第42話 記録を持って迎えに行く
カインが店へ戻ったのは、夜明け前だった。
エマは起きていた。机の上に、ミレイユの短い書き置きがある。
「北の納入路にいるはずですが、交代場所へ来ませんでした」
まず、決めた時刻と待った場所を聞く。ラウルは単独で探しに出ず、別の協力者と公道を見て戻ったところだった。
店の裏では、深夜に知らない荷運びが来たという目撃があった。だが、渡した物までは誰も見ていない。
カインは椅子へ座りかけ、やめた。
腹が立った。昨夜、一緒に決めたことまで置いて出ていったのかと思うと、手帳を閉じる指に力が入る。
それでも、怒りで決めてはいけない。彼女が別の場所で足止めされている可能性もある。
「予定の道をもう一度確認する。施設へは誰も入らない。俺は判事へ事情を追加する」
「自分で助けに行かないんですか」
ラウルが聞いた。
「一人増えて閉じ込められれば、彼女と同じ間違いになる」
カインは答えた。自分にも聞かせるつもりだった。
当番判事の前には、前夜のうちに資料が揃っていた。
架空の施設費ではなく、実際に人が出入りする建物であること。移送者の所在について、家籍局の回答と納入帳面が一致しないこと。処刑通知の後に生存受領の記録があるセラという人。そして最近、中から出たと思われる紙片。
ミレイユの消息不明は、その上に加わった。彼女が行ったから施設が違法だ、と逆向きに決めることはできない。
カインは、彼女と個人的な関係があることも申告した。
「判断と執行は、私以外の方にお願いします。ただ、文書の番号を調べた経緯は説明できます」
判事は質問を重ねた。前提が違えば誰を傷つけるかまで確かめる、苛立つほど細かい質問だった。
カインは答えた。昔、保護を待つ人に自分が求めたのも、この細かさだったことを忘れたくなかった。
朝、施設への立入検査、記録の保全、収容者との個別面談が命じられた。担当官と医師を同行させる。危険な拘束が確認されれば、その場で保護と移送の差止めを行う。
執行班の指揮を執るのは現職の治安官だ。カインは記録の照合を補助する者として、判事の監督下で同行する許可を得た。
出発の直前、納入業者から伝票が届いた。
備考欄に九十八と一。医務室二、厨房三。ミレイユが配送票で使う略記が、その横にあった。
署名だけなら真似られる。それでも、内側の人数と配置が書かれた紙は、別の確認材料になる。業者は、施設の厨房から渡されたことを証言した。
カインは原本を判事に預けた。
「中にいる可能性が高い。九十九人を運ぶ用意が要ります」
ラウルは数字を聞き、店の馬車だけでは足りないと答えた。
エマは基金の残高を示した。全額を使っても、全員の三日分は賄えない。しかも、既存の滞在者の食事代を失う。
「先に使って、後で考えるのは駄目です」
彼女ははっきり言った。
判事は救護車と公的な短期宿を手配した。月無し運送は、借りられる荷車と、横になれるよう改めた車を提供する。救出後の名簿は、支援の申込みと犯罪の審理を分けて作る。
誰も、たった一軒の店に九十九人を押しつけなかった。
北へ向かう道で、カインは先行の使いから報告を受けた。
施設側は通知を受領し、予定の時刻に門を開けると答えた。すんなりしすぎている、と使いは言った。
それ自体は不正の証拠にならない。だが、昨夜の焼却の情報が頭から消えなかった。
カインは班長に、到着まで待つ必要はないと伝えた。時刻は相手の都合で決めた猶予ではなく、こちらの見込みに過ぎない。保全命令はすでに効いている。
班長は行軍を早め、救護車を後ろへ分けた。
旧税関の屋根が見える。
煙突の煙とは別に、低い窓から煙が流れ出していた。
カインは息を吸った。ミレイユの名を叫びたいのをこらえ、まずその窓の位置を班長へ示した。




