争覇戦
「穂花のやつ、うちと離れたら都合よく千奈のところに行っちゃってー」
遠くで、先生がうちらを探す声が聞こえた気がした。
「はーいはい、今から行くからー」
うちは、もう半分諦めの表情で靴を履き、運動場へ向かった。
宵乃は、うちからプイッとそっぽを向けているように歩いている。
あの人こそ、時間に間に合うのか?
って、うちが言えることじゃないんだけど。
***
「じゃあ、とりあえず2人でキャッチボールしようか。去年の記録をもとに先生達がペア決めたから───」
その言葉を聞いて、私の心は沈む。
なんで自分達で決めさせてくれないの?
私、昔はそんなこと思わなかったのにね。
『友達』ができたからって、調子に乗ってる。自分がバカらしい。こういう、すぐに調子に乗ってしまうところは、昔から大嫌いだ。
すると、体育教師が突然
「じゃあ、美香と千奈がペア、穂花と──」
と言う。
え?
その言葉を聞いた瞬間、私の背筋はピリッと凍る。
嘘でしょ、私は穂花の「苦手な」友達、美香………と一緒に体育をしないといけないの?
まるで地獄じゃないか、と私は項垂れる。
太陽が、私の頭をジリジリと焦がしたいかのように照らしている。髪一本一本の悲鳴が聞こえたかのような錯覚を起こして、私は頭を手で振り払う。
そんなことをしていたら、周りにはとっくに人がいなかった。びっくりして左右を見ると、もうキャッチボールの場所に移動し始めていた。
すると、ボールを両手で持って移動していた穂花が、
「……千奈ちゃん……なんかあったらあたしに言って」
とこそっと私に耳打ちをする。
その耳打ちに、私はコクリと小さく頷いて応えた。
「……いきます」
美香は、私がキャッチボールの場所についたことを見ると、すぐにボールを投げるモーションを始める。
なんだろう、私が無意識に感じていた感想は「本格的」。
下半身の力を上に伝えている。
そして、投げる角度は斜め45度、完璧な動作だ。
なのに。
美香は力みすぎている。
こんなに本格的な動作をしたのに、美香のボールは美香の足元に転がっていた。
それを見て、私は吹き出しそうになる。
嘘でしょ、不器用すぎ、と。
もちろん、私は初対面ながら「美香」という人物の評価がマイナスだ。マイナスからスタートする人間関係なんて、良い方向に転がったことってあるのかな?
こんな疑問に時間を費やしても、現状は変わらない。
美香は足元のボールを両手で拾うと、私の足元まで転がした。
そのボールは、私の少しだけ前でひゅるひゅると止まる。
今度は、私の番。
去年私は、もちろん、さっきの美香以上は飛ばせていた。
美香の投げ方を見るに、たぶんさっきのは力みすぎておかしくなっただけだ。
バチバチと、私と美香の間を火花とか雷とかが交差しあってるように感じた。
まるで、2人だけ別のことをしているかのような、ピリついた空気感に包まれる。
でも、このキャッチボールひとつにこんなに本気になれるなんて、特技としか言いようがなくない?
私は片手でボールを拾う。
そして、美香に向けてボールを投げるモーションを始める。




