28.揺れる少女
晴々とした朝。彩る朝食の席。
それも昨日から新たに加わった少女の強気な一言に、場は沈黙を喫さざる得なかった。
ただ一言「迷宮に行きたい」と。
冷静になれば勇気も別段不思議と思わなかった。
リーゼの母親はザイエンデの中でも特段に優秀とされる第二師団長。それにアリサだって祖父に元とは言えどもザイエンデを持っている。血筋でザイエンデか力無きネームロスかの関係が強くなるのかは未だ知らない事だが、それでもあの親にして子ありと言えば何ら不思議でもない。
「構わん。好きにするがいい」
沈黙を破ったのは食卓についておらず、本を読み続けている副師団長だった。
「大丈夫なんですか? 幾らザイエンデとは言っても未だ小さい子どもですし」
勇気が、すぐに尋ね返す。確かに第二師団長の子で在るとはいえども幼い。幾ら優秀な人の子とは言え自分よりも6つも下の子に、あの命を賭した戦いをさせていいものかと不安が過ぎっていた。
「アリサ、お前は幾つの時に魔物と戦闘を行った」
副師団長は声の調子を変えずに言葉を告げる矛先だけを変える。
「13歳だけど」
アリサがリーゼを心配そうに見つめながら答えた。
「ザイエンデとして初めて魔物と戦う年齢平均はおよそ16と言われている。これから考えるとアリサもリーゼも早いと云えよう。しかし、稀に幼子にも関わらず最前線で戦う者も存在する。リーゼの母であるエルレインは、今のリーゼより更に幼い年齢で戦線に出ていた」
副師団長が言った魔物と戦い始める平均年齢に該当するのは勇気だけ。
勇気もアリサが僅か13歳で魔物と戦いを行っていた事にも驚いた。現状の16歳でも身体は出来あがっていない。13歳なれば尚更である。精神的な面で考えてもそれは同様。ただでさえ未熟であるのに、ソレ以上の未熟で生死に立ち向かえるか、その年齢で戦いに参じるなど出来るものかと思うぐらいである。
「本人が己をザイエンデとして迷宮に行きたいと言っている。そこで私に止める権利はなく、止めようとも思わない。“意志”在りし者に他者が口を挟むべきではない。今、私が出来るのはリーゼを死の運命に行かせない事だけだ」
続けざまに副師団長は言を述べた。
例え幼子であろうと戦士としての“意思”さえ在れば戦いにも赴く。
ここはそういう世界。勇気が育った平和な国と生き方、思想が根本的に異なる世界。
「そうね。危ないと思ったら助ければいい話。単純だわ」
アリサが答える。
そして、勇気は否応なしに今居る世界の根底を痛感させられていた。自分では此処にいる誰にも言葉を返す事は出来ない。言ってみれば、この世界にとって自分は1年も生きていない赤子も同然。反論し、皆を納得させ得る言葉すらもない。
「わかりました。行きましょう。自分も少し身体を動かしたいので」
故に勇気は皆の意見に賛同するしかなかった。
朝食を終えると、すぐに一行は目的の迷宮へ行く事になった。その際に宿舎の前に停まっていた馬車を利用して向かった。
どうやら副師団長が昨日の内に手配していたようである。
馬車内の空気は重い。何せ誰も口を開こうともしないのだ。それも極端に話を持ち込まない副師団長と大人しいリーゼが同伴している事が一つ。加えて、今最も話の種になる“迷宮”についてもリーゼが居る為に勇気もアリサも振る事はできない。
ザイエンデの原則として、他に対しての大きな助けは禁則事項である。以前、ゼクスから聞いた事で勇気もコレを理解している。認め合った者同士でしか助け合ってはいけないのだ。
会話がないまま迷宮入口付近に馬車は到着した。副師団長が先に馬車から降り、順々に降りて、最後に勇気がこの何とも居辛い閉鎖空間に心の中で別れを告げて降りた。
先頭で歩くのは副師団長。門兵は副師団長を確認すると、強張るように背筋を伸ばし対応を始めた。
「第四副師団長。本日は訓練でしょうか。それとも国の勅令でしょうか」
