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年中討伐!古知丸さん  作者: 雨樋 朔
東京郊外戦
12/12

償い

僕は乙原(おつはら)

任務が終わり自分の部屋へ戻っている途中、素面の杉原さんにあった。


「あっ。杉原さん!こんにちは!」

「あっ。あ。こ、こんにちは」

「一昨日以来ですね」


初めて会った時とは違い、一度も目が合わない。

人と話すことが苦手なのかな?まあ、話してれば緊張しなくなってくれるだろう。


「あっ。えっと。乙原さんでしたっけ。一昨日...ぶりですか。一昨日...。一昨日...」

「そうです!一昨日です」

「えっ!あっ!あ、あの時、い、いたんですか」


杉原さんは突然声を張り上げた。

そう。あの時とは杉原が酒に飲まれたあの日である。(EP10.11参照)


「あっ。ご、ごめんなさい。大きな声を出してしまって」

「全然大丈夫ですよ。気にしてないですし」

「あ、あの時は、お見苦しい姿を...」


杉原さんの顔が赤くなっていく。


「少し驚きましたけど、あれだけお酒を飲めば、しょうがないですよ」

「あはは...」


こんな人だったっけ?初対面と印象が変わりすぎているため、顔が似ている人と間違えているのではないかと不安になってきた。


「お酒好きなんですか?」

「...全然好きじゃない」

「でもお酒はよく飲むんですよね」

「...わすれたくて」

「何かあったんですか?」

「...」


杉原さんは黙り込んでしまった。


「ご、ごめんなさい」

「あっ。杉原さん!」


杉原さんは走ってどこかへ消えて行った。

この時、僕は楡俣(にれまた)先輩が杉原さんの過去話はデリケートな話だと言っていたことを思い出した。

しまった。踏み込みすぎてしまった。僕はただ、その場に立ち尽くした。


* * * * *


あの時のせいで、素面の時の杉原さんに会うと、避けられている気がした。というか避けられていた。

この前なんかも、


「あ。杉原さん」

「うす...」

「あっ。行かないでください!」


声をかけたのに、「うす」の2文字を返し、凄まじい速さで逃げられてしまった。

やっぱりあの時のことはちゃんと面と向かって謝罪したい。次会った時は絶対に捕まえるんだ。


* * * * *


任務を終え、自分の部屋に戻る途中、杉原さんに出くわした。あの時と同じ...!


「杉原さん!こんにちは!」

「あっ」


杉原さんは小さな悲鳴をあげた。


「杉原さん!面と向かってちゃんと謝りたくて」

「え...?」

「あの時、杉原さんのことをよく知らずに踏み込んだ話ばかりしてしまってごめんなさい」

「え。あっ。え。...ごめんなさい!」

「な、なんで杉原さんが謝るんですか!杉原さんは何も悪いことをしてないですよ!」

「いえ。私の方が謝らなければならないです。実は楡俣先輩に乙原さんと素面で会うと、気まずくて逃げてしまうことを相談したんです。そしたら楡俣先輩がここだけの話と言って、乙原さんと私は似た境遇であることを教えてくれました。私はそんなことも知らずに話しかけてくれる乙原さんを気まずいという理由だけで避けてしまいました。乙原さんの優しさを踏みにじるようなことをしてしまってごめんなさい」


似た境遇...。僕と同じような生い立ちなのか?よくはわからない。


「僕のことを避けてることなんて全然気にしてないですよ。それよりも僕の方が酷いことをしてしまっていますし...」

「あの」


僕の話を遮った杉原さんは、拳を握って下を向いていた。


「あの。ここで話すのもなんですから、少し私の部屋でお話ししませんか」

「はい。ぜひ!」


僕は杉原さんの部屋に入った。


* * * * *

「あの。お話って」


僕は杉原さんと向かい合うように椅子に座った。

杉原さんの部屋は冷蔵庫が2台ある。特に目立つものは何もない。そして家具が驚くほどに少ない。窓際に観葉植物が一つ座っていた。大切に育てられているのがよくわかる美しさだ。


「先ほども言ったんですけど、杉原さんと似た境遇と楡俣先輩に教えてもらいました。なので、乙原さんになら私の過去を話してもいいかなと思いまして。嫌だったら聞きたくないと言っていただいて大丈夫です」


