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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~  作者: 破れ綴じ
交易都市シズィ 及び周辺地域

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秘密が明かされるのは

 ……思ったより、呆気なかったな。


 あれだけの強化を重ねて、覚悟まで決めて臨んだというのに。

 もうちょっと苦戦するかと思っていたんだが……結果だけ見れば圧勝もいいところだ。

 まぁ、被害を最小限に抑えられたから良しとするか。私は使命のために戦っているのであって、手応えを楽しむために剣を振るっている訳じゃない。最善の結果が出たのだから、それでいい。


 そもそも今は、そんなことを考えている場合じゃない。


「あれが……水竜の守っていたものか」


「洞窟? かな。急に水位下がったよね」


「とりあえず、明かりつけてみるね。えっと……『灯れ』!」


「そうだな、私の『索敵』には引っかからないし……中はもぬけの殻か?」


 そう。

 水竜を倒した湖から、こうして──それまでなかった洞窟が現れたのだから。


 あの水竜が守っていた場所。討伐した直後に現れた謎の洞窟。

 眷属や食糧を隠しているだけという線も考えられるが……魔王関連の情報が隠されている可能性も十二分にある。

 ならば本題はここから。ここから先が、本当の意味での探索になる。

 あの先を調査することも、平和を維持するために欠かせない任務の一つだ。


「オレはここで待ってるぜ。一人ぐらいは見張りが必要だろ」


「そうだな。頼む、リュト」


「はいはい。仰せのままにー」


 ……この女は。

 ヴィクトールもヴィクトールだ。彼女に甘くないか。


 まぁ、今更この女に文句を言ったところで態度が変わる訳もないし。

 実際、何かあった時に対処できる人間が外にいないのは純粋に困るから、一人で応対のできる人材が見張りをしてくれるのはありがたいのだが……なんというか、素直に感謝しづらい。


 ……うん。やっぱり罠も待ち伏せも引っかからない。ただ、随分と深い。

 奥行きがこれだけあるということは、相応の空間が待っているはずだ。気を引き締めないと。


「とりあえず、敵や罠は一切ない。油断は禁物だが」


「皆さん、無理しないでくださいね。何があるか分からないので!」


「じゃあ入るよ! せーのっ!」


 ……! 


 ……おお、かなり冷えるな。

 いざ入ってみて初めて分かったが、水の中に隠されていて、陽の光も届かないとなると……ここまで冷え込むものなのか。結構暗いし、マージュがいてくれて本当に助かった。


 いやそれにしても……とんでもなく広いな。

 マージュの炎でも端が見えないくらいの空洞が広がっているのか。

 それに壁面の加工跡はどうだ。なんというか……人為的な模様みたいじゃないか? 

 誰かが何かの目的で掘り抜いた空間か。一体どれほどの労力を費やせばこんなものを……。


 ……ん? 

 あれは……。




「……祭、壇?」




「皆、大丈夫か? 気分悪くなってないか?」


「……すごい瘴気ですね。僕は大丈夫ですが……相当濃いですよ、これは」


「まぁ、うん。ぼくもなんとなく分かる。目には見えないけど、ね」


「あれって間違いなく、あの祭壇? みたいなやつから出てるよね。何なんだろ」


「さぁな。アレが良いものじゃないことだけは私でもすぐ分かるが……」


 奥の方の……黒い石の祭壇。

 そこまで近くもないのに、こうも嫌な気配がするとは……相当のものだぞ。

 私達だから特別大丈夫というだけで、一般人なら何かしら影響が出ていてもおかしくないな。

 何かがいたであろう痕跡もあるし、禍々しい祭壇の周囲には……石板? みたいなものも埋め込まれてる。おそらく実際に魔王軍の拠点だった可能性は高い。


 ただ……それ以外は特に何もない。


 既に持ち去られた後か。

 もうだいぶ年月が経っているように見えるし、ここは捨てられた拠点で、捨てたのは随分前のことなのかもしれない。


「……これ、何書いてあるの? 読める?」


「……? 分からない。ぼく授業はからっきしだったから……」


「うーん……僕にも読めないですね。ヴィクトールさん、どうですか?」


「……ちょっと見せてくれ」


 ……私にも読めないな。

 古い書体だ。今の時代のものじゃない。

 仕方ないが、解読は後にするしかないか。少なくともこれだけは何としても持ち帰らなければ。

 ここに残された唯一の手がかりかもしれないのだし。


 それにしても、この祭壇。この瘴気。この、人為的に作られた空洞。

 全てが嫌な方向を指し示している気がしてならない。

 いや、「気がする」なんて曖昧な言い方はやめよう。

 私の中の勇者シエルが、はっきりと警鐘を鳴らしているような……。


『皆、ここに残ってる気配……間違いないよ』


 ……ん? 


