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今夜、あなたを逃がします。~虐げられた人を救う夜逃げ屋と、追うはずだった堅物追跡官~  作者: 他力本願寺


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第37話 閉じた門の内側で

アドリアンがファルエンへ到着した知らせは、出発の三日後に届いた。


 途中の宿に異常はなく、巡回裁判所で本人の証言が記録されたという。受領書の末尾には、食事が熱かった、と本人の短い書き添えがあった。


「そこを報告するんですね」


 エマが笑った。


「あの客には、新しかったんだろうさ」


 ミレイユは紙を畳み、依頼を完了した欄に日付を入れた。


 遠くの出来事は、人か紙が運ばなければ届かない。王都では、その三日の間にいくつもの噂が生まれていた。王子は攫われた。兵を集めている。重病で療養している。どれも、見た者の名前がなかった。


 四日目、裁判所の証明を伴う声明が届いた。


 王子は自分の意思で外へ出たこと、非常令に署名していないこと、署名を求められた経緯を証言したことを公表した。


 それによって、大臣府が王子の失踪を理由に特別な権限を得る道は狭まった。


 オルフェンは、既存の権限で王都の門と主要街道の警備を増やした。人の移動には目的と行先の確認を求め、無断離籍者の捜索を強化する。非常令ではないため、裁判所の保護命令を停止することはできなかった。


 だが、門で一時間ずつ足を止められるだけで、小さな運送屋の予定は崩れる。


「三台とも遅れています」


 エマが朝の予定表を示した。


 通常の荷が遅れれば、支援に回す金も減る。食料と薬は優先通過の扱いだったが、該当するかどうかの確認そのものに時間がかかった。


 ミレイユは荷を分け、急がない家具を翌日へ回した。困る客へ理由を説明し、代金も減らす。


「偉い連中の争いの分まで、うちが損をするのか」


 荷主の一人に言われ、彼女は答えた。


「そうだよ。だから、いつまでも続いてもらっちゃ困る」


 王子を逃がした爽快さの後に、こういう請求書が残る。そのことは、引き受ける前から分かっているべきだった。


 一週間後、アドリアンは王都へ戻った。


 今度は裁判所の正式な随行者を伴い、帰着も公表している。王宮の以前の部屋ではなく、審理に協力する証人として、裁判所が借りる建物に滞在した。


 彼が持ち帰ったのは、自由に振れる軍隊ではなかった。署名を強要された証言、その受付番号、そして第七移送所の所在を調べるための追加資料だった。


 旧北部税関のうち一棟へ、食料と燃料が定期的に納められている。納入業者の控えと、国の支払いが一致した。


 ミレイユが秘密に控えていた候補と、同じ建物だった。


「ここに人がいることは、かなり確かだ」


 カインが言った。


「だが、セラがいるかは別だ。判事へ立入検査と記録の保全を申し立てる」


 アドリアンは、自分が判事へ結論を命じることはできないと付け加えた。


「王族の署名が要る閲覧は許可する。証人にもなる。ただ、私の一言で誰を出すか決めれば、同じことを繰り返す」


 ミレイユは苛立ちを飲み込んだ。今度こそ、誰かが印を押せばセラへ届くと思いたかった。


 荷の組替えのため、彼女は北の倉庫へ回った。


 そこから旧税関の屋根が見えた。建物へ近づく許可はまだない。外の道を歩けば、警備に顔を覚えられる。


 代わりに、納入の馬車を遠くから見た。食料箱は数が多く、空箱を持ち帰る時には警備の者が中を確かめている。廃止した倉庫という説明とは合わなかった。


 柵の中で、一人が洗濯物を干していた。年も顔も、距離があり分からない。


 ミレイユは、セラかもしれないと考えた。


 違うかもしれない。それでも、誰かであることには変わりない。


 その夜、彼女は初めて、エマとラウルにセラの話をした。助けられたこと。処刑されたと信じていたこと。今は違う記録が見つかったこと。


 ただし、昼に一人で屋根を見に行ったことは省いた。


 話し終えると、マヤが温かい茶を置いた。


「会いたいですね」


 ミレイユは頷いた。


 そう言ってもらうだけのことを、どうしてこんなに長く言えなかったのかと思った。

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