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V.R.  作者: 橋伸弘
第1章 未知の世界
8/31

8.王国 ―グラズヘイム―

 両手を上げて背筋を伸ばし、勇気は起き上がった。

 テントの中には勇気一人しかおらず、気にせずに寛げる空間だ。敷布団と掛け布団まで完備してくれているお陰でテントの中でも快眠できていた。睡眠は人にとって絶対的に必要な要素。ここに手を抜かないというのは、それほど重要なものとして扱っているという事だ。


 テントから出ると見張りの師団員や、食事を行っている師団員が見られる。勇気は通りかかる師団員にはきちりと挨拶して、周囲を眺めながら歩いた。


「体調はどうだ」


 勇気に声を掛けてきたのはテントの前で小さな丸太に腰掛け本を眺めている副師団長だった。相も変わらず仮面は外していない。


「よく寝れました」


「そうか」


 副師団長は単調に言葉を返すだけ。

 勇気は、この人はそういう人なのだと不気味さを未だに感じるが徐々に慣れてきていた。


「起こすか?」


「いえ、いいです。寝かせて置いて下さい」


 副師団長の後ろのテントにはアリサが眠っている。これは昨夜に決められた事だ。アリサが寝る場所はどうするか。それはゼクスの「女性なんだから、一人だろ」という事で決定された。紳士的な面を持つゼクスに尊敬の念を送っていたのが昨夜の勇気である。そしてアリサの見張りとしてゼクスが副師団長を任命。雑用ともいえるそれなのだが「適任だから仕方ない」と、ごり押したゼクス。副師団長も副師団長で文句一つ言わず、アリサがテントに入ってからは、この丸太に腰掛けた状態だった。

 それとアリサが寝る時に、勇気がガウェインにちょっかい出されたのは苦笑いモノの記憶である。


 勇気は副師団長から離れると、師団員の皆の邪魔をすると悪いと思って、昨日も乗っていた馬車へと乗り込んだ。




 昨日と同じ速度で走る馬車内。乗組員は昨日と同様に、勇気、アリサ、ゼクス、そして本を読み続ける副師団長の四人である。

 ガタガタと少し揺れが強くなり始めた所で、勇気がゼクスに向かって一つ尋ねた。


「王国まではどのくらいなんですか?」


「あと4日って所かな。途中近くに村もあるが寄らずに最短ルートで進む。しばらく野営になるだろう。すまんな」


「いえ、自分は文句を言える立場じゃないので」


 謙虚に受ける勇気の答えにゼクスは笑顔を送る。

 勇気は、さらにもう一つ思い立ったと質問を続けた。


「そういえば、ステータスに≪速力≫の項目があって極端に低かったんですが分かりますか?」


 ん、と唸るゼクス。そして一度副師団長をチラリと見てから、勇気の質問に回答し始めた。


「そりゃ変動しにくいんだ。単純にその数値が高い程、足が速くなったり腕の振りが速くなるって言えば分かり易いか。鍛えても当然足が速くなるんだが、≪速力≫は鍛える努力を馬鹿にするぐらいに差がでる。ステータスの中では一番重要な値なだけに、装備やレベルでも中々上がらんのだ。だから、大体のザイエンデは近い値になっている」


 なるほど、と勇気は頭の中に重要な要素であるとメモした。

 上げられるのなら≪速力≫なのだろう。勇気の現在の速力は2。これからどう伸ばすかはおいおい考える。参考にアリサにでも現在のステータスを聞いてみようかと、声を掛けようとした時。


