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不穏な風

 あの一件以来、シルフィーとツクヨミは自分の言う事をかなり素直に聞いてくれるようになった。 それから共に二度の簡単な国境防衛ミッションを引き受けた。シルフィーは前のような味方を巻き込む自殺的行為をしなくなったし、ツクヨミも無暗にチャンバラごっこを起こす事も無くなった。 

 

 …時折、本来の地が出て暴走しかける事はあるが、それでも自分が強く命じると冷静さを取り戻し、再度指示に従ってくれるようになったのは純粋にありがたかった。


 そして…少々意地の悪い方法だが、この二人を伸ばすのに最適な特効薬は、「片方を褒めてもう片方に対抗心を燃やさせる」事だった。

 指示に従順になってくれたとはいえ、二人の地は負けん気とプライドの塊だった。


 作戦中や作戦後に、たとえ些細な事でも良い点があればそれとなく褒める。 すると、褒められた方は分かりやすくご機嫌になる。 もう片方はそれを意識し、自身も同じように行動する。 その結果、良い動きや点があれば褒める。 …これの繰り返しだ。


 そして、面白い程二人も上達していった。 元々の操縦技術がこの世界の中では良い方であった事もあり、あの全滅しかけた初陣が嘘…悪夢だったのではないか、と思える程になった。


 ――このくらい素直になってくれれば、作戦行動に連れて行くのも苦ではない…そう思い始めた頃。


 ログリム砦戦以来、わざわざライヴェルトがウェインを伴って屋敷を訪れてきた。

 前回同様シャーリーが茶を出してもてなし、レオナが記録係として控えていた。

 今回はエマを連れて二人の軍人と挨拶を交わし、テーブルについた。


「ログリム砦防衛戦ではよくぞあの要衝を守り切ってくれた。 あれは敵味方への重大なターニングポイントとなっただろう。改めて感謝する」

「聞けば、ここ最近もロウ、ムラサメ両軍曹を連れて見事な戦果を挙げているそうじゃないか。 …どうだろう、ブラスディア軍に正規兵としての入隊、考え直してもらえないだろうか?君なら最低でも大尉から始められる」


「少佐、落ち着きたまえ。今日は勧誘に来たのではないだろう? …実は、ガロリアの町から伝令が到着してな。アレスガルド軍が接近したため、救援要請を送ってきた。 …要請に応じ、我が軍から一個中隊16機を派遣した。 …三日前にな。 しかし、それから一切連絡なしだ。 一機は長距離通信機能も備えた指揮官機なのだが、それすら連絡無しとは…何らかの好ましくない状況下にあると考えられる」


「調査に向かえばいいんですね?」

「頼む。また、現場での撤退の判断、 攻撃の判断も全て一任する」

「分かりました。受け付けましたので、直ちに向かいます」

「ガロリア地方の精細マップだ。…万一ガロリアが陥落している場合、ガロリアより手前に秘匿された非常用の補給拠点が設置されている。…ここだ。君達の機体や水晶端末に読み込ませてくれ」

