ロックな奴ら
「あの二人最近見るようになったな」
そんなことを言う人がいた。
その人の視線の先には杉原と乙原がいた。二人は休憩室と呼ばれる、自販機と申し訳程度の椅子と机がある部屋にいた。
「杉原さんってどんな銃を使ってるんですか?」
「私あまり銃詳しくなくて、名前とかはわからないんですけど」
そう言いながら杉原は腰に巻きつけたホルスターに手を伸ばした。
「一番最初に渡された銃を今でも使ってるんですけど...」
そう言って机にその銃を置いた。
その銃を見て乙原は顔をしかめた。
「...デザートイーグル...?」
「この銃、使ってると少し反動が気になって」
「少し?」
「これも持ち合わせるようにしました」
机に置いたのはグロック17だった。
「これ使い勝手がいいんですよ」
杉原はニコニコしている。
戸惑う乙原は自分が間違って認識していないかと疑い始めた。
「杉原さん。初めて使った銃はどれですか?」
杉原はデザートイーグルに触れた。
「その後に使い始めたのは?」
「これです」
グロック17に触れた。
「この銃を使ってて、周りの人に何か言われたことはありませんか?」
「いやあ。特にないですね。まあ、強いていうなら楡俣さんに『ロックだね』って言われたぐらいですかね」
「ロックだね?楡俣先輩は特に何も思ってないのか?」
少し銃を見つめ、考えていると頬に痛みを感じた。ただ、すぐにその痛みがひんやりと冷たかったことに気づいた。後ろを振り向くとそこには楡俣がいた。
「よっ!」
「何すんですか!びっくりしたでしょう!みてください!そのせいで杉原さんが震えてます!」
「あっ。まじ?ごめん。まさかそんなに驚くとは思わなかったから」
「で。なんの用ですか?」
「あぁ。これ。先輩から後輩への労いの品。的なね。はい」
そう言って楡俣は二人に缶ジュースを渡した。
「ここ最近二人で討伐に行くこと多いし。息ぴったりらしいじゃん。しかも戦績もいいらしいじゃん」
「ありがとうございます」
乙原はまさかあの楡俣先輩が褒めるなんて、と感動した。
杉原も褒められて嬉しかったからなのか、少し俯いて微笑んでいた。
「あっ。そういえば先輩」
「なんだ?乙原」
「杉原さんが新人の頃に使っていた武器を見て、何か思いませんでしたか?」
「杉原が新人の頃に使ってた武器?...ああ。デーグルか。なんかロック新人だなって印象だったな。酔っ払いながらデザートイーグルぶっ放してんの面白かったな」
「それに驚くことはなかったんすか?」
「まあ、ロックだなって」
「ロック...」
乙原は杉原の方を見た。杉原の長髪の隙間から見える耳が赤かった。
「杉原さんってここに入社する前は銃とか触ったことあるんですか?」
杉原は首を横に振った。
「古知丸や杉原の世代って、ロックな奴らばっかだったからな。凄い奴が多すぎて逆に驚かなかったわ」
楡俣は感慨深そうに言う。
「その環境に慣れるって怖いっすね」
「『慣れた』じゃなくて『受け入れた』の方が近いかな」
受け入れる...。まあ、後輩にこんな奴らがいっぱいいたら、そら受け入れるしかないか。
「もしかしたら、杉原さんってお酒飲んでリミッター外したら、さらにとんでもなく強くなるんじゃ...」
杉原は乙原を見つめ『そんなことない』と顔で訴えた。そして小声で
「奥の手です」
と言った。
「乙原。お前、杉原にお酒をやめさせるって誓ったんじゃないのか?なんで酒進めてんだ」
「いや誓いましたけど...。興味本位というか。酔ってる時の杉原さんと現場行ったことないんで...。てかなんでそれを知ってるんですか!?」
「全部、杉原に吐かせてるんだよ。乙原の言動、行動をね」
杉原は申し訳なさそうな顔をしている。
「乙原さん。ごめんなさい。先輩に圧かけられてどうしようもなかったんです」
杉原は頭を下げた。
「頭を上げてください!杉原さんは何も悪くないですから!楡俣先輩。流石にキモいっす」
「キモくねぇよ!後輩想いだろ」
「想いすぎた結果、通り越してるんですよ」
「先輩もロックですね」
「杉原さんも何言ってるんですか」
「ちょっと楽しくなっちゃって」
杉原さんのにこやかな笑顔でさらに場が和んだ。
遠くで見ている人はそれを快く思っていないようだ。
「やっぱり仲良いよな。あの二人」
「まあ似たもの同士なんだろ。壱班の人間だらけだし」
「あいつモドキなんだろ?モドキのくせに。幸せになってんじゃねぇy...」
「ちょっとお二人さん。どこの子かな?」
二人は振り返った。
「あんた。討伐課壱班の古知丸じゃねぇか?」
坊主の方が吠えた。
「そういうお前らは回収弍班の連中だろ?」
「なんで知っt...」
「確か名前は...。坊主の方は田中と言ったな。お隣は佐藤だったかな?」
田中は顔を真っ赤にしている。逆に佐藤は顔面蒼白であった。
「は?名前まで知ってんのか?」
「え?ほんとに田中と佐藤なの?適当に言ってみるもんだな」
「は?お前の相手してると調子狂うわ」
田中と佐藤は古知丸の横を過ぎ去ろうとした。
「おい待てよ」
急に古知丸が呼び止めた。
「は?」
「お前ら人のこと言ってるようじゃ、三流と括るのも烏滸がましいな」
「なんだと?」
すかさず田中が拳を振り上げるが、佐藤がそれを止めた。
「は?何してんだよ」
「馬鹿。古知丸さんに喧嘩売ったんじゃねぇ。返り討ちにされるぞ」
「意味わかんねぇ」
「まあここは穏便に済まそうよ」
古知丸はいやらしい笑みを浮かべた。
「はぁ?お前、調子乗るのもいいかg...」
「田中!もう行くぞ!古知丸さんすいません!」
「ちょっ...。離せや!」
田中は佐藤に引きずられていった。
「一応、私の方が先輩なはずなんだけどな。舐められないようにしなきゃ」
古知丸は気分が沈んだ。
「おっ。あんなとこに古知丸が」
無邪気に手を振る楡俣先輩に笑いそうになったのを堪えて
「楡俣先輩じゃん」
と当たり障りのない返答をした。
「古知丸にも労いの品だ」
「珍しい」
「そんなことないだろ」
壱班は明るかった。




