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反省会をしよう

 目の前には不良三人娘。

 

 一人は分かりやすい。ガラの悪い笑みを浮かべ、今も横目で…ハンガーの隅で隠れるように三番機の修理点検に勤しむヴィロクを見ている。なぜ、ヴィロクにそこまで執着するのかは不明だが、それは個人的な事だからまぁ置いておく。 肝心な仕事の方は問題ない…どころか優秀だ。


 その恵まれた体格を活かしてテキパキと仕事をこなしてくれる。

 男上官である自分を男とも上官とも思っていない不良ではあるが、仕事はきちんとやっている。

 不良だろうと、仕事さえきちんとしてくれれば問題無いのだ。

 

 …問題は、一見不良という言葉とは無縁そうに見えるこの二人だ。


 シルフィー・ロウとツクヨミ・ムラサメ。


 大問題児。それもツートップ。


 敵一個大隊を前に何をトチ狂ったか無謀な攻撃を仕掛け、危うく全滅するところだった。

 

 いや、自分がいなければ間違いなく二人共捕虜、下手すれば鉄屑と一緒にミンチになっていた。

 

「…機兵組は反省会をしよう」


 ジャックスは重々しく宣言した。…が、目の前の二人はその意味を正しく理解していないようだった。


「はい。より効率的な戦術を編み出す為ですね!」

 と、無邪気に微笑むシルフィー。

「鉄は熱いうちに打て、と言いますからね」

 鷹揚に頷くツクヨミ。


「違う、そうじゃない! …これからするのは戦術だとかフォーメーション以前の反省会だ。まずシルフィー、何故俺が「敵をやり過ごそう」と言ったのに撃ったんだ?」


 シルフィーは不思議そうな顔で居たが、やはり悪びれもせずに得意げな顔になって、

「それは勿論、先手必勝だからです!」

 などと宣う。


「いやいや、一個大隊相手にたった三機で、先手必勝だけでどうにかなる訳ないだろ? …しかも、殆ど当たって無かったし」


「うーん、それはまぁ、これからどんどん撃って腕を上げますよ!」

「そう言う問題じゃない! 頼むから俺の指示を聞いてくれ! 戦いには攻撃すべき場面としてはならない場面があるんだ。それを正しく理解しないと!」


「…しかし私からすれば、ああして戦いになってしまった以上は死力を尽くして戦うべきかと判断しますが?」


 ツクヨミはやや反抗的にジャックスを見返した。

「…そもそも戦い自体が本来すべきでは無かった。戦いになってしまった時点から、その死力を尽くして元の状態へ戻す事…つまり全力で逃げるのが正解なんだよ」


「全力で逃げるなどと…あなたには魔導機兵としての誇りは無いのですか? …失礼ながら、ジャックス殿が撤退命令などされなければ、あのまま一気呵成に敵を壊滅させていたかもしれません」


「あのねぇ…無駄死にに誇りも何も無いでしょうが! …それに、断言するけどそれは無い。こっちが壊滅していたよ。こうして無事に逃げられたのは運が良かっただけだ」

 そう言うと一層ツクヨミは反抗的に目を光らせた。 …ダメだな。言って聞くタイプじゃ無さそうだ。


 シルフィーもオットリしているが、その顔に反して強情というか自身を信じて止まない、厄介な芯の強さがある。…問題は二人共、その根本が間違っている事だ。

 …良く今まで軍にいられたものだ。 それともこんな二人でも追い出せない程、余程人手不足なのか?


「…分かった。どうやら言葉で説明しても平行線のままのようだね」


 少々荒療治…一種のショック療法になるかもしれないが、やるしかない。ジャックスはエリンとヴィロクを振り返って声を張り上げた。


「ヴィロク、エリン!全機に訓練用のペイントガンとプラクスティックを装備させてくれ!」


「え、まさか…やるんスか?」

「ししし、良い見ものになりそうだな」


 エリンが嬉々として武装ロッカーを開け、ヴィロクと二人掛かりでカラフルな色合いをした訓練用マシンライフル・ペイントガンと、丸太に分厚い布を巻いただけのプラクスティックを運び出した。


「…二人共、俺を負かせられたら今後も好きにやっていいよ。 ただし、俺が勝ったら二人には今後、有無を言わさず俺の命令に従ってもらう。 …どう?」


「楽しそうですね!良いですよ~!」

「望むところです」

 

 その自信は一体どこから来るのか知らないが、そのポジティブ精神だけは少しくらい見習いたいものだ、と素直に思った。


「…よし。スティックかライフルを俺に一発でも当てれば君達の勝ちだ。そっちは機体損傷度をヴィロクとエリンが計測してくれる」


「そんなハンデを与えちゃって、良いんですかぁ?」

 ふわふわした顔に、それでも目の奥に闘志を燃やすシルフィー。

「あとで負け惜しみだけはしないで頂きたいものですね」

 ツクヨミも不敵な笑みを浮かべて応じた。



 小雨がそぼ降る中、三機のゴーレムが対峙した。 ハンガーの中に計測器を積んだテーブルを置き、そこにヴィロクとエリンが並んで座り、シルフィー機とツクヨミ機の「機体損傷度」をモニターして評価する。掠めただけなら大したダメージにはならないが、コックピット…胴部に致命的な角度で被弾すれば一撃大破判定になる。


