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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~  作者: 破れ綴じ
交易都市シズィ 及び周辺地域

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最後ぐらい空気読めないか?

 石板には魔王軍の拠点と思われる場所の情報が、いくつか刻まれていたらしい。

 らしいというのが、読めない私の至らない点ではあるのだが。


 ……やっぱり、ヴィクトールの声が洞窟の中で反響すると聞き取りにくいな。

 でも今の彼は一言一言を選びながら、慎重に、ゆっくり話してくれているから……なんとかついていける。


「──シュヴァがこの文字を読めるのは……やっぱり、勇者シエル信者だから、なのか?」


「ん? え、ああ。そうだな、研究とか、してたからな」


「そうか。俺もシエルの軌跡を追うためこの言語を勉強していたんだ。言ってくれれば一緒に勉強できたんだが」


「それも、そうだな。ははは……」


 なるほど……彼があの石板を読めたのはそういう。

 彼の勇者シエルへの傾倒が、こんな形で役に立つとは……。


 正直なところ、古語の研究なんて普通の人間がやることじゃないし、かなりの執念がなければ一生触れることもなかった知識のはずだ。彼の熱意にはただただ感服する。

 ……同時に、彼がどれだけ僕自身を追い求めてきたかを突きつけられるようで……何故だかめちゃくちゃ恥ずかしいんだが。知らないところで、彼はそれだけの時間を費やしていたのか。


 というか、前世でもこんな文字列見たことないんだが。

 本当にいつの言葉なんだ? 


「それで、最も名前が多く出ていたのが『セティ』という場所だな。そこに『第七集積所』と記されて……ほら、これだ」


「ん……あ、ああ。そうだな。確かにその場所に書いてあるな、『セティ』と」


「いや、これは『第七集積所』だぞ?」


 あ。


「……そうだな。きちんと読めるぞ、私は」


「ほらヴィク! こっち見てこっち!」


「あっちょっエスクリ引っ張るな、分かった、分かったから」


 あっぶなぁ……。

 今のさっきで言語の話をしていたのに。急いでエスクリが気を逸らしてくれたからよかったが、思わずボロが出るところだった。

 奇跡的に信じてもらえたからいいものの、あんまり適当喋りすぎるのも良くないな。そんな線の羅列見せられても私には何も分からないんだし。


 セティ、か。

 名前は聞いたことがあるぞ。確か……そこまで大きな場所ではない、長閑な農村のはず。

 ディアマの商会網で見かけた名前だったか、それとも依頼の書類に載っていたか……どちらにせよ、私自身が足を運んだことは一度もないが。

 まさかそんな場所に魔王軍の拠点があったとは。信じがたいが、逆に人の目が届きにくい僻地だからこそ、隠れ蓑に狙っていたということか? つくづく思考回路が悪辣な連中だ。


「セティは、ここからだと……どれぐらい離れているんだ?」


「南西だな。馬車を使えば一か月ぐらいか。途中の補給地も多いから心配する必要はないだろうが」


「ぼくたちずっと北上してたから南ってなんか新鮮だなぁ……」


「僕の方で大まかなルートは組めますよ。最適最速なルートを組んで見せます!」


 おお、賑やか。

 私もシズィ周辺の地理には明るいが、そこから離れた遠方の事情となるとまるで自信がない。こうして意見を出し、整理してくれる人がいると、やっぱり頼りになるし、こっちも落ち着いて思考ができる。

