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外れスキル《導き》を授かった俺、辺境の村を最強にする 〜みんなの可能性が見える力で、今度こそ誰かの役に立てる〜  作者: 冬月 しるべ
第4章 地下に眠る継承

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第20話 守るための部屋


 右側の壁の継ぎ目に生まれた隙間が、さらに広がった。


 ごり、と石が擦れる音。


 青白い光が走る封蔵区の床の上で、その黒い裂け目だけが、やけに生々しく見えた。


 敵が来る。


 しかも、もう目の前まで来ている。


 父が槍を構える。

 ハンスは半歩ずれ、右奥の入口と前室全体を同時に見られる位置へ立った。

 カイルは短剣を抜き、隙間の真正面ではなく、やや左へ身体をずらす。


 ノアは壁面石板の前で息を止めた。


 まだ全部は読めていない。

 それでも、もう核心だけはわかる。


 この部屋は、何かを奪うための場所じゃない。


 ここは――止めるための部屋だ。


【封蔵区前室】

状態:防衛構造

可能性:侵入排除機構あり


【中央窪地】

状態:乾

可能性:返し石連動/返し水起動可


【右側隠し口】

状態:開放進行中

危険:敵侵入直前


「ノア!」

 父が低く呼ぶ。

「読むのか、戦うのか、決めろ」


 ノアは石板に触れたまま答えた。


「両方やります」


 次の瞬間、隠し口の石が押し開かれた。


 最初に飛び込んできたのは、短剣を持った男だった。

 狭い隙間から半身を滑り込ませ、そのまま父へ斬りかかる。


 父の槍が唸る。

 短い音とともに刃を弾き、男の肩を壁へ叩きつけた。


「ぐっ……!」

「一歩も通すな!」


 続けて二人目。

 三人目。


 狭い入口から押し込もうとしてくるが、前室へ入れるのはせいぜい一度に二人までだ。


 それが救いだった。


 ハンスの短矢が、隙間の奥から覗いた敵の手元を打つ。

 甲高い金属音。

 誰かが舌打ちした。


 カイルはまだ飛び込まない。

 父の槍が作る間合いの外で、入ってきた敵だけを待っている。


 いい。


 それでいい。


 ノアの視界に、戦いと石板の情報が同時に浮かぶ。


【父】

状態:前面防衛中

可能性:入口維持可


【カイル】

状態:待機

可能性:侵入直後の迎撃適性・高


【壁面石板】

状態:読解継続中

可能性:返し水起動条件あり


 右隠し口の奥から、あの声が響いた。


「殺すな。鍵持ちだけは無傷で取れ」


 外套の男だ。


 近い。

 だが、まだ姿は見えない。


 ノアは歯を食いしばる。


 やはり狙いは返し石か。


 違う。

 返し石だけじゃない。俺ごと奪う気だ。


「ノア!」

 今度はカイルの声だった。

「早くしろ! 人数で押される!」


 その瞬間、二人目の敵兵が父の槍を潜りかけた。


 だが、そこへカイルが滑り込む。


「お前の相手はこっちだ!」


 短剣の柄が敵の顎を打ち上げる。

 体勢を崩したところへ足を払う。

 男はそのまま白い石床へ叩きつけられた。


 父が一歩出る。

 槍の石突きで、入口の縁へ男の身体ごと押し戻す。


 狭い隙間が、死ぬほど邪魔だ。

 だが今は、それが味方になる。


 ノアは石板へ意識を戻した。


 青白い光が、文字のような線を次々と浮かび上がらせる。


【返しの間】

役割:侵入者の押し返し

条件:返し石同調/封印盆起動


【返し水】

効果:足場阻害/侵入経路圧迫/通路逆流誘導


【起動手順】

中央窪地へ返し石接触


 返しの間。


 そういうことか。


 この前室そのものが、封印の最後の防壁なんだ。


「父さん! あと少し耐えて!」

「最初からそのつもりだ!」

「カイル、右の壁から離れて! 床ごと動くかもしれない!」

「は!? 先に言えよ!」


 ノアは中央窪地へ駆けた。


 浅い盆地の底。

 そこには、ごく小さな円形の窪みがあった。

 返し石と同じ大きさ。

 最初から、ここへ納まるためだけに作られた形だった。


【中央窪地】

状態:返し石適合

可能性:返し水起動可


 迷わず、返し石を押し当てる。


 かち、と乾いた音。


 次の瞬間、封蔵区の床を走っていた青白い光が、一気に中央へ収束した。


 ご、ご、ご、と低い振動。


 壁際の細い水路に、透明な水が一斉に流れ始める。


「何だ!?」

 隠し口の向こうで誰かが叫ぶ。


 次の瞬間だった。


 右隠し口の床下から、水が噴き上がった。


 激流ではない。

 だが、人の足を奪うには十分な勢いだ。


 白い石床の上を薄く広がり、そのまま入口の方へ逆巻くように流れ込む。


「滑る!」

「下がれ!」

「押されるぞ!」


 敵の声が乱れる。


 父がその一瞬を逃さなかった。


「今だ!」


 槍の柄を入口へ叩き込み、侵入しかけていた男を水の流れごと押し返す。

 カイルも横から踏み込み、残ったもう一人の膝を蹴り抜いた。


 男の身体が隙間へ折れ、後ろの敵ごと巻き込んで崩れる。


 ハンスの矢が、奥から差し込まれた手をまた打った。

 誰かが短く悲鳴を上げた。


