最強傭兵、体良く問題児を押し付けられるの巻 「もしかしてこれって陰謀…?」
ログリム砦の防衛成功は、ジャックスの実力に半信半疑だった軍上層部に衝撃を走らせた。
多くの参謀たちが「不可能」と結論付けていたログリム要塞防衛について、軍・政府は各派閥で三つの仮説を立てた。まず防衛成功そのものが「守備隊の活躍によるもので、ジャックスの到着時には優勢だった」とする頑迷派閥。次に「ジャックス機が謎の最新技術で作られた超強力な魔導機兵である」とする超科学信奉派閥。そしてマーカス議長をはじめとする「そもそもジャックが魔導機兵として極めて異能である」とするジャックス信奉派閥。
…神の視点からすればマーカス議長らの慧眼とも言えるのだが、彼ら派閥の主張は更にあった。
頑迷派は「守備隊の功績を認め、守備隊を中心に軍備増強すべし」というもの。
超科学信奉派は「ジャックス機を解析研究し、専属整備兵も召喚して聞き取り調査をすべき」というもの。
…そしてジャックス信奉派閥が一番厄介で「彼を正式に軍人として引き込み、永住権も与えて帰化させ、選りすぐりの美女達を宛がってその血を分けよう」という、慧眼を帳消し扱いされるものであった。
しかし、そんな妄信をしてしまう程にジャックスの戦果が目覚ましいものであったのも事実だった。
強襲部隊の大半はジャックスによって壊滅させられていた。また、砦の兵らが口を揃えてジャックスの活躍を事細かに報告したため、超科学信奉派とマーカスらの派閥の仮説と主張が信憑性を帯びた。
しかし科学信奉派のお抱え研究者を派遣して機体を調査しても、整備兵であるヴィロクに説明させても、それが最新技術の超兵器どころか二世代も前の動く化石だという驚愕の事実が判明し、とうとうマーカスらの仮説が現実のものとなった。
喜び勇んでマーカスらがジャックスをあの手この手で正式な軍人となり、ブラスディアへの永住を進めたが、ジャックスは縛られる事を嫌って応じなかった。
「このままでは彼の血が、万一にも戦場で途絶えてしまったら取り返しがつかない」
強迫観念に駆られたマーカスら派閥は、自らの仮説が正しかった事を証明した強みもあり、他派閥を唆して次なる手を打ち始めた。
「魅力的だが問題のある女性魔導機士や整備兵を、彼の部下として押し付けてしまおう」
それで子ができれば国家安泰、そうでなくとも、もしかしたらその問題児がジャックスに育てられる事で思わぬエリートに化けるかもしれない。 何より、問題児を持て余している軍人達からすれば厄介払いができる。
新兵器を開発するよりも金もかからない。送り込む整備兵によってジャックス機の戦闘データも分析できる。どう転んでも損はせず、三派閥全てが得できるというわけだ。
全派閥満場一致でマーカスらの提案に乗った。
…それとは別に、アレスガルドの侵攻については本腰を入れて対策を練らなければならない、という認識も一致していた。そして、その確実な鍵となるのがジャックスであるという事も。
「ログリム砦の攻略部隊が全滅したそうで…言葉もありませんなぁ」
国務大臣の芝居がかった、糸を引くようなねっとりと気色悪い声。
だが、それは事実であり、自分達のダメージであった。 今回ばかりは言い返す言葉も気力もなく、澤田らは額とこめかみに青筋を浮かべながら大臣を見下ろしていた。
「ところで…ログリム砦攻略部隊の陣容をお聞きしたいですなぁ…相手は二個小隊に歩兵4個小隊80とか。…貴殿らはどれだけの戦力を散財したのですか?…せいぜい一個中隊ですかな?」
「…高度な軍事機密ですので。 貴殿にお話しする事はできませんな」
何が一個中隊ですかな?だ!知っているくせに!
「そうでしたな、三賢者殿の深謀遠慮を疑うつもりはございません。 …時に、攻略部隊を壊滅に追い込んだのは青と白の魔導機兵だとか。 …兵共の噂話ですがね」
アイツ…何のスキルも持たない癖に、何故そんな芸当ができる!?ゴーレムに乗せても大したことは無かったのに!