「そのどちらかを取るならば訓練だが、あくまで私用だ。下層には降りない」
「分かりました。御武運を」
副師団長に続いて、勇気達も門兵に一礼だけして迷宮内へと足を進める。
大広間には、ちらほらと別のザイエンデも見えたが副師団長を見るや否や、その姿を<往復水晶>を使用して消して行く。
相変わらず朝から下層に潜り込むザイエンデの姿は見当たらないが、一行にとって今日はそれが丁度いいぐらいであった。
「どうしよう。補助するならパーティー組んだ方がいいのかしら」
女神像前でアリサが勇気に向かって訊ねた。
「組んだ方が加護値の管理もし易いし良いんじゃないか? レベルが離れてるといっても10程度、いや、俺はどれぐらいでレベル差があると言えるぐらい離れてるってのは分からないけどさ」
「私も問題ないと思うけど」
勇気の返答を聞いてアリサがチラリと副師団長を窺う。しかし、仮面のせいで当然ながら表情から何も判断する事など出来やしない。
「行くのは一層からだ。二人は前線で攻撃をせずにかわしてみせろ。お前達の現状を見て私がどれだけ手を加えるか決めよう。リーゼは二人の動きを参考にするといい。二人は未だ戦い始めたばかりの師団員ではあるが、それだけに今のリーゼと近い状況と云えよう。故に何かしら得るモノがある」
副師団長から言葉が返ってくる。
この指示に勇気もアリサも不満はない。自分達より生きる事、戦う事に比べ物にならないぐらい優れた相手に、どう反論できようか。
勇気とアリサは、互いに主武器の剣を現界させる。そして、勇気の合図で迷宮の奥へと歩み進め始めた。
「ユウキ、昨日の今日なんだから無理せず任せてもいいんだからね」
アリサが勇気を気遣う。薬も効かない不調の後なのだから、さも当然の対応と云えよう。
「そうだな。でも、初めはいつも通りにいくよ。不調な状態でも、どれぐらい戦えるか試したいしさ。辛いと感じたらすぐにでもアリサに全部任せる」
「そう。貴方がそう言うなら、その判断に従うわ」
互いに納得して先へ進む。
必要なのは索敵。今日は試運転と、戦の復習に近い事をする必要がある。
一層なだけにコボルトしか居ない為、魔物の選別をする必要はないが、出来るだけ少ない数を相手にするのが望ましかった。
警戒の念は止めずに勇気とアリサを先頭に一行が迷宮内を進む。
そして、アリサの口に添える指で一行の足は止めた。
皆の目の先には、二つの影。一層でも少ない数の魔物の出現である。
「敵は二ね。出来れば一体の方がやり易いけど」
「こればかりは仕方ない。一人一体。副師団長の指示通り、回避に専念だ」
始まりの合図は互いの眼だけで。二人は先制を掛けに駆けた。
二人の行動は全く同じ。コボルトの曲刀と自分らの剣とを競り合わせる。当然、この行動は故意であり、今の二人にとって一層のコボルト程度なら剣を合わす事なく瞬殺も可能になっている。この行動の意味は敵に「敵対心」を与える事が全てである。初合で危険だと認識させる事によって、周りにいるどの敵よりも「敵対心」を呼び寄せ、注意を引く事が今回の作戦の一つであった。
思惑通り、勇気とアリサの二人は一人一体の形でコボルトを受け持つ状況へと至る。
アリサは己の柔軟な身体と素早い身のこなしだけで敵の剣戟を躱す。
勇気もアリサと同じように躱してみせるが、時に剣で防がねば食らう場面も在り、そうなれば仕方なく剣で防御していた。ただし、あくまで防ぐだけで剣は攻めには一切使わない。スキルを練習台として使えど、副師団長の命令である「躱し続けろ」という命に逆らう事はないようにと、一心に敵の剣戟を凌いだ。
しかし、余り長く力の差を見せ続けると魔物は逃げてしまう。以前も体験した事であるが、上層程その傾向は顕著に出てくる。故に最上層である此処一層なら、このままの状況が続けばコレからどうなるかなど想像するも容易い。
勇気とコボルトの剣同士がかち合う。