 対するジャックスは腕だろうが掠めただけだろうが、ペイント団が付着するかスティックが機体に触れれば敗北である。


「言っとくけど、自機の汚れはテメーらで掃除すんだからな!」

 エリンが呵々と笑った。


「あー、機体はちょっとくらい壊してもしょうがないけど、怪我だけはしないようにお願いします。 そんじゃ…はじめ!」

 ヴィロクが開始を宣言し、同時に二機と一機はそれぞれの間合いをやり取りし始めた。


 ツクヨミが一気に距離を詰めてきて、ジャックスとスティックを打ち合った。そのまま鍔迫り合いの状況に。


 しかしジャックスは機体を半身ずらし、ツクヨミ機を透かせるように受け流した。

『なっ!?』

 がら空きのコックピットに一発。 派手な黄色いペンキが胸部から胴体にかけてベッタリと張り付いた。

『ツクヨミ機、大破』

 メガホンからエリンの声で大破判定が宣告された。


『仇はとってあげます、ツクヨミさん!』

 シルフィーがペイント弾を連射するが、ジャックスは少し機体を屈ませてそれらを悠々と回避した。

 逆に一発、シルフィー機に向かって放ったペイント弾がべシャリとコックピットに命中した。


『シルフィー機、大破』

 今度はヴィロクの声で大破判定。


『納得いきません!もう一戦勝負です!』

 ツクヨミが通信を送って来た。 

『それに、あんな風に格闘戦で飛び道具を使うなんて卑怯です!』


『私も納得いきません!実戦だったならまだ戦えていたかもしれません』


 ジャックスは二人の負けん気と言い分に呆れながらも応じた。


「…いいよ。受けて立つ」


 しかし…何度繰り返しても結果は同じだった。

 全身を黄色のペイント塗れにさせながら、ブリュンヒルデB型とC型は無残に膝をついた。


『うぅ…こんな事が…』

 シルフィー機が地面を叩く。

『…確かに、あなたが優秀な魔導機士であることは認めます。…しかし、だからと言ってあなたが優秀な指揮官だという証明にはなりません』


 こう言われてジャックスは少し考え込んだ。…確かに自分はHOGでも単機で戦い続け、エマとも別々に行動していた。指揮官として活動した経験は無い。

「…ふむ、それは確かに一理ある。…じゃあ…」


 ジャックスはハンガーを振り返った。エリンとヴィロクを見比べて…ヴィロクより一回り以上立派な体格をしたエリンを選んだ。


「ヴィロク、予備のブリュンヒルデA型があったな?エリンはそれに乗り込んでくれ」


「どーする気だよ?」

 エリンが怪訝そうに眉をしかめた。

「メカニックなら、機体を最低限動かす事はできるだろう?俺が指示する通りに動いて見てくれないか?」


「まぁ、できる事はできるが、それであの二人に勝てってのか?…さすがに無理だと思うけどなぁ」

「ものは試しだ。やってみてくれ」

「あいよ」


 場所を移し、この屋敷がかつて使用していた蒸留所や小麦倉庫などがある、農場エリアに移動した。


『思い切った事をしましたね…エリンさん、手加減はしませんよ?』


『アイツの言う事を聞かなきゃならねーのはちょいと癪だが、タマにはこういうのも悪くねーな』

 エリンはマシンライフルとスティックを手に、ツクヨミ、シルフィーと対峙した。


「それじゃ、スタート!」

 ジャックスと共に小麦倉庫二階へ機材と共に移動したヴィロクが開始を宣言する。今度はエマにも手伝ってもらい、三機のダメージ判定を観測した。

 万一の事態にも備え、救急箱を携えたシャーリーもジャックスの隣に控えていた。


「エリン、まず蒸留所の影に隠れろ。そこから一連射。牽制だ、テキトーに撃て」

『あいよッ』

 

 言われた通り、エリンは蒸留所の影から五発、ペイントガンを連射した。咄嗟に機体を退かせたツクヨミ機の肩装甲に掠るが、ダメージは無し。 

 ツクヨミとシルフィーが申し合わせ、シルフィー機が蒸留所の反対側に回り、ツクヨミ機がエリン機に迫る。


「今度は小麦倉庫の方へ移動するんだ。そしてまた壁の影から牽制だ」

 ジャックスは小麦倉庫二階の窓から、こちらへ向かって移動するエリン機とそれを追跡するツクヨミ機、そして蒸留所の影から姿を現してペイントガンを構えようとするシルフィー機を目視した。