 そうだ。やっぱり仲間というのはこういうものだよな、ヴィクトール。


「……皆には、秘密にしていて悪かった。これから、大変になるだろうが……」


「いい加減にしろ。全員覚悟できていると言ったのだから」


「そう……だな。悪い」


 ……もう。

 秘密にしていたい理由があるのは分かっていたが、一人で抱え込んで進み続けるにも限界があるんだ。

 ヴィクトール、君は……やっぱり、仲間がいた方がいい顔をする。

 だから、もっと私達を頼ってくれればいいんだ、なぁ。


 ……とか言ってたら、そろそろ出口か。

 やっとこの鬱屈とした空洞を抜けられるんだな。




「おー、戻ったか。長かったな」


 ……まぁ、リュトはいつも通りだな。

 あの話を聞いていた訳でもないし、もうこの女に緊張感を求める方が間違っているか。


「見張りありがとう、リュト」


「いーって。で、次は何処だって?」


「セティという場所だ。南西にかなり距離がある」


「ふーん、知らねェなァ。まぁどこだって行けるが」


 本当にあっさりしてるな。

 中で何があったか聞きもしない。聞く気がないのか、聞いても仕方ないと割り切っているのか……多分後者だろう。


 ……この女もヴィクトールの話を聞いて、彼の気持ちを理解してやれれば。

 いや、この女は事実を知った上で自由を諦めていないし、話を聞く人間が増えすぎてもそれはそれでヴィクトールの負担になるか。


 リュトだけはこれぐらいの距離感の方が、彼にとっては良いのかもしれない。

 こんなのが自分自身なのはやっぱり納得いかないが。




「(……チッ)」


「(声が響くから全部聞こえてんだよ。ヴィクがどんな気持ちだったかなんて……)」


「(協力してやるなんて言ったのに……オレまだ、何にもできてねェんだぞ?)」


「(だってのに、次の街でどんな顔して『じゃあまた今度』だなんて言えばいいんだ)」


「(だーもう……調子狂う……)」






 *






 帰り道の馬車は、行きより随分と静かだ。まぁ、皆案外疲れているのかもな。

 エスクリとマージュは向かい側の席で小声で何か話してるし、ルメドは地図を広げたまま黙り込んでる。リュトは……荷台の方で寝てるのか、気配がしない。逞しいというか、図太いというか。


 ヴィクトールは……秘密を打ち明けて楽になったのか。

 それとも打ち明けたことへの後悔が渦巻いているのか。

 あの場所で皆の前に情報を広げた時の顔は、苦しそうではあったけれど──孤独ではなかった。それだけは確かだと思いたい。


 さて、となると残るは私自身のことだが。


 水竜の討伐はこれで完了した。ディアマが受けた依頼としては、もう任務は終わりだ。

 普通なら……このままシズィに戻って、ディアマに報告をして、次の依頼を待つ。いつも通りの状態に戻るだけ。実際ディアマもそのつもりだろう。

 でも、もうそういう訳にはいかない。


 次に目指すべき拠点の場所も判明した。

 この先の旅は今までのボス討伐とは訳が違う。世界そのものの存亡がかかっている。

 それを知ってしまった以上──ここで「じゃあ、私は仕事に戻るので、後はお互い頑張ろう」……だなんて、言える訳がない。


 勇者シエルの使命はまだ終わっていない。それどころか、始まってすらいなかったのかもしれない。

 雇い主の依頼でボスを一体ずつ潰していくだけで満足していた今までの私は、結局のところ本当の敵から目を逸らしていただけだ。


 それに──ヴィクトールがいる。

 やっと再会できた相棒と、私はこれから本格的に世界を救う旅をしなきゃいけない。


「ヴィクトール」


「ん? どうした、シュヴァ」


 振り返った彼の顔は、やっぱりいつも通りだ。

 平気そうに見えて、その裏でどれだけのものを抱え込んでいるか……もう私は知っている。


「水竜の討伐で、ディアマとの契約は一区切りだ。この依頼をもって、私の任務は完了する」


「と、いうことは……」




「そうだ。これからは傭兵としてじゃなく──仲間として、君達と一緒に行く」


「……そう言ってくれるよな──ありがとう。シュヴァ」


「あぁ……!」




 私の強化魔法は、この先の戦いでも間違いなく役に立つはずだ。

 それに……君の相棒を名乗った以上、途中で降りるような真似はしない。

 ただの傭兵から、正式に仲間へと迎え入れてもらう必要があるんだ。


 中途半端な言葉で濁したくなかった。

 私は曖昧なことが嫌いだし、何より彼に対しては誠実でありたい。

 だから、こんな……宣誓みたいな言い方ではあるが。

 きちんと君に宣言をしようと思ったんだ。


「と、なると……傭兵との契約はどうするんだ?」


 おっと。

 まぁ当然の疑問だよな。私が「仲間になる」と宣言したところで、現実問題としてディアマとの契約が消える訳じゃない。


 だが。


「心配するな。問題ない」


「……?」


 まぁ、この装備は返却しないとだから……今より軽装になってしまいはするが。

 それも仕方ないだろう。


 とりあえず、この石板を少し借りるぞ。

 もう用済みだし、持てる情報はすべて得た──だよな? 

