鮮明な記憶
「ねぇ──」
これは冷たくて無情な私の声。
警戒心が声にまで出てしまっている。
にらむような目つきが、また恐怖を与えてしまっている。それが一番のストレスだ。
***
「わあー!!」
まるで子猫を見つけたかのような、甘くてご機嫌な声。
どこまでも飛んでいけるかのような、透き通る、芯のある声。
***
「ばっかだなあ──」
たったひとりの心を許している友達──いや親友にしか見せない、私の心の側面、いや表面。
その親友の前での私は、冗談を言ってふざけて、言葉が強くなってしまう──。
***
「おはよ、千奈」
いつも心晴こはると待ち合わせをしている、いちょう公園。
少し早めに来て正解だったようだ。
心晴の方が先に公園についていた。
心晴は私と目が合うと、黒いリュックを肩にかけなおし、「行こっか」と言う。
心晴はニコニコと私に話しかける。
「でさ、昨日の理科めっちゃおもしろくてー」
「おまえっ!!私も心晴のクラスの理科行きたかったよー!何がおもしろかった?」
「えーっとね、理科のカードゲームしてね」
中学2年生の、他愛もない会話。
心晴と話している時の私は、どんな性格なんだろう。
──客観的に私のことが見たい、とどれほど願ったんだろうか。
***
休み時間、難しい授業が終わってぼーっとしていた。
すると、私と同じ保健委員の女の子が、おそるおそる私に話しかけてくる。
「あの…浅野さん」
私は間髪入れずに「なに?」と問いかける。
私の目はギロリとにらんでしまっている。
あぁ、怖いだろうな、ごめんね………。
「あ、あの……今日委員会の集まりあるんだって。それだけだよ、ごめんね、浅野さん」
申し訳なさそうにそう言うと、その子はすぐに友達のところへ行ってしまった。
その子の姿を見て、私の心はキュッと痛くなる。
私だって、「こういう性格になりたくてなった」わけじゃない。
いつの間にか、仲良くない人には警戒心をむき出すようになってしまったんだ。
あれはいつの話だっけ。
私の記憶の中、一番鮮明で、一番消したい記憶をふと探る。
「忘れてたらいいな」なんて思っても、意味はない。
私はあの日のことを思い出してしまった。
***
「千奈、宵乃、帰ろー」
小学6年生の遠い日の記憶。
いつものように心晴と宵乃と帰っていた、その日だった。
「ねえ、千奈ちゃんと心晴ちゃんって告ってフラれたんでしょ?」
「え、それあたしも聞いたー。かわいそーだよね、でもまあ陰キャだしさ」
甲高い笑い声が混ざった、後ろの女子達の会話。
私は恋愛なんてしたことないのにな、バカめ。
私達がここにいることに気づいて、この話題を選んだのだろう、たちが悪すぎる。
悪意が声からも伝わってしまう。