「っ……!」
勇気は腕に万力を込めて無理矢理コボルトを押し切った。
普段なら、こんな力技は使わない。ただ試したかっただけ。こういう機会でもなければ、こんなに不器用な戦いは行いやしない。
コボルトは勇気の勢いに負けて、後ろによろけながら尻もちを着く。
これで決した。力の優劣は覆らない。間もなく、この魔物は逃げおおせるか決死の一撃を振り抜きに来るかの二択。勇気は、どんな結果になってもいいように、絶対的優勢であっても構えは解かない。
コボルトが態勢を立て直し、前へと踏み込む。つまり、これより決死の一撃が待っている。凌げば恐らく退くだろう。
勇気が剣を持つ手に力を込めた――だが、その刹那――
「な……」
目前のコボルトの全身が赤く、赤く燃え上がった。
勇気自身は、攻撃の行動は取っていない。幾ら自身の剣が炎の力を持っていると言っても、こんな現象は起きた事がない。
その場でのたうち回る犬顔の獣。それも一瞬の刻で、魔物はすぐに力なく倒れ伏してしまった。魔物を纏った炎は消え、焦げ付いたソレだったものが絶命したと表現していた。
アリサの方も戦闘は既に終わっていた。勇気の相手していた魔物が炎に包まれる前に逃げてしまっていたのだ。故にアリサも今の燃え上がる魔物を見ていた。
戦闘を躱し続けた二人の視線は、ある方へと向く。この所業は二人の力じゃないと今まで戦っていた二人だから分かっている。故に、コレは新たに今日、此処に参戦した人物の所業であると。
仮面の男の隣に立つ少女。片手に広げた扇を携え、射抜くが如く立ち構えていた。
「リーゼ、アナタ<魔術士>だったのね」
真っ先に、その元へ向かったアリサが言う。
「はい……」
パシンと広げた扇を畳み、リーゼが尻すぼみに答える。
勇気も皆の下まで戻って、剣を一旦手元から消した。
「魔術士と言うと、魔法を使うって術士ってな認識で間違いないか?」
「ええ。貴重な能力よ。魔術士や治癒士は、ザイエンデの中でも100人に1人しか居ないって言われるぐらいだもの」
アリサの言葉に勇気は唸る。そこに在るのは関心。今、自分達と一緒にいる少女はザイエンデでもさらに貴重な力を有する存在。しかも、第二師団長の娘だ。むしろ、親が有力だからこそなのか。
勇気の目に留まる少女は、初めに見せたおどおどとした雰囲気など今持ち合わせてない。それどころかアリサに劣らない凛とした表情で此処に在る。
そんなリーゼを見ている内に勇気は一つ疑問を抱く。
「その扇は魔法の媒体に使う物なのか?」
疑問、それはリーゼが持つ武器だ。
勇気のイメージでは、魔術士、魔法使いと云えば携えるは“杖”が一般的なのでは、と。だがリーゼが持つのは扇である。
「はい。杖類や霊刀と呼ばれる短剣が<魔術士>にとって一般的ですが、私の魔法媒体とされる主武器は、この鉄扇です」
ビッ、とリーゼが畳んだ鉄扇の先端を勇気へ向けた。
まるで銃口を向けられる錯覚に陥り息を呑む勇気。自分が持つ“凶器”よりも、よっぽど機能する“凶器”に見えてしまう。
リーゼが「あ」という小さな声を出して、鉄扇を持った手を申し訳なさそうに下げる。
勇気は今しがた戦った魔物より、よっぽど恐怖を感じたと苦笑いが漏れていた。
「これならリーゼは前線じゃなくて、後方支援に回って貰った方がパーティーのバランス的にはいいかもね。いっつも二人で前に出て掻き回して戦ってたけど、後方から高火力の力が合わさると殲滅する速度も上がるわ。遠距離に特化した<魔術師>のお陰でね」
アリサが一つ提案する。
今までは、アリサの言ったように二人で前線に出て、互いに守り、互いに攻め、敵を誘導するにしても<剣士>であるが故に前線を離れる事が出来なかった。つまりは近接のみの戦闘となる。例え勇気が“拳銃”を自在に使えるようになったとしても
、勇気自身、制御仕切れるとは考えていない為に遠距離で援護射撃をするように使わず、近距離のみの使用となろう。
