
穂花は泣き出しそうな目で私に訴えかける。その顔を見るだけで、私も泣き出してしまいそうだ。
苦しい。
早く授業が終わってほしいのも本望。
自分が傷つきたくないのも本望。
誰も傷つかないでほしいもの本望。
私、決めた。
───美香を、庇おう。
美香のことを助けよう───と。