 ああ、エペか。急に話しかけてきたから何事かと。

 何か分かったのだろうか。彼しか知らない情報があるのなら、それが鍵に……。


 ……いや、今のこの状況。

 もし、何か分かったとしたら、それは……。




『これは──魔王ル・マルのもの。ここにあったのは──ル・マルの一部か、それに準ずるものだ』


 ……っ!! 






 *






「(……全員集合!)」


「(えっ……サー!)」


「(い、いえっさー!)」


「(あっ待ってください僕も……あわわ!)」


 ああ何転けかけてるんだルメド! 

 ヴィクトールは……こっちを見てないな、よし。


 それにしても……。


「(魔王の一部……だって?)」


『……ああ』


 待ってくれエペ、本気で言ってるのか。


 ……いや、疑ったってどうしようもないのは分かってる。

 聞いた話だと──エペは前世の最終決戦を一番近くで経験した存在なんだ。

 私は覚えていないが、その記憶が最も鮮明に残っている……その彼が「間違いない」と断言するなら。

 ……それはもう、事実として受け止めるしかないじゃないか。


 噂に聞いていた、占い師の予言だけなら「外れるかもしれない」と希望を持てたが。

 でもこうして、実際にこの肌がゾワゾワするような瘴気の正体まで裏付けられてしまったら……もう「かもしれない」の段階じゃないぞ、これは。覚悟していた事実の説得力が、さらに増してしまった。


「(その、エペ……それはどうして分かったの?)」


「(冗談じゃない、ですよね)」


『冗談じゃないよ。ここに残ってる瘴気は僕の記憶にあるものと完全に一致してる。あの戦いで浴び続けた魔王の魔力なんて、忘れようがないんだ』


 ……やっぱり。

 じゃあもう確定だ。ここはかつて魔王軍が使っていた拠点で、あの祭壇から溢れ出してるのは正真正銘、魔王の残滓ということになる。


 落ち着け、シュヴァ。まず順序を整えるんだ。

 ヴィクトールは今、石板の方に集中してくれている。

 やるべきことは一つ、ヴィクトールに気づかれる前に情報を共有すること。


「(じゃあこの場所は本当に……)」


「(魔王軍の拠点、だったってことか。少なくとも過去には)」


「(そうなりますね……それも相当重要な拠点だったと)」


 ……ルメドの声が特に硬いな。

 無理もないか。彼女は自分の国を蝕んでいたボスにずっと騙されていた当事者でもある。こうした事実にはより一層敏感な気持ちのはず。こうも証拠が積み重なれば、一番堪えるのは彼女だろう。

 ……こんな時に気の利いた言葉の一つもかけられない自分が情けないが。


 ……となると、やはりあの石板か。

 あれさえが読めれば何か分かるかも。


 既に捨てられた拠点だというのに、どうしてあんなものが残されているのかは分からないが。逆にこの場所が魔王軍の拠点だというのなら、あの石板に記されている情報は限りなく重要な情報に違いない。

 やはりあの石板を手分けして運び出し、ディアマの情報網で解析するしか──


「(──ん? マージュ? マージュは?)」


『え? あ、ほんとだ。いつの間に……』


 あれ。

 本当だ、マージュがいな……。


 あっ。




「これが……で……いくつかの拠点……この場所に……」


「──ヴィクくん、これ読めるの?」


「ん、ああ。この文字は俺も勉きょ………………あっ」


 ……んん? 