「前方、右3、距離80に魔物の軍ッ!」


 外から師団員の大声が響き、馬車がピタリと止まった。

 ゼクスは腰を上げて馬車内の皆に向けて言う。


「お前たちは待ってろ。副師団長頼む」


「ああ」


 副師団長は本を読み続けたまま返事をする。それは余裕の表れなのか。とにかく、ゼクスにあのように言われて、勇気とアリサは動こうとはしなかった。


「顔を出すだけにしておけ」


 副師団長は、なおも本を読んだまま言う。

 その言葉を聞いて、アリサと勇気は側面の別々の扉から師団が戦闘態勢を取る状況を見た。


「ガウェイン、アレックス、スティーブ部隊は前方の魔物に対し迎撃態勢。マーティ部隊は周囲の警戒を行え」


 ゼクスが師団に対し大声を掛ける。

 前方に五人で編成された部隊が三つ、馬から離れて構えている。最前線にはゼクスが一人立っていた。

 さらに前、魔物の集団が勇気達の肉眼にも捉えていた。数は現在居る師団と同じ20程だろうか。勇気が知る犬顔の魔物も見えるし、別の獣型の魔物、気味の悪い大きな虫の魔物など多数居る。


 どう対処するのかと、勇気は考える。単純に考えれば一対一で戦えばよい話。連携して戦えば五体一などで一匹ずつ確実に倒す方法もある。

 しかし、勇気が考えていた二つのどちらでもなかった。

 最前線に立っていた男の姿が勇気の視界から消える。何処を見渡しても勇気の視界には捉えられず、その刹那前方が、カッ、と光ったのが見えた。


 何が起こったのか分からない。ただ20に渡る魔物の軍は跡形もなく消えていた。それが、さも当然だったかのように、戦闘態勢を取っていた師団員は戦闘態勢を止めて馬車に乗るなり、馬に乗り直すなりして出発の準備を始めている。


「終わったぞ」


 勇気が覗いていた扉の方から突然現れるゼクス。勇気の肩を取って、扉の中へと勇気を引っ込めて自分の席へと座った。


「怪我は大丈夫なんですか……?」


 勇気が尋ねる。先ほどの戦闘について見えはしなかったが、ゼクスがやったんだろうと予測は出来ていた。

 今、ゼクスは身体を覆うローブに包まれているが、その中身は≪悪魔≫によって残された傷跡がある事は百も承知である。


「あれぐらいのレベルの魔物なら問題ないさ」


 ゼクスはポンポンと自分の横っ腹を叩いて大丈夫だと示していた。


「あの、ゼクスさんのレベルって幾つなんですか?」


 勇気が尋ねる。


「私も知りたいです」


 続けざまにアリサも同じ問いを投げかけた。


「んー、まだ秘密ってことにしとこうか」


 しかし、返ってくる言葉は内緒の一点。意地の悪い笑顔が、聞いても無駄だと言っていた。



 一日、二日、三日と一度魔物の集団と接触して以来は、何事もなく師団の進行が進んでいた。

 勇気とアリサは夜の野営の時に師団と何が何でも接することになったし、そのお陰で随分と打ち解ける事が出来た。特に師団内でも、ガウェインとパーシバルのおじさん差し掛かり組の二人とは他の師団員に比べ随分と打ち解けていた。


 

 四日目昼過ぎ。村を出てからは五日目。ついに目的地へ到着する。

 馬車が止まり、ゼクスは勇気とアリサに声を掛けて馬車から降ろした。遅れて副師団長も馬車から下車する。


 勇気は降りてすぐに見上げた。壁がある。高い高い壁が在った。右を向いても左を向いても高くそびえ立つ壁の先端は見えない。壁が無いのは正面の大きな門だけ。今は開場していて、中に人の群衆がワイワイと歩いているのが見えていた。


