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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~  作者: 破れ綴じ
交易都市シズィ 及び周辺地域

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いやまぁ解決したけども

 あの日からずっと、思い出し笑いが止まらない。

 こんなの誰かに見られたら「金髪の戦乙女」の名が泣くというのに。

 でも……仕方ないじゃないか。

 あの日の二人の食事が、どうしても頭から離れてくれないんだから。


 リュトという大きな誤算はあったが……それでも、ヴィクトールと二人きりで語り会えたのは何年ぶりだったか。

 彼が笑うたびに、ああ変わってないなって安心して。でも少しだけ大人びた横顔を見つけて、それがなんだか嬉しくて。


 彼は私が「金髪」の通り名で呼ばれていたことも少し気にしていたな。

 それもそうだ。「顔の見えない相手は信用できない」みたいなことをかつて言っていたのは他でもない彼自身だった。だから私は兜をつけないようにしていたんだぞ? 

 今の私の通り名は、間違いなくそれが原因だろうな、だなんて。


 あんな他愛のない話ができて、久しぶりに満たされた気分だ。

 あの方位磁針だって……今も鎧の内にしまったまま。まだ使い方もろくに分かっていないのに、きっと手放すことはないだろうという確信だけがある。


「……こほん」


 なんて──ずっと思い出に浸っている場合でもないな。いい加減切り替えないと。

 彼とのデー……食事のために、わざわざ滅多に使うことのない休暇をディアマに願い出て。それで時間を作っていた訳ではあるが。

 その休暇ももう終わり。今日からまた仕事が再開するんだ。


 いずれ私はディアマとの契約を破棄する必要がある訳だが……これをまたどうすべきか。

 ディアマは変人だ。謎の仮面趣味は理解し難いし、金の匂いに対する嗅覚は獣じみてるし、会話の端々で神経を逆撫でされることも一度や二度ではない。

 でも──私がこの街に来たばかりの頃、実績も信用も無かった私に真っ先に手を差し伸べてくれたのは彼女だった。この鎧も、情報も、今の活動基盤の全ては彼女が揃えてくれたもの。

 その恩を踏みにじって「世界のために旅に出ます」と言い出すのだから、きちんとした大義名分が無くてはいけない。


 まぁ今考えても答えは出ないか。

 出ないなら、今はやるべきことをやるだけ。

 また依頼をこなし、そこで結果を出して、その上で改めてディアマに話をつける。時間も無いしできるだけ早くに。


「……そういえば今、客が来ているんだったか」


 ディアマが誰かと応接室で話していると、さっき使用人が言っていたような。

 依頼人か、あるいは商談相手か……まぁ、大きな商談の相手であればもっと時間をかけるだろう。依頼人と考えるのが妥当か。


 少なくとも、私が直接出向く内容では無さそうだ……。




 ──バタン! 


「失礼しますわシュヴァ! 今お時間ありまして?」


「……ノックをしろ!」




 ……今さっき直接出向く必要はないとか思ってたのに。

 噂をすればというやつか。


 しかも何だその顔につけているものは。

 また変えたのか。前の仮面はどこにいった。


「今度は何の仮面にしたんだ……」


「最新作ですわよ! 道化のマスク! 笑顔が素敵でしょう?」


 なんとも言えないな。

 禍々しさは消えたが、ふざけた感じは三倍増しだぞ。

 その笑顔が素敵かどうかは間違いなく意見が分かれるところだと思うし。そもそもついさっきまで客人と話している最中だったのだろう、そういう時ぐらい外すのが常識じゃないのか。

 まぁいい。いちいち突っ込んでいたら日が暮れる。


「それで、何か用か? 依頼なら準備はできているが」


「あ~、それがですわね。ちょっと来ていただけます?」


 ……? 

 なんだ、その歯切れの悪さは。ディアマにしては珍しいな。




「貴女お気に入りの例の殿方が、討伐の依頼にいらしたのですけれど」


「……ん? え、は、お気に入り?」


「それで、応接室でわたくしが相手をしようと思ったのですが~……」


 えっと……? 

 殿方っていうのは……ヴィクトールのことか? 

 え、あれからものの数日でまた彼が? 

 というか彼が依頼に? ディアマの元へ? 