プレイスキルを隠していたのか…? だとしてもこっちはチームランカー一位保持者だぞ!その自分が鍛えて配置した兵が次々やられるとは!
「エリック殿? 顔色が悪そうですが大丈夫ですかな?」
殊更心配そうに顔を覗き込んでくる。 …今のうちに夢見ていろ。どうせすぐに貴様など用済みになって、今度こそ更迭される。
国務大臣を無視し、三人はまたも国王から失望の言葉を頂戴する事となった。
(篠川…絶対に始末してやる…)
復讐心に駆られた澤田らは燃える目つきで自ら指揮する遠征を宣言した。
「これは一体どういう…」
「契約には「部下は預からない」とはありませんでしたからな」
マーカスは満面の笑みで引き連れてきた四人の少女を見た。
「ジャックス様も小隊単位になった方がいざという時、伝令や警備など、何かと便利でしょう。…これはささやかな、我らなりの気遣いなのです」
「あー…その、今、家事は全てシャーリー一人が負担しています。ですのでこれ以上の人が増えると…」
「彼女らは子供ではありませんぞ、れっきとした軍人です。身の回りの事は自分でもできます。…何でしたらメイドをもう一人…」
「私一人で充分です。更に三人増えた所でそれは変わりません」
何故か若干ムキになったように見えるシャーリーが断固として言い切った。
「…俺、他の人の命を預かるなんて…」
「ジャックス様、誰かが好き好んで若い命を危険な任務で預かりたいとお思いですか?…私も元軍人です。多くの上官、部下の命が戦場で散っていくのを…」
ダメだ、受け容れるまで延々面倒を言ってくる… ジャックスは項垂れて首を縦に振った。
「…その、自分なりにお預かりします」
「おお!そう言って下さると信じておりました。 では君達、自己紹介を」
「初めまして!シルフィー・ロウ軍曹です。乗機は二番機、ツヴァイハンダーⅮ型です」
薄青髪のスレンダーな少女が暖かな笑顔で名乗った。
「初めまして、ツクヨミ・ムラサメ少尉です。乗機は三番機、ツヴァイハンダ―B型です」
濡れ羽色の髪の美少女が名乗った。
「エリン・ルドラ。整備兵だ。よろしくな」
…赤髪の長身女が獰猛な笑みを浮かべる。 …黙っておしとやかな表情をしていれば美人かもしれないが、今は女子プロレスラーと言われた方が納得できる。…本当に整備兵なのか…?
そして、自分の知人であると知られると即座に専属歩兵としてここに配属されたエマ。
レオナ、シャーリーも自己紹介を交わした。
「では、後はよしなに」
完全に押し付けに来た… 何が狙いかは測り兼ねるが…こうなった以上、自分が育てるしかない。
…実際、自分一人でどんな軍隊相手でも無双できる訳では無い。一機、頼りになる味方がいるだけで戦術の幅は天と地ほども違ってくる。
「あ、あー…改めてよろしく、三人とも。俺はジャックス。これから一緒に頑張ろう。この屋敷が君達の生活の場になる訳だけど、分からない事があったらこちらのシャーリーに聞いてくれ。 …あぁ、あとシャーリー、女の子が一気に増えたから、あの大きな浴室は女子用にしよう」
「…あれはジャックス様専用ですが」
不服そうに睨まれた。
「仕方ないだろう、頼むよ。あっちなら大勢でも入れるだろうし。 …さて、まずはハンガーから案内しようか」
ハンガーにつくと、何故かヴィロクが武尊の陰に隠れていた。
「自己紹介の時に居ないと思ったらヴィロク、どうしたんだ?」
声を掛けるとヴィロクは慌てて青ざめた顔を振り、「しーっ!」とジェスチャーをして見せた。
「ははーん、お前、居なくなったと思ったらこんな良い所に配属されてやがったのかぁ」
エリンが嬉しげにヴィロクの元へと歩み寄っていく。ヴィロクは後退りながら悲鳴を上げた。
