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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~  作者: 破れ綴じ
ヴィクトール

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せっかくの切り札の出番がこれですか

『僕が……自分で変形する?』


 ──あれは確か、シズィを出発して間もない頃の勇者会議だった。




「そうだ。エペの変形能力について、今の運用ではもったいないと思っていてな」


「もったいない~? ボクが振るうだけじゃダメっていうの?」


『まぁまぁエスクリ……』


 シュヴァは新参者だけど割と積極的に意見を出してくれる。

 勇者会議も回数を重ねてだいぶ手慣れてきた頃で、こういう戦術面の話題が増えてきたのは良い傾向だと思うよ。

 目の前の敵をどう倒すかだけじゃなくて、自分達の手札をどう育てるか。そういう話ができるようになったってのは勇者会議として非常に理想的な光景だと思う。


 それですぐに出てくる話題が僕についてっていうのは……だいぶ実験的だけど。 


「今のエペは、エスクリの魔力と指示を受けて変形する。いずれも強力だが、裏を返せばエスクリが握っていなければ何もできない」


『まぁ……そうだね。僕単体じゃただの剣だよ』


「だが、硬度だけは自分の意思で変えられるようになっただろう?」


『うん。これはルメドがそうできるように修理してくれたからね』


「はい! 僕が頑張らせていただきました!」


「なら、その延長線上に──形状の自律変形があってもおかしくないんじゃないか」


 ……なるほど? 

 言われてみれば、硬度の操作と形状の変形って、やっていることの根っこは同じかもしれない。自分の体を自分の意思でどうにかする、という意味では。硬度ができるなら形状も──理屈としては筋が通っている。

 それどころか、応用すればもっと色々できるかもしれない。

 例えば「体の一部を伸ばした状態で変形」して「さらにそこから伸ばした状態に変形」……みたいなことを繰り返せば、疑似的に僕が自律して動く……とか。


「問題は相当な魔力量が必要になることだが……」


「それぐらいならマージュで十分じゃねェの?」


「え、ぼく? ……まぁ、大丈夫かも。それぐらいなら全然問題ないと思う」


「本当に規格外の魔力だな……」


「でもそれだと、今度はマージュがずっと持つ必要があるんじゃない?」


 ああ確かに。今度はそこが問題になるのか。

 今はエスクリが持った状態で魔力を流し込んで運用してるけれど、魔力の潤沢なマージュに手伝ってもらったところで、結局持ってもらうことには変わらないし。

 理屈が通ることと実際にできることは別の話なんだ。硬度操作ですら最初は感覚を掴むのに苦労したのに、形状の連続変化となれば……一体どれだけの魔力が必要になるのやら。

 試したことすらないプロジェクトだし。必要な魔力量は何倍、何十倍になるか分からない。それに比べれば僕の体に溜めておける魔力なんて、せいぜいコップ一杯がいいところだ。