「なんか──壊れてしまいましたわ」


 は? 

 ……はぁっ!? 






 *






「ヴィクトール? ……おい、ヴィクトール」


「……はっ。俺は一体何を」


「ほーら、わたくしの言った通りでしょう?」


「っ!?」


 えぇ……なんだこれ。初めて見るんだが。

 ……どうしたんだ、君? 


 応接室に向かったはいいが──何がどうなったらこんなことになるんだ。

 椅子に座ったまま微動だにしてなかったし、なんか変に縮こまってないか。

 いや、彼に大事が無かったようでとりあえず一安心ではあるんだが……。


「わたくしが入るなりこうなってしまって、まだあのままですわ! 話し合いどころか挨拶すらさせてもらえませんのよ!」


「ふむ……」


 隣のうるさいディアマのことは置いておくとして。


 私が部屋に入って来てもすぐに返事をしなかったのはどういう了見だ。

 本当にヴィクトールか? いや、彼であることには間違いないのだが……。

 もっと若い頃でさえ魔物やボスをズバズバと葬り去ってきた男が……どうしてこんな応接室の椅子の上で抜け殻になっているんだ。


「ヴィクトール、私だ。シュヴァだ。聞こえるか?」


「(シュヴァ……? ……あ、ああ。すまない。少し気が動転して)」


 ……なんだその反応は。

 何も小声で話さなくても。本当に大丈夫か。

 目の前にいるのは君の相棒だぞ。とりあえず正気に戻ってくれてよかったが。

 まだ顔色は良くないが、目の焦点が合っているならひとまず安心していいか。


 にしても、どうしてこうなったんだ? 

 彼がこんな状態になるなんて想像もできないし。毒にしても、敵襲にしても、催眠魔法にしても……彼がそれを無抵抗で受けたりする訳もないし。この様子だと何かあったのは間違いないのだが。


「大丈夫か、ヴィクトール。何があった?」


「(いや、その……悪い。ここに通されて、一人で座って待っていたら……扉が開いて、あの仮面が出てきて)」


「……仮面?」


 ディアマのつけている、あの仮面? 

 確かに奇妙な仮面だし、初めて見れば驚くだろうが、だから何だと言う……。




「(……実は俺、ああいう。表情が見えないのが、昔から……駄目で)」


「……は?」




 ……仮面が、駄目? 

 いや、表情が見えないのが苦手なら……あの道化の顔が駄目なのか? 

 だから、あのディアマの仮面を見た瞬間に、こうなったと? 

 じゃあ、君はもしかして……。


 まさか──仮面恐怖症か、あるいは道化恐怖症だとでも、言うのか? 


「えぇ……」


 ……知らなかった。そんな弱点があったのか。

 あれだけ一緒にいてまるで分からなかったんだが。これじゃ性別に気づかなかった君のことを馬鹿にできないじゃないか。


「(いや、情けないとは思ってるんだ。ただ、こればかりはどうにも)」


「いや、まぁ。それなら……そうか。ディアマは怖いよな」


「(あ、ああ。まさか仮面をつけているとは思わなくて)」


 いくらあの仮面の趣味が悪いとはいえ──あれだけの武人が、仮面一つでここまで無力化されるだなんて正直今でも信じられない。

 だが、実際にこの目で見てしまった以上、否定のしようがないのも事実……。

 ということはまさか、「顔の見えない相手は信用できない」というのも、ただ兜を被られて顔が見えないのがダメだというだけなのか。今自分でも気づいて驚いてるぞ。


 ……あれだけ頼りになる彼が。

 あんな訳の分からない者に恐怖しているのは、ちょっと意外過ぎて飲み込めていないが。


「(それでも……助かった。その……話し合いの間、側にいてくれないか)」


「……っ!」


 い、いや、そうだな。

 そうだな! そこまで言うなら仕方ないな! 


 こうして知ってしまった以上は──私が隣にいるべきだろう。今の話からすると、ディアマがすぐそこにいる限り、彼一人ではまともに交渉もできないということなのだから。

 だから、最初の相棒である私の肩を貸してやろうじゃないか。

 深い意味は無いぞ! 君が困っている時に手を差し伸べるのは当然のことだからな! 






