心晴の良心
「宵乃」の読み方は「よいの」、
「広瀬穂花」の読み方は「ひろせほのか」
です。
その女子達の会話が聞こえ、顔を見合わせる私と心晴。
真ん中にいた宵乃の口は、モゴモゴと動いている。
「よ、宵乃……?大丈夫?」
心晴は良心だけで宵乃のことを気にかける。
すると宵乃は、
「ぷっははは!!舌噛んでも笑い噛み殺せないんだけどっ!!っはは!!」
と笑い出した。
不気味だった。
突然腹を抱えて笑い出す宵乃。
その宵乃を見て、満足そうにニタニタと笑う女子達。
私は宵乃と女子達を交互に見て、ある可能性を確信にまで持っていく。
「あぁ、わかった。心晴、家帰ろ」
私の口から出た言葉は、意外にもあっさりとしたものだった。
「え?宵乃ちゃんは……?」
「あぁ腹ちぎれる…っはは」などと、訳のわからないことをほざいているやつのことをチラリと見る。
「ほっとこ。後ろの女子と仲良いみたいだしさ」
私はそう言うと、心晴の手を強引に取る。
心晴はそのことに驚き、「え、ちょっ、千奈ちゃん!離して!!」と私に訴えかける。
そんな心晴を見て、私は「宵乃のところに行くつもりでしょ?」と言う。
心晴はコクリと頷いた。
「──やっぱり。私達の嘘の噂流してるような人と話すのって楽しい?」
心晴は、私の目をみて絶句する。
「………っっ」
「心晴、無理しないでね」
帰り道、2人は何の言葉も交わさなかった。
夕日に照らされる、いちょう公園のブランコを、無心でこいだ。
キコ…と、金属が軋む音が小さく鳴った──
***
やっぱり嫌な記憶だ。
宵乃のことなんて、思い出すだけで反吐が出そうだ…。
***
給食を食べ終わり、私は本を読んでゆっくりと時間を過ごしていた。
そんな中、私は誰かに声をかけられる。
「千奈ちゃん」
どこから出しているのかわからない、甘ったるい声に、反射的に相手の顔を睨んでしまう。
斜め後ろにもう1人誰かいるようだが、あまりよく見えない。
少し高い位置でお団子をしている、つやつやで黒い髪。すらっとしている体型。学校指定の体操服を、私とは違って着こなせている。体操服は最初から自分のものだったと勘違いしそうになるほど、彼女はかわいかった。「元がいい子って、やっぱり何を着てもかわいくなれるんだ」と少し嫉妬のような気持ちの輪郭を掴んでしまう。
初対面の人のことをジロジロと見てしまう癖、いい加減やめたいな。でも、こういう声の人物とはなるべく関わりたくないし、今までこういう声の人に対していい思い出がない。
私が一向に話し始めないせいか、相手は自己紹介を始める。クラスメイトの名前すら把握していない私にとって、それはありがたいことだった。すぐ忘れてしまうかもだけど。
「あ、あたしの名前は広瀬穂花。君ってさ──」
「……急に何?」
……まずい、また喉が勝手に低い声を……。
どうしたらよかったんだろう。
「君ってさ、声──人によって、変えてるよね?あたしずっと気になってたんだよね」
ごめん、ごめんなさい……。
ここで「私が怖い」と覚えたら、もう二度と私に近づいてこなくなるかな。
そんな甘い考えも、目の前の人の声も、なにもかも──
「……うるさい」
全て──。
だんだん、冷や汗が出てくる。
心なしか、呼吸も不規則になってる気がする。
「えっ、ちょっと千奈ちゃん、大丈夫……?」
「心晴……」
私はとっさに口を押さえた。
無意識に、心晴に助けを求めてしまっていた。