『りょーかい!』


 再び五、六発のペイント弾を撃ち込む。ツクヨミ機に僅かなダメージが入ったが、微々たるものだった。シルフィーは僚機であるツクヨミがエリン機と重なり、もどかしげに移動するが、ジャックスの指示により建物とツクヨミを遮蔽物とするエリン機を捉えるのは困難だった。


「スティックを用意。相手のスティックを受けつつ、建物の反対側に素早いカニさんみたいに横移動しながらペイントガンでコックピットを撃て」


 まともに格闘戦をさせてはツクヨミ相手に勝ち目は無い。エリンはスティックで相手の一撃を受けると、言われた通り横ステップしながらペイントガンを連射した。

  

 読み通り、相手の横移動を苦手とする直線的な動きのツクヨミは反応しきれず、咄嗟にエリン機の左腕を切り上げながらも被弾した。


『ツクヨミ機、大破』

『ば、馬鹿なっ…!?』

『エリン機、左腕損失。燃料漏出により残り稼働時間、30分』


 時間を限られるというハンデを喰らったが、十分すぎる時間だった。…それに、一個大隊の敵軍に無策で襲い掛かるシルフィーが、その時間切れを待つほど利口とは思えなかった。


『よ、よくもツクヨミさんをやりましたねッ!?』


 ただ、問題はペイント弾の残弾数だ。残り10発前後しか残っていない。 左腕損失の為、リロードもできない。それともスティックを取らせるべきか…

「その場からフルオートでシルフィー機を攻撃。全弾撃ち込んでくれ」

『よっしゃ!』

 建物陰からシルフィーを攻撃。一発が命中したが、大したダメージにならず。


「ペイントガンを棄て、スティックを拾って。そのまま森に逃げ込んで」


 言われた通りにエリンは建物の影から飛び出し、森へと逃げ込んだ。 シルフィー機の前を横切る際、数発被弾したが致命的なダメージにはならなかった。


『くっそー、枝が生い茂ってやがる!』

「何とか潜り抜けてくれ。なるべく枝は折らないで」


『待てー!』

 シルフィーが嬉々として追いかける。そして森林の中を四苦八苦して進むエリン機に向け、ペイント弾を雨のように撃ち込んだ。


 …実銃だったなら蜂の巣になっていたかもしれない。しかし、鬱蒼とした森の木々の枝葉がペイント弾を防いでくれていた。

『えぇ~、ノーダメですか!?』

「当たっていないからな。それに、例え実弾であってもこんな鬱蒼とした森の中で撃てば、思うようには当たらないよ」

 

 そして、ジャックスはエリンに最後の指示を下した。


『うぅ~、見失ってしまった…』


 四苦八苦しながら森林地帯を抜けようと進むシルフィー機。 エリンが飛び道具を持っていない事は分かっていたので、見つけ出して今度こそペイント塗れにしてやるつもりだった。


 そのペイント塗れになった枝葉に辿り着いた。


『うぅ、コレが当たっていれば勝負はもうついていたのに…』


 ペイントに気を取られていた視界の端で、何かが動いた。 反射的にそちらを見ると、スティックを振りかざしたエリン機が森の中から飛び出してきた。

『くらえぇッ!!』

『わあぁぁっ!?』


 反射的にペイントガンを撃ち込むが、それは見事にエリン機の頭部カメラをペイント塗れにした。


 エリンは視界が黄色一色にされながらもスティックをシルフィー機目掛けて叩き下ろした。


『エリン機、頭部破壊』

『シルフィー機、大破。模擬戦闘終了』



「…終わりましたか?」

 シャーリーが無感動な表情でジャックスを見上げた。


「ごめん。…忙しいのに付き合わせて悪かったね」

「いえ、中々壮観でした。 ジャックス様達は戦場で、あのような戦いをされているのですね」

「…うん。実際には上手く行ったり行かなかったりするけどね」


「…お昼の支度をしなければならないので、お先に失礼します」

「ああ、良かったら俺も何か手伝…」

「お気持ちは嬉しいのですが、アレを掃除しなければならないのでは?」

 

 全身ペイント塗れになったブリュンヒルデ3機が帰投して来る。…エリン機の掃除は…自分がやるしかあるまい。まさかエリンにやってくれなどと言えば、殴り飛ばされるだろう。


「…そうだった。 ありがとな、シャーリー。 ヴィロクとエマも付き合ってくれてありがとう」


「なんの、お安い御用ッスよ」 

「…これで、あの二人とジャックスが上手く行けばいいんだけどね」

 エマが不安げに窓からシルフィー機とツクヨミ機を見下ろした。

「いい加減認めてくれたと信じるしかないな」

 ジャックスはそう言いながら機材を片付け、階段を降りていった。

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