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外れスキル《導き》を授かった俺、辺境の村を最強にする 〜みんなの可能性が見える力で、今度こそ誰かの役に立てる〜  作者: 冬月 しるべ
第4章 地下に眠る継承

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第21話 檻の門前


 ごり、と再び石が鳴った。


 右側隠し口が、返し水に逆らうようにもう一段開く。


 白い石床を流れる青白い水が、入口の縁で細かく跳ねた。

 その向こう、暗い裂け目の奥で、複数の足音が重なる。


 押し切る気だ。


 ノアは息を整え、返し石の青い光を背に立った。


 父が槍を握り直す。

 ハンスは矢を番えたまま、入口の奥を射抜くように見据えている。

 カイルは低く腰を落とし、白い床を滑る水の流れと、敵が踏み込んでくる角度を同時に見ていた。


「来るぞ」

 父が低く言う。


 次の瞬間、隠し口の奥から何かが飛んだ。


 鎖つきの鉄鉤だ。


 父は反射的に槍の柄で弾く。

 だがそれは牽制だった。

 続けざまに二本、三本。


 鉄鉤は返し水の上を渡るように床へ噛みつき、入口の内側へ深く爪を食い込ませる。


「鎖か!」

 カイルが叫ぶ。


 向こう側で男たちが一斉に引いた。


 がしゃり、と重い音。


 隠し口の石が、内側からさらにずれる。

 返し水の流れを割って、入口そのものをこじ開けようとしているのだ。


【右側隠し口】

状態:鎖固定

危険:開口拡大


【返し水】

状態:維持中

弱点:物理固定に弱い


「力任せか……!」

 父が舌打ちする。


 ハンスの矢が飛ぶ。

 裂け目の奥で短い悲鳴が上がる。

 だが鎖は外れない。


 次の瞬間、今度は隠し口の下から板が滑り込んできた。


 細長い木板。

 返し水の上へ渡して、足場を作る気だ。


 父が槍を突き出し、一枚目を弾く。

 だが、二枚目が来る。

 三枚目も。


 水の上へ、細い道が伸びかける。


 まずい。


 このまま押し込まれれば、入口の狭さが味方ではなくなる。


 ノアの視界に文字が浮かぶ。


【敵先行隊】

状態:再侵入準備完了

変化:返し水対策済み


【封蔵区前室】

状態:防衛継続中

可能性:第二段階あり


【返し水】

状態:二段起動中

可能性:右壁側へ圧集中可


 入口じゃない。


 支えている方だ。


 ノアは一瞬だけ迷った。


 外していたら終わる。


 それでも、今は賭けるしかない。


「父さん! 右上です!」

「何!」

「入口の石じゃない! 右上の角! あそこが支点になってる!」


 父が反射的に視線を上げる。


 隠し口の内側、ちょうど鎖が噛んでいる少し上。

 他より細い石の継ぎ目がある。


「ハンスさん、そこ打てる!?」

「一瞬だけなら」


 ハンスは迷わなかった。


 矢をつがえる。

 呼吸を止める。

 そして放つ。


 矢は水の跳ねる隙間を裂き、右上の継ぎ目へ突き刺さった。


 乾いた音。


 ひびが走る。


「カイル! 今!」

「おう!」


 カイルが床を蹴る。

 返し水のぎりぎり外を踏み、隠し口の縁へ斜めに滑り込む。

 短剣ではなく、柄頭を叩きつけた。


 ひびが広がる。


「父さん!」

「任せろ!」


 父の槍の石突きが、同じ場所を正確に打った。


 次の瞬間、右上の支点石が砕けた。


 ごん、と重い音。


 入口の上半分がわずかに沈む。

 鎖の張力がずれ、板の角度が崩れる。


「今だ、流せ!」

 ハンスが叫ぶ。


 ノアは中央窪地の縁を、今度は右へなぞった。


 返し水の流れが変わる。


 押し返すのではない。

 片側へ寄せ、削る流れだ。


 白い石床を走っていた水が一気に右壁側へ集まり、砕けた支点石の下へ叩きつけられる。


「支えが……!」

「鎖が外れる!」


 敵の声が乱れた瞬間、入口の片側が大きく傾いた。


 木板が水に呑まれる。

 鎖が滑る。

 鉄杭が一本抜け、奥で誰かの足元を払った。


 父が吠えた。


「押し返せ!」


 槍の柄が真正面から叩き込まれる。

 カイルが横から蹴りを入れる。

 ハンスの矢が、鎖を握る手を射抜いた。


 ついに、隠し口の向こうで支えが崩れた。


 がしゃん、と大きな音。


 板も鎖もまとめて入口の向こうへ崩れ落ちる。


【右側隠し口】

状態:不安定

変化:半閉鎖化の可能性


「下がれ!」

