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V.R.  作者: 橋伸弘
第2章 深淵の序曲
13/31

13.ラグナロクの迷宮(Ⅲ)

 勇気達が王国に訪れて四日目。

 宿舎では、いつもの三人の食事風景が映されている。

 副師団長は城に行くとだけ言って、皆が起き上がった頃にはに出かけて行た。


 本日の料理人も当然アリサ。料理器具が揃っていたお陰で、器具に対する不満を上げる事はない。ただ今度はゼクスと勇気に料理自体の評価を気にする事になっていた。

 二人のアリサに対する評価はコレである。


「腹に入れば問題ねぇが、嬢ちゃんの料理は美味いぞ」


「オレは料理作れないし、舌も鋭敏じゃないから難しい評価はなんとも……でも、美味しいから安心してる」


 好評なのだが、アリサは何処か納得していない。


「師団長、何食べても美味しいって言うでしょ?」


「そりゃ、調理して腹に入るんなら大抵は美味い。逆に魔物の肉は食えたもんじゃないから不味い」


 ハッハッ、と料理を堪能しながら笑うゼクスだった。



 食事を終えると、ゼクスが今日の予定を二人に聞く。


「自分は、迷宮に入ろうかと」


 勇気が言う。ゼクスは聞くと「そうか」の一言で終わった。


「じゃあ、私も行くわ。お金手に入れるなら魔物とは戦わないとだめだし、本隊なら強くならないと間抜け扱いされちゃうもの」


 アリサが「いいでしょ?」と勇気に訊く。

 勇気は嫌と言わずに素直に了承した。そもそも勇気が拒否できる立場ではない。戦いの実力で言えばアリサの方が断然に上という事を二日前の迷宮探索の時点で理解している。それに了承しないならしないで、彼女の事だから勝手について来るだろうと思っていた。

 ゼクスは二人のそんな会話を聞いて、アリサの手に一つの小さな巻物を握らせる。


「それじゃあ、コレは嬢ちゃんの分の迷宮地図だ。≪地図≫開いてウィンドウを相手の開いた≪地図≫のウィンドウの上に重ねてやれば、行ってない部分の地図が更新される。上書きじゃなくて更新だから、自分で地図を埋めないと気が済まないっていう考えを持ってねぇなら、互いに地図を重ね合わせりゃいい」


 昨日勇気が受け取った物と同じものだった。

 アリサは受け取ると登録はせずに、ひとまず収納だけして手元から巻物を消す。


 勇気とアリサの行き先は≪ラグナロクの迷宮≫。では残るゼクスは、というとゼクスも副師団長と同じく今日は城に行くと言う。何でも動けないなら動けないなりに、雑用の片づけをしないといけないと、ぼやいていた。


 宿舎を出てからは、すぐに勇気達とゼクスは行き先が逆のため別れる。ゼクスは最後に気を付けろと忠告していった。



 ラグナロクの迷宮前に勇気達が着くと、他のザイエンデらしき数人の人達が中に入っていくのが見える。迷宮に行くのだから、ネームロスではないだろう。


 門番としては数人の師団員の人が構えていたが、勇気達の知る人物ではなかった。入る際に師団員にザイエンデかどうかを確認され、流れ者か、ギルドに所属するものかを確認される。


「自分達は師団のものです」


 勇気が言うと一人の門番が、ふむ、と唸って勇気達を見る。


「第何師団のものだ?」


「第四師団です」


 勇気が答えると、受け答えしていた師団員並びに周囲の師団員まで一瞬表情が凍りつく。

 この反応は≪グラズヘイム総合買取店本部≫の案内人と全く同じ反応だった。やはり、若い自分達が本隊に所属しているのが珍しいのか、おかしいんだろうな、と勇気は師団員を眺めて思う。