「これ大本まで届けといてくれ。今回の件の詳細だから失くさないようにな。俺はユウキ達に国の大まかな案内するからさ」


「承りました、ゼクス師団長。この第二十二師団第二兵長ガウェインが責任をもって運ばせて貰います」


「ああ、頼む」


 ガウェインがゼクスから一つの巻物を受け取ると、師団を率いて先に中に行ってしまう。その最後尾は鞍に誰も乗せてない、あの美しい白馬だった。

 残ったのはゼクス、副師団長、そして茫然と高い壁と門の中を眺めている勇気とアリサの四人。


「どうだ、お前達」


 ゼクスが勇気とアリサに尋ねる。


「活気が違うというか何と言うか」


「私が住んでいたトコが如何に田舎だったか分かるわ……」


 勇気は現実世界でも、こんな大規模建築物は知らない。中は都市の中心街でも見ているように人が多く。活気に溢れていた。


 ゼクスが先導して、二人を導いてく。最後尾は副師団長だ。

 門を潜るとすぐに右手側に曲がって、少し歳のいった女性が店番をしている露店の前で足を止めた。


「おばちゃん、街の地図頼むわ。一番性能いい奴な」


「新人の研修かい、ゼクス師団長」


「ま、そんなとこだ」


 ゼクスはウィンドウを開き、チャリンと金貨を20枚支払って、店番の女性から二つの巻物を受け取った。そして買い取ったばかりの巻物を勇気とアリサに掴ませる。


「とりあえず≪道具≫を開いて登録。その後に≪地図≫を開くと≪グラズヘイム≫ってのがあるから選択だ」


 勇気もアリサも言われた通りに行動を始める。

 まずメニューウィンドウを開き≪道具≫の項目に触れる。次に右下のサブウィンドウにある≪グラズヘイム≫という名前の道具の名に触れ、登録を行うと手元から巻物が消えた。


 次、とメニューウィンドウの≪地図≫の項目に触れると細長いサブウィンドウが現れる。勇気のサブウィンドウには≪グラズヘイム≫という文字が一つだけあったので、それに触れる。すると中央に四方の平面地図が現れた。地図を見てやっても、そびえ立つに壁が街を囲んでいるのだとすぐに分かる。


 地図の中央には赤い点がぼんやりと輝いていた。勇気が点に触れてみると地図の右上側のサブウィンドウに≪勇気≫という名が現れていた。


「機能としては縮小拡大、自分の現在地、目的地の設定、自分が利用したい施設の検索、他には登録したパートナーの現在位置等々、と色んな機能がある。細かく知りたかったら、右下の端に触れりゃあ説明が出てくる。それと早くても七日に一度、遅くても二十日に一度。ここか適当な測量店に行って地図の更新をしてきた方がいい。まぁ使ってく内になれると思うが、何か質問あるか?」


「えっと……そ、そうね。まずはユウキが迷子にならないように、お互いの現在位置を登録しましょう」


「どちらかと言えばコッチの台詞なんだが」


 表情や態度は冷静なのだが、声だけ若干焦りが混じっているアリサであった。


「登録する時は相手のウィンドウの赤点に触れれば問題ない」


 ゼクスが説明しながら、勇気とアリサの地図に触れた。すると二人の地図の左上には自分の名前以外に≪ゼクス≫という名前が表示される。また自分を表わす赤点の他に青色の点が地図上に浮かんでいた。


 続いて勇気とアリサがお互いの地図の赤点に触れる。右上側のサブウィンドウのゼクスの名前の下にお互いの名前が増えて、もう一つ新たに青色の点が増えた。


「表示させたいパートナーは自分で選べるって事も覚えとくといい。パートナーの色もある程度自由に変えられるから後で適当に設定しておくと便利だ。あと自分の位置が知られたくない時はサイレント機能もあるから覚えとけよ。娼婦の館に行ってる所を知られちゃマズイし良い機能だろ?」


「行きませんよ……」


 眉間に皺を寄せて答え返す勇気。アリサはジト目でゼクスを睨んでいた。

 これは敵わんと、さすがのゼクスも話を切り上げる。


「とりあえずコッチだな」


 ゼクスが再び先導し始めた。

 街の中に入れば入るほど人が溢れていた。地図がないと迷子になった場合、お互いに探しあって再開するのは不可能に近い。地図があったとしても面倒だ。勇気とアリサはゼクスに離されないように、キチリと後ろについていった。