【返し水】

状態:起動中

効果:侵入阻害/足場悪化


【右側隠し口】

状態:圧迫

可能性:侵入失敗率上昇


 効いてる。


 明らかに、効いている。


 だがそのとき、水の向こう側で、外套の男の声だけが静かに響いた。


「……なるほど」

 低い声だった。

「返し石は門を開く鍵じゃない。“門を閉じる側”の鍵か」


 ぞくり、とした。


 こいつは見ただけで理解する。


 まずい。


 次の手を打たれる前に、もっと読まなければならない。


「父さん、ハンスさん! 少しだけ時間を!」

「まだ足りないのか!」

「敵の目的が、まだ半分しか見えてない!」


 父は舌打ちしながらも、入口を守る位置を一歩も動かなかった。

 カイルも息を荒げながら、短剣の切っ先を水面の向こうへ向けている。


「五秒でやれ!」

「無茶言うな!」

「でもやるんだろ!」

「やる!」


 ノアは再び壁面石板へ手を伸ばした。


 今度はさっきより深く入る。


 前室。

 返しの間。

 封蔵区。

 そのさらに奥。


 青い線が、前室の向こう、見えない奥へ繋がっていく。


【封蔵区中枢記録】

状態:読解進行

関連:前室/返しの間/封印槽


【封印対象】

種別:物品ではない

可能性:生体封印の可能性


 生体――


 ノアの心臓が強く跳ねた。


 やはりだ。

 やはり、財宝なんかじゃない。


 この村の真下に封じられているのは、“生きている何か”だ。


 その瞬間、外套の男が初めて苛立ちを滲ませた。


「そこまで読むか」

 水音の向こうで、低い声が沈む。

「なら、お前をここで奪うしかない」


 次の瞬間、右隠し口の奥で別の金属音が鳴った。


 じゃら、と鎖のような音。


 まずい。

 別の手段だ。


【敵先行隊】

状態:侵入停滞

変化:別機構使用の可能性


「下がれ!」

 ハンスが叫んだ。


 直後、隠し口の上部から、鉄の爪みたいな器具が撃ち出された。


 狙いは父ではない。

 中央窪地――返し石だ。


「っ!」


 ノアは反射的に腕を伸ばした。

 だが届くより先に、カイルが飛ぶ。


 短剣で鉄爪を弾く。

 火花が散る。

 器具は返し石の脇の石床へ突き刺さった。


「危ねえだろうが!」

 カイルが怒鳴る。

「そっちも!」

 ノアが叫ぶ。


 二本目。


 今度はハンスの矢が、飛来の途中で鉄爪を叩き落とした。


 鉄片が白い床を跳ね、水路へ落ちる。


「鍵だけ抜くつもりか」

 父が低く唸る。


 外套の男が答えた。


「封印の理屈を読める者と、返し石。どちらか片方でもあれば十分だ」

「ふざけんな」

 カイルが吐き捨てる。

「両方ともやらねえよ」


 ノアは中央窪地の返し石を守るように立ち、石板を見た。


 もう一行。

 あと少しで、次が見える。


 青白い光が揺れ、最後の線が繋がる。


【敵目的】

目的:封印対象の奪取ではない

可能性:封印解除


【封印維持】

条件:主水門/返し石/封印槽の三点維持


 奪うんじゃない。


 最初から、解くつもりだった。


 その理解だけで十分だった。

 背筋が、冷たく凍った。


「父さん!」

 ノアは振り返って叫んだ。

「敵の狙いは持ち出しじゃない! 封印を解くことです!」

「……何?」

「だから水門を動かしたんだ! 封蔵区に入るためじゃない。その奥にある封印そのものを、壊すために!」


 ほんの一瞬、前室の空気が変わった。


 敵も、父も、ハンスも、カイルも。

 全員の理解が、ひとつ先の危機へ届いた。


 外套の男は、それを聞いても否定しなかった。


 ただ静かに言った。


「なら、もうわかるだろう」

 その声は、冷たかった。

「お前たちが守っているのは、村じゃない。檻だ」


 その一言が、前室の温度をさらに下げた。


 だが、ノアは拳を握る。


 たとえそうでも。


 ここで通せば終わる。


 村も。

 井戸も。

 この地下に繋がる全部も。


 青白い返し水が、床の上を静かに巡っている。

 右隠し口はまだ半ば開いたまま。

 敵はすぐそこにいる。

 だが、今はこっちが止めている。


 ノアは壁面石板から手を離し、父たちの隣へ並んだ。


「わかった」

 低く言う。

「だったらなおさら、ここは通せない」


 外套の男の気配が、隠し口のすぐ向こうで止まる。


 近い。

 あと一歩で、この部屋へ踏み込んでくる距離だ。


 だが次の瞬間、向こう側で誰かが小さく告げた。


「……下がりますか」

「いや」

 外套の男は即答した。

「ここで返し石を失えば終わる。押し切る」


 ごり、と再び石が鳴る。


 隠し口が、返し水に逆らうようにもう一段開いた。


 ノアは息を呑み、目の前の白い床を見据えた。


 封蔵区の意味は見えた。

 敵の目的も見えた。


 ここで退けば、封印は破られる。


 ここは蔵じゃない。

 ここは檻だ。


 そして今、その檻の門前で、村の命運を賭けた戦いが始まる。


 ノアは返し石の青い光を背に、静かに構える。


 ――封蔵区前室戦が、始まる。

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