 ウェインは媒体をテーブルの上に置いた。ジャックスはそれを受け取り、一つをエマに渡した。



「今回はかなり危険なミッションになる。 …だから今回は、同行は任意に任せる。…もし同行するなら相当の覚悟をして欲しい」


 一個中隊と現地守備隊合わせて20機以上が既に壊滅していると見るのが順当だった。…これまで以上に相当危険な任務になるのは間違いない。


 あの一個大隊相手のギャグめいた一幕を除けば、ここに配属されたシルフィーとツクヨミにとって初のまともな一戦となる筈だ。


「…ジャックス殿、個人的な気遣いはそれとして受け取ります。 …が、職業軍人である我々に命の覚悟を説き、任務への追従を任意に任せるとは、我々への侮辱です」


「そうですよ。それに、私達だってここのところ特に調子良いですし!」


 ――《《あれ》》以来の戦いぶりは、確かにまともになりつつある。 だが、それはせいぜい一対一という彼我戦力差が拮抗した、《《おあつらえ向きの舞台》》だった。 


 厳しい目で評するなら…問題児が新米優等生になった程度の範疇だ。 本格的な実戦で彼女ら二人が無事に戻れるか、正直自信がない。


 その点、エマに関しては完全に任せられた。歩兵戦のプロであるエマをド素人の自分が心配するのすらおこがましいというものだ。


 …だが、確かに二人は自分と違って職業軍人だ。 そのプライドも大事だろう。


「…わかった。悪気は無かったけど、それに関しては謝罪するよ。…その代わり、今回の任務では、戦闘区域に到着したら今まで以上に俺に従って欲しい。いいかな?」


「承知しました」

「りょーかいです!」


「エマも、準備はいい?」

「オーケー、やっちゃおう」


 四人でハンガーへ向かい、整備が整ったそれぞれの機へと向かう。


 ヴィロクとエリン、レオナとシャーリーが見送りに出て来てくれた。

 エマの高機動バイクが先発し、それから自機もハンガーから出た。見送りの四人に向かって器用に親指を立てて見せた。

「今回は三、四日掛かるかもしれないけど、心配しないで!」


 晴れやかな空の下、三機のゴーレムに一台のバイクが追随する。



 ◇◇◇



「おかーさん、まだ歩くの~?」

「このくらいで弱音を吐くんじゃありません。男の子でしょう? …そんな事では魔導機士になんてなれませんよ?」

 

 傍から見れば姉弟にも見える。 十代半ばにもならない内に息子を授かったナタリアは、八歳を迎えた息子のぼやきにそう応じた。


 ガロリアから西に離れた小さな集落。そこから首都・ブラスディアへと向けて避難の途にあった四組の母子の姿があった。

 避難民は十一名。 村の年配猟師が先頭を歩き、盗賊やモンスターに備えて十名の女子供を首都までの護衛として付き添っていた。


 いずれも夫は村の小さな農作業では家族を養えないため、ブラスディア軍で兵役に就いていた。歩兵か魔導機士として。


 避難の旅路は極めてリスキーなものだったが、村でも昔から何かにつけて武勇伝を自慢していた元軍人の老人…その生存能力は伊達では無かった。


 モンスターや野盗の気配を察すると、それまでの年老いてしょぼくれた顔つきが豹変し、静かながら鋭い声で全員に指示を下した。

 

 乳児連れが一人居たが、母親はしっかりしていて、ぐずれば上手くあやすか、しっかりと抱き込んで声を漏らさぬように努め、危機を乗り越えてきた。


 しかし、危機さえなければ特に指示もなく、大声さえ出さなければお喋りも自由だった。 お喋りの一つも無くこんな緊張が続けば、誰だって息が詰まってしまう。


 今も息子に中断されるまで、隣の娘連れの母・ルーシャと互いの旦那についての《《ダメダメ談義》》に興じて緊張を和らげていた。

 

 「…それでさ、洗濯の時なんかウチの旦那、なんでもあの馬鹿力で搾っちゃうから生地の薄い服なんか傷んじゃって。 あんまり逞しくなり過ぎるのも考えモンよね」


「やってくれるだけ良い旦那さんじゃない。 ウチのなんて全然手伝ってくれないんだから」

 …本当はそうではない。「手伝おうか?」とは言ってくれるが、たまに帰って来た時くらい、息子と遊ばせてやりたかったし、家族三人の時間を大切にしたかったから家事は殆どやらせなかっただけだ。   幼馴染で…世界で一番の夫だ。


「…ふぅん? …でもさぁ、皆知ってるんだよ、ナタリア? アンタの旦那がどんだけ愛妻家かってね」

「…」

「ほぅら、赤くなった。やっぱり噂は本当だったね」

「そ、それはずるいよ、ルーシャ!」


「…全員、静かにッ…! …子供たちの目を閉じさせろ!」


 先頭を歩く猟師に鋭く指示され、母親達は言われた通りに子らの目を塞いだり、閉じさせて続いた。


 だが、こんな指示は初めてだった。

 子供に見せるなという事だから…良くないものがあったに違いない。しかし、人やモンスターの気配は感じられなかった。

 

 …いや、なんだか…爽快な匂いに交じって…血生臭い匂いが…?


