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V.R.  作者: 橋伸弘
第3章
26/31

26.目覚めから

 気持ち悪い。目覚めは身体に駆け廻る嫌悪感によるものから始まる。

 最悪の気分だった。どうせなら起きなければ良かったと思いながらも、もう眠れそうにないので身体を起こして寝台から立ちあがる。

 嫌悪感を抑えながら居間へと行けば、師団長ゼクスが片手にグラスを傾けながら、何かの書状を読んでいる姿が見えた。

 すぐにゼクスが気付く。寝室から出てきた青ざめた少年の存在に。


「大丈夫か?」


「まだ良くはないですね。というより最悪です」


 勇気は、そのまんまの気持ちをただただ述べて、ゼクスの向かい席へと座る。

 ゼクスは、いつものように陽気な笑みを浮かべると、台所に行き、冷たい水の入ったグラスとおかわりが出来るように氷と水を入れた大き目の容器を手に勇気へと持ち帰って来た。

 ゼクスから水を受け取った勇気は一言だけ礼を述べると一気に水を飲み干す。それでも気持ちが僅かに軽くなっただけで、やはり胸元の嫌悪感が抜けずにいた。


「話しかけない方がいいか?」


「いえ、気が紛れるので話しかけて貰った方がいいです」


「そうか」


 勇気はゼクスの気遣いに感謝しながら、自分で水のおかわりを大き目の容器からグラスへと注いだ。


「アリサから十層を突破して十一層に辿り着いたと聞いた。ひとまずおめでとうだ。アイツを斃したんだから、これでお前たちもザイエンデとしては認められる」


「やはりあの牛馬の魔物は十一層に辿り着く為の門番みたいなものでしたか」


 この考えが勇気の脳裏に過ぎるのはすぐだった。

 これより先へ進む為には、門番やら悪霊やら守護者やらを斃さないと進めない。こんな内容のお話を、この世界に来る前に「仮想空間」で何度も経験している。あくまで仮想に過ぎぬ話ではあるが近い部分も多くあるために関連性があると云えた。十層の謎解きだって、それからヒントを得ようと冗談半分に考えたぐらいである。

 唯これと違う部分は、両手と目しか使わない遊びではなく、本当に命のやり取りをする面だ。「仮想空間」のようにコンティニュー機能なんてない。一度やられてしまえば二度目が無い世界。


 勇気は今一度ゆっくりと呼吸をして、再び水を手に取った。


「ああ。それと、お前達はあそこで帰還水晶使えない事を知らずに突破したようだな。アリサは言わんかったが、酷い顔してたからすぐに分かったぞ」


 次いだゼクスの言葉に勇気が言葉を失う。きっとアリサもそうだったに違いないと思いながら。


「……死なずに突破できてよかったです」


「俺もそう思う」


 だが命が在るのだ。それでいいと。ゼクスも笑い飛ばしていた。


 今回の失敗を挙げるなら急ぎ過ぎた点。もう少し準備を充填にしておけばよかった。アリサとの連携が上手く行くお陰で苦労していなかった為、現状況の最高の装備ではなかった。言うなれば慢心である。そのせいで強力な魔物に紙一重の死闘をした。命あるだけでいい。次はしてならない。


「体調が優れないのはやはりあの武器のせいか」


「おそらく。確証はありませんが、そうだと」


 勇気が受け答えしつつ、頭を軽く押さえながらウィンドウを操作する。

 “あの時”違和感は在った上に、それを確認していた。ただ、あの時は余りの疲弊感に深く考えたくなく、後でゆっくり考えても問題ない事だけで放っておいただけ。


 スキルの項を見れば<銃士Lv1>という表記が瞳の中に情報として届く。今まで上がらなかったスキルlv0が変動している事実が確認された。


「ゼクスさん。レベルやスキルレベルは女神像に願わないと上がらない事を知っているのですが、例外もあり得るのでしょうか」


 しかし、勇気の疑問はスキルレベルが上がった事ではなく別の事象である。

 このスキルは、女神像に願う前に上がっていたのだ。勇気は女神像に願う前にウィンドウを開いてから願う事が多い。それに加えて今回は、あれだけの強敵を倒したから、自身のレベルが上がっていると思いウィンドウを確認しながらやろうとしたのが功を奏した。日頃のささいな癖が例外に気付く結果を得ていた。