「だから、こう考えた。私の強化魔法で、エペの体内に保持できる魔力の上限を引き上げる」


『ふむ? そんなことができるのかい?』


「できる。そういう強化魔法があるし……本当に覚えていないのか?」


 生憎だけどここにいる全員、当時の強化魔法なんて微塵も覚えてないよ。

 君が攻撃魔法や回復魔法を覚えていないのと同じようにね。


「まぁとにかく。器を大きくするんだ。溜め込んだ魔力を自分で消費する形にすればいい」


「で、広がった器にぼくの魔力を注ぎ込む──ってこと?」


「できるんですかね、そんなこと。いやまぁ、できなくはなさそうですが」


 ……おお。

 シュヴァの強化で僕の容量を拡張して、マージュの膨大な魔力で満タンにする。細かい調整はルメドがやって、溜め込んだ魔力を自分で消費して僕自身が変形を行う。

 確かに今の面子による組み合わせでしか成立しない発想だ。それなら僕を誰か個人が持つ必要はなくなるのかもしれない。

 まさか剣の身分で自律移動のことを考える時が来るなんて……ね。


「それだとボクの立場はどうなるのかな……」


「……それもそうだな。エペ一人で十分になるなら、エスクリが不憫だ」


「いざというときの……不意打ち! って感じで使うのは、どう?」


「それいいじゃねェか。普通の相手は剣が勝手に動くなんて想定しねェだろ」


『僕の意思に関係なくどんどん話が進んでいくね』


 ただ、知らない相手にはとにかく不気味に映りそうなのは分かる。

 自分で言っておいてちょっと情けない絵面だなとは思うし。にょきにょき伸びたり縮んだりしながらずりずり進む剣。目撃したら普通に怖いかもしれない。


 ただ、具体的な運用方法はそれでいけそうだ。

 僕の存在を知らない敵、あるいは僕を戦力外として判断した敵。そこで初めて使う形になれば相当有効な手になるはず。予想外でしかないからね。

 逆に言うと、不意を突く以外の用途では使わない方がいいかもしれない。一回見せたら次以降は対策されちゃうし、切り札中の切り札って使い方になりそう。


「……修理した立場から言えば、不可能とは思いません。ただ、実際に試す場合は段階を踏んで慎重にやるべきかと」


「それもそうだな。いざ実戦で導入して失敗と言うのも忍びない」


「ぼくは魔力いくらでもあるし、いつでも力になるよ」


「いずれボクとエペでタッグ技ができるのかも……?」


 全員が真剣だ。

 こうやって僕のために頭を突き合わせてくれているのを見ると、なんだかくすぐったいような、申し訳ないような。


 でも──悪い気はしないね。


『分かった。やれるかどうかは僕次第ってことだね。頑張ってみるよ』


「よし。では次の休息地で試験運用を始めよう。地道にやるぞ」


 自律変形。僕が、僕の意思で、動く。

 それはつまり──初めて僕が、自分の足で立つということだ。

 剣に足なんて無いんだけどさ。


 初めて使う時が来たら、ヴィクはきっと驚くだろうな。

 そんな日がいつ来るのかは分からないけど……さ。






 *






 それがまさか、こんな状況で使うことになるなんて! 


「じゃあ、今。俺を押さえつけてるのはエペ……で合ってるのか? もしかしてエペは、呪いで剣に変えられてた人だったり……」


『残念ながら剣だよ。人だったこともあるけど』


「……もっと意味が分からないぞ?」


 相当混乱してるな。悪いね。

 ついさっきまでエスクリの手に握られてた剣が、突然人型になって自分を拘束している。

 しかも名前を呼んで話しかけてくる。

 普通に怖いと思う。僕だって逆の立場なら怖い。


 本来はボス戦の切り札だったんだけど。

 不意を突くための秘密兵器。使いどころを間違えたら終わり。そう決めていたのに──まさか味方を拘束するために使う羽目になるなんて、あの勇者会議の誰も想定していなかったと思う。

 僕自身が一番想定していなかった。


「とりあえずこれ、解いてくれないか。ちょっと、キツイ」


『ごめん、それはできない。解いたら最後、僕達はもう絶対に勝てないから』


 なんとしても拘束を解除させて師匠を助けに行きたいのは分かるよ。でも僕だって君を信じていいのか完全に分からない状態で負ける訳にはいかなかった。こうするしかなかったんだよ。

