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今夜、あなたを逃がします。~虐げられた人を救う夜逃げ屋と、追うはずだった堅物追跡官~  作者: 他力本願寺


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第46話 追う手順で守る

第一夜、最初の車は予定より早く着いた。


 玄関で待てと言われるのが怖くて、家の裏口を出られた瞬間に走ってきたのだという。女は靴を片方失くし、布の袋を抱いていた。


「順番が違っても、入れますか」


 エマは札を取り直した。


「入れます。座ってから、事情を聞かせてください」


 最初の相談は前日までに一人ずつ受けている。到着時には、付き添いから離れた場所でもう一度意思を確かめた。初めて来た者には、その場で話を聞き、安全に休んだ後に改めて確かめる。


 数が増えたからといって、一人の返事を代表者にまとめさせなかった。


 ミレイユは、三つの窓口の間で車を動かしていた。


 重い荷を載せる車、寝台を運ぶ車、子供と付き添いが座る車。全部を同じ大きさの箱へ入れることはできない。


 中には、荷物を何も持ってこなかった男もいた。


「何を選べばいいか、分からなかった」


「今夜は、そのままでいい」


 ミレイユは答えた。


「後で必要な物を取りに行く相談もできる。何も持っていないからって、あんたが空になるわけじゃない」


 男は長く彼女を見てから、車へ乗った。


 別の女は、古い鍋を手放せずにいた。大きさからして予定の袋には入らない。ラウルが空いた荷台を測り、他の荷をずらして積めると判断した。


 ミレイユは口を挟まず、その判断を受けた。


 持てない時は持てないと言う。持てるなら、三つという言葉のためだけに鍋を割る必要もない。


 セリアが、妹と一緒に来たのは夜半だった。


 リゼットは前より少しふっくらしていたが、手はまだ震えている。医師の定期面会が入るようになり、実家への貸付けも別に調べられた。夫の言う通り、逃げれば全ての人が路頭に迷うと確かめられたわけではなかった。


「気が変わりました」


 彼女はミレイユへ言った。


「遅いと、思いますか」


「荷車には間に合った」


 リゼットは小さく笑った。


 姉が一緒に答えようとすると、ミレイユは少し待ってもらい、妹と二人で話した。


 今日出たいのか。どこへ行くことを望むのか。姉の家を行先にするのは、本人の希望か。


 答えを聞き終え、セリアを呼び戻した。二人は同じ車へ乗ったが、それは姉が依頼料を払ったからではなかった。


 第二夜には、保護所の手前に連れ戻し屋が現れた。


 ヴォスの逮捕で、その仕事をする者が一人もいなくなるわけではない。別の仲介業者が、家長の署名した紙を持ってきた。


 カインは街灯の下で、彼らの立ち位置を見た。


 正面で書類を見せる者が二人。裏道へ回る者が一人。車の転回場所を塞ぐ者が二人。


 かつて自分が、対象者の逃げ道を減らす時に使った配置だった。


 顔も足取りも見なくてよい。書類の問答に注意を向けさせ、その間に後ろから本人へ接触する手順だ。


 カインは、現職の警備責任者へ裏道を示した。


「正面の書類を見る班を残し、搬送路を西へ。裏道の一人には、先に職務を確認してください」


 自分で逮捕を命じるのではなく、見たことと予測を分けて伝える。


 ミレイユの所へは、転回場所を変える伝言を出した。


 彼女は理由を聞き終えると、すぐに車を動かした。自分の目で相手を見てからでなければ従わない、とは言わなかった。


 裏道へ回った男は、運ばれてきた若者の腕を掴んだ。


 その場で待っていた治安官が止める。


「本人は保護を申し立てています。返還の根拠があるなら窓口へ。ここで連れ去ることは認めません」


 男は家長の許可を振りかざした。だが、その紙は判事が発した個別の保護を打ち消すものではない。


 掴まれた若者が、戻りたくない、と声を出した。


 カインはその言葉を繰り返して威圧することも、代わりに怒鳴ることもしなかった。若者に座る場所を示し、医師を呼ぶ。


 暴行の疑いで同行を求められたのは、腕を掴んだ男の方だった。


 書類を持つだけの同行者まで、一括で捕らえることはしない。彼らには照会先を伝え、立ち去るよう求めた。


 カインは、遠ざかる男たちを追わず、車が角を曲がるまで見送った。


 追う仕事で覚えたことを、今日は追わせないために使っていた。


 第二夜の終わり、三つの窓口で受け付けた人数は千五百を超えた。


 全員がその場で家を出たわけではない。家から通って相談を続ける者も、勤務先と条件を話し合う者もいる。寝床を必要とする人数と、申立ての人数を混ぜないよう、エマは帳面を分けた。


 ミレイユは椅子に座り、靴を脱いだ。


 カインが水を持って来た。礼を言って受け取ると、彼も隣で靴紐を緩めた。


「今日、私の車を見つけるのは簡単だったね」


「隠れていなかったからな」


「追わなくても、ここへ帰ってくるよ」


 カインは顔を上げた。


 ミレイユは水を飲んだ。大きな約束のつもりはない。ただ今夜、自分が選んだ行先を言った。


 彼はそれを受け取り、空いた椅子をもう一つ近くへ寄せた。

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