16.生き方
王国に訪れて13日目。
勇気達が三層の攻略を始めてからは6日経過した。ただし、三層攻略はアリサが居る時だけの一日置きに行っている。
アリサと一緒に潜らない日の勇気は、もっぱら一人で一層の地図埋めを行っていた。それも2日前で終わり、今日は一人で二層を潜る事にしている。一人で二層に潜るのは、初めて二層に到着して以来だった。
蜘蛛の魔物ならば一撃で葬れるから二層も問題ない。防具も以前に行った時より、二倍の数値を叩きだしているので耐久的にも安心が持てる。ただ蜘蛛とコボルトとの組み合わせだけはリズムを狂わされる危険性があるので、注意力を増やして慎重に戦う必要があるという事だけだ。
迷宮通りを歩き、ラグナロクの迷宮へと向かう。
早朝なので人は多くない。賑わうのは太陽が真上に上がり切る前だと云う。
後はいつも通り門番の人に挨拶して、中に入って気を引き締めながら探索するだけだと考えながら歩いていた。
迷宮入り口近くの師団駐屯所が見えて来た所で、地を踏みしめる足が鈍る。
勇気は、いつも通りだと思っていたが、いつもと違う点があった。
門番が立ち構えていない。
しかし、居るには居る。ただし入口の側で椅子に座っているだけで、たった一人しか居なかった。遠くから見ている分に、門番にしては随分と威勢というか態度がいいと言うしかない。
勇気は、やや緊張しながらも迷宮の方へと足を進める。
予定を変えるという選択肢は無い。そもそもあそこに居るのは門番で、ザイエンデである自分が迷宮に入るのは何も問題ない、と言い聞かせながら足を進めた。
迷宮へ近付く。視線を感じる。ただ一人の視線がコチラを向いていると。それでも平静を取り繕いながら、真っすぐに向かう。
さらに迷宮の入り口へ近付く。
目の端に映る人の特徴が見えてきた。鍔の広い大きな帽子を深く被っているせいで、顔がよく見えない。それでも視線は感じている。
体格は比較的小柄だろうか。座っているせいでよく分からないが、大きくはないと思った。
迷宮の入り口は目と鼻の先。後は門番の横を通り過ぎれば――
「小僧、貴様がユウキか」
いつも通りに、とは行かなかった。
入り口前、丁度門番と勇気が横のラインに並んだ所で、名を問われて足を止めるしかなかった。
「……はい。そうですが」
勇気は素直に答えて、迷宮の入り口から質問者の方へと向き直した。
目の端ではなく正面になったので、どんな人物であるかがハッキリと勇気の目に映ってくる。
質問者は椅子に肩肘をつき、片目が隠れるぐらいに深く被った帽子の奥から鋭い目線を勇気へと送っていた。そんな威圧的な目に、勇気の身が僅かに退ける。
そして何よりも勇気が驚いたのは、力で制するような空気を晒し出すような質問者が自分よりも小柄な女性だという事だった。
アリサより小さいか同じぐらいの体格しかなく、歳は見た目だけではどうも判断できない。アリサと同じぐらいだと言われるなら、そう見える。もっと年上だと言われるなら、雰囲気のせいで年上にも見えた。
「私の名はセイレーン。ここ最近、第四師団に入隊した小僧が毎日のように迷宮に潜ると噂されてな。どんな小僧か確認しにきた」
「7日に一度休むようにしていますが……」
勇気の考えるローテーション6日迷宮探索、1日休み。一度目のローテーションでは、アリサとゼクスに休むように言われて、5日迷宮1日休みだったが、二度目のローテーションの今回はキッチリと考え通りに6日迷宮通り、1日休みにしようとしている。そして今日が探索6日目で、明日に休みを入れる予定だった。
「それでもお前が潜り始めてからは一日しか休んでおるまい」
勇気は目の前のセイレーンと名乗る女性の言葉に、その通りだと頷くしかなかった。
「知っているか。多くのザイエンデの迷宮に潜る日程は、4日に一度だと言う事。お前のように毎日潜る者は師団長クラスか本隊の上級隊員クラスの者しか居ないという事を」