「そこらや書物では前例を聞かんな」


 どうやらゼクスにとっても、女神像に願う前にスキルレベルが上がるのは例外という認識のようであると勇気が言葉から読みとる。


「でも、お前のそれは俺からしても特別な力だ。例外なんて、何時何処で発生するか分からん」


「そうですね。むしろ、この例外なら女神像に願わずともよいというメリットしかありませんし、別段と悪い点はありません」


 有利な点しかない。本来スキルは女神に願ってやっとレベルがあがり、その事で新たなスキルを習得出来る。今回の戦で重要な役割を果たした剣士スキルの【パリング】に関しても同様で、一度女神像を通さないと習得出来なかった。


 だが今回は違う。まず<銃士>のスキルレベルが上がったとされる瞬間は二つに分けられる。

 一つ目は牛馬の魔物を斃した瞬間。

 もう一つは戦いの最中、それもアリサを救おうと、危機を乗り越えようとした瞬間。

 勇気は断然に後者だろうと推測していた。そうでなければ、強力な力を行使出来ないと。

 お陰でアリサを救い危機を脱せた。決定打になりえなかったが、活路を導く機転にはなりえたのだ。

 唯レベルが上がった条件が不明ではあるが、危機に逆転の一手を手に入れられる可能性があると知れたで救いものである。ただし、依存し過ぎるのは良くない。頼り過ぎて他を疎かにすれば最悪な結果が待っている事は目に見えている。


 勇気は、此度の戦で活躍し、今の不調を訴える根源となっただろうスキルを確認する為にウィンドウを操作する。そして、表示されたウィンドウを見て、再び言葉を失った。喜びとは逆に負の面を突きつけられたせいで、そうなってしまった。


「どうかしたか?」


「説明が書いてないのですが……」


<――――>


 <銃士>の項のスキル名が線で書かれている。

 サブウィンドウの説明も「not found」と説明がない。もし【パリング】ならば、サブウィンドウに長々と効力の説明を丁寧に書いてくれているのに単純な一つの言葉だけである。

