第35話 門が増えた朝
新しい指示では、王宮を出る全員が、顔を見せて名を答えなければならなかった。
護送列の人数が合えば通すという、今朝見た扱いは使えない。
ミレイユは急使の話を最後まで聞き、三つの封筒を机へ戻した。
「中止ですか」
ラウルが尋ねた。
「姿を隠す部分は使えない。王子だと分かった上で、出す」
カインは首を横に振った。
「上へ確認して止められるぞ」
「ああ。だから、上からの返事を待たなくても確認できる人を門へ呼ぶ」
正規の外出許可の記録は、宮廷の書記局にもある。面談受入れの返事は、外の巡回裁判所から届いている。大臣府だけへ問い合わせれば返事は止まるが、発行元の書記が立ち会えば、有効性の確認はその場で済む。
「呼べるのか」
「王子が、自分の外出許可を確認するために呼ぶ。護送責任者からも頼んでもらう」
それでも、大臣の指示に逆らってよいか迷えば門は開かない。必要なのは、書面を持つ人を並べるだけではなく、誰が何を確認したか記録に残すことだった。
カインが手順を書いた。
到着時刻。外出許可の期限。取消し通知の有無。門で止める場合の責任者と根拠。
「俺が公務として作る紙ではない。殿下自身の申立てとして署名してもらう」
ミレイユは読み、頷いた。
全部を合法の紙で包めたわけではない。殿下の所在を伏せて車を動かす部分は、警備側を欺く。だが、見つかった瞬間にただの力比べへ落ちないための支えにはなる。
アドリアンは変更に同意した。
人前で自分の希望を告げる。捕まる場合も、連れ去られたのではないと周囲へ分かるようにする。ミレイユが代わりに王子の意思を宣言するのではない。
使いが戻るまで、皆は朝の食事を取った。暗いうちから食べるパンは硬かったが、何も食べずに失敗するよりよい。
ミレイユはエマへ、もし自分が戻らない場合の支払い順を渡した。
「分かりました。では、王子が戻ると言った場合は、私が先方の宿へ取消しを伝えます」
「ああ」
「門で私が危険だと判断したら、退路の車を先に動かします。確認を待つと閉じ込められるので」
ミレイユは迷ってから頷いた。小さな判断だったが、渡す時には胸が軋んだ。
「頼む」
エマはその一語を確かめるように、予定表へ印をつけた。
王宮の集積場は、まだ薄暗かった。
三台の車には既に荷が積まれている。ミレイユの車は最後の毛布を下ろし、そのまま外の引継ぎ場へ戻る予定だ。
アドリアンの専用車が一番目の列の後ろに付き、大臣府の役人がそちらへ集まった。中に王子がいるか確認する。空だと分かり、運行票と指示書を読み比べる。その時間が、二番目の列を整える余地になった。
王子は護送員の上着で現れた。三つの荷物を鞍袋へ入れ、出発点呼を受ける。責任者は本人の名を偽らず、小声で確認した。
彼らが門へ着く直前、書記局の担当者が走って来た。
間に合った。
ミレイユは息を吐いたが、カインは門の向こうを見ていた。大臣府の別の役人が、急いで階段を下りてくる。
「進め」
護送責任者が告げた。
門番が槍を立て、王子へ顔を見せるよう求める。
アドリアンは、自分で風除けの布を外した。