 茂みから猟師に倣って覗いてみた。

 爽快な匂いの正体は、ゴーレム…魔導機兵の燃料であるエーテルが漏出している為だった。

 巨大な鉄屑と化したゴーレムが点々と林の向こう、平原に転がっていた。…機種については良く分からないが、二種類の鉄の巨人たちが、会戦後の戦場よろしく死屍累々と倒れている。いずれも大きく損壊し、損壊部位から流れ出るターコイズブルーの美しいエーテル液が、甘く清涼感のある匂いを放っていた。

 

 …そして、それに交じる鉄錆びた…血の匂い。


「…ワシが知っとるのとは違うが、骨格からして間違いない。ツヴァイハンダ―だ。ブラスディア国章もある…」

「…か、勝ったんですか?」

 思わず訊ねたが、老人は首を横に振った。

「…全滅だ。脱出したり、救助された跡もない」


「あっ、ゴーレムだ!」

 八歳になる息子、トムが損壊した二十機近いゴーレムの亡骸を眺めて無邪気に声を上げた。


「お、おい、見るなッ」

 老人が慌ててトムを叱責する。自分も老人に倣ってトムに目を閉じるよう言いかけて…


「見て!あのゴーレム、肩におかーさんの名前が書いてある!ナタリアって!」


 心臓を鷲掴みにされたような感覚。


 …なんで、未だ話していない手紙の内容をこの子が? 

 隣のルーシャも青ざめ、言葉を失っている。


 どうしても妻恋しさに、勝手に機体に自分の名を書いて、本来なら軍法会議レベルだが上官に怒鳴られながらも許してもらい、仲間に揶揄われたという手紙の内容。

 

 …閉まったままのコックピットには、真一文字の穴が開いていた。…それはとても、中の人間を殺さずに済む損傷には見えなかった。 


 永く感じられる時間を経て…老人の言葉の意味が理解できて、ナタリアは嗚咽を堪えきれずにその場で泣き崩れた。

「おかーさん…?」

 

 困惑した息子が自分を呼ぶ声が聞こえたが、応える事もできずに泣きじゃくった。


 轟音。


 泣きながら見上げると、ゴーレムの墓場を駆け抜ける青と白の変わったゴーレム。

その機を先頭に…他の倒れているツヴァイハンダ―という機体とよく似た二機のゴーレムが続いた。 …そして一台のバイク。




 ◇◇◇




 景色が変わっていき、日が暮れる頃…ようやくガロリアの町が彼方に見えてきた。


「町と言っても…要塞みたいだな」

『国境…前線が近いですから。 これまではあくまで備えの為の防衛都市でしたが、ここ最近は特にアレスガルドの侵攻が激しくなって配備が間に合わず、守備隊も一個小隊程度しか居なかったのがいけませんでしたね…』


 結果的に、敵3体を道連れにしたものの、味方の中隊は全滅だった。…敵は相当な戦力と見て間違いない。


 町の明かりは乏しかった。 魔導石を使えば明かりをもっと付けられるはずだが、戦時統制しているのかもしれない。…あるいはエネルギー不足・資源節約の為か。


 レーダーマップに敵を示す赤い光点が次々と映り始めた。


「やはり町は包囲されていたか…!」


 それとも占領されているか。 ジャックスはレーダーマップを参照し、彼我戦力差を割り出した。


 敵…一個中隊規模。


 このくらいならやれるはずだ。


「エマ、町の状況を探って来れる?」


 明るい内なら絶対に頼まなかったが、今は夜だ。夜陰に乗じて偵察する歩兵をゴーレムが発見するのは至難の業だ。 そして対歩兵戦でエマが敗ける要素は無い。

 

『うん、大丈夫だと思う。ちょっと行ってくる』


 エマのバイクが敵ゴーレムをすり抜けて先行した。


「シルフィーは常にレーダーマップを確認して敵の新手に注意。射線上に味方が居ない場合のみどんどん狙撃・砲撃してよし。ツクヨミは左翼に展開。シルフィー機への支援にいつでも駆けつけられる距離を維持しながら戦ってくれ」


『『了解!』』


 ジャックス自身はシルフィー機の射線を意識しながら右翼から敵大隊を迂回するように移動した。 高速ホバーダッシュによって流れていく景色の中にポツポツと薄ら煌く敵機の頭部カメラの光。

 眩い光が断続的に瞬いたかと思うと、武尊の後を追うように後方で大口径弾が地面に着弾して鈍い音が響き渡った。


 ジャックスもマシンライフルを構えると単発で敵の薄ら輝くセンサーを目標にして撃ち込んだ。 瞬く間に三機の影…ゼオルA型と思しきゴーレムの頭部から火花が散り、敵機からの銃撃が止んだ。