 もし君が催眠や本当に裏切り者で、君の勝利がそのまま魔王軍の勝利になる可能性がある。世界のためにも、僕達は一つの選択肢だって間違える訳にはいかない。

 今頑張ってルメドが全員を回復しに回ってるし、サシナは動く気配も見せない。つまり相手できるのは僕だけ。もうこうなったからには──僕が彼を説得するんだ。


『さっきも言ったように──僕はずっと、意思を持っていた。それを黙っていたのは、色々と……事情があったんだ。君を騙したかった訳じゃない。ただ、言えなかった』


「いや、いい。お前にも事情があったんだろう」


『……ありがとう』


 案外あっさりとそこを受け入れてくれるな。

 いや、受け入れたんじゃないか。今はそれどころじゃないから棚上げしているだけ。器用なのか不器用なのか分からない。


 実際、言えなかったのも間違いじゃないんだ。

 ヴィクに正体を明かすことは、シエルの転生体であることを明かすことに直結する。だから黙っていた。

 でも、黙っていたのは僕達の都合で、彼に対する裏切りと言われても否定できない。僕達に魔王の事実を伏せていたヴィクを責める権利はない。

 ……お互い様、なんて言ったら怒られるかな。怒られていいんだけど。


『その上で。僕は、別に君と敵対したい訳じゃない。問題は情報を信じきれないことだ』


「そんなこと、どうやって……」


『答えさえもらえるなら──僕は村に留まることだってやぶさかじゃない』


「……!」


 そうだ。僕には分からないことが多すぎる。

 君が本当に信じられると分かるのなら、君一人に賭けて待つことだって──僕は良いんじゃないかとさえ思っている。


「……」


 ……それに。

 今だって、君は微かに震えてる。

 まるで……体の自由が利かないこと自体に、恐怖を感じているような。

 拘束、あるいは動けないことを怖がる、閉所恐怖症のような。


 ……あり得ない。

 あり得ないんだよ、そんなの。


 僕は前世で直接あの魔王と対峙した剣だ。シエルの手に握られて、ル・マルの体を何度も斬りつけた。あの存在を、誰よりも近い距離で知っている。

 魔王ル・マルに恐怖症なんてものは無かった。あの魔王には、恐怖という概念が存在しなかった。


 なのに君は。暗がりで固まって、高いところで竦んで、針を震えて、顔が見えないのが怖くて──今こうして、体を拘束されているだけで怯えている。しかも野菜嫌いなんて可愛い弱点のおまけつき。

 今思えば、あの中二病とか。それらしい片鱗は見えていたのかもしれないけれど。

 それを踏まえた上で君の正義感。君の優しさに勇者シエルへの憧れ。何一つ一致しない。

 魔王ル・マルの転生体だと言うなら──どうしてこんなにも、あの魔王と違うのさ。


『だから話してほしい。僕達が信じられるだけのことを。それだけでいいんだ』


 知っているからこそ簡単には従えない。信頼しているから疑問が生まれるんだ。

 あの旅の中で見てきたヴィクトールという人間と、「魔王ル・マルの転生体」という言葉が、どうしても繋がらないんだよ。


 だからまだ何か隠している。

 転生体であること以上の何かが、まだあるんじゃないか? 

 それが分からないと、この拘束は解けないよ。


「……話せない」


『それは、師匠のことがあるから?』


「それもあるが……それだけじゃなくて」


 ……踏み込まれたくないってことなのか。

 師匠の安全という理由だけじゃなく、もっと個人的な領域に、手を入れられたくない。

 このまま「話せ」と迫り続けたところで、彼の口は開かなさそうだ。


 でも、彼は──僕が知っているあの魔王とは違う。

 恐怖症だらけで、野菜が食べられなくて、嘘が下手で、仲間を傷つけたくないと本気で思っている。あの化け物とは──全く別の存在。


 じゃあ、どうするべきだ。

 彼が話せないなら。僕達に言えない何かがまだあるなら……。




 ……そうだ。

 彼は、師匠をプレヴィに殺されてしまうこと。それを危惧してるんだ。

 だからなんとしても僕達を倒して村を出発したいし、とはいえ本当に僕達を殺したくもない。

 つまり、それさえ両立できる条件が提示できれば……。


 だったら……! 






 *






『全員! 聞こえる?』


 これだ。

 この方法なら──もし監視されていたとしても、僕達とヴィクで意思疎通ができる……! 


「! エペ──」


『ストップ! 全員喋らないで! プレヴィに見られてる可能性がある!』


「……!」


『今から、僕だけが話す! いいね?』


 ……よし、よし。皆黙ってくれたね。なんとか察してくれたか。

 事実プレヴィが魔王だとして、これまでの傾向から色々な可能性が考えられる。


 まず、多分占いで未来が視えるというのはハッタリだっていうこと。

 もし未来が視えていたなら、ヴィクがどう行動するかも知っていたはずだし、もっと早い──それこそセティの段階から指示を出せたはずなんだ。

 カトリエの占いはあくまで自分が知っている事実をあたかもそれっぽく言っていただけ。

 つまり、ここで対プレヴィのための話をしても予知はできないはずだ。


 加えて、こっちの状況を把握することはできるんじゃないかってこと。

 だってセティにユイヌ。こっちのいる場所に辿り着いたのは偶然じゃないはず。

 つまり、予知はできなくても──なんらかの方法でこっちの様子を把握したり、監視することができる可能性はある。面と向かって「作戦立てよう協力しよう!」なんて発言することはエネの命を脅かすかもしれないんだ。