 勇気はコレと同じ現象を知っている。それもそうだ。<銃士>の主となる武器がコレと同じ状況なのだから、良く知っているのは当然だ。

 だが、コレでは新たなスキルの効力が分からない。おそらくは銃を撃てる事に関係するのだろうが、予測の域でしかない。試して見なければ全く理解不能としか云えない。


「試すのは調子が戻ってからの方がいい。もし、今みたいになっても問題ないと考えているならな」


 そんな事を勇気が考えていると、ゼクスから思考を読まれたように止められる。


「はい。間違いなく切り札になるものなので、いずれ試します」


 勇気もゼクスに従った。

 試そうとは考えても気が気でない。未だ気分が悪い事に変わりないのである。

 それでも利用する気はある。もし、コレを使う事になって今のように疲弊し、気分が悪くなろうとも、切り札があるに越したことはない。

 とにかく今は駄目。加えて、こんな場所で試すなんて危険過ぎる為にもっての外だ。


 勇気はウィンドウを閉じた。それと同時に一つ牛馬の魔物との戦闘であった疑問を思い立つ。


「そういえばザイエンデって加護値が0にならない限り外傷は受けませんが、自身で傷つける分には問題ないとかあります?」


 この銃を使おうとした時に起きた眩暈を吹き飛ばす為に唇を噛み切った。

 勇気が今言ったようなザイエンデのあるべき理ならば、噛み切れる事は理を矛盾していると思い質問していた。


 聞いたゼクスは「ほう」と一つ唸る。

 そして、テーブルをバシリと片手で思い切り叩いた。もう片方の手には短刀が握られている。


「え……ゼクスさん――」


 速かった。勇気の止める声が間に合うまでもなく、ゼクスの短刀は持ち主のテーブル上の手へと向けられた。


「……と、まあ自分で傷つけようと頭で思わない限りは、こんな風に穴一つ空かねぇ。衝突した感覚はあるけどよ」


 テーブルが奔った衝撃を表すように揺れる。

 振りおろされたナイフの先の手の甲には傷一つ無かった。

 結果はザイエンデの理通りに、加護値が0でなければ外傷がないという当然のものである。


 勇気はゼクスに無茶をする人だと内心で思いながらも次の質問を出した。


「という事は傷つけようと思えば傷つくんですか?」


「そうだな。普通はそんな事考える奴はいない。傷が入るってのは痛みを伴うって事。誰だって痛いのは嫌だからな。それともユウキはこういう性癖があんのか?」


「じ、自分も痛いのは嫌ですよ」


 勇気は慌てて答え返す。


「冗談だ。大方、その新しいスキルを使って判断が怪しくなるぐらいに眩暈がしたから、頭を正常に戻す為に唇噛み切ったとかだろ」


「……さすがゼクスさんですね。その通りです」


「唇に傷跡が残ってるからな。さっきの話聞いて、それ見りゃ予想がつく」


 勇気は自分で噛み切った唇に指を触れる。触った指がソコに違和感があると教えてくれた。

 ゼクスはそんな勇気を見ながら、強めの酒をグラスに注いで告げる。


「アリサが帰ってくるまでもう少し掛かるだろうから、寝れるなら寝ておいた方がいい」


「はい、水も飲んで少し気分が晴れたので寝れると。それに話もできてすっきりしました」


 勇気もゼクスの提案に反論しない。まだ身体の疲労感が抜けきっていないのだ。

 水を飲み干した後、使ったグラスを片付けようと台所に向かおうとしたが、ゼクスに止められる。ゼクスに「後はやっとく」と言われ、礼をしてからすぐに寝室へと向かった。





「――うわっ……!?」


 勇気の次の目覚めは嫌悪感ではなく驚愕からであった。

 それもそうだろう。目が覚めて、すぐ目の前に表情のない仮面が自分を覗き込んでいたら誰もが驚く。例えそれが知っている人物であろうともそうなる。

 寝台から後ずさって壁に背を預ける勇気。自分の身体を見ると上半身に着衣していたものが無い。つまり上半身素っ裸な状態である。


 この不気味な仮面の人物、副師団長は自分に何をしていたのか、冷や汗を流さずにはいられなかった。


「異常はない。だが目にまだ精気が戻ってはいないな。今日一日、長くとも二日安静にしていれば良くなるだろう」


 副師団長は淡々と云った後に、羽織れるマントを勇気へ投げ渡すと寝室から早々と退出していた。


 勇気は驚き張り裂けそうな心臓に手を当てて落ち着かせる。そして、部屋をよく見ればよく知る彼女が居るではないかと気付く。それもすぐ側、すぐソコに椅子に座ってコチラを見ている。


 さっ、と副師団長から受け取ったマントを羽織って、申し訳ないと上半身を隠す勇気だった。


「あ、夕食は、もう少し待ってね」


 そんな勇気をアリサは気にも留めず、笑いかけた後にある作業へと移っていた。

 寝台と同じぐらいの高さの小型の台に土鍋らしきものが在る。土鍋の下を見れば、専用の器具らしき別の台があり、その中心に赤く水晶が光っている。それが熱を有した物であると、土鍋がコトコトと音を立て水蒸気を発している所を見ればすぐに分かる事であった。


 静かに音を立て続ける土鍋を二人で見つめる。

 アリサがパチンと二度指を鳴らした。すると、赤く光る水晶は色を消し灰色に変化する。そして、布を手に取り土鍋の蓋を静かに開いた。


「……お粥?」


「ユウキも知ってたんだ」


 開いた土鍋の中に、勇気もよく知る料理、よく風邪を引いた時や体調を崩した時にだされるものがあった。

 白く光る柔らく仕上げられた白米。鮮やかに光る淡い桃色の欠片。勇気の記憶にあてはめれば鮭粥と思いつくのは簡単である。


「味見はちゃんとしたから、塩辛過ぎたりはしてないと思うけど。柔らかくなり過ぎたり、堅過ぎたりしてないかしら。単純な料理だけど一つ違うと全部駄目になるし、お米使った料理って初めてだから少し心配で」


