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V.R.  作者: 橋伸弘
第2章 深淵の序曲
23/31

23.ラグナロクの迷宮(Ⅶ)-障害-

「へぇ。今のは第五師団長の人からの話なんだ」


 ゼクス宅から迷宮へ向かう道中、アリサが勇気の話を聞いて感嘆を洩らした。

 勇気の話の内容は、アカシアから聞いたゼクスの過去話。全て詳細に話した訳ではなく要点を纏めて聞かせていた。


「ゼクスさんは昔からあんな人なんだなって感じ――いや、思ったよりも無茶をしてるかな」


 勇気は改めて自分で、アリサに話した事でアカシアから聞いたゼクスの話に舌を巻く。


「でも、その昔話を聞いてしまったせいで、身近にいるのに手が届かないような人に感じたよ。特別な人って、ああいう人なんだなって」


 自分では幾らなんでも泊まり込んでまで迷宮を突破できる気がしない。それも魔物すら食す気概なんて、とてもじゃないが考えられない。遥か上を目指し、師団という仕組みを理解し、上に立つ者としてどうすれば事足りるのか、それらを自分と同じぐらいの年齢で考えた人物。遠い遠い存在だ。尊敬の念は増すだけで、聞けば聞くほ程、考えれば考える程遠い。

 遠い眼差しの勇気にアリサが一つ言葉を送った。


「師団長なんて皆そんな所じゃないの? 凡人と考え方が違うというか、どこか吹っ飛んでるって言うか」


「失礼じゃないか?」


「正直、私達の師団長はそんな感じとしか言えないんだけど」


 くすくすとアリサは笑う。

 彼女にとってゼクスは、どういった存在なのか。きっと勇気同様に尊敬はしているのだろう。それでも勇気とは、ゼクスに対する接し方はまるで違う。勇気も、その違いはアリサとゼクスが接する様子を見て、何となく思っていた。勇気から見る二人は何処か近しい存在だと。師団の上官と部下といった関係ではなく、何かと云えば親類、兄と妹のような関係に似ている。しっかりしている方はどっちだろうかと言うのは言い難い為に、少し笑いが漏れそうになる。そして、自分にも本当の自分の世界には同じように妹が居る事も思い出した。しかし、それに届くには未だ何も掴めておらず遠い存在。首を振って今は、ソレに関しては遠くへとやった。


「それでウチの師団長が単独で三層から十層を突破したのは何日だっけ」


 今度は、アリサから勇気へと一つ尋ねる。


「単独の時だけならアカシア師団長がゼクスさんを見つけたのが26日――いや、攻略期間は25日だったかな。それに加えて十一層に辿り着いた8日を加えて計33日じゃないかな」


「それなら攻略時間的には私達の方が早いんじゃない?」


 アリサがウィンドウを開き、地図の項目を表示する。そこに示されたのは“10層”の文字。そう、二人は既に十層に到達していた。

 以前から話にあった副師団長が勇気に対し、ある日迄に十一層へ辿り着けと云う謳い文句から始まったものだ。それに間に合うように、勇気とアリサは日々を過ごし、今日の今日迄、必死にやってきていた。


「こっちは二人だ。それに初めからゼクスさんに武器と防具の援助を貰ってるから」


「それもそうね」


 ゼクスは七層からたったの8日で十一層に到着している。きっと、七層まで到達した日数を考えれば、この8日という数字は異常な速さと云えよう。これについて勇気は深くゼクスに訊きはしなかったが、ゼクスが早い日数で済ませようと考えていたなら、計33日もの日数を掛からなかったに違いないと思っていた。それでも、自分らも、それに匹敵するように先へと、奥へと潜っている。


