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武尊乱舞

「…本当に良いんだね?…一度動き出したらもう後戻りはできないよ?」


 暗く狭い室内。シートに身を預ける自分の前には小さな体があった。


「…三年務めた天職も理不尽に解雇されました。もうここに居て失うものはあっても、得られるものはありません。…お願いします」


「…ちょっと窮屈かもしれないけど、逃げきるまで我慢してね」

 自分と元受付嬢の少女・レオナにシートベルトを掛けさせる。 必然的に二人は密着させられた。


「…昨日の夜、三賢者が顔写真付きで通達を出したそうです。あなたはアルカディアで殺人を犯したブラスディア人、もしくはラガルメス人の犯罪者であり、見つけ次第憲兵につき出せ、と。 …賞金は300万ゴールドだそうです」


「それは僕が欲しいくらいだな。君は良かったのかい?そんな極悪人と一緒で」

「あんな通達、信用する価値はありません。それにそんなはした金より、ジャックスさんの紹介してくれる仕事の方に興味があるので」


 早朝の城門には検問体制が敷かれていた。完全武装した八機のゼオルA型が頭部のデュアルカメラを金色に光らせ、物々しく周囲を睥睨していた。

 正面からの脳筋突撃は蜂の巣不可避。腕は間違いなく自分の方が上だが、静止して固定砲台になった八機の敵相手にヘビーソード一本では分が悪すぎた。


 それでも本当に必要なら一か八かで試してもいいが、レオナを無意味な危険に晒す訳にも、命令に従うだけの彼ら兵士も無暗に殺したくはなかった。


「行くよ」


 一晩隠れていた家屋の物陰から飛び出した武尊。灰色のシートが風圧ではためき、それに気づいた検問の警備隊がギョッとしたようにこちらを一斉に凝視した。


 穏便に脱出したくとも、夜は城門が完全に閉じられ、朝の開門と共にこうして身を晒す他無かった。

 ゼオルが一斉にマシンライフルを向けてきた。


『そこで止まれ!止まらぬと撃つぞ!』


 武尊は身を沈めながら駆け、住宅街の辻に消えた。


『止せっ、不用意に撃つな、事故を起こす!…どちらにせよ、この城門からしか出られんのだ。ここで冷静に待ち構え、後は応援が来れば奴はおしまい、袋のネズミだ』


 逃げ込んだ辻の影から灰色のシートがはためく。シートは揺れながら城門を諦めたように全く見当違いな方向へと消えていった。


『東警備区へ連絡しろ!奴は人質を取るつもりかもしれん!』


『今度は西に逃げたぞ!?』


『やつめ、思わぬ警備体制に泡を食って逃げ惑っているな!ほら見ろ、南へ向かったぞ!南の城門は非常時のみの開門だ、逃げ場は無いぞ!』


 警備隊が灰色のシートを追いかけて街中を縦横無尽に移動していく。…途中、狭い都市部、それも人用の乗り物や通行人が移動するような狭い路地を通ることもあり、幾度となく物損事故やゴーレム同士の衝突事故が発生し、所々で停滞した部隊が出始めた。


『あの野郎!どうやったらあの化石みてぇな時代遅れゴーレムと図体でこんな細道をガキのようにウロチョロ走り回れるんだ!?』


 

「都市部でのネズミの逃げ足を馬鹿にしてはいけないな」


 こんな操縦は朝飯前…いや、目覚めのコーヒー前か? このくらいのステップワーク…足捌きができないと市街戦はお話にならないし、まともな格闘戦もできやしない。


「…って、あっ、大丈夫?酔った?」


「い、いえ…でも、すごい動きですね…」


「頑張ってね、もう少しだから」



 各方面からの警備隊は四苦八苦しながら追いつき、南の路地内にある広場で立ち尽くす灰色のシートを追い詰めた。


『ようやく追い詰めたぞ、この……えっ、これ、ただの建築用シート…』


 最後尾の一機が周囲を警戒して…集合住宅の影から光る、赤いデュアルカメラに気付いた。


 慌てて向けた銃を押し上げられ、空に向けて一発発砲。手練れた組み技によって手足の関節を一本ずつ即座に破壊され、マシンライフルは武尊の手に渡った。


『なッ』


 ド、ド、ド、ド、とマシンライフルが重低音の発砲音を鳴り響かせる。

 半端に広い袋小路に追い詰められたゼオルが次々関節部を正確に撃ち抜かれてスクラップに変わっていく。

 手前の敵から破壊する事で後方の敵は味方が邪魔で援護もできず、もどかしいまま左右にズレるしかない。

 予め飛び越えられる高さの家屋に目を付けていた。そのかおくを飛び越え、敵の視界から逃れた。



『南部にて二個警備小隊が壊滅!標的は痕跡を断って不明!北部正門ゲート、中央へ応援を送れ!』

『馬鹿を言うな!奴は正門から逃げたがっている筈だ!ここから人を割いたら、それこそ敵の思う壺だろう!』

『国王サイドからの強い要望だ、断るに断れん!二、三機で良いから派遣して、茶を濁してくれ!』

 中央部には王宮がある。南部で反撃して追跡部隊を返り討ちにした恐るべき敵がうろついていては、王宮の腑抜けボンクラ共のクルミ大しかない肝では耐えられないのだろう。


『クソ…なんて奴だ…』


 勝てる戦いをみすみすかき回されて、勝てない戦いにさせられた… あの、農民の農耕用くらいしか使い道の無い旧世代機に乗っているのは一体何者なのだ?