ここでリーゼという新たな戦力。勇気やアリサでは二撃必要なコボルトを遠距離から一撃で焼き殺す力を持ったザイエンデが加わる。
戦略面から考えても、とても貴重で重要な存在とされよう。
パーティーに取って、リーゼが加わるという事は良い事尽くしである。だが一つ、勇気にはどうしても不安な点が一つあった。
「でも息を合わせるのが難しそうだ。オレはアリサレベルの機敏な動きは出来ないから、下手すると射線に入っちゃうかもしれないし」
同士撃ち。勇気が銃を使う時も懸念した味方に攻撃が当たるという事だ。一度放たれれば制御が難しい手元から遠くへと発する力の最大の危険はコレなのだ。
「当てませんので大丈夫です」
だというのに勇気の懸念はリーゼの一言によって一蹴された。
「当てません」
追うような二度目の絶対の言葉。
ここまで言われれば勇気に反論の余地もなし。少女の溢れんばかりの自信を信じるしかない。
「じゃあ、もう一回ぐらい行きましょう。今度は私がリーゼと合わせてみたい」
どうやら今一番やる気があるのはアリサのようだ。新たに共に戦う仲間が増えて素直に嬉しい半面、戦闘に少しでも優位に立ちたいというのが彼女の考え。
勇気もアリサが戦闘に対して一切の手を抜かず、常に探究し戦う事を知っている。だからアリサがやると言うのなら手伝うし、手助けもする。
「構わん」
そして、副師団長の許可で新たにコボルトを探す事になった。
「オレも使えるようにならないかな」
アリサと一緒に後ろの二人を先導する勇気が独り言のように呟く。
勇気にとって魔法は憧れの一つである。初めてセトの店で<調合士>のスキルで自身の常識を打ち破る超常現象を見た時は心が躍ったものだ。更に今、リーゼが放った炎を飛ばす魔法と思しきものは、勇気の心を再度揺さぶるに十分過ぎる結果のものだった。
「魔術士や治癒士は先天的なものって聞くから無理だと思うけど」
「そうなのか」
勇気は、アリサの言葉で残念だと思うしかなかった。ただでさえ貴重だとされるのに加えて、そのような制約があっては望みも薄い。幾ら例外とされる後天的にザイエンデと成りえた自分でも二度もそんな例外に入れる程甘い考えは持っていない。
「私的には貴方の“ジュウ”って武器の方が珍しいんだけどね」
アリサが笑みを漏らし、勇気も釣られる。
その二人のやり取りは、当たり前が反転したように。
銃と魔法。勇気の“元いた世界”と“今の世界”では、この二つ力の当たり前が逆転している。どちらかの世界にいけばどちらかの力が存在しない。それが当たり前。しかし、この当たり前を知るのは勇気だけ。未だ自分の在り方を全て晒していないのだから。
索敵は続く。本日の主役は勇気でもアリサでもなくリーゼである。
ただ安全に帰る為にも索敵班の二人は慎重を喫していた。
「また二匹か」
勇気が目当ての存在を見付けて呟く。
徘徊する魔物の数は2。先程と同様、一層で戦うにあたって恐ろしさなどはない。慢心せずに常日頃戦うように戦えば負けはしない戦になる。
「また一体引き受ければいいか?」
「ユウキは少し待機。さっきリーゼと合わせたでしょ」
アリサが言うだけ言って、前へと出て行ってしまった。
すぐに気付く魔物が二匹。アリサは敵対心を一人で受け持つように剣を振るう。
今のアリサの言動と、この立ち回りでは自分の出る幕が微塵もないと舌を巻く勇気。そもそも一層の為にアリサ一人でも十二分にオーバースペックと知っている。
勇気は、自分がどうしようかと悩み、至った結論は「見」である。アリサに言われたように待機が最善であるとした。そのお陰で勇気は見る事が出来る。如何にして、傍の魔法を行使する少女が魔物を打ち倒すのかを。
戦の震源に白い少女が青帯びた剣を振るいながら悠々と踊る。
其れを見るは二つの瞳。其の小さな身体が僅かに揺れる。
伸びる腕の切っ先に開かずの扇を携え、撃ち滅ぼすべき狙いを定め、ピタリと時が静止した。