 進む道は止まらない。目的があるが故に。

 本日も、その目的を達する為に我が道を往く。精一杯の死力を尽くして。





「広いな」


 勇気は、ウィンドウの地図を開きつつ愚痴をこぼしていた。

 十層に辿り着き探索を始めてから既に6日経っていた。今までの経過と比べると幾らか日数が掛かり過ぎである。


 地図に目を落とせば未だ全ての道が踏破されていない。そもそも踏破してないものがほとんどであり、踏破したとされるのは勇気が一人で潜った時に探索した三層迄であった。


「ただ迷って次に辿りつけないだけな気もするけど。それに魔物も強くなってきてるし」


 アリサが横から勇気のウィンドウを覗き見ながら言った。

 六層から断然に敵の加護値が上がっている事は、六層で初めて戦闘を行った際に認識している。一層から出てくるコボルトでさえも、六層からだとやや面倒になるぐらいである。更に新しく出てくる魔物は、今までも魔物よりも耐久力が高く、断然に集中しなければ死の事故が起きかねない相手になっていた。


 勇気は、ウィンドウの項目を地図から変えながら息を深く吐く。


「攻撃スキルないのも考えものよね」


 アリサは、勇気の溜息混じりの顔をチラリと一度見てから再び勇気のウィンドウに視線を落として言った。


「こればっかりは自分じゃどうしようもなさそうだ」


 勇気はやれやれと言った感じにアリサへと言葉を返した。

 現在、二人が見ているのは勇気の<スキル>画面である。ステータスのレベルとは別個の扱いとなる<スキルレベル>の項目。勇気が主に扱う<剣士>のスキルレベルは11まで上がっていた。そして、初めに習得した【パリング】とは別に、二つのスキルを今は習得している。


 攻撃を受け流すスキル【パリング】

 敵の武器と撃ち合う事で弾き飛ばす力をもたらす【ウェポンバウンド】

 魔術の対象を剣に移す【マジックシフト】


 はっきりとどれも防御よりの力だった。しかも相手が攻撃しなければ効力を発揮しないものが二つもある。加えて【マジックシフト】に至っては、未だ“魔法”を扱う魔物と対峙していない為、使う機会も無く、習得したまま腐っている状態だった。

 変わって、勇気と同じように剣を主に扱うアリサの持つ<剣士>のスキルは四つである。


 対象に一時行動不能効果をもたらす【スタンバッシュ】

 一撃で二撃分の加護値を削る【連撃】

 一時的に剣の質を上げて重い一撃を与える【強撃】

 勇気の持つスキルと同じ【ウェポンバウンド】


 アリサのスキルは三つが攻撃系と勇気とは逆に攻撃寄りになっている。この中でも特に扱うモノは、確実性があり加護値を最も大きく削る事の出来る【連撃】だった。似たスキルで【強撃】があるが、こちらは通常の斬撃に比べれば加護値を削る効果は高いのだが、【連撃】程に加護値を削る効果は高くない。使い道としては、斬撃の当たり方によって相手を仰け反らせる特殊な力が働くので、間合い外しが主になっていた。


 一方、勇気の<銃士>については以前から変わりなく「レベル0」のままである。こちらは、どうしても上がらないので勇気も考えから外してあった。


 勇気は、ウィンドウを閉じると疲労回復薬を取り出して、中身を少量喉へと通す。飲むだけで疲労感が抜ける不思議な感覚も、そろそろコレが当たり前と感じるようになってきている。しかし、これが無ければ万全を期せないまま戦いに挑む事になる。これが当然でなければおぞましい結果に成りかねないので、ただただ元の世界とは異質の現象を受け入れ感謝するだけだった。


 二人は暫く魔物に出会う事もなく、二桁以上にも及ぶ行き止まりへと着いてしまう。地図で見ても道が途切れているため紛れも無く、ここ以上に繋がる道はない。 しかしながら、今までと雰囲気が違った。いつもなら道もしくは小部屋染みた空間なのだが、今回は些か空間が大きい。さらに中央には、迷宮に来る度に顔を合わせなければならない象徴が在った。


「女神像……?」


 アリサが呟く。その言葉通り、辿り着いた空間の中央には台座に立つ女神像の姿が在った。だが、いつも目に映す大広間の女神像よりも、その姿がくすんで汚れが目立ち、神々しさが欠けていた。

 慣れ親しんだ女神像は在るのだが、迷宮内のいつもとは違う光景に二人の意識が強張る。そして二人は、魔物の気配が感じられないと互いに確かめ合った後、その警戒を解いて部屋の中央の象徴へと近付いて行った。