 勇気とアリサは道中、何故か視線を多く感じ周りから避けられている気がしていた。その視線に無理に返しはしないが、原因は言われずとも後ろのソレに違いないと二人は睨んでいる。仮面のせいだろうと。街に人が多かろうが、後ろについてくる副師団長は仮面を外そうとはしない。何処を見ても仮面付きの人物なんて彼だけである。そんな人物と一緒に歩いているのだから嫌でも目立った。


 しばらく、歩くと見るからに露店が多い通りに入った所でゼクスの足が止まる。


「ここの通りは商業通りの一つ。物の売り買いが盛んな通りだ。魔物から手に入れたモノは此処で売ればいいし、装備品を整えたい時に来るのもこの通りだ」


「……店がいっぱいある」


 アリサの素直な感想。露店もあれば家型の商店もある。村と比べて何よりも異なるのは石造りの建物だ。それも平屋ではなく2階建てが目立っていた。

 勇気はとりあえず自分達が、どの変に居るのかと地図を開き確認していた。


「着飾りたい時も此処の通りに幾つか店がある。でも他の通りにもあるから覚えとくといい」


 ゼクスが言うと、進める足を再開した。

 通りに入れば露店のおっさんやら兄ちゃんやらが、声を荒げて客引きをやってる店が目立った。客も客で、声を荒げて店員に文句を垂れている者もいる。そのどれもが勇気にとって日常じゃないやり取りだった。商品の取引、露店内は見慣れてない刀剣類やら鎧やらが目立つ。


 勇気は一つ、一つ真剣に店内の見える商品を眺めながらゼクスの後ろをしっかりと歩いていた。

 一方のアリサはというと、周囲の店を簡単に眺めて一つ呟く。


「強い装備でも安値で売ってくれる場所じゃないと損よね……」


「意外と倹約家か嬢ちゃん」


「同じ商品なら安い方がいいのは当然でしょ」


「その通りだ。それなら今の所のお前らにとってお勧めの店を紹介しとくか」


 そう言うとゼクスは、こっちだと言って暫く歩き、ある二階建ての家店へと案内する。

 入ってみれば両端の壁に木の縦置き箱に入れられた武具が並ぶ店だった。まさしく武器屋だ。剣、槍、斧、弓、とにかく様々な武器が並べられている。


「あれ、ゼクス師団長さんじゃないですかー」


 店のカウンター奥から、ゆったりというよりじれったい喋り方の優男が現れる。

 ゼクスは一目散にカウンターへ向かい、カウンターに肘をつけて優男に問いかけた。


「ステータス関係無しの特殊加護付きの剣はあるか?」


「んんー。ちょっと待って下さいよー。ま、商品でも見てて下さいな。お気に入りが見つかったら是非買って行って下さいねー」


 優男がじれったくなる返事をすると店の奥に消えて行く。

 勇気とアリサは、早速とお言葉に甘えて刀剣類を眺め始めた。


「チェック」


 勇気はウィンドウを開き、≪道具≫の項目を触れる。副師団長に文字を見えるようにしてもらった時に武器の調べ方は理解している。後は同じ手順で、武器の説明を見るだけだと、ウィンドウを操作し始め、一番近くの赤茶色の剣を手に取った。



 銅の剣

 ATK(攻撃力):15 Capa(容量):5.2

 必要値 STR(腕力):3

 変哲のない銅によって作られた剣。硬度の高い剣とぶつかり合うと壊れる可能性が高い。



 前にみたものより項目が一つ増えていた。それは≪必要値≫という項目。

 勇気は≪銅の剣≫を戻し、その二つ左にある剣を手に取る。



 錬鉄の剣

 ATK(攻撃力): 41 Capa(容量): 5.5

 必要値 STR(腕力):17 VIT(耐力):7

 鉄の剣よりも強力な剣。一般の鍛冶士ならば誰もが作り出せる剣である。



 ウィンドウ上の腕力の文字色と耐力の文字色が異なっていた。勇気のステータスと比較すると前者は足りない数値、後者は足りている数値だ。これだけの情報があれば、この世界の初心者である勇気でも当然分かる。この数値が足りないと≪装備≫の項目で装備する事が出来ないという事。しかし、持てはするのに装備できない。ならば問題ないのでは、と疑問に思った。