勇気は、首を横に振る。そんな話は誰からも聞かされてないと。
セイレーンは勇気を更に強く睨みつけてから言葉を続けた。
「迷宮はいつどこで魔物に襲われるか分からない。いや、常に狙われている。死と隣合わせなのだ。それを貴様は半日近く潜ると言うではないか。それ程に貴様の精神力は強靭とも言えよう。だがそれは同時に狂っていると言っても過言ではない。それも、そんな奴の正体が戦い始めたばかりの小僧と聞いている」
セイレーンの口調は強く、強くなって行く。
「何故それほど生き急ぐ。貴様はまだ若い。成長するだけならじっくりと計画を練っても構わないのではないか。それとも、そんな事は関係無しに野生の如く強さをひたすらに求める者か。はたまた死と隣合わせの状況に快感を抱く者か」
「自分は……」
強くなるという実感は少なからず快感ではあった。命懸けで戦っているのに快感と思うのはオカシイのだろうか。分からない。
とにかく強くなれば、自分の生き方に自信が付いた。自分の中の常識を外れた魔物という生き物と戦う器量が付いた。ここは『過去の現実』にあった常識が通じない。
強くなれば目的に一歩近づける気がした。帰る。自分の家に。自分の世界に。
今はそれでいいと、未熟な今はそれで。必死に戦う。自分の出来る事をする。
コレが此処の世界における生き方。ザイエンデと成った今、自分は魔物を倒さなければ。
生きる為に力を。
守る為に力を。
あの≪悪魔≫と出会った惨劇を繰り返さない為に。
そして帰る為に力を。
「……貴様は――」
「セ、セイレーン師団長。何故このような場所で門番のような事を」
セイレーンの言葉がガウェインの言葉に寄って遮られる。
ガウェインが隣にパーシバルを連れてやって来ていた。ガウェインは声は驚きと困惑を含んだものだ。もう一方のパーシバルは声こそ上げないものもセイレーンを見て目を見開いていた。
セイレーンはガウェイン達を横目でチラリとだけ見て、視線を勇気に戻す。
鷹の眼の如く鋭い眼で観る。そして、何を言うまでもなく椅子から立ち上がり、迷宮の入り口から遠ざかって行った。
「この小僧と話したくてな。お前たちの交代前の師団員に無理言って一人にしてもらっただけだ。交代前の師団員を咎める事はするなよ」
「ハッ。そのような事は決して」
セイレーンはガウェイン達二人の横を通りがかる際に一つ言い残すと、話は終いと去って行った。
「今の方は師団長の方でしたか」
勇気が交代の為に迷宮入口までやってきたガウェイン達に尋ねる。勇気の目は、小さくも威厳のある背中を見ていた。
「おいおい、セイレーン師団長も知らんのか。あの方は第七師団の長だぞ。齢18にして本隊の師団長に昇りつめた女傑だ。その若さで本隊の師団長に抜擢されて、現第一師団長や第二師団長と並ぶくらいの才能と言われている。今でも22と若いが、それでも風格が熟年の戦士と言われてもおかしくないぐらいだ」
「……詳しいんですね」
急に熱心に説明し出したガウェインに、勇気は少々戸惑っていた。
いつも何処か暑苦しい彼だが一層と熱く目を輝かして喋っている。そんな彼を隣でうんざりとした目で見ながらパーシバルが言葉を付け足した。
「そりゃそうだ。コイツ、セイレーン師団長の愛好会に入るぐらいだし」
「そんなものもあるんですか……」
「当然非公式のモノだけどな。それと俺はコイツと違って入ってない」
パーシバルに続き、勇気のガウェインに対する疑いの眼差しが若干強くなってしまう。
そんな気も知らないガウェインは、いつも以上に気合いを入れて門番という威厳を知らしめるかのように堂々と立ち構えていた。
「俺にはどうしても理解できん。たしかに顔はいいし年齢よりも若々しいと思うが、暗いし、何考えてるか分からん部分があるし、女性の魅力として足りない部分があるし」
パーシバルの最後の言葉は、アリサよりも無いあの部分だと誰もが見れば気づく。