 やや自信なさ気に喋るアリサが、匙を取り出して土鍋の中身を軽く掬う。匙に掬われた一口量の白と桃色の料理。アリサは軽くソレに息を吹きかけて勇気の口元へと持って行った。


 時が僅かに止まる。それも勇気が固まっているせいだ。目の前の、口元に持って来られた匙を見て固まっていた。

 この硬直した時を動かしたのは、白い肌を赤く染め始めたアリサだった。


「な、なんで照れてるのよ。こっちも恥ずかしくなるじゃない」


「わ、悪い……」


 勇気は謝ってから、口元の匙を口へ運ぶ。

 温かく優しい味。軽く咀嚼して呑み込めば、身体が温まるのを感じる。

 身体が弱っている時に、よく母に作ってくれたのを思い出す。優しい料理の味だった。


「どう?」


「ああ、美味しいよ。さすが我らが料理長のアリサだ」


「そう、良かったわ」


 心から自分を気遣ってくれるアリサ。微笑んでくれるアリサ。

 二度目の食べさせてくれるアリサの行為に勇気の気恥かしさはなくなっていた。


 心の中の感謝は止まない。彼女がいなければ、共に居てくれなければ今を生きていないのだ。


 何度も同じやり取りをする。土鍋の中身がなくなるまで繰り返した。

 カラリと匙が土鍋とぶつかり、料理が無くなる音を告げるのは、そう遅くはなかった。


「食べ過ぎも身体に毒だからここまでね」


「そうだな」


 勇気の腹は十分に満足感を得られている。この調整具合も常日頃から料理を行っているアリサのまさしく匙加減というものだ。


「アリサ」


 食後の片づけを始めた相手に呼び掛ける。

 彼女は不思議そうな顔して一瞬だけ手を止めた。


「ありがとう」


「ええ、こちらこそ。ありがとう」


 お互いに軽く笑い合った。

 感謝の言葉。これだけで十分。今回の苦行を共に分かち合った二人は、この言葉だけで十分に互いの意思が伝わっている――


「ゼエエェェェエエクス―――ッッッ!」


 そんな穏やかな時間を二人は味わっていたのだが、家主の名を呼ぶ大声と家中に響く爆音がかき消した。


「な、なに……?」


「居間の方だよな……?」


 アリサが片付けるのを止めて、寝室から早足で出て行く。

 勇気もついていこうと立ち上がるが、自分の上半身の恰好に気付く。


 軽く周りを見渡せば畳まれた衣服が見当たった。きっと副師団長が自分の身体を診た時に近くに居たアリサが畳んだのだろうと推察する。

 勇気は、畳まれた衣服を手に、素早く着て寝室から足を運んだ。


 先に行ったアリサが居間へと行かず、隠れるように壁越しに居間を見ていた。

 勇気もアリサと同じように身を乗り出さないで居間を見ると、そこに見えたのは自分達の師団長が、初めて女性に襟元を掴まれ、揺らされてる光景だった。


「貴様、在宅中は鍵を空けておけと何度も言っているだろうッ!」


 尚もゼクスの襟を持ったまま怒声を浴びせる女性。怒り散らし猛っているが、見る人は彼女を美しい人と表現するだろう。女性にしては比較的に高身長で、近寄りがたい目つきを持っている。そのせいか、ただでさえ近寄り難い雰囲気を持つ女性が怒っているのも加えて余計に近寄れない。