 しかし、この答えは近くに待機している副師団長が答えてくれた。


「能力値が足りなければ加護が受けられない。ウィンドウ上に現れているステータス付加効果や加護の力が0として扱われる」


 つまり、現在の勇気が≪錬鉄の剣≫を扱ったとしても攻撃力補正が41ではなく0という扱いになるという事。それならば、≪銅の剣≫を選ぶのが当然の選択だろう。


 店内のカウンターでは店員が、ぬっ、と両手に沢山の刀剣を抱えて現れていた。そして、溜息を吐きながら、ゼクスが待ち構えているカウンターへと置く。


「装備条件が緩いものというと、これぐらいしかありませんねー。まー、直剣、曲剣、細剣、短剣と種類は豊富ですから、手に取って見て下さいねー」


 コチラではゼクスがウィンドウを開いて、一本一本まじまじと品定めを始める。勇気とアリサも気になってゼクスの側に寄って、ゼクスのウィンドウ画面を後ろから眺めていた。


「それとも私が能力と相談して、決めましょうかー? 是非良かったらですがー」


「あー、その方がいいかもな。でも、いつの間にそんな技術つけたんだ?」


「ずっと前からですよ。ゼクスさんが買う時は勝手に決めてっちゃいますから分からないだけですねー」


「確かに俺は勝手に持ってくな。それで、どうする?」


 ゼクスが後ろで自分のウィンドウを覗いている二人組に問いかける。


「お願いします」


「私もお願いします」


「はい、いいですよー。ではウィンドウの≪ステータス≫をお願いしますー」


 まずアリサがウィンドウを開き手に取って優男の店員に見せた。ふむふむ、と優男が唸ると、もういいとアリサに言って、勇気のウィンドウの観察に移る。


「おやー。あなた≪聖者≫の装備持っていますね。Lv1なのに良い装備をお持ちですねー」

 一目見て、看破する優男の店員。能力値の+5を見て、きっと分かったんだろうと勇気は思った。


「≪聖者≫の装備を外さないなら、それだけ上の装備を用意できますがどうしますー?」


「金は俺持ちだから心配すんなよ」


 ゼクスがジャラリと金貨の山をカウンターの上へと出す。店員もアリサも驚いてる所をみると、どうやら相当の大金のようである。自慢気に笑うゼクスがとてもゼクスらしい。


「ではギリギリの所でお願いします」


 勇気も遠慮せずに答えた。


「剣の形状はどうしましょうかー?」


「私は直剣でお願いします。刃渡りはこのぐらいなら丁度いいです」


 アリサが自分の直剣を取り出して優男の店員へと手渡した。


「自分も同じくらいの直剣でいいです」


 勇気も同様に答える。優男の店員は二人の言葉を聞くとアリサの剣を持って、再び店の奥へと消えて行った。


 勇気がアリサと同じ直剣を選んだ理由。それはさほど身長が変わらないのだから、同じぐらいの剣が丁度いいのではないかという単純なものだった。それにレイピアのような細剣では折れてしまわないかという不安があるし、長剣や大剣は手に余りそうな気もする。短剣はリーチに不安。やはりアリサと同じものが一番無難だと思っていた。