アリサぐらいに小柄で、美人で綺麗な女性。幼いと言われればそう見えるし、大人っぽいと言われればそう見える。芯も強そうな彼女は、人によって凄く魅力的に映るに違いない。
ハッ、となる勇気。思わずガウェインとパーシバルの変な空気に呑み込まれてしまっている。すぐに失礼過ぎる考え事を全て投げ捨てた。
「おいおい、パーシバル。あの方の魅力に気付かないお前は本当に残念だよ。兵士としても男としても非常に残念だ」
「いや、結構汚いものを見る目でお前を見てるんだが。歳の差考えろ」
「なんだとっ!」
何やら口喧嘩を始める二人。
「あの、自分行かせて貰いますね……」
口論となり始めた話題が話題なので勇気はスルーして迷宮へと入って行った。心の中では、あんな事から大事の至る喧嘩にならない事を祈って。
一層のコボルトに手古摺る事はなく二層に辿り着いた。
息が荒い。走り抜けてきたせいだろうとハーブを口に含んで疲労を回復させる。
地図を見ながら埋まっていない場所に向けて足を進める。
――野生の如く強さをひたすらに求める者か。
蜘蛛の魔物二体とコボルト一体が現れた。
この組合せなら大丈夫だ。蜘蛛をなるべく先に片づけてコボルトを狙えば問題ない。
――死と隣合わせの状況に快感を抱く者か。
蜘蛛の魔物二体が現れる。二つ払えば難なく倒せる敵だ。
違う――いや、そうだ。強さは快感と少なからず思っていたではないか。
蜘蛛の魔物三体とコボルト三体。
自分は守りたい。ただ帰りたい。その為に強さを。力を。
「ぐっ……」
二体のコボルトを相手にしていると、背中から蜘蛛に飛びかかられて転げた。
コボルトの唸り声と同時に二つの曲剣が襲ってくる。
「クソッ……!」
吐き捨てる声と同時に、地についたままの体で腕を支点に、思い切り足を払ってコボルトを転がした。
キチキチと嫌な音が耳に入る。蜘蛛型の魔物が勇気の顔目掛けて跳んで来ていた。
「……ッ!」
態勢を崩した状態のまま剣を突き出す。
剣は跳びかかって来た蜘蛛を貫通して、その体液が剣を這う。顔に掛かるソレに背筋が僅かに震えあがるも、切り替えて身体を一気に起こした。
剣を大きく振るって刺さっている蜘蛛を払い退け、眼前の敵を睨みつける。
二撃受けてしまった。だが目の端に捉えている加護値が表示されたウィンドウが余裕はまだまだあると告げている。
転がされ続け、嬲られなくて済んで良かったと思うしかない。
倒さないと――。
勇気は前へ駆けた。未だ力任せに振るう剣。しかし、それで十分。コボルトなら自分同様に剣術のような技術はない。
コボルトの曲剣を弾き、二連撃で仕留める。
二撃目は必ず頭、首、胸。防御も未熟な相手を絶命させるにはコレが一番効率が高い。
ギャウ、というコボルトの断末魔を気に掛ける事はなく、背後から飛びかかってきていた蜘蛛を横一閃で払う。二度同じ手を食らう馬鹿な真似はしないと反抗していた。
後は早い。数が減ればあっと言う間に決着がついた。転がる魔物の死骸が六つ。バラケテしまった物も数えるならもっとだ。
コレも時間が経てば消滅する。
勇気は剣を持った自分の手を見る。魔物の返り血が付着した手。これも死骸同様に時間が経てば気化して消えてしまうものだ。
「帰ろう……」
魔物の死骸を避け、失った加護値をハーブで回復させながら、一層に続く道へ歩んだ。
勇気が迷宮を出た時、ガウェインに「もう帰るのか?」と尋ねた。勇気が一人で潜る時は、早朝から陽が落ちる寸前まで迷宮の中に居る。しかし、今は昼にすらなっていない。そんないつもと違う状況を見て不思議と思わない方がおかしいだろう。
勇気は、ガウェインの返答に「調子が優れないので」と素直に答えた。ガウェインもパーシバルも、その言葉を聞くと中に入れば命懸けの戦いを行う事を十分に理解しているため「無理しなくて正解だ」と言う。調子が悪く、剣が振れなくて死にました、ではただの阿呆なのだ。
勇気は笑顔で見送ってくれる二人に深く一礼してから、自分の宿舎を目指した。