「ガウェインが言っていたのはお前たちの事か。まあ、せいぜい頑張れ。師団長に恥かかすんじゃないぞ」


「そのつもりです」


 門番の師団員の言葉に嫌みは感じられない。純粋に二人を応援しているようだった。

 勇気とアリサは門番達に一礼してから、ラグナロクの迷宮へと入って行く。

 一直線の道を通り大広間へ。ポツンと女神像があるだけで、先に来ていたハズのザイエンデの姿は見当たらなかった。


「アリサ、地図はどうする? オレは昨日二層まで行ったけど」


「……アナタ、もしかして昨日は朝から夕方までココに居たの?」


「そうだけど……」


 呆れた顔をするアリサと何ともいえない勇気。

 もし勇気が昼飯も食べずに戦いに明け暮れていた、とでも言えばもっと呆れられていただろう。


 アリサは溜息を吐いた後、≪地図≫を開いて新たにラグナロクの迷宮の地図を登録した。

 勇気も≪地図≫を開く。そして、アリサの地図のウィンドウに勇気の地図のウィンドウを重ねた。すると中央に新しいウィンドウが現れる。『地図を全て更新する』と『階層を指定して更新する』の二つの選択肢が載ったものだった。アリサは迷わず地図を全て更新するに触れて、作業を完了させる。


「それじゃあ二層に真っすぐ行きましょうか。私のレベルだと一層で魔物倒し続けてもレベル上がなそうだしね」


「分かった。行こう」


 二人は地図である程度先に方向を確認してから、二層に続く最短ルートを目指した。



 二層に到着する。一層のコボルト相手は二人ならば何の問題もなかった。問題がないのは、魔物が多くても5匹にしか同時に出現しない、という理由がある。コレが10匹も20匹も出てくれば苦い思いをするだろう。ダメージ的な意味でも、ハーブ的な意味でも深刻だったに違いない。


 一層から二層に降りる際の深く暗い闇は、アリサも初めて見たようで最初はいささか緊張していたが、勇気が大丈夫と先に進んでやると、アリサも恐れることなく通過して行った。


「蜘蛛型は初めてだけどキツイわね……」


 二層に入っての初めての戦闘は蜘蛛の魔物三体。アリサも勇気と同様に一撃で蜘蛛を葬れていた。

 アリサは倒す事に支障はないが、視覚的に精神が少なからず参るようだ。それでも退くことなく、勇気よりも多い二体を倒していた。


 昨日、勇気が単独で行った戦闘では、コボルトと蜘蛛の魔物の組み合わせに手古摺っていた。しかし今現在、同じ組合せの魔物と出会おうとも何ら問題なく処理していた。

 この調子なら二階層も問題ない。よって三階層への通路を見付ければ進む、という相談結果になった。


  探索中、初めて別の組のザイエンデに会うがペコリと一礼するだけで会話は無かった。師団のような分かりやすい恰好をしている人もいなかったので、ギルドか流れ者のザイエンデだろう。それにアリサが言うには、そもそもこんな上層に師団は居ないという。居るとしても訓練生という事だ。



 およそ昼過ぎになって、勇気がアリサに昼食を取るかと聞いていた。アリサは「何か、持ってきているの?」と聞くと、勇気は「適当にパンを持ってきた」と言う。だが、水が無いという事で断られてしまう。勇気も失念していたと昼食を取るのは止めた。


 ここで昼過ぎと判断したのは勇気で、判断した理由は、お腹の空き具合の腹時計のため正確ではない。そもそも時計という物が存在しているかも怪しかった。勇気もよく知る、計12の数字を持った時間を表わすモノを見た覚えがなかったのだ。とりあえず時計の事は今度調べようと頭の隅に置いて、迷宮探索に集中する。

 それからは少しの間だけ地図を埋める足を動かしてから帰る事になった。


「まぁ上がってないわよね」


「オレも今日は上がってない」


 一層大広間。女神像前の会話である。

 アリサはレベル6、勇気はレベル3と今日の朝と変化なしだ。

 外に向かう際は、多くのザイエンデの組とすれ違った。時刻は太陽を見れば真上に上がっている。昼時が一番多いのだろうか、たまたま今日が多いだけなのか。

 とにかく門番である師団員が賢明に検閲しているのは確かである。勇気とアリサは師団員に声を掛けずに一礼だけして迷宮から離れて行った。



 宿舎に帰る前に≪グラズヘイム総合買取店本部≫に向かった。二日に一度入るアイギスに拾ったアイテムを売る為だ。

 前回と同じくまとめ売りのため、どれが幾らなのか正確に分からない。そこで値段について聞くと、上層ならば水晶が高いとアイギスが言う。迷宮で手に入れた水晶は消耗品かつ生活にも利用できるため、そこそこの値段で売れるようだ。