 さきほど店奥に消えて戻ってきた時間よりも早く優男の店員は戻ってきた。


「≪鉄の剣・炎熱≫と≪鉄の剣・氷柱≫です。相反属性なのでお互いの弱点が補えますー。二人で戦いをするならば是非コチラですねー」


 片方の刀身は薄らと赤く、もう片方の剣は薄らと青みがかっていた。


「ある意味夫婦剣という事で、お安くしときますよー。男女間では、こういう組合せが人気ですからねー」


 優男の店員がとんでもない事を言う。勇気が咳き込み、アリサも何とも言えずに俯いていた。


「ウチの新入りを、あんまりからかうんじゃねぇよ」


 口でこうは言っても楽しそうに店員に接するゼクス。


「おやおや、すいません。じゃあ、こっから頂きますねー」


「釣りはいらんぞ」


 優男の店員はにっこりと笑いながら、カウンターに置かれた金貨を数枚自分の手の中へと移していった。


 ゼクスは、優男の店員から剣を二本受け取ると、顔を赤くした二人にホイホイと剣を送る。

 勇気は一つ深呼吸をして平静を取り戻し、赤みを帯びた剣を≪道具≫の中に収納した。アリサも少しだけ遅れて、勇気と同じように手にある青みを帯びた剣を収納して、最後に店員に渡した剣を返してもらっていた。


 ゼクスが「またくるぞ」と優男の店員に声を掛けてから四人は店を出る。

 店を出るとすぐにゼクスは二人に向けて質問を投げかけた。


「後は防具もだな。軽装と鎧みたいな重装、どっちがいい?」


「軽装でお願いします」

「軽装がいい」


 勇気とアリサは声を揃えて言った。


「そう言うと思った」


 ゼクスが誘導して行った店は、先ほどの店から四件離れた店だった。

 勇気が店に入ると一番に目が行ったのはカウンター内で高い椅子に座る女性の店員である。それも美しくスラリと高い身長と褐色肌、モデルのような妖美に映る女性だった。そんな女性が薄着の服を纏っている。そして、嫌でも目立つ一点に勇気の目が行ってしまっていた。


「っぅ……!?」


 勇気は、ぼうっと入口で突っ立ってしまっていたせいか足を思い切り踏まれた。その犯人は勇気の一歩後ろから付いて行っていたアリサ。踏んだ事には気にせず、謝りもせずそのまま店の中へと入って行った。


 一部始終見ていた女性店員は、フフ、とアリサを見て笑う。アリサの顔が若干赤み掛かるが、それに気付いているのは見ていた女性店員だけだった。

 ゼクスが店のカウンター前に着くと、女性店員がゼクスの格好を見て話し始める。


「ゼクス。ローブなんて珍しいじゃない」


「傷隠してるだけだ」


「もっと珍しいわね」


 互いに笑い合う雰囲気は、何処か大人の香りを醸し出していた。


「何が欲しいの?」


「ひとまず合う装備一通り。特殊な加護はあってもなくてもいい。どうせ買い替えが多くなるからな」


「そう。じゃあウィンドウを見せてもらいましょうか」


 先ほどの武器屋と同じようにアリサと勇気は女性店員に自分達の≪ステータス≫を見せた。そして、彼女も同じように店の奥へと消える。彼女も余り時間を掛けないで、店奥からカウンターの方へと戻ってきた。