 最新鋭のゼオルB型を駆る三賢者と同等か、下手をすればそれ以上の動きだ…こんな事は間違っても口に出せないが。 口に出せば軍人生命の終わりになり兼ねない。


『…ベイゼス、グランプト、王宮のハナたれ共のお守りに行ってやってくれ』


 その中で最も日の浅い部下二人を向かわせた。それでも割くには惜しい精鋭だった。


 警備ゴーレムは六機に減ってしまった。その代わり、と言わんばかりにランチャーを装備した歩兵二個小隊が壁際のバリケードに展開した。


 これはいいかもしれない。

 自分達との戦いに必死になっている隙に歩兵が気付かれずにランチャーを撃ち込めば、或いは…行動不能にできる可能性が高い。


『西地区の二個小隊と連絡が途絶えたぞ、どうなっている!?』

 味方が次々壊滅していく。 爽やかな早朝の空気に似つかわしくない、余りに不気味で不穏な空気。 


 果たして、例のダークブルーと白、赤のゴーレムが大通りに飛び出して来た。…何とも禍々しい威容だ。直接戦った事は無いが、ゴーレムと同等以上の体格を持つという超大型モンスターギガント…それに通ずるのかもしれない。


 敵ゴーレムは代替部品交換によるものと思しい、凶悪な面構えに赤いデュアルカメラを煌かせ、再び建物の影に姿を消した。


 …こちらからの銃撃を防ぐと共に、視界から消える事でこちらにプレッシャーを与えている。

 これは大きなストレスだった。

 どこから来るか分からない状況は誰だって嫌だ。できる事ならこちらから出向いて、一刻も早く始末して楽になりたい。


 …この城門を抑えている事は確かに自分達の利点だった。…だが、逆に言えばどんなにプレッシャーを与えられて…始末しに行きたくとも動けないという心理的ストレスにもなっていた。


「…クソッ…」

 部下に聞えぬよう、通信を切って毒づいた。 …自分ですら参ってきている。部下達も辛いだろう。


 バシュッ、と音がして、左翼に立っていた僚機が足関節を撃ち抜かれて崩れ落ちた。

「しまった、飛び道具を得ていたか…!」

  

 相手は気兼ねなく撃てる。だが、こちらは市街地に被害を出す訳には行かなかった。

『ハリス、お前なら狙撃できるか!?』


『ダメです!野郎、完全に建物に隠れています!…なんであの状態から正確に当てられるんだ…!?』 


 城門の前に立っている自分達は反撃してこない間抜けな標的だ。


『城門を閉めさせろ!』

『し、しかし上に許可を取らなければ…』

『責任は俺が取る!城門番にそう言え!』

 

 動き出した門を見て、例のゴーレムが建物陰から身を乗り出して一発、撃ってきた。威嚇射撃か…? 


 隊長含め全機が物陰に移動していた。そうそう当たりはしない。

 しかし慌てたように敵機は建物陰から散発的に一発ずつ撃ってくるだけだ。…慌てている割には連射してこないのは、やはり手練れだからか?


 厚さ一メートル以上のコンクリートバリケードにマシンライフルの弾頭が深々と突き刺さるが、裏に隠れている自機は無傷だ。


『…聞こえるか?腰抜けどもの尻を叩いて中央部からお前の部下と、使えるベテランをそちらに回した。挟撃して捕らえよう!』

『やっとか!よし、門も封鎖すればこれで今度こそ…』

 

 バキンッ

 

 一際嫌味な金属音が響き渡って、開閉器が破壊された。微かに閉まり掛かった門が停止する。


『開閉器を…あんな小さなものを狙っていたのか…!?』


 万を辞したかのように敵ゴーレムが突進してきた。 ライフルを向けた者から即座にマシンライフルごとマニュピレーターを撃ち抜かれていく。二機が戦闘不能になった。


 だが、相手のマシンライフルも明らかに弾切れを起こした。


『今だ、足を狙ってフルオートだ!』


 だが、それを見越していたように敵は跳び、空中で背からヘビーソードを抜き払った。


「なっ…!」


 一機が腰下から両断。咄嗟にライフルで反撃に移ったハリスだったが、敵機はヘビーソードの陰に身を隠して防いだ。


 上手すぎる。 それに、何もかもが速すぎる。射撃、格闘、操縦、戦略…それら全ての判断の早さも。全てにおいて自分達に勝ち目が無い事を悟った。


 倒した僚機からライフルを捥ぎ取り、複雑な円形ステップを踏みながらこちらの射撃を躱し、逆に物陰から銃撃する味方を撃破していく。二機やられて、とうとう残るは自分と歩兵達だけ。


『…私にも意地というものがある』

 ゼオルB型を与えられた者として、勝てないまでもせめて関節一つ道連れに…一矢報いねばならない。


『勝負だッ』


 シールドで相手の銃撃を防ぐ。 

 次にシールドを退かして敵を見ると…その姿が消えていた。

『何ッ!?』


 速い、などと言うレベルの問題では無かった。 少し考えて、自分のかざしたシールド…その死角に潜り込んで来たのでは、と思い至った。

 

 その時には全てが遅かったが。


 背後から武器ごと肩を切り落とされて、膝には容赦なく銃撃。


 それでも、歩兵達がその隙を狙い澄ましてランチャーを一斉に放った。

 八発のランチャー弾が煙を引きながら敵ゴーレムに飛び掛かるが…見事な直前のジャンプで、全て空の彼方へ消えていった。

(…まさか、ランチャーがある程度追尾する機能を知って…市街に被害が出ないよう飛んだのか…!?)


『隊長ォ!』

 ベイゼスとグランプトがホバーダッシュで駆け付けて来る。ホバー移動しながら敵機に向け、マシンライフルを連射する。

 しかし建物陰に移動しながらたった二発ずつ撃ち返し、ベイゼスとグランプトの機は頭部カメラと足関節を撃ち抜かれて転がった。


 無傷のまま城の正門を抜けた旧世代機はホバーダッシュし、草原の彼方へと消えていった。

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