第27話 畳まれた寝床
マヤたち三人が拘束されたのは、異議申立てを出した翌朝だった。
家籍の連れ戻しではなく、共同窃盗の容疑だと説明された。署名した証人はヴォスの配下で、盗まれたとされる物の一覧には、ありもしない貴金属が並んでいた。
ミレイユは逮捕の紙を奪わず、担当官の名と行先を写した。抵抗すれば、娘の目の前でマヤが地面へ押さえつけられる。
「どこへ行くの」
ミナに聞かれ、マヤは返事を探した。
ミレイユが先にしゃがんだ。
「役所へ、話の間違いを直しに行く。今夜帰れるかは、まだ分からない。あんたは私たちと待とう」
「また、置いていくの?」
マヤの顔が歪む。ミレイユは娘の言葉を取り消させず、二人が手を握る時間を求めた。
アンナとベラは別の窓口から同じ庁舎へ連れていかれた。後でそう分かるまで、半日かかった。
カインは身分証を上官へ預け、職務上の資料へ触れなくなっていた。
引き継いだ同僚が拘束先を調べ、面会の手続きを進める。本人が来ても門を通れないという状況に、ミレイユは腹が立った。彼がどれほど役に立つかより、彼の机にどの印があるかで決まる。
「勝手に令状を出すわけにはいかない」
カインは言った。
「分かってるよ。今さら偽物を作れと言う気はない」
だからといって待てる気もしなかった。
悪い知らせは続いた。安全家屋の大家が、次の更新はできないと言ってきた。基金の残高では、全員を別の部屋へ長く置けない。通常の運送にも、月無しと取引すれば調べられるという噂が回っていた。
机の上に、取り消された配送票が増えていく。
「私が頭を下げて、親戚に融通を頼みます」
エマの申し出を、ミレイユは止めた。
「戻る条件をつけられたら?」
エマは黙った。自分を差し出して金を作るなら、伯爵家にいた時と変わらない。
「使える金を数えて。払う順番は、食事と寝床が先だ」
ラウルは工具箱を抱えて立っていた。売ればいくらになるか考えていた顔だったので、ミレイユはそちらも止めた。
「稼ぐ道具まで売るな」
「じゃあ、何をすれば」
「車を直す。明日動かせるように」
仕事は渡せる。だが、皆をどうするか決めるのは自分の役目だと、ミレイユはまだ思っていた。
夜、店はひどく静かだった。
ミナはエマの隣で眠り、目を覚ますたび母を呼んだ。ミレイユは階段を上がりかけて、引き返した。自分が行けば泣きやむ、とも限らない。
机の奥の床板を上げる。
油紙に包んだ鞄があった。十年前から、どこかに移すたび同じ向きでしまっている。金と着替えは入れ替えたが、別の包みにした三つの私物は取り出していない。
西門を通らず王都を出る道が、一つある。運送人の仲間へ合図を送れば、明日の夜には使える。追われた時のために温存した、自分の退路だった。
今なら、まだ間に合う。
マヤたちを助ける方法は見つかっていない。カインの権限は止められた。セラの行方を探すどころではない。ここに残って捕まれば、誰も運べなくなる。
ミレイユは油紙に指を置いた。
足音がし、エマが階段を下りてきた。ミレイユは床板を閉じかけたが、間に合わなかった。
エマは鞄を見て、ミレイユを見た。
「出るなら、教えてください」
責める声ではなかった。それが、かえって堪えた。
「今すぐ出るとは言ってない」
「はい。でも、朝起きたら決まっていた、というのは困ります。私たちにも、自分の荷物を選ぶ時間が要ります」
ミレイユは何も言えなかった。
エマは湯を二杯入れ、一杯を机に置いた。自分の分を持って、またミナの所へ戻っていく。
鞄は床の上に残った。
ミレイユはそれを開けず、湯が冷めるまで、床板の脇に座っていた。