 これで二人の≪道具≫の容量に余裕が出来て、お金にも余裕が持てた。

 アイギスと別れ、帰り道には今後必要になる水筒を商業区内で探し、二人分買って帰路につく。勇気は水筒を買う際、魔水晶の図鑑を思い出し、水を生成可能な≪青水晶≫を買ってはどうかとアリサに聞くが、値段が張るとの事で諦めて水筒を買うという事に落ち着いていた。


 宿舎に帰った後は、ゼクスも副師団長も帰ってきていなかったので、勇気とアリサは陽が落ちるまで二人で過ごす。

 その後、帰ってきたゼクスが買ってきた酒の事を勇気は忘れない。


「うっ……」


 ゼクスに言われ、一口だけ試しに飲んでみると口の合わなさに悶絶した。


「ユウキは酒に弱いな」


 ゼクスは高笑いして、むせている勇気に水を差しだす。

 その横ではアリサが勇気の飲んだ物と同じ物を普通に飲んでいたので、ただただ自分が酒に弱いんだなと悩む勇気だった。





 王国に訪れて五日目。

 アリサは以前、副師団長に連れて行ってもらった図書館で調べ物をすると言い一人で出かけて行ってしまった。

 そんな訳で勇気は、ゼクスに「迷宮に行きます」と一言放って、ラグナロクの迷宮へ二度目の一人旅という事になっていた。


 迷宮の門前にガウェインとパーシバルの姿があったので挨拶だけして、すぐに迷宮に入る。相変わらず早朝のせいか人を見ないと思いつつ、女神像のある大広間の奥へ進んだ。


 今日の勇気の目標は一層の地図埋めである。どうも全て埋まってないのが気になっていた。一層を選ぶのは魔物がコボルトの一種類しか出ないので楽で安全という事もある。ただ4、5匹出てくる時は無理せず、退きながら戦う。ヒット&アウェイだ。アリサのように華麗にかわせればいいのだが、体が追いつかない。とにかく経験を積むしかなかった。


 加護力と疲れをハーブで回復させながら探索を続ける。

 お腹が空けば、ウィンドウに入れておいたパンと水筒に入れた水があるので食事対策も今回は万全である。


 昼時になるとザイエンデが、ちらほら見えてきていた。しかし勇気のようにソロの人は見当たらない。とりあえず今日も昨日アリサと探索した時と同様に、ザイエンデとすれ違えば一礼する。それだけすると、後は邪魔にならないように違う道を選ぶなり、駆け足で進むなりして探索を続けた。


 迷宮から出た時には陽が落ちかけていた。体内時計でも働いているかのように丁度いい時間だ。でも現実世界にあった時計が欲しいと感じる。

 昨日水筒を買う際に、時計がないかと注意して歩いていたが、何処に行っても見ない為、おそらくこの世界に針時計すらないと断言している。それでも暇ある時に商業区に行って近いものがあるか探してみようと、頭の中に入れている。

 しかし今日は遅い。皆に心配を掛けまいと宿舎に向かう足を早めた。





 六日目。今日はアリサと勇気の二人で迷宮に向かう。

 宿舎から迷宮に向かっている時に勇気の地図をアリサの地図に重ねて一層の更新を済ませていた。


「アナタ、毎日行って疲れないの?」


 更新する際にアリサが呆れた顔で勇気に言っていた。


「特に。多分、ゼクスさんが買ってくれた武器とバナードさんから貰った武器のお陰だと思う。どっちもなかったら、アリサに頼らないとやってられなかったんじゃないかな」


 属性の魔法加護が付属している剣とステータス加算加護がついた短剣。

 アリサの祖父であるバナードから貰った短剣がなくては、魔法加護の付いた直剣は今でも装備できない。それがあって、アリサと同等の力を持った武器を持っているのだから何だかズルイとも思っている。しかし、コレが無ければ魔物を二度の剣撃だけで倒す事など到底無理な話で、苦戦する事が間違いなかった。