 *






「改めまして! ヴィクトール様、ですわね? シュヴァの元相棒とは伺っておりますわ」


「ああ、さっきまでは悪かった。討伐の依頼をしたくて」


 ふぅ……落ち着いてくれたようでよかった。


 あんな状態のヴィクトールを見るのは初めてだったから正直どうしようかと思ったが……隣に座って少し話しかけていたら、みるみるうちに顔色が戻ってきて。立ち直りの早さだけは相変わらずだな。あれだけ青ざめていたのが嘘みたいだ。


 とはいえ、ディアマがあの仮面をつけたままである以上、完全に安心はできないが。私がこうして隣にいるなら大丈夫なんだろう。多分。

 ディアマに隙を見せる訳にもいかないし、そもそもあの女は他人の都合で仮面を外したりしてくれなさそうだし。このまま耐えるしかなさそうだ。


 となると、次の本題は「ヴィクが上手く依頼の交渉をできるのか」という話だが……。


「ここから離れた場所にある湖に──水竜が棲みついている。その討伐を依頼したい」


「湖の水竜……ああ、アレですわね!」


「……そんなものが? ディアマ、知っていたのか」


「ええ、一切利益にならないので無視を……ああいえ、なんでもありませんわ!」


「おい」


 私は初耳だったんだが。

 さてはこの女、そういったボスがいるという事実を知っておきながら、金にもならないし依頼も来ないという理由で私に教えなかったな? 

 問い詰めたところで何も言わないのは分かってるからもう聞き返したりはしないが。こういうところは相変わらずだな。


「しかしながら──その依頼はちょ~っとお受けできませんわ!」


「……そうか」


「だってあの水竜、湖から出てこないんでしょう? 被害が出てないんですもの、報酬金が集まりませんわ。違います?」


 まぁ、それはそうか。

 むしろ一瞬でも考えるそぶりを見せなかったのが清々しいというか。


 依頼が出ていないということはそもそも被害が出ていないということ。

 人々を苦しめている存在だというなら大急ぎで討伐しに行くべき案件だが、そうでもないなら他に優先すべき案件に取り掛かった方がいいに決まってる。

 依頼にならない以上、人がいないということだから商路の確保にもならないし、報酬も出ないからディアマにとっても本気で討伐する意味がない。

 その上、人がいないなら集まってくる情報だって少ない。ボス討伐においてそれは致命的だ。だからディアマは、私を向かわせなかった……というのもあるだろう。




「それにシュヴァはわたくしの大切な手足ですのよ。実質姉妹のようなものですわ!」


 ……ん? 





「そんな得体の知れない場所に送り出すだなんて、お姉さん心配で夜も眠れませんの! 分かります?」


「な、なるほど。確かに、貴女の言うことは分かるぞ」


「でもでも! その上でさらに頼みたいというのなら──」


 姉妹。お姉さん。

 ……はぁ。何を言い出すかと思ったら。


 ……この女がこういう言い回しをするときは、大抵報酬を吊り上げるための方便だ。情を見せるふりをして、「大切な人材をタダでは貸せない」という値段交渉の下地を作りたいだけだろう。

 ……いや、全く情がこもっていないとは言わないが。少なくとも今の文脈では九割方ポーズだと見ていい。


 それどころか、ここからそれを理由に傭兵勧誘をしようとするんじゃないか? ディアマは。

 エスクリ達にも同じ勧誘をしていたことは知っているし。要は私一人じゃなく、ヴィクトールの戦力ごと取り込もうと……そういうことをしでかしてもおかしくはない。

 相手にこちらを動かせるだけの報酬を準備できない、しかしその報酬を稼ぐだけの力はあるとみて、こういった真似を──




 ──ドサッ


「これでどうだろう」


 ……ん? 





 ……な、何を。

 え、なんだあの麻袋。とんでもない大きさの……どこから出した? 

 袋と呼ぶにはあまりに重厚な音がしたぞ今。テーブルが軋んだんだが。


 というか、この袋の中身……。


 ちょ、ちょっと待ってくれ。

 今中身が見えたんだが……白金貨? 