 先ず勇気が、ウィンドウを開きステータスを表示させてから大広間の女神像に対して、いつも行うようにレベルが上がっていないかと心の中で訪ねる。しかし、ステータスに変化はなかった。まだ魔物との戦闘経験が足りないのか、はたまた此処の女神像に、レベルを上げる力を有してないのか判断は出来ない。


「文字があるわ」


 台座に視線を落としているアリサが指で示しながら言う。

 大広間の女神像の台座には、刻まれた文字などなかったので大きな違いとも取れる。

 勇気もすぐにウィンドウを閉じてアリサが示す方を向いた。


「……読めない」


 だが、その文字を勇気は理解できない。しかも、アリサの示している文字だろうモノは、副師団長に目を弄られる以前に見ていた文字に類似しているように感じていた。


「えーっと、これ古い文字ね。私は一応読めるとは思うけど――」


 アリサが顎に手を当てながら言う。その言葉に勇気は、何故自分には読めなかったのかを憶測ながらも納得していた。おそらく副師団長に自分が弄られたものは、この世界の古い文字に適用しないのだと。


「魔物の気配もしないし……大丈夫ね。ちょっと待ってよ」


 アリサは周囲を今一度確認してから、台座に書かれている古い文字に指を這わせる。


「うーんと……捧げよ……じゃなくて……魂を捧げるは五つ……其は怒り狂う獣の命の……血を捧げよ……乙女の接吻にて扉は開かれん。少し読み飛ばした文字もあるけど、たぶん、こんな感じかな」


 文字を読み終え、顔を上げたアリサの表情は苦笑い気味に何とも言えないと云った様子だった。対して、聞いていた勇気も同じような面もちで居る。それもアリサが訳したものが、呪文のような暗号のような言葉故、どう解釈してしまえばいいか分からないからだった。


「十一層に行く為の条件かな?」


 勇気が捻り上げて出した答えがコレである。

 正直な所、真剣に出した答えじゃない。それもこの文が元いた世界の“ゲーム”のようだと思って言ったからだ。


 何処か古臭い文章に言葉の意味は分かっても、その文は何を目的としているか知る由もなし。加えて迷宮を迷いに迷った果てに辿り着いた何かしら鍵を握るオブジェクトとシチュエーション。酷似したものは、シミュレーションの世界で幾つも見たものに近しいと感じていた。


 勇気は半分冗談の言葉で言ったつもりだったのだが、隣で聞いていたアリサは実に真面目な顔で受けていた。


「もしくは、隠し部屋でもあるのかも。迷宮に財宝は付き物だから。ついでに罠も考えられるけど」


 そして、こんな事をアリサは言う。勇気の言った事も一理あると加えて。

 勇気は自分とは打って変わって真剣に受け取ったアリサに申し訳ないと感じて、台座の文章について真剣に考え始めた。


「……怒り狂う獣ってのは、あの五層から出てきた梟熊かな。倒したらそれっぽいのも出てきてる上に、アイギスさんに言っても高く買い取れないって言ってたから怪しい」


 勇気が言いながらウィンドウを開いて、あるアイテムを取りだした。手の平に収まる赤い皺の寄った球状の物体でアイテム名は“熊梟の赤魂”である。特に使い道なんて分からなく、アイギスに尋ねても「売るなら買い取るけど」ぐらいの言葉しか貰えなかったものである。結局、その時は安値なら取っておいて使える時になるまでウィンドウに眠らせて置こうという話になった。

 アリサは勇気の手の平にある赤い球を見ながら唸る。


「これなら面倒ね。アイツ今日までに8体しか出て来ないぐらい出現率悪いし、絶対にそれ落とす訳でもないみたいだし、何より手強いもの」


 現在“熊梟の赤魂”は、二人とも一つずつ所持している。アイテムの取得率に関しては然程悪い訳ではないのだが、アリサが言ったように熊梟の出現率自体が悪い。一日に2体会う事もあれば、3日潜っても会わない事も在ったぐらいである。