扉の前で一呼吸置いて、ガチャリと扉を開けた。
視線が一つ。テーブルに何かの書類のようなモノを並べ楽な恰好で寛いでいる赤髪の男がコチラを捉えていた。他にもう一人、いつもの窓辺で本を読む姿もあるが、干渉して来る事が少ないので今は放っておく。
「もう帰って来たのか」
「はい、どうも調子が出ないので。無理に潜れば例え楽だと感じている二層でも危ないと思って」
「いい判断だ」
勇気は、くつくつと笑うゼクスの前の席へと座る。そして、質問した。自分の頭に突っかかっているモノを解消する為に。
「ゼクスさん。ザイエンデの人達は四日に一度しか迷宮に入らないんですか?」
「あ? 何だ、急に」
「いえ、今日の早朝にセイレーンと名乗った師団長の方からそんな話を聞いたんで」
「あの生真面目君、ウチの若いのに手出しやがったのか」
第七師団、師団長セイレーン。王国で力があるとされる本隊の師団長の一人。
勇気の印象は、とても堅い人。同じ本隊の師団長という立場のゼクスも生真面目と言っているので、どうやら昔からあのような性格なのだろうと分かる。
勇気に云わせてみれば彼女はゼクスではなく、副師団長寄りの人だ。それでも副師団長の方が一風変わっていると感じるのは仮面のせいだろうか。
ゼクスは、どうしようかと唸りながら、目の前の書類をウィンドウを開き収納していた。テーブル上が綺麗になった所で腕を組み、目前の少年を二つの瞳で見据える。
「まぁ、ユウキは勤勉だけど世界の仕組みってか常識が未だあやふやみたいだしな。どうする? さっきの話詳しく聞きたいか?」
「お願いします」
即答する。聞かないと駄目だと、迷わなかった。
「まず師団でもないそこらのザイエンデは、例外も存在しちゃいるが大体15前後の歳になって迷宮に潜り始める。つまりユウキぐらいの歳だ。しかも初めの数日分は先輩お伴をつける。前に言ったように一層である程度慣れないと多くが死んじまうからな」
「という事は自分の場合、その先輩お伴はアリサという事なんでしょうか。でも、もしアリサがついて来ていなかったらゼクスさんが代わりを……?」
「いや、多分一人で潜らせていただろうな。それに普通は嬢ちゃんレベルは先輩お伴と言わない」
「え……」
これには意外の答えが返ってきたと焦る勇気。それもゼクスの言葉を考えれば、一人で死なせに行かせるような判断を降す可能性もあった、と言っているように聞こえたからだ。
「ユウキなら例え一人でも問題ないさ。ほら、次の日に一人で潜ってるのが良い証拠だ。現に今は生き残ってる。俺の人の見る目も捨てたもんじゃないってことさ」
「…………」
何も答えようが無かった。
信頼されている。多分褒められているという事も分かる。そこまで分かっていても、勇気にはどう答えていいか何故か分からなかった。
ゼクスは言葉を詰まらせる勇気を少し眺めてから、片方の口端を小さく釣り上げて続きを話し始める。
「さっきの普通のザイエンデの話しの続きに戻すが、迷宮探索に慣れてきたら後はお前達みたいに先輩お伴はつけずに独自で行っていく。ここは問題ないな」
「はい」
「それで、お前達と普通のザイエンデが違う部分は、まず人数。少なくとも4人一組で攻略だ。でもユウキと嬢ちゃんは2人でも何とかなってる。武器のお陰ってのもあるが、とりあえず人数については置いておこう」
ゼクスは言葉を切ると、一度台所に行く。そして、コップ二つとお酒とお茶が入った瓶を持ってテーブルへと戻ってきた。その片方のコップに酒、もう片方のコップにお茶をついで勇気に渡して、話を再開する。
「次に迷宮に潜る日数。若いザイエンデが迷宮に潜るのは6日に一度だ。10層を超えるまでは、この日程がほとんど。残りの5日は何をやるかって言うと、訓練なり身体休めるなり趣味に没頭するなり色々やるのが普通のザイエンデだ」
コレを聞いて勇気は身体を強張らせる。自分が如何に異常な事をしていたかと知ったからだ。