 白金貨じゃないかあれ。貨幣でぶっちぎって一番価値の高い……。

 しかもかなりの量が──おい嘘だろう。なんでこんな額を持ち歩いているんだ。


「でも……で、も……」


 ……ディアマが固まったぞ。

 あの仮面の下の口が、半開きになったまま……この女がこんなに黙ったの初めて見るんだが。


 確かにボスの討伐報酬は高額だと聞くが、それにしたって……あれは一般人が一生かけても稼げないような額じゃないのか? 

 私はボス討伐の報酬を全てディアマに託してるからあまり考えていなかったが……かつて二人でしていた頃でさえ、ここまでの報酬が出たことは無かったぞ? どれだけの数を、あるいはどれだけ強力なボスを? 


「まあ~~~~~!!」


 あ、復活した。


「話が早くて助かります!! いやぁ素晴らしい!! 最っ高のお客様ですわ~~!!」


「お、おう。喜んでくれてよかった」


「ええ、ええ、それはもう! シュヴァ!!」


「な、なんだ」


「次の目的地は彼から聞きなさい!! 水竜討伐、正式に受注ですわ!!」


 即決したぞこの女! 

 やっぱり案件の優先度なんかどうでもよかったんじゃないか! 


 さっきまで「お受けできませんわ」「被害が出てませんもの」「大切な姉妹ですわ」とか言っていたのに──金貨を見た瞬間にこれだ。姉妹はどこに行ったんだ。お姉さんの心配は? 

 あれだけもっともらしい理由を並べておいて、こんな麻袋で全部ひっくり返すなんて。情に訴えるのが方便だったのは読めていたが、ここまで一瞬で化けの皮が剥がれるとは! 


「ヴィクトール様! 素っ敵なお取引をありがとうございますわ! 詳細はシュヴァを通してくださいまし!」


「ああ、えっと、助かる」


「では!! わたくしは金庫の準備がありますので! ごゆっくり打ち合わせなさってくださいまし! あ、お茶とお菓子持ってこさせますわね!」


 あ、出て行った。


「………………はぁー」


「その……お疲れ」


「ああ……ずっと視界に入っていたから、正直かなり限界だった」


 ……なんだその、魂が抜けたみたいなため息は。

 さっきまでとてつもない額の白金貨を叩きつけてた男と同一人物とは思えないぐらい力が抜けてるじゃないか。肩まで落ちてるし。

 もしかして、あんなとんでもない額の金貨を平然と差し出せたのは、度胸があったからじゃなくて、一秒でも早くあの仮面との対面を終わらせたかっただけなのかもしれないのが怖いぞ。


「とにかく本当に助かった。すまない、シュヴァ。強引なやり方で」


「いやまぁ……いいさ。理由はどうあれ、ディアマを黙らせたのは事実だ」


 本当にそうだ。

 あのディアマを相手に、論理でも弁舌でもなく──恐怖からの逃走と物量で制圧するだなんて。


 それだけ、次の敵が凄まじい強敵だということなのか。

 正直、私の強化魔法と、今のヴィクトール含む勇者パーティーではほぼどんなボスに対してもオーバーキルだと……いや、それだけの覚悟をして臨むべきだということだよな、うん。


「じゃあ、シュヴァ。頼りにしてるぞ」


「……分かった。君の期待に応えられるよう努力しようじゃないか」


 さっきまでの交渉のことは、もう忘れよう。

 今の私がすべきことは──彼の信頼に、全力で応えること。

 次の強敵……水竜のボスとやらに対し、誰も傷を負うことなく完全な勝利をもたらしてやることだ。


 な、ヴィクトール。

 僕達の強さを見せつけてやろうか……! 






 ……見せつけて。

 見せ、つけて……。


「シュヴァの強化って本当に凄いんだね。ボクの腕があそこまで早く動くなんて」


「ぼくも自分で回避しながら魔法撃てたし、流石にびっくりしたよ」


「……一撃で穴開いちまったぞ。やっぱりやべェ力なんじゃねェか?」


「へぇ。僕は後衛職なので分かりませんが、そんなに凄いんですか?」


「まあ、そうだな──とはいえ、ここまで有利になるとは思わなかったが……」


「そう、だな。私も、負けはしないと思っていたが……ちょっと意外だった」


 ……本当にオーバーキルだった。

 可哀想なぐらい、圧勝してしまった……。


 いやまぁ……これで良かったんだよな?

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