 だから……。


『僕の念話なら、もし監視されていても問題なく話せるはずだ。これを利用して、協力する道を考えよう!』


 まぁ、僕から一方的に……にはなっちゃうんだけど。

 それでも全員に同時に声を送れるんだから、この場じゃ最善の選択のはず。


「(エペ、待ってくれ。俺がお前達と……)」


『大丈夫、それだって考えてはいる』


 分かってるよヴィク。

 君だって協力したいのは山々なんだけど、「殺し合い」をせずに「協力」してしまった時のことが心配なんだよね。エネを人質に取られていて、今も生死が確定しないから安心できない。

 だからこうして押さえつけられたままでも、僕の要求をすぐに飲んだりしないんだ。


 でもそれは。


『表向き、「僕達を倒したように見せかけて」別れればいいんだよ』


「(……そ、そうか!)」


 要は、僕達はヴィクにやられたフリをして一旦二手に分かれるってことだ。

 プレヴィは、僕達を倒すまで「命令を聞かせるため」にエネを人質に取っている必要があるけれど。もし僕達が倒された後は「激昂したヴィクから身を守るために」にエネを殺してはいけなくなる。

 僕達が「倒されたこと」になれば、プレヴィはエネを生かさざるを得ないんだ。

 そして脅威ではなくなった僕達は監視の対象から外れ、ヴィクは誰一人殺さず悠々と外へ出ることができる。


 ──「(……っ!? わ、わわわ別れ……!?)」


 ……今どこかで変な声が聞こえたのは無視するからね。

 該当しそうな心当たりが複数いるからこのパーティーは困るんだよ。


 倒されたっていうのは正直色々やりようがある。

 最悪ルメドが治してくれること期待して、大量出血したまま倒れておくってこともできなくはないはず。

 後は僕の変形で型を取って死体の模型を作り、それを置いて僕達も村を脱出すればいい。

 ヴィクが村から出発すれば外の村人を呼び出すこともできるし、彼らに頼めば偽装工作もできなくはない……と思う! 


 勿論、それがバレてしまってエネが殺されてしまう可能性もあるけれど。

 今だってエネが生きている保証はない。悪い方向性を考えていけばキリがない。

 それぐらいなら、悪い方向でも、希望の持てる手段のある方が良い。

 そうじゃないかな? 


『勿論、これはヴィク──君を信じてこそ行える作戦だ』


「(……エペ)」


『だってそうだよね。君が本当に裏切り者なら、僕達は今度こそ本気で。慈悲も無く殺し合うことになる。作戦内容も話しちゃったし』


 ……つまり。

 僕はこれから、「一度ヴィクに負けるためのお膳立て」をしないといけないから。今のこの拘束を解かなきゃいけないんだ。


 もし、ヴィクが僕達の敵なら、この拘束を絶対に解いちゃいけない。

 だって、僕の自律変形という奥の手がバレてしまった以上、もう二度とシエルパーティーは君に勝てなくなる。

 ただ、この作戦が成功すれば。ヴィクがどうしても選ばざるを得なかった二つの選択肢を同時につかみ取ることができる。




『だから、話してもらうよ。今度こそ、さっき聞いた──君の隠し事を』


「(……)」




 拘束を解いたら、全員で再度ヴィクに飛び掛かり、分かりやすく負ける。

 その後、「倒した奴らを処理する」って名目で近くの茂みにでも連れ込んでもらって、そこで今度こそ、君の不自然なところを聞きだすんだ。

 もし君がフリじゃなく、本気で僕達を殺しにかかったら……それはもうそういうこと。正直ここは賭けだよ。


 僕達の命と、師匠の命。

 両方とも救える可能性があるのなら、君にとってこれ以上の願いは無いはずだ。

 それでもなお隠したいと言うのなら、もう僕は君を味方としては見れないかもしれない。

 最後まで抵抗し、君の心に悔いを残して散ることになるだろうさ。


 だから、この作戦に参加するため──君は僕の信用を勝ち取る選択肢を選んでくれるよね?

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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