勇気が迷宮に潜る日程は7日の内の6日も入っている。普通のザイエンデとは、ほとんど逆の日程と言っていい。
戦いに明け暮れる狂戦士だ。セイレーンがどうして、ああまで言っていたのか改めて実感する。
「セイレーンが行った4日に一度は、もう少し上に行ってからのザイエンデだな。それぐらいの日程で潜っていれば十分にいい生活が出来る。そこらのアイテムや水晶の欠片売っていれば食える分の金になるし、もし完成された水晶なり、魔法具なり拾って売ってれば大金になるからな。これだけ迷宮に潜ってりゃ、もうそこらの金の動きは何となく理解できてるだろ」
「はい。アイギスさんのお世話になっていますので」
水晶が手に入れば、余裕で数日分食べるだけのお金が手に入るのは分かっている。未だ上層にも関らずコレ。さらに下へと進めば、さらに力のある道具が手に入る事は本を見て知っている。その分だけお金も稼げるという事だ。
この世界に来て日の浅い勇気でも、大まかになら金銭事情も理解していた。
「それで師団の方はというと。師団は師団で別途仕事があるから、迷宮潜り続けるという訳にもいかんし難しい所だ。でも戦いの勘を鈍らせない為にも10日に一度、師団員だけが好きに使えるように迷宮の解放してるんだけどさ」
そういえば、と勇気は思いだす。迷宮に行った初日にもガウェインが、そのような事を言っていたと。
パタン。本が閉じる音が響いた。副師団長が本を閉じて本棚へと本をしまう。
ゼクスはそんな副師団長に「自由な奴だ」と笑って呟くと、喋らずにいた男から言葉が返って来た。
「そもそも好きで毎日潜ろうとするのは、お前程度だろう」
「副師団長さんも上から言われりゃ潜るだろ?」
「私は好きで潜る訳ではない」
ピシャリと副師団長は言い切ると、新たに手に取った本を持ち、窓辺でまた読書に入る。
そんな副師団長にゼクスは空笑いで応えていた。
「とまぁ、こんな感じだ。迷宮に潜る日数に俺からは余りとやかく言うつもりはない。休みたければ休めばいいし、潜りたければ潜ればいい。それと一応師団員なんだから自分が十分に食えるだけの金を迷宮で稼いでいりゃ問題ねぇさ。そうすりゃ身体も鈍っていない証拠にもなるから、誰も文句は言わない」
ゼクスが目の前のコップの酒を口元に持っていき、くいっ、と傾けて一気に空にする。
「とにかく無茶だけはしない事だ。ザイエンデだろうと油断すりゃ当然命を落とす。まぁ、ユウキの慎重さなら俺は大して心配はしてねぇが」
「ええ。自身の命はかわいいものなので」
「言うじゃねぇか」
盛大に笑って、空になったコップに酒を注ぎ足すゼクス。勇気も目の前のお茶を口元に運んでゆっくりと喉を潤した。
ゼクスは「説明は以上」と区切りをつける。勇気は礼の言葉をゼクスへ返した。
その後は、宿舎に居ないアリサの話になる。アリサは、どうやら本日の食材を商業区まで買いに行ったようだ。ゼクスも今日は城に行かなくていい、との事で仕事は宿舎で済ませ、アリサの昼食を楽しむ事にしたそうだ。
「あれ、今日は早いわね」
暫くして、アリサが買い物袋を両手に抱き抱えて帰って来た。
アリサは勇気に一つ声を掛けると、真っすぐ台所の方へと向かって行く。
「昼食作るの手伝おうか?」
勇気が厨房で料理という大事な作業を始めようとしているアリサに尋ねる。
当初の予定と変わってしまい、暇を持て余しているのも何だかなと思っていた。
「いい。どうせ短い時間でも迷宮に行ってたんでしょう。それなら休んでて。それにアナタと師団長は料理に関してあんまり手際よくないし。副師団長は、そもそも私の料理食べないし」
「嬢ちゃんはいつもきつい一言あるねぇ」
だが、本当にアリサの言う通りである。料理は出来ないと自覚している勇気とゼクスは、アリサの言葉に従って邪魔をせずに傍観するしかなかった。
予定よりも、少し早い休日。
勇気は、どの料理にしようかとレシピを一生懸命に悩んでいるアリサを見ながら深く息を吐いていた。