「ジャックスさん!何でこの人を受け容れちゃったんですか!?」
「なんだ、知り合いなのか?良かったじゃ無いか」
「どこがッ! この人はバレルナットの狂犬と整備兵の間でも怖れられた、乱暴者なんですよぉ!」
「お前の事は可愛がってやってただろう?なのに転属して逃げやがって。覚悟しろよォ?」
「たっ、助け・・・」
「…エリン、ヴィロクをいじめるのは止せ」
「ジャックスさん!」
ヴィロクが涙目を輝かせてジャックスを見上げた。
「ああ?」
ヤンキー女然としたエリンに向かい、ジャックスは「歴戦の猛者感」を発して凄んだ。
「…そいつぁ上官としてのご命令ですか? それとも男としての命令か?」
「好きなように取れ。だがいずれにせよ断るというのなら」
…五分後、ジャックスとヴィロクは互いを庇い合うようにして倒れていた。
「やべぇーアイツ…ゴリラ女だ…」
「ね、ヤバいっしょ?なーんか昔から俺にやたら絡んでくるんスよ…俺怖くて怖くて」
「ああ…澤田達の取り巻き女が霞んで見えるぜ…」
「まったく、あの人乱暴なんだから…!」
「大丈夫ですか、ジャックスさん?」
エマとレオナが駆けつけてくれた。
「あ、ああ、あれでも手加減してくれてたみたいだ」
問題児は一人居たが…まぁ、後の二人は大人しそうだし良い子そうだから安心して良いだろう。
突如として目の前で起きた、上官を上官とも思わない理不尽な暴行劇に言葉を失っていた二人に向かって苦笑しながらレクリエーションを再開した。
「どれ、二人にもゴーレムに搭乗してもらおうか。お手並みを見せて欲しい」
「はいっ!」
「了解しました」
二人共、比較的操縦は上手い方だった。これまでに見てきた、三賢者を除く敵味方合わせて、最も機体をマスターしていると言って良かった。
「ん、この調子なら次の任務から同行させられるね。さすが、推薦されるわけだ」
「やったー、褒められた♪」
「希少なツヴァイハンダーB型を預かる身として、このくらいは当然です」
…粗は実戦で露呈した。
「な、何で撃ったんだ、シルフィー!?」
敵の一個大隊をやり過ごそうという場面で、ご丁寧に「敵をやり過ごそう」とまで言ったにも拘らず、シルフィーは敵大隊48機の中心部に向けてカノン砲を…ぶちかましやがった。
「先手必勝です!隊長!」
悪びれもせず、ドヤ顔で得意げに頷いている始末だ。シルフィーは敵を見ると分別と見境が無くなる。とりあえず敵に損害を与えれば偉いと思っているらしい。
「先手必勝…うむ、良い言葉だ…!」
「うむ、良い言葉だ…! じゃねーよ!?なに突っ込んでるんだ、戻って来い、ぶち殺されるぞ!?」
敵大隊の外周にチンパンアタックをかましている脳筋女侍を怒鳴りつけた。一機を撃破したが、あの動き方ではせいぜい三、四機やって撃墜されるのがオチだ。
…希少なツヴァイハンダ―B型の収支としては合わなすぎる。
47機のアレスガルド大隊は、巣を突かれたスズメバチのように展開してこちらに向かってくる。歩兵隊もそれに続いてくるので、夥しい大軍となる。…というか、シルフィーのカノン砲は敵を小破させただけだった。極めてタチの悪い冗談のような戦犯である。
『これ、無理だよ、ジャックス!私歩兵だから死んじゃうって!逃げるね!』
「お、おう!俺が何とか撹乱するから…バカタレ、チャンバラしてる場合じゃねぇ!早く戻って来い、ツクヨミ!テメーもさっさと逃げろ、このポンコツ戦犯砲兵!」
…エマとゲームをしている時でさえこんなにブチギレた事は無かった。
とんでもない爆弾娘共を押し付けられてしまった…
ジャックスは敵大隊を翻弄して時間を稼ぎながら、これからの前途多難を見据えて深々と溜息を吐いた。




