意趣返し
「やーーっ」
私は気怠そうに声を出す。声は低いままだ。美香に対して警戒心をむき出しにしている。
でも、相手を傷つけるとか心配しなくていいんだ。だって美香達は私のことを傷つけたんだから。報復だ。復讐だ。
しかし、声とは違ってボールは美しい軌道を描いて、ぴったり美香の足元にストンと落ちる。
フフン、とニヤつきそうになった。
それを、舌を噛んで全力で抑える。
自分が嫌いな人がしている表情なんて、したいわけがない。だから、私は煽らないしドヤ顔しない………っていうのを行動基準にしたい。
「………」
美香は、無言でゆっくりボールを拾う。
そして、もう一度私に向けて投げ…………え?
美香は、45度の軌道ではなく──まっすぐ私に向けて投げる。
まるで野球のストレートのように、豪速球。
これを、ハンドボールでできるなんて、美香はどれだけボールが投げられるんだ?
隣にいた穂花が、私以上に驚いて「わっ」と声をだす。
ボールは、私の横を通り抜けていった。私はそれを追いかける。足が動かない。美香は「ごめん」の一つも言わない。
止まったボールを片手で拾う。そして、向きを変えて美香の方向を向いた。ボールを取った時、手に土がついた。でもそれも気にしちゃいられない。
強いまなざしで、射抜くように美香と目を合わせる。
そして、心配そうに私のことをを見ていた、穂花の近くを通って元の場所に帰る。すると、
「わ、千奈ちゃん、大丈夫?」
と穂花は、チラッと私を見て耳元で声をかけた。
「あ、全然……大丈夫」
その言葉を交わした後、「大丈夫じゃないかも…」と急に不安になる。
これは、負けられない。
穂花の思いも、心晴の思いも、私は背負っている。
なぜかって?
私が勝手にそういう関係を作ってしまったからだ。
ただ、宵乃達が嫌いだからなのかもしれない。だから負けたくない。それは普通のことだと思う。
その理由は、挙げていけばたくさんある。
昔の自分を肯定するため。
昔の心晴と自分のことを助けるため。
踏ん切りをつけるため。
宵乃や美香達へ報復・復讐するため。
ただ、やっぱり復讐心は大きいよね。
私のことを傷つけたのは気にしてない。だけど、心晴のことを多少なりとも傷つけて……。
許せない。あんな天使みたいな、優しい子に傷を負わせたなんて、恥ずかしくないのか?
私は、10秒ほどそんな思考をしていた。ボールを見て止まっていた。
やっと投げる気になって、私は美香に向けてボールを投げる。
斜め45度、体重移動、ボールを離すタイミング。
全てを意識して、今の気持ち全部ぶつけて───!!
踏ん切りを、つけてやる。
私も、心晴みたいに、前を向いてやる!!
私の意趣返し劇が、はじまった。