「ヴィクくん、今これ、読んでたよね」


「……いや、読めない、な。さっぱり、分からなかった」


 えっと……何を。


 ……いや、でも確かに。

 私も一瞬見えたが、彼は確かに何か読んでいるようだった。

 さっきの間だって、「分からないから考えていた」間じゃない。あれは明らかに「どう答えるか迷った」間だ。

 私はヴィクトールの横顔を何年も見てきたんだから……彼が嘘をついたり誤魔化したりする時の目の泳ぎ方ぐらい、今でもはっきり覚えている。


 昔から嘘をつくのは……壊滅的に下手だった。

 でもそれが……まさか? 


「……ヴィク? ホントに? なんかさっきずっと見てたけど」


「いや、気になっただけだ。何か大事なことが書いてあるかと」


「何か分かったんですか? ヴィクトールさん」


「……皆は気にしなくていい。大したことじゃなかったから……」


 ……嘘だ。


 完全にたじろいでいるし、視線が泳いで言葉も出てきていない。

 こうなるともう隠しきれるはずがないんだ。

 嘘をつくのが壊滅的に下手なんだよ、君は。

 昔から。本当に。


 でも──分かってしまった。

 彼は……読めているんだ。あの石板に書かれている文字が。

 何故かは分からない。もしかしたら彼が良く語っていた──「故郷」では有名な言語だったり、彼が個人的に勉強しただけなのかもしれないが。


『……また、これだ。また、抱え込もうと……』


 ただ問題は──彼が「読んだ内容を隠そうとしている」ということ。


 きっと彼は、あの石板の内容が読めてしまって。

 しかも、その内容が魔王に関連するものだと理解してしまったんだ。

 そして、魔王復活についてはずっと隠し通してきたから。

 今も自分だけで抱え込もうと、「何もわからなかった」と嘘をついているんだ。


 魔王復活の予言を聞かされた時もそうだったんだろう。

 一人で抱え込んで、仲間に心配をかけまいとして。

 彼はいつもそうだ。相棒だった頃からそうだった。自分がどれだけ傷ついても、周りに弱みを見せようとしない。おかげで仮面恐怖症だって私は知りもしなかった。

 あの頃の私にはそれが「強さ」に見えていたけど──今は、なんだかそれが、辛い。


 ……ここで見過ごしたら、また彼を一人にしてしまう。

 あの夜、はぐれた時みたいに、また一人にしてしまう。


 それだけは──絶対に、嫌だ。


「……エペ」


 ……ここで引くか、踏み込むか。

 もし失敗すれば、どんな結果が待っているか分からない。


 ただ、彼は──僕の相棒だ。

 彼だけに重荷を背負わせない、だなんて。

 それは使命よりもっと先に、僕が僕に課した誓いじゃなかったのか。


『……なに、シュヴァ?』


「一つ……頼みがある」


『……聞かせて』


 だから、賭けに出よう。

 一世一代の、賭けに。


『──なるほど、分かった。全員に伝えるよ!』




「(それは……いや、分かったよ!)」


「(えっと、話を合わせろってことだよね。頑張るね!)」


「(わ、分かりました! ヴィクトールさんのためですから!)」






 *






「ヴィクトール、隠さなくていい」


「……シュヴァ?」


「私も、この文字は研究したから……読める。君が隠そうとしても、意味は無い」


「──っ!?」


 ……我ながらとんでもないことを言った。

 心臓がうるさい。顔に出てないか、大丈夫か私。

 いや、堂々としろ、シュヴァ。

 かつての勇者が相棒の目の前で崩れてどうする。


 これは賭けだ。

 完全なハッタリだ。


 私はあの石板の文字なんて一文字も読めやしない。研究なんてしたこともない。

 でも、彼が嘘をついているのは分かっている。読めているのに「読めない」と言った、私達を巻き込まないためだけの、あの目の泳ぎ方を見間違える訳がない。

 だったらこっちも、嘘で突っ込むしかないじゃないか。

 これ以上、君に一人で抱え込ませる訳にはいかないんだ。


「その石板に書かれているのは──『魔王復活について』、だろう?」


「!?」


 だからこうして、内容をこちらから──先回りして当ててやる。


 分かっている。

 これでもし内容が違えば。あるいはもし読んでみろと言われれば。その瞬間私の賭けは失敗する訳だが……おそらく前者が間違っているということはない。ここが魔王軍の拠点だったなら、この石板に魔王と無関係なことが刻まれている方がおかしい。