お茶を僕の目の前に置きながら少し微笑んだ。


「いえ。嫌なんてことありません。逆に僕にその話をして大丈夫でしょうか」

「乙原さんだから話したいんです」


顔は少し柔らかいような、いや少し強張った顔をしていた。


「では、話しますね」


彼女はゆっくりとした口調で話し始めた。


私は両親と妹の4人家族でした。

お父さんは口下手で根暗な性格。お母さんは饒舌で陽気な性格をしていました。なので私と妹も正反対な性格をしていました。私は見ての通り根暗ですし、口下手でどれだけ上手に話そうとしてもどもってしまいます。それに比べて妹は明るくて、弁が立つ人でした。これだけ正反対なくせに家族仲はとても良かったです。口下手な父と私でも家族にだけは話すことができました。とても信頼していたんです。

私たちはよく笑う家族でした。ずっとこんな日常が続くと思っていました。でも、その日常は突然消え去ったんです。


私が高校3年生の頃、大学に進学するか就職するか進路を決める時期に、大学に通いたい私と、大学に行かせるお金はないから就職して欲しいという両親と対立しました。私は両親に「もう知らない!もういい!バカ!」と言って家を飛び出しました。あの時の両親の顔は脳裏に焼き付いて離れません。

私が家を飛び出してから30分から1時間くらい経って、家に戻りました。1人、冷静になった時に言いすぎてしまったなと反省したんです。なので私は両親に謝ろうと考えていました。


玄関の扉を開けてると、いつも玄関の前で出迎えてくれる両親がいませんでした。その時は酷いことを言ったから怒ってるのかななんて考えていました。でも違ったんです。リビングの扉を開けた瞬間、鉄のような香りが私の鼻を突き刺しました。床には真っ赤な飛沫がこべりついていました。脳の処理が追いつかず何があったのかも理解できませんでした。しかし嗅覚の情報から血であることがすぐにわかりました。部屋に入ると両親は首や腹を掻き切られて死んでいました。

私はその場で力無く崩れました。奥にモドキがいました。ちょうど殺した妹の肉を貪っていました。目の前に広がる光景が嘘にしか思えなくて、でもモドキは目の前にいて。もう意味がわからなかったです。そのくらいで私はモドキと目が合いました。でももう体は動きません。死んだな。そう思って、私は目を瞑ってそのままいつ死ぬかを考えました。その時、楡俣先輩に助けてもらいました。目の前のモドキを倒してくれて、さらに身寄りのない私を介抱してくれました。


その頃から私は対倣社で働き始めました。それと同時に自責の念に駆られることも増えました。酷い言葉を両親に言って謝りもできなかったこととか、なぜ今1番悪いことをした自分だけが生きているのかとか、どれだけモドキを倒しても一生この罪を背負い続けなければならないこととか、そういうことばかり考えるようになったんです。


それからお酒に溺れました。お酒は嫌いです。美味しくないし気持ちが悪いし。でも忘れたかったんです。少しでもいいから。

日を重ねるごとに吐くまで飲まないと忘れられなくなりました。効果がなくてももうやめられない体になってしまったんです。


杉原さんの目に涙が浮かんだ。


もう一度。一瞬でもいいから、両親に会って謝りたい。


僕はハッとした。

自分の埋まらない底なしの寂しさは親に会いたかったからだ。


「ごめんなさい。勝手に過去を話し始めて、勝手に泣き始めるなんて、困りますよね」

「いえ。僕も自分のせいでモドキに大切な人を殺されました。でも母や父に人間のために強く生きろと言われました。それが両親への償いだと思っています」


杉原さんは俯いたままだ。


「モドキのボスを倒せば、償えるはずです。そのためにもお酒をやめませんか。杉原さんは素面の時でも酔っている時でも強いことを知っています。もう自責の念に駆られなくてもいいように僕が手伝います」

「もう。無理ですよ。私はもう」

「いいえ。無理なんかじゃありません。杉原さんは重役達にも古知丸先輩や楡俣先輩などに匹敵する評価を受けています。もう少し、自信を持っていてもいいと思うんです。どれだけ両親が許さなかったとしても、これだけ頑張れば許してくれるはずです。僕みたいに少し楽に物事を考えませんか」

「果たして私はそんな考え方をしていい人間なんでしょうか。許される人間なのでしょうか」

「許される許されないはもう考えなくていいんです。それは死んだ時に考えればいいことです。今は自分が健康でいて、どれだけモドキを倒して社会に貢献したかを考えるべきです。前向きで行きましょうよ」

「乙原さん...」


彼女は声をあげて泣いた。机に水たまりができるほどに泣いた。僕は静かに慰めた。杉原さんを苦しめるものが少しでもなくなるといい。僕はそれに尽力することを決意した。

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