「でも下の層程落とすんじゃないかな。コレが初めて手に入ったのは九層だしさ。試行回数少ないから断定は出来ないけど傾向的にはそうだと感じるし」


「ん? んー、とにかくユウキがそう言うならそうなのかな。何にせよ、戦って手に入れないと駄目そうね。ここを放っておくのも気持ち悪いし、未だ行ってない道を探索しながら梟熊も探しましょう」


「それがよさそうだ」


 ひとまずは、この“女神像の部屋”を出る事にした。これから魔物に用があるのに、魔物の気配が軽薄な此処で、その願いが叶う事もないし、何より女神像の側で戦闘を行うのに退き目を感じるからである。


 二人の戦闘の準備は万全。どんな相手だろうと戦って見せると意気込めるぐらいだ。


「でも、残りの乙女の接吻って何か必要なのかしら」


 不意にアリサが一人事のように疑問の声を上げる。さっきは触れなかった、台座にあった文面の一つであった。

 勇気の目が一瞬、アリサの口元へ――


「ん? 何よ」


「いや、なんでもない」


 アリサに不思議そうな視線を送られ、勇気はすぐに目を逸らした。

 戦う場で浮ついた考えは、死に繋がると頭を振るって考えを飛ばし、魔物と戦うために気合いを入れ直す勇気だった。





 刃を水平に突き立てる。残るは怒り狂う梟顔の熊が一つ。その首に赤い剣が着き穿った。断末魔を上げて、魔物だったものは力なく崩れて逝く。

 周囲に目をやれば二つの魔物だった別の死骸が転げ落ちていた。


「五つ目ね」


「やっぱり時間掛かったな」


 十層小部屋の女神像を見付けてから3日経っていた。基本的に梟熊以外の戦闘は、避けられるのなら避け、やっとの思いで五つ目の“熊梟の赤魂”を手に入れる。

 いつもは、戦闘の時間が多いぐらいだが、今度ばかりは特定の魔物を探す目的だけに戦闘と探索の時間が半々ぐらいになっていた。


「とりあえず女神像の部屋に行く?」


「そうしようか。でも未だセトさんの薬の余裕はあるか?」


「私は大丈夫よ。いざとなれば万能薬使えばいいからね。でも出来れば高いから使いたくないけど……」


 疲労回復薬、加護回復薬も十分にまだ残っている。切り札として両方を瞬時に全快出来る効果を持つ薬の“万能薬”も互いに一人分ずつ所持している。


 互いに薬の確認を済ますと二人は、疲労回復薬を飲んでから目的の“女神像の部屋”を真っ直ぐに目指した。

 この道中も、戦闘は避けた。女神像の台座の謎が解けて、先に行く道を見つけたとしても先に進む予定であったからである。目的はあくまで十一層に辿り着く事。女神像の謎は、あくまで通過点に過ぎない。それどころか、余計な横道なのかもしれないのである。故に探索する余力は残すに越した事はない。


 そして、勇気達は戦闘を全くせずに“女神像の部屋”まで辿り着く事が出来た。すぐに二人は女神像の側まで寄る。


 勇気は以前と同じように、台座の文字は読めずに居た。しかし、それも関係ない。文面はアリサの解読で覚えている。その不思議な文面の謎を解決する物も持ってきている。全く問題ない筈であると。


「うーん、とりあえず女神様の前にアレを並べればいいのかな」


 アリサが女神像を見上げながら唸り声を上げる。


「とりあえず、そうしようか」


 お互いに持ち合わせているだけの“熊梟の赤魂”を女神像の前に並べる。別段、決められた置き場など用意されていない。今は、試すという気概が重要である。

 並べ切ると、二人は並べられたものをジッと見つめる。しかし、何も起きやしない。物音一つ立つ事はなかった。


「捧げるモノが違うのかしら」


「でも、コレ以外に該当するものは考えられないぞ」


「うーん、じゃあ置き方とか?」


 アリサは屈んで横一線に並べられた赤い球の一つを人差し指でつっつく。ころりと少し動いただけで何らおかしな現象が起きる訳でもない。


「じゃあ、アレかしら。乙女の接吻っての。何も用意してないじゃない」


「……そうだな」


【魂を捧げるは五つ。其は怒り狂う獣の命の血を捧げよ。乙女の接吻にて扉は開かれん】


 アリサが解読した台座の文字。前半部分は“熊梟の赤魂”で問題はないかもしれない。しかし、最後の「扉を開く」為には“乙女の接吻”というモノが必要不可欠とも読み取れる。そうなのだが、該当しそうなモノを持ち合わせていないのだ。