 むしろ情報が正確であればあるほど、カマかけの精度も上がるはずだ。内容を先に当てられれば、「じゃあ読んでみろ」と言う必要もない。

 文字が読めることに関しても、「勇者シエルの信者」という厄介な設定が──そういう研究をしていてもおかしくないという認識を生み出している。


 そして、そもそも彼は。

 私を試すようなことをするより……。


「待てシュヴァ! それを皆の前で言っては……!」


「落ち着け、ヴィクトール」


「し、しかし……!」


 ……ああ、やっぱりそうか。

 そう来るよな、君は。分かっていたよ。分かってて仕掛けたんだ。


 それに、今の反応で全部裏が取れたぞ。

 私が読めることに驚いたんじゃない。皆の前でと言ったんだ。中身を否定しなかった。

 怖がっているのは秘密がバレることじゃなくて、危険な情報が仲間に広まることの方だ。

 そのために今まで一人で抱え込んで、一人で背負って、誰も巻き込むまいとして。

 ……本当に、昔から変わらないな。不器用で、優しくて、馬鹿みたいにお人好しで。


 でも、まだだ。

 ヴィクトールはまだ諦めたりしない。こいつは諦めの悪い男だ。

 私を「皆には聞かせるな」で止めようとするか、それとも「本当に読めるなら二人きりで話をしよう」と別の逃げ道を探すか。

 どちらにしろ、私一人のハッタリだけじゃこの男は折れない。「読めるから無駄だ」だけじゃ足りないんだ。もう一つ、逃げ道を塞がなきゃいけない。


「……ヴィク、大丈夫だよ」


「……え?」


 だからな、ヴィクトール。

 それはこっちも織り込み済みだ。

 そのために、わざわざ──「ヴィクに聞かれないよう、全員に伝言ができるエペ」に口裏合わせを頼んだんだから。


「ボクは……そのために旅をしてるんだから」


「ぼくも、覚悟はできてるよ。ヴィクくん!」


「僕もです、ヴィクトールさん! むしろ聞くまで帰しませんから!」


「そうだ、ヴィクトール。このパーティーは、そんなことを恐れる集団じゃない」


「……!」


 だって考えてもみろ。

 このパーティーは元々ボスを討伐して回るという目的のために集まっていったパーティーなんだ。魔王の復活は確かに予想外のイベントだったが、だからといって私達シエルは皆旅を諦めたりしないし、そのことは一緒に旅をしてきた君自身が一番よく分かっているはず。

 ……まぁ実際にこの石板を読む前からその事実は知っている訳だが。


 そもそも今の、誰が何を知っていて、誰が何を知らないかという複雑な状況も、今ここで清算すべき。全員一丸となって魔王に立ち向かうべきだ。

 勇者が嘘をつくなんてとも思ったが……元々私は平和のためなら不意打ちだろうが、事前準備だろうが、卑怯な手段だって使ってやると決めている。ハッタリの一つごとき痛くも痒くもない。

 ……心臓はまだやかましいけど。


「……皆」


「ヴィクトール、隠さなくていい。私達は──仲間だ」


「……っ」


 ……さあ、どうする。

 まだ抵抗するか? まだ一人で背負おうとするか? 

 読める人間がいて、全員が覚悟を示していて、それでもまだ隠し続ける意味があると思うのか? 

 思わないだろう。君は存外頭のいい男だ。感情で判断を曲げることはあれど、合理的な判断を優先してくれるはず、だから。




「……すまない」


 ……っ、はぁ……! 


「実は俺……皆に、隠していたんだ。魔王のこと……驚くかもしれないが……」


 ああ、よかった……! 




「その、皆がよければ。聞いてもらえないか。そしてその上で、俺の力になってほしいんだ」


「……当然じゃないか。皆同じ気持ちだよ、ヴィクトール」


 君の仲間を想う気持ちは素敵だ。

 そしてそれ以上に、世界を救うため、孤独でもそれを耐えようとする君のこと。

 私は相棒として、誇りに思っている。


 だからこそ、私達に打ち明けてくれて。

 私達が打ち明けられて、本当に良かったよ。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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