「アナタは犬革一式。今着ている服も≪道具≫に入れて≪カスタム≫で≪装備≫の欄に入れて≪着替え≫の設定してあげれば素早く着替えられるわ。覚えておいて」


「ああ、説明すまんな、アイギス」


「この子Lv1だから知らないでしょう?」


 勇気は、これはいい事を聞けたと女性店員に向かって礼を言う。女性店員がニコリと微笑んだ表情にドキリとしたが、何とか抑える。多分表情には出てないと。


「アナタのは秘密。帰ってから着替えてみてね。それと、この袋はサービスよ。そのまま一式≪道具≫に収納できるわ」


 女性店員が大きな布袋をアリサへと手渡した。


「釣りはいらんからな」


「フフ、ありがと」


 ゼクスは女性店員に金貨を10枚支払う。それを確認してから、勇気とアリサは買った商品を≪道具≫へと収納した。


 小さく手を振って、退店していく四人を送る女性店員。勇気は一礼して店を出て行く。隣で溜息が聞こえた気がするが恐いので無かった事にする勇気だった。


「そうだ、嬢ちゃんは加護つきじゃない普段着でも買ってきな。嬢ちゃん用の服なら少し歩くが、今後も必要になってくるしさ。それで副師団長、適当な店案内出来るか?」


 ゼクスが副師団長に願い入れる。


「仕方があるまい」


 副師団長は素直に聞き入れた。

 アリサもゼクスの提案には素直に呑む。アリサの着替えが少ないのは確かで、必要最小限しか持っていなかった。


「じゃあ、いつもの店行ってるから、そこで集合な」


「了解した」


 副師団長は一言「こっちだ」とアリサに言うと二人は人混みの中を歩いて行ってしまった。


「いつもの店と言うのは?」


「料理店だ。昼飯食ってないだろ」


 言われてみればお腹が空いている事に勇気は気付く。ゼクスは美味い飯食わせてやると意気込んで道案内を始めた。


 副師団長とは違って進む方向は反対側。そして通りを何本か変えた。

 人混みの数は何処に行っても変わらない。ただ変わったのは、何処からでも美味しそうな料理の匂いが漂ってくる点だ。ゼクスによると料理街だと言う。料理街でなくても料理店は存在するが、王国の名高い料理店は、この所に集中しているようだ。こちらも商業通りと同じように露店を開いている店がある。そのどれもが食べ物の露店。甘そうなお菓子や、串にささった肉、魚など色々な店屋物。勇気が見たこともない料理も並んでいた。


 そして、何より勇気が気になるのは店を通る度にゼクスが店の人から名前を呼ばれ声を掛けられる事。商業通りでも似たような光景があったが、今度は倍以上に多い。


「ゼクスさんは凄く有名なんですね」


「これでも師団長やってる身だからな。それと、顔と名前を隠し続ける気味悪い部下の副師団長を連れてるってのもあるかもな。アイツは王の特権で唯一、常に正体隠してもいい人物だしよ」


 王の特権。凄い響きだと勇気は感じる。名前も顔も知らずの副師団長。不気味であるが助力はしてくれるし、時には今のアリサに対してのように面倒を見てくれると、人間味を帯びた一面もある。それでも正体を隠すのは不思議と思うしかなかった。

 師団と言う名で勇気が一つ思い立つ。早速と横に並ぶゼクスを見上げて問いかけた。


「そういえば、師団って幾つ存在するんですか? この王国の規模を見る限りゼクスさんの師団だけ、という訳じゃないと思うんですが」


「王国直属師団と言われている師団の数は50だ」


「結構多いですね」


「ああ。仕事を大まかな内容に分けると、41~50師団は王国警備師団。31~40は王国直下の村や町を守る際に出て行く護衛師団。21~30は大きな事件や怪しいとこを探る調査師団。11~20は未開の場所を探る探索師団。ここまではどの師団の実力も大差ない。それでも王国内では優秀極まりない部隊だ。そこらの流れ者じゃ敵わんぐらいな。各師団員の人数はまちまちで、多い所は千人を超えて所属している」


 勇気は真剣にゼクスの言葉を頭の中で整理しながら聞き続ける。


「そんで1~10が王国直属近衛師団。所謂本隊と呼ばれている師団だ。役割としては色々やる。他の師団の手伝いしたり、王様の面倒な命令をこなしたりと。言われてみりゃ何でも屋、悪く言えば雑用係ってか。まぁ数字が小さい程、優秀な師団と言われている。師団長が長年現役の場合は、師団の功績で数年に一度、番号が入れ替わったりして色々面倒なとこだ」


 ゼクスの師団についての説明が終わり、勇気も少し長めの内容を一気に整理し始める。

 力関係としては11~50までは変わらず、本隊と呼ばれる1~10が特に力あるものとされ、その内若い番号の方が序列は上ということだ。そして、ゼクスは何処の師団なのかという疑問と推定される結論が出てきた。