 敵の誰かが叫ぶ。


 だが遅い。


 崩れた支えごと、数人が奥へ倒れ込んだ。

 返し水はそこへ容赦なく流れ込み、狭い通路を完全に乱す。


 前に出られない。

 整列もできない。


 ようやく、敵の勢いが止まった。


 荒い息の中で、外套の男だけが動かなかった。


 崩れた入口の向こうで、濡れた石床の上に立ったまま、こちらを見ている。


「やるな」

 その声は低かった。

「思った以上だ」


 褒めているわけじゃない。

 値踏みしているだけだ。


 ノアは返し石の前から動かない。


「お前は何を解こうとしてる」

 問いかけると、男は一瞬だけ黙った。


 その沈黙が、妙に長く感じられた。


 やがて男は言った。


「お前は、まだ“檻”の意味を半分しか見ていない」

「何?」

「水で沈める価値があるのは、災いだけだと思うな」


 父の顔が険しくなる。

 ハンスの指が弓弦にかかる。

 カイルも短剣を構えたまま動かない。


 男は続けた。


「欲望も、記憶も、血も、正しさも――人は都合の悪いものを、全部“封印”と呼び替える」

「……何を言ってる」

 ノアが睨み返す。


「その言葉の続きは、奥で知れ」

 男は静かに言った。

「お前がまだ間に合うならな」


 その直後、奥の通路で別の音がした。


 低い。

 重い。

 石が内側から鳴るみたいな音。


 ご……ん。


 封蔵区前室の空気が、ぴたりと止まる。


 ノアの視界に、新しい文字が浮かんだ。


【封印槽】

状態:微振動

危険:上昇

可能性:封印干渉進行中


 背筋が冷たくなる。


 別の場所で、もう始まっている。


 外套の男はその反応を見て、小さく息を吐いた。


「遅いと言ったはずだ」

 静かな声だった。

「ここで私を止めても、もう一つの手は進んでいる」


 陽動。


 その言葉が、頭の奥で鋭く鳴る。


 ノアは石板へ目を走らせた。

 前室、返しの間、封印槽。

 そしてその奥へ伸びる線。


【現在地点】

状態:前室防衛成功

危険:奥部干渉継続中


【次の一手】

候補:右側隠し口完全封鎖

候補:封印槽直行


 ここで守り切るか。

 それとも、奥を止めるか。


 迷う時間はない。


「ノア、どうする」

 父の声が飛ぶ。


 ノアは一瞬だけ目を閉じた。


 ここを通せば終わる。

 だが、奥を止められなければ、その先が終わる。


 父を置く。

 カイルも残す。

 ここで誰かが倒れれば、自分はその瞬間を見られない。


 それでも――行かなければ、もっと多くを失う。


 次の瞬間、ノアは目を開いた。


「父さん、ここを抑えて」

「お前は」

「俺が奥へ行く」


 父の顔が変わる。


「一人でか!?」

「一人じゃないと抜けられない」

 ノアは即答した。

「この前室はもう狭すぎる。複数で動けば、逆に遅れる」


 ハンスが低く息を吐いた。


「通すのは任せろ、ってことか」

「お願いします」


 カイルがすぐに言った。


「じゃあ俺も行く」

「駄目だ」

 ノアは首を振る。

「ここで父さんの横が空いたら、押し込まれる」

「でも――」

「カイル」


 ノアは正面から言い切った。


「ここを守れるの、お前だ」


 カイルの喉が詰まる。


 迷いが消えたのは、一瞬だった。


「……死ぬなよ」

「そっちこそ」


 父が槍を強く握る。


「行け」

 短い一言だった。

「ここは、通させん」


 その声を聞いた瞬間、ノアの中で迷いが完全に消えた。


 外套の男が、そのやり取りを聞きながら、わずかに目を細める。


「ようやく選んだか」

「お前の思い通りにはならない」

 ノアは返した。


 そして、返し石の青い光から身を離す。


 封蔵区前室の左奥。

 壁面石板のさらに先。

 さっき読み切れなかった細い線の先へ。


 視界に、一本だけ、はっきりと道が浮かんだ。


【封印槽直路】

状態:開放可能

危険:高

可能性:最短到達路


 ノアは走り出す。


 背後で、父の怒声が響く。

 槍の打ち合う音。

 ハンスの矢が裂く風。

 カイルの短い怒鳴り声。


 前室戦は、まだ終わっていない。


 だが、守るだけでは届かない場所がある。


 だから次は、自分がそこへ行く。


 白い石床の奥、封蔵区のさらに深い闇へ向かって、ノアは一歩も迷わず駆けた。


 ――次は、封印槽だ。

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