闘う
「……まずいね、千奈ちゃん」
穂花が心配そうに、まんまるの瞳で私のことを見つめる。その視線で心が痛む。
どうしようか。
穂花と美香の間に蟠りなんてなかったら、普通に「美香ちゃん、ボール取って」なんて言うのかな。
でも、穂花と美香の間には、目に見えないけど確実に蟠りがある。
だから、穂花のペアの子が声をかけるのを、穂花は期待している。
でも、穂花のペアの子は、心配そうに周りをキョロキョロと見ている。
まあ、そうなるよね。
私だって、こんな状況だったらボール取りに行けないもん。
もう一度、まじまじと穂花ペアのボールを見る。
美香の足元……美香の半径30㎝以内。
美香がしゃがめば、楽にボールが取れる範囲。
ねえ、さすがに振る舞いが下手だよ、美香。
「……なあ、千奈、ボール投げてー」
あ……私はボールを止めてしまっていた。
その事実を美香に突きつけられて、何とも言えない不快感がどっと押し寄せる。
「…………ごめん、なさい」
私は、持っていたボールを軽くポーンと投げる。
今までずっと美香のことを軽蔑していたが、私と美香は初対面なのだ。
だから、怖い………。美香という人間を知らないから、とてつもなく怖い。
やっぱり声にも出てしまう。私の声の特徴が露わになってしまった。
美香はボールを拾う。
穂花ペアのボールには目もくれず、強引に、私に向かってボールを投げる。
すると、その一連の流れを見ていた穂花が───何かを決心したように息を吐く。
「…………み、美香ちゃん、ボール……取ってくれない?」
声が震えていた。
隣にいる穂花は、いつもと別人のように変わっている。
心なしか、いつもより声が高く・甘くなってる気がする。
これが、「私と同じ」なのか───。
怖いと声が高くて甘くなってしまう穂花。
怖いと声が低くなってしまう私。
違うようで、同じだったり。
同じなようで、違ったり。
「…………」
穂花に指図されたことが気に食わないかのような表情をしている。
ここから美香はどうするのだろうか。
………これは、穂花と美香の問題じゃない。
もっといろんな子──私とか心晴とか宵乃とか──を巻き込んだ、大きな戦いなんだ。
いや、「闘い」って言った方がいいか。
この体育の時間で、過去の自分の行動にケリつけられるように、私はもがく。
心をまとめて包み込めるような寛大な人に、なりたかった。