「ということは村に調査しにきたゼクスさんは21~30の調査師団――あ、ガウェインさんが第二十二師団と言っていましたよね?」


「あー、と俺は――」


「泥棒だーッ!」


 ゼクスの言葉の続きが何処からかの男の大声に遮られた。その内容がとても物騒である。


「おいおい、警備師団は何やってんだ」


 ゼクスは面倒くさそうに頭を掻いて、悩んでいた。

 ワーと騒ぐ声が勇気とゼクスの進行方向から迫ってくる。どうやら泥棒の犯人が二人の方へと近づいている事を告げていた。


 勇気は身構える。泥棒と騒いでいる場でソレを放っておける性質じゃない。可能ならば取り押さえられるように正面の人の嵐を見つめて構えた。


 人の波が左右に分かれる。それは近くから集団の進撃の音が聞こえるからだ。下手に中央に佇んでいれば巻き込まれると考えての回避行動であった。

 道中の中央に残っているのは未だ面倒だと悩むゼクス。その隣で泥棒を取り押さえようと構える勇気。

 そして間もなく、追いかけられている泥棒と思わしき人物が通りの中央から走ってくるのが見えた。


「…………え?」


 しかし、勇気の視界から泥棒と思わしき人物が急に消える。それと同時に隣のゼクスも消えていた。勇気は周囲を見渡すが通りにはその姿は見えない。


 一体何人が消えた二人を目で追えただろうか。それが確実に分かるのは消えた当人の二人だけだろう。

 まず、追われている人、泥棒と称された人が消えた。これは人の波が分かれて、自分の姿が目立ちやすくなったせいで消えざるを得なかった。

 何処に消えたか? 勇気は通りを見渡したが見えない。では一体どこに? 正解は建築物の壁だった。泥棒は壁を斜めに走り天井へと向かっていたのだ。


 泥棒は通りを駆け抜ける速度を一気に並々ならぬ速さへと加速させ、消えたように見せかけた。勇気の目には捉えられない速度で。しかし、ゼクスは見逃さなかった。それ以上の速度で泥棒の正面に廻り込んでみせたのだ。


「残念賞」


 壁の側面上でたった二人の姿がある。対峙する片方が満面の笑みで逃げていた者の頭を鷲掴んだ。


 後は速かった。ゼクスは泥棒を拘束したまま壁を蹴って勇気の下へと戻ってくる。勇気にしてみればゼクスは急に消えて急に現れたように見えていた。それだけの速度で泥棒と師団長は掛けあいをしていたのだ。

 ゼクスは深くフードを被っている泥棒の頭から泥棒の襟に持ち替えて、そのまま地に跪かせる。そして、屈みながら語り始めた。


「お前どこのもんだ? んー、紋章見る限り≪疾風の黒猫≫のとこか。何でお前らが昼間っからの街中で……まぁいいか。で、盗んだものは――おお? 加護入りの水晶、しかも医療と修復の特効付き。性能は……って最高級のレアもんじゃねぇか。こんな馬鹿高いもの盗んでも足がつくぞ」


 ゼクスは泥棒の腕をまくったり足をまくったりと色々と観察する。最終的に懐を調べて一つのアイテムを泥棒から引っ張り出していた。それは手の平ぐらいの綺麗な透明の球体だった。ゼクスは、そのアイテムを見て関心関心と頷く。


「“赤鬼”……ッ!」


 少し高めの声が泥棒から漏れる。その声は悔しさが込み上げ、貶すような響きだった。


「その呼ばれ方好きじゃねぇんだけど」


 ゼクスが苦笑いで泥棒を見ていると、二十数人の師団員と思わしき部隊が駆け付け、ゼクスと泥棒の下で足を止める。


「さすが四番さん。仕事の速さが違いますね」


「王国警備師団なんだからちゃんと仕事しろ、カエサル師団長」


「黒猫の足は厄介なので、貴方ぐらいの実力がなくては簡単には言えませんよ」


 新たに現れたのはカエサルという名の師団長。

 勇気は、新たな師団長も重要な人だろうと頭に入れはしたが、そんな彼よりも気になった事がある。それはカエサルが話した言葉の中にあった。


「まぁ、俺は王国直属第四師団、師団長ゼクスって事になってる」


 何処か嫌そうに勇気へと説明するゼクス。

 勇気はコレで納得した。通りで国の皆からゼクスが声を掛けられる訳だと。


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