初瀬奈月
つー君・・・彼女が言ったそれは昔によく聞いた気がする。
例の目をした少女に・・・
「俺、君とのことをよく覚えてないんだ」
彼女は悲しそうな顔をすると俯く。表情は影で確認できない。
「私のこと覚えて・・・ない?何言ってんのよ。昔はあんなに仲良かったのに・・・!」
彼女は俺の背後へと回り込み首を絞めた。
「何なのよー私のこと忘れるなんて!一緒にお風呂も入った仲なのに・・・なんとか答えなさいよ!」
なんとか答えるも何も首を絞められている今、生きているのが精一杯で息をすることすらできやしない。
やっと彼女が青ざめた俺の様子に気づき手を離す。
「あ・・・ごめん。でもつー君が悪いんだからね!」
よ、よかった・・・死んでない。
「まあいいわ。教えてあげる」
彼女は11年前までのことを話しだした。
ある夏の日、二人は出会った。
当時3歳だった二人はすぐに仲良くなりそれぞれあだ名で呼び合うようになった。
つー君、なっちゃん・・・・・・
なっちゃん・・・初瀬奈月は魔力が人一倍多く、いつも翼に魔法を見ていた。これが彼を魔法科の道へ進ませる理由である。
毎日、時間を忘れるほど遊びまわりあっという間に2年の月日が流れた。
そんな夕方、いつも遊ぶ公園でなっちゃん・・・初瀬奈月は深刻そうにやってきた。奈月は自分が父の仕事でフランスに行くという話をした。当時の翼には奈月が遠くに行ってしまうということがよくわかっていなかった。
奈月は別れ際にあの目をしてこう言った。
「絶対・・・・・・絶対に戻るから!戻ったら・・・」
「戻ったら・・・何だ?」
ベンチに座る奈月の顔を見ながら聞いてみる。しかし奈月は顔を赤面し「何言わせようとするのよ」と横に振った手がちょうど俺の頬に当たる。思いのほか痛かった。
「あっ、またやっちゃった」
てへぺろと言う夏希を女を殴ることができない俺は頬を摩りながらため息をつくしかなかった。
「そうだ!つー君魔法科に進めたんだってね。これご褒美」
奈月は俺の額へ唇を当てた。そして俺の思考は停止する。
「・・・・・・ってい、いきなり何やってくれんのさ!」
「言ったじゃん。ご褒美って」
奈月の顔は夕日で赤くなっているのか分からないがそんな彼女が少し可愛く見えた。
「じゃあ私これから用事あるから行くね」
そう言って手を振りながら去っていった。
まだ記憶の中には彼女の存在は限りなく薄い。でも少しずつ思い出していこう。
「ただいまー」
家に帰ると何やら甘い香りが漂っていた。その臭いの元はキッチンで愛花が作っていたお菓子であった。
「遅かったね」
「ちょっと寄り道したかなら」
そう言いながらソファに腰をかける。
「そういえば今日の試合買ったんだって?」
「まあなー・・・それより何作ってんだよ」
俺がちょうどそれを聞いた時愛花は菓子を持ってきた。
「これって・・・伝説のシュークリーム?!何でここに?!」
そう伝説のシュークリームは前にこの愛花が勘違いして食べてしまったのだ。でもこれは確かに伝説のシュークリーム・・・このシュー通8年目の俺が言うんだから間違いない!
「そりゃあ作らないとないでしょ。確かこんな味だった気がする」
一つ掴み丸ごと口に入れた。
う、うまい・・・そうだこの味だあの時愛花の頬についたカスタードの味と同じだ。
俺は泣きそうになりながら口いっぱいにシュークリームを入れる。
「今日はまあお祝いとこの前のお詫びってことで作ったんだけど。どう?」
口はシュークリームがいっぱいでしゃべることができないので大きく頷いた。
神よ・・・魔法科に入ってからさっきまで自分は不幸だと思っていたけどそれは真逆でした!こんな素晴らしい妹を持てて俺は誇りになります。愛花を俺の妹にしてくれてありがとうございます!!
そう何度もお礼の言葉を頭の中で言い続け、伝説のシュークリームを腹いっぱい食べることができた。