「開けてたつもりなんだが、もしかすると悪い虫が入らねぇように防犯魔法が発動したのかもしれねぇ、な?」


 椅子に座ったまま揺らされ続けられて面倒そうに喋るゼクス。そして、我関せずといつもの窓辺定位置で本を読む副師団長。

 奥に見える扉が無くなった入口が先程の爆音が何であったかを示している。


 アリサと勇気は、どうしようか迷っていた。何せ出れない。美女ではあるがまるで魔物のような激しい猛攻を自分達の師団長に仕掛けている。恐ろしい光景としか表せない。


 戸惑い居間を見続ける二人。しかし、突然牛馬の魔物にすら勝る睨みつけが二人を襲う。二つの眼が、二人に気付いて捉えていた。その眼力は、こっちに来いと命令しているようで、二人は黙したまま息を呑んで嵐の下へと向かう。

 美女はパッ、と放り投げるように掴んでいたものから手を離して、堂々腕を組み二人を見下ろした。


「えっと、初めまして……」


 勇気がおそるおそる自分よりも背の高い威風堂々とした女性へ挨拶を申し上げる。


「病人か。無理して起き上がらずに寝ていればよかろうに」


 女性は勇気の顔を見て投げるように言った。その言葉はさっきの乱暴な気の強さはなく、やれやれといった感じであり、どこか穏やかさを感じるものであった。


「テメェが糞五月蠅いからだろ」


「何か言ったか……?」


 しかし、ゼクスに対しては相変わらず噛みつくように睨み上げる。

 勇気の心の中では、あの第七師団長よりもゼクスに辺りが強いと格付けが完了していた。


「そうだな。まずは名乗るべきであろう」


 女性は腕を組んだまま姿勢を僅かに正し、声を張り上げる。


「私は王国直属第二師団・師団長エレインだ。師団に居れば顔を見せる事もあるだろう。以後宜しく頼む」


 女性の名はエレイン。それよりも勇気とアリサの二人が耳に残ったのは第二師団・師団長という役職であった。

 十師団以下という事は世間でいう本隊にあたる。そして、何よりも第二師団と云う事は自分達が所属している師団より若い数字。以前、勇気がゼクスから聞いた話によれば、若い数字程力があるとされている。つまり、彼女は第四師団・師団長ゼクスよりも力がある存在という事だ。


 自己紹介だけでもエレインには貫禄を感じる。自分が誇りある存在だと云わんばかりの力強さを持っている。

 そんな相手に二人は、まずしなくてはならない作法を幾分か緊張しながらも行った。


「王国直属第四師団所属、勇気です。宜しくお願いします」


「同じく第四師団所属、アリサです。宜しくお願いします」


 名乗り、丁寧な礼で答える二人。

 届いた先のエレインは大変満足そうに笑む。


「うむ。お前たちの話は私の耳にも届いている。まったく、何故目下の者の方が礼儀正しいのか。私は悩ましい」


 最後にやや呆れ気味に片手で頭を抑えて、第四師団長の方へと睨み放った。


「で、その第二師団長様が人の家に来てまで何用だ。飯なら出さんぞ」


 そんな睨まれた相手は、鼻で笑ってエレインに言葉を返す。

 喧嘩腰のゼクスにまたあの怒声が飛ぶのでは、と勇気もアリサも勘ぐって耳を塞ぐ準備をするが、エレインの目線はゼクスではなく、窓辺の副師団長の方へと行っていた。


「副師団長。昼の件は伝えていないのか」


 エレインが言う。聞いているだろう副師団長は本をペラリとめくった後に、その返答をした。


「そうだったな。夕暮れ時にエレインが来る。ゼクス、家の鍵は開けておくといい」


「いや、お前、遅いから。もう扉ねぇから」


 ゼクスが言うのも尤もである。家の出入り口は爆音と共に消滅して、ぽっかりと開き、自由通行となってしまっているのだ。

 間が抜けたのか、はたまた忘れたのか、副師団長に似合わぬ言動であった。


 エレインは、溜息を深く吐く。きっと副師団長に対してのものであろう。しかし、その後は、凛とした眼差しへと変わり次のように言葉を告げた。


「では用件を手っ取り早く私から説明しよう――リーゼ」


 エレインの一声で、無くなった扉から小さな少女が現れた。 


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