 つくづくと勇気は感謝する。


 本日の二人の目標は三層までの道探し。一層目のコボルトは問題にならない。一匹ならば速いアリサが先に仕掛けて一撃を入れ、態勢を崩した所に勇気の二撃目で止めを刺す。二匹ならば、状況によっては一体を先に、無理なら一体ずつ。それ以上になるとアリサが多めに引き受ける。最後のこれは単純なレベルの差ではなく、技術の差でアリサが多く倒す事になっているだけであるが。


「じゃあ、こっち」


「分かった」


 二層に入ってからは、地図を見て、どの分かれ道を先に行くか、どういう方向で進んで行くかの計画を立てる。後は運である。三層まで一直線にいければ一番なのだが、どうしても行き止まりにぶつかってしまう時もある。迷宮と呼ばれているのだからコレぐらいは許容しなければならない。


「そういえば村で初めてウィンドウをアリサに見せて貰った時さ。アリサの≪スキル≫が二つあったと思うんだけど」


 不意に気になった事を尋ねた。

 勇気は暫くアリサと共にしているが、アリサは≪スキル≫を今までの戦闘で見せていない。敵が簡単に倒せる相手という事もあるかもしれない。それでも未だに一つも習得してない自分と比べ、気になってしまっていた。


「アレは≪技術値≫も消費するし、何より集中しないと駄目だから疲れるのよ」


 技術値。勇気のステータス上では≪魔法値≫と並んで腐っている数値だ。共に『19/19』から微動だにしていない。


「じゃあ、次にコボルト出たら一体だけ残して私に任せて。余裕でしょ?」


 その後、探索を続けると蜘蛛の魔物一体とコボルト二体が出てきた。

 アリサが先駆けて蜘蛛の魔物を先に一撃で倒し、勢いはそのままに、一体のコボルトを二人の連携で瞬時に倒すで。そして、無傷のコボルト一体だけ残した。


 アリサの下がってという手振りで、勇気は後ろに跳んで間合いを開ける。

 コボルトがじわりと地を踏み、近くのアリサへと飛びかかる。だが、コボルトの曲剣はアリサは難なくかわされてしまう。それから二度同じようにアリサが曲剣を回避してみせ、直剣をコボルトの胸へと振るった。


「ゲウッ――」


 悲鳴を上げ、血を吹き倒れるコボルト。その光景は戦いの勝利を表わしていた。


「一撃なら状況によって使ってもいいかな」


「……今のがアリサのスキル?」


「そう。外から見てると分かんないかもだけど、今のスキルは一振りで二振り分の斬撃を放つモノ。ただ単純にダメージが二倍じゃなくて幾らか減算されちゃうってのが難点ね。もう一つの方は余裕の今は使っても意味ないから、今後機会があれば使うわ。もう一つの方がスキルとしては便利だからね」


 アリサが言い切ると、行きましょうと探索を再開した。

 勇気は暇を見て≪スキル≫を見るが、やはり自分の欄には何もなかった。余裕がある今、別段と急がなくともいいし、いいやと思い足を進める。


 帰りの徒歩と魔物と戦う時間も考えて、帰る時間もそろそろか、と相談しながら探索しているとソレを見付けた。奥が見えない暗い闇。≪地図≫を見れば、妙な感じで途切れているので間違いないだろう。ただ、万が一を考えて光水晶を投げ、見えない壁にぶつかった事を確認してから闇に触れた。


 三層である。しかし、帰る時間という事で探索は無しにして帰路についた。

 本日の女神像は勇気だけに祝福してくれたようだ。アリサはそれを見て少し不満気に頬を膨らまして勇気を睨んでいた。

≪勇気≫

 Lv 4

 HP(加護値):407/407 MP(魔法値):25/25 TP(技術値):25/25

 STR(腕力):10+5  VIT(耐力):10+5   INT(魔力):10+5

 RES(魔抗力):9+5 LIF(生命力):10+5 DEX(安定力):14+5

 AGI(速力):2

 Capa(容量):38.4

 スキルLv:≪剣士Lv2≫、≪銃士Lv0≫

 Bonus(振り値):+9

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