捧げる言葉はない。無言の威圧が空気を荒らし、触れる地に異変を齎す。
其れは陣。穿つ為に構えた魔術士の足元に赤の紋様が一画、一画、又一画と奔る。
然程時間を要する迄もなく奔る紋様の姿が無くなり、陣の完成を告げる。
魔術士の止まった時が動く。
狙い定めた閉じた扇の切っ先は、肘を曲げ、耳元近くへ――
「――フレイム!」
言の葉と曲げた腕を払われたのは同時だった。
払った腕の勢いで鉄扇は花咲くように開き、赤の力が命を狩る為に飛ぶ。
「ギャウッ――」
突然の強襲に狙われた魔物など成す術などなく、一撃の下にその命を断末魔と共に燃やした。
赤陣の紋様は消え、魔法の行使が全て完了した事を意味していた。
しかし、魔術士の行動は終わりではない。未だ屠るべき敵が残っている。注意を引く前衛役も未だそのように振舞っている。故に次弾の手を止めはしない。
同じ映像が再生されるように光景が繰り返された。
魔物を屠った少女が小さく息をつく。
そのおかしなぐらいな落ち着きようは、勇気にとって彼女もまた自分の今までの常識と逸脱した人であると思わせるのに十分過ぎた。
ここは戦と生死が隣合わせの世界。平和で能天気に近い世界とは違う。
勇気は脳裏に横切る此処に不要な考えを、頭を軽く揺さぶって吹き飛ばす。
「…………」
そんな勇気の行動に不審を抱いたのか、ジッとした目つきでリーゼが勇気を見上げていた。
「魔法を使うのに詠唱とかって無いのかなって」
誤魔化すように勇気から喋り始める。
それでも、これも疑問に思っていた所だ。さっき聞いた扇同様、勇気の魔術士のイメージとしては、杖の所持と魔法行使に必要な詠唱が1セットになっている。
「詠唱が必要なのは、<治癒士>の方です。女神に呼び掛ける為に詠唱が必要とされています。代わって<魔術士>は云わば己との戦いなのです。必要なのは思考、没頭、解放。近接戦闘と比べれば手間が掛かり、隙も大きいですがそれだけ力が増すのです」
「う、うん……」
勇気は想定以上のリーゼの解説に、思わず変な口調で返答をしてしまった。
「アナタが引き腰になってどうするのよ」
囮役として任務を全うしたアリサから、勇気に向かって突っ込みが入る。
それに仕方ないじゃないか、という目線で返す勇気。10歳の少女に自分どころか大人すらも顔負けしそうな言い回しと内容で流暢に説明されたのだ。こんな間抜けた反応にならない方がおかしいと。
アリサは今の戦闘に満足行ったようで、リーゼに一つ微笑みかける。
そして、声を正して、今回の司令官として共にした副師団長に向けた。
「これなら私達も未だ成長途中でもありますし、パーティーを共にしても問題ないと思います。それに私達も後方支援型のザイエンデと組む事によって経験を積めますので、尚更組んで且つ同じ立場で戦闘した方が互いの為になるかと。どうでしょうか」
「確かに。本来師団員ならば真っ先に集団訓練を積まねばならない。お前達は例外で入団した訳だが、入団試験に集団能力を測る項目もあるぐらいだ。ここで少しでも養う事は悪くない考えと云えよう」
丁寧なアリサの提案に、副師団長は異論無しと全てを飲む。
次にアリサはリーゼに向かって「どう?」と一言聞くと、リーゼは素直に一つ頷いて了承する。これで、勇気、アリサとリーゼがパーティーを共にする事が正式に決定された。
すぐさまリーゼは自身のウィンドウを出し、幾らか操作してからアリサを見上げる。
アリサはリーゼの一連の行動を見た後、むっ、とした顔で勇気を見ていた。
「ユウキ。パーティー申請」
「え?」
「アナタがずっとリーダーでしょ。だからアナタじゃないと権限がないのよ」
「そうだったのか。全く気付かなかった」
慌てて自分もウィンドウを出してパーティーの項目を開く。パーティー申請したのも数十日も前だと僅かに思い返しながら、記憶を辿りに指を動かす。