 初めは“熊梟の赤魂”と同じように何か魔物から手に入れるべきものだと推察はすれども、生憎近い道具は手に入らずの上に、それに該当しそうな魔物も出会っていない。そもそも梟熊も出現率が他に比べば悪い部類に当たる。それを考慮すれば、この乙女の接吻に関わる魔物も出会い難いという考えもあった。


「…………」


 勇気がチラリと真剣で女神像と睨みあいしているアリサを見る。

 “乙女の接吻”として別に考えられるなら彼女の存在である。言葉の通りのままで該当しそうなのは女性な彼女だけ。しかし、それなら此処に辿り着くザイエンデは女性でなくてはならない。男性だけなら、何時まで経っても扉を開く事なんて出来やしない。そんな不平等があって良いのだろうかと。しかし、ここで勇気が考える合理なんて通用しないのが当然である。それは勇気も分かっている。


 それならば試すしかない。何事も挑戦である。でも、どう切り出す? そもそも、彼女に何を頼めばいいのか。


「……アリサ」


「ごめん、ちょっと待って」


 勇気のアリサを呼ぶ声は、アリサの制止の声と急に立ち上がった事で止められた。

 アリサが自分よりも背の高い女神像の顔に自身の顔も近付けて行く。


「アリサ……?」


 そして、彼女の人差し指が女神像の唇に軽く触れた。


――カチッ。


 空間に聞き慣れない音が響く。勇気もアリサもその音に反応するように剣を握り締めていた。


「魔法陣……っ!?」


 アリサが地面を見て叫ぶ。勇気も同じように、部屋の起きた突然の変化に気付いていた。それどころか、部屋に居さえすれば誰もが気付く変化であった。

 地を見れば幾何学模様が刻まれている。女神像を中心に、部屋一帯を占めるように赤白く模様が光輝いている。


「アリサ! 帰還――」


 勇気が全てを言うまでに、目を眩ませる程の激しい閃光が部屋を包み込んだ。


「……違う部屋? ……転移?」


 二人が眩む目を開けた時、その視界に広がったのは知らない広間であった。

 目前にあった筈の女神像はいない。先程までの部屋よりも広く、天井も高い。目につくとすれば所々にある広間を支える支柱――。


「ユウキ、後ろ!」


 アリサの大声で勇気が振り返り、そして真横に跳んだ。


 風が凪ぐ。地が鳴る。死の一撃が降り注ぐ。

 自分達が居た場所に通った敵対心が、否応が無しに身体を震わせた。


 魔物。それも、大型であった熊梟よりも大きな魔物が其処に居た。下の半身に馬、上の半身に牛の型を持った大型の魔物が小さな二人を捉えている。


 ――マズイ。


 勇気が直感的に感じる一言。大型の魔物が持つに相応しい巨大な斧槍からも、それを直感的に感じさせてくれている。


「Lv19……少なくとも私達よりは上ね」


 アリサが一つの水晶を砕いて言う。


「あの時の奴よりは低いな」


 事実をただ述べた。

 あの時と何処か状況が似ている。魔物から感じる威圧感はあの時に似ている。強敵だと肌で感じる。


 だが、あの時頼れた白馬もいなければ師団の人達も近くにいない。

 それでも、あの時とは違い今は戦う為の力を。覚悟を背負っている。あの時と全て酷似している訳ではない。



'''―――グォオオア゛アアアアアアアアアアッッッ―――'''



 高い咆哮が壁、柱を打ち鳴らし重い反響となって部屋一帯を鳴らし震わせ、紅い双眼が小さな二人を見下ろしていた。


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