 頭部カメラを破壊されて視界を失い、レーダーマップの位置情報だけを頼りに銃撃できる猛者は、HOGでもそうは居なかった。…そんな奴は自分のようにチーター…もしくは変態扱いされたものだ。

 

「視界に頼り過ぎだ」


 レーダーマップを参照しつつ、さらにもう二機の頭部を破壊。 敵からしたら訳が分からない内に視界を奪われたようなものだろう。 



 炎が上がって、ゼオルC…狙撃仕様のゴーレムが、スナイパーライフルを放りだしながら崩れ落ちた。 シルフィー機の狙撃だ。自分を援護してくれたのだ。


 鈍重だが火力の高いⅭを撃破すべく、三機のゼオルがシルフィーに向かった。

 最後尾の一機に向けてバースト射撃。片足から火花が散ったと思うと、構造上どうしても外部からの攻撃に弱い関節部が破損してそのまま分解した。

 操縦不能になって草原につんのめって倒れ込み、そのまま動かなくなった。


 二機のゼオルAの前に立ち塞がったツヴァイハンダ―B型…ツクヨミ機がロングソードを手に二機に襲い掛かった。


 ツクヨミ機の動きは決して華麗なものでは無かったが、B型という強化型の性能も助けとなって二機のゼオルを両断して撃破する事に成功した。


 それでも、きちんとポジションを守り、シルフィーを守った。


「二人共良い感じ! その調子!」

 言いながらジャックスと武尊もさらに二体のゼオルの足関節を破壊しており、敵中隊は残すところ五機のみになってしまった。


 短時間で中隊が壊滅した事により、残った五機はマシンライフルを乱射しつつガロリアの遥か向こう…アレスガルド領側へと引き下がっていた。


『つ、追撃しますか!?』

 ツクヨミが興奮した様子で指示を仰いだ。シルフィー機の放った一撃でまた一機、後ろから膝を破壊されてスクラップになって転がった。


 ジャックスも数発狙撃し、また一機を鉄屑に戻した。


「いや、このくらいで充分。深追い無用で。そろそろエマから…」

 言いかけた所で通信が入った。

『こちらエマ。ガロリアは無事だったよ。守備隊のゴーレム四機も残ってる』

「よし、全員、ガロリア内に入って補給と修理・点検を受けよう」

 ツクヨミ機は幾らかダメージを負っていた。


 …その時、レーダーマップに赤い光点が映り始めた。逃げ延びた三機の逃げた方角から、入れ替わるように複数の赤い光点。…うち一機は異様な速さで向かってくる。


「これは…」


 …自分の動き…いや、HOGを遊んだプレイヤー達…生きた人間の意思を感じさせる機動をしていた。


 澤田、中嶋、山岸…


 奴らなのか?


『篠川ァアッ!!』


 狂喜を秘めた声。…中嶋の声だった。

 中嶋に率いられた16機のゼオルA、B。


「…二人は先にガロリアに入っていて」

『正気ですか!? いくらジャックス殿とはいえ、ログリム砦防衛戦の時とは状況が違うんですよ!?』

 

 ツクヨミの言う通りだった。

 あの時は敵の目的はあくまで要塞で、自分は要塞を欲しがる敵の側面や背後を何度もヒット&アウェイして二個大隊を壊滅させた。

 

 だが今度は敵中隊と中嶋の狙いは…恐らく自分だ。

 自分が死ねば、あの三人の世界征服計画はより確実なものになる。…連中にとってはこの世界の兵士や人々など、ゲーム内の弱いNPC程度のものでしかない。 その中で自分は邪魔な存在だし、既に幾つもの邪魔をしてきたのだから。


「その通り。 …だからこそ俺がやらなきゃダメなんだ」

『そんな…』

 言いかけるツクヨミを圧して、ホバーダッシュで敵中隊へと向かった。

「命令だ!俺に何かあったら屋敷まで逃げ戻って!」

 

 敵の数も多い上に、《《生きたプレイヤー》》が居る。 …今回ばかりはおそらく、自分にもツクヨミやシルフィーを庇っている余裕は無い。 


 装飾・彩色過多なゼオルBカスタムを見据え、ジャックスは操縦桿を固く握り締めた。

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