ウィンドウを開き、パーティーの項目に触れる。サブウィンドウに表示される「リーゼ」の名前。他に名前はなく、勇気はそれを指で軽く二度触れた。
「申請行ったかな」
「大丈夫です」
勇気のメインウィンドウにも自分とアリサ以外にリーゼの名前も新たに加わり、それに従ってリーゼのレベル、加護値、魔法値、技術値の情報が増えていた。
そして、勇気は見てすぐに気付く。そのある違和感に指を這わせていた。
「レベル3……?」
1よりも高い数字がリーゼの情報として映されている。
原則、レベルの上昇は魔物と戦い、その命を断ち、女神像に祈る事をしなければならない。前二つの条件は満たしているが最後の女神に関するものは此処では無理である。
では、リーゼのレベルが1でない理由は何故か。
「私が以前に連れて行ったのだ」
その理由は副師団長が、さらりと解答した。
「……初めてじゃなかったのか」
「副師団長も朝に言ってくれればよかったのに」
独り言のように納得しながら言う勇気と、こちらも独り言のように呟くアリサ。
勇気はリーゼが初戦闘でないならば、今迄の戦闘で冷静に対処していた事も幾ら納得できた。ただそれでも年齢の割には落ち着き過ぎだという考えは抜けきっていない。
勇気が何気なく、新たな情報が載ったパーティー項目に触れる。名前に触れれば、パーティーメンバーの詳細な情報が見られるのを理解していた。それはステータス、装備、スキル、調べつくせば道具の中身までも確認出来るという事。
そして、共に戦うなら少しでも情報が多い方がいいだろうと、リーゼの名前に触れた。
『権限がありません』
ウィンドウに新たに浮かび上がる文字。
初めて見るウィンドウ画面に何故かという動揺を隠せなかった。
「お母様から例え背中を預け、命を預けられる人であろうと見せてはいけないと言われています」
今度は当人のリーゼから解答が渡された。
勇気にとって、それは意外な答えだった。現に勇気とアリサは互いに包み隠さず情報を公開している。何をするにしても互いの情報を確認し、相談し合い、今日まで迷宮を渡ってきていた。だから、リーゼの隠匿すべきという考えとは正反対である。
勇気は本当にそうなのかと、今この場で最も経験があるだろう人に目線を送った。
「さてな。ザイエンデによって考え方は違うだろう。ただエルレインは、ああ見えても細かく神経質だ」
どうやら、リーゼが言った事はザイエンデ得としての考えの一つであり、勇気達の行動も決して間違いではないようだ。
勇気は一先ず自分が愚かしい事をやっていないと知れて、ほっ、息を吐く。それからウィンドウを閉じるとリーゼに向かって言葉を送った。
「母親に言われたなら従うべきだと思う。それに一緒に戦うにあたって重要な加護値は見えてるんだから問題ない」
「そうね。後は、リーゼは魔術士だから魔法値も重要になってくるかな。まぁそれも見れるから問題ないわね。うん、母親からそう告げられてるなら私もユウキの意見に賛成かな」
「……ありがとうございます」
お互いに納得の結論が出ていた。
勇気もアリサもリーゼに強制する気はない。リーゼが持つ考えは、一つの考えとして受け入れている。
ウィンドウの情報交換の話は、これで仕舞い。
「それじゃあ行きましょう。リーゼと一緒に戦うならもう少し馴れておきたいし」
「ああ」
「はい」
アリサの決起で迷宮の先に進む。
まだ戦いとしては、たったの二戦だ。パーティーとして動くのならば、まだまだ戦闘経験は必要。戦術としても増えた為に尚更と経験を積まねば、巧みに戦闘を行うなど夢のまた夢である。
「あ、私達の情報は常に表示してるから気兼ねなく見てもいいからね。ユウキが道具整理してなかったら、どんどん言ってあげて」
「オレは結構細かく整理整頓してると思うんだけど」
こんな冗談染みた話も交えて、新たなパーティーは迷宮の奥へと進んで行った。