 不安げな顔をされるのは困るんだ。

 私の判断を信じてほしい。


「僕に──良い考えがあるんだよ」






 *






 いつもは依頼を終えて帰ってくるだけの場所なのに、今日は自分の足音がやけに響く気がする。

 まぁ、これからやろうとしていることを思えば当然か。


「おかえりなさいませシュヴァ! 水竜討伐、お見事でしたわ!」


「ああ、ただいま」


「いやー凄かったですわねー! あのヴィクトール様の報酬もたっぷりいただきましたし、くくく……! おかげさまで今期の収支は最高記録を更新ですわ!!」


 ディアマは結局こうなのか。まぁいつものことだが。

 相変わらず報酬金のことしか頭にないんだろうな。あの白金貨の山を前にした時の彼女の顔は仮面越しでも分かるぐらい輝いていたし。たった一件の依頼でそこまで稼げたんだから、しばらくは機嫌がいいだろう。


「ささ! さっそく次の依頼なんですけども!」


 ……その機嫌を、今からぶち壊すことになるんだが。


「いや──その前にディアマ。話がある」


「? はい? 何ですの?」




「単刀直入に言う。傭兵契約を……破棄したい」


「………………まぁ!」




 ……それは、驚いてるのか。

 いや、驚いてるよな。変な間があったし。

 まぁ、突然すぎるのは分かっている。だが、私は回りくどいことが苦手だし、この女相手に下手な前置きをすれば逆に付け入る隙を与えるだけだ。


「理由を聞いてもよろしいかしら?」


「やるべきことができた」


「なるほど……急なお話ですわねぇ」


 余裕そうだな。

 まるで慌てちゃいない。むしろ楽しんでいるような響きすらある。

 まぁ、この女は私以外にも傭兵をいくつか保有しているし。本業もあるから、稼ぎ頭とはいえ私がいなくなっても即没落するわけでもない。


 ……それにしては仮面が似合わなさすぎてちょっとアンバランスだが。

 結局なんなんだその仮面は。ヴィクトールを怖がらせただけだぞ。


「その鎧も、名声も、この街での地位も。ぜーんぶわたくしが貴女に準備したもの」


「分かっている。その上でこう頼んでいる」


「ふーむ? 相当大事な案件なのかしらぁ?」


 白々しい。

 どうせ全部分かっているだろう。

 魔王復活の話は間違いなく盗み聞きしたはずだし、今はそれにシラを切っているだけ。

 そんな中私が契約を破棄したいと言い出したら……原因が何なのかは明白だ。


 ……全部準備されたものというのは否定しない。

 少なくとも、今の「金髪の戦乙女シュヴァ」という存在を形作っているものの大半は、彼女の投資と采配によるものだ。私一人の力で手に入れたものなんて、実のところそう多くはない。


「わたくしは貴女のためを思いここまで投資して、貴女のためを思い日々支援を重ねてきましたの。それを急に私用で放り出すなんて……無責任じゃあありません?」


「それは承知だ」


「承知と言われても……わたくしとシュヴァは正式な契約で結ばれている訳で。そんなことを言っても出て行けはできないのですよ?」


「まぁな」


「つまりですわね──わたくしは貴女の人生そのもの、貴女はわたくしの人生そのもの……そう言っても過言ではありませんの。そんなわたくしを捨てて出ていく……? 酷い話ではなくって?」


 今度は情と契約で攻めてきたか。

 上手いことを言うな。人生そのもの、か。大袈裟だが、的外れとも言い切れないし。

 ここまで密接にやって来た「人生の共犯者」に対し感情に訴えつつ、契約的な観点から非が私にあると主張している。流石は商人と言ったところか。私とそう年も変わらないだろうに。


 だが──すまないな、ディアマ。

 その言い訳を何も準備せず、私がここに来る訳がないじゃないか。


「ところで、ディアマ。私は君に──今回の依頼についての報告義務があるな?」


「はい?」


「依頼の顛末について、その過程で発見した眷属や証拠物についても。私は傭兵として、仕事中に得た情報を雇い主に報告する義務がある。そうだな?」


「ええ。そうですわね。それが何か?」


 君が提示した契約の第三条だったか。

 傭兵が任務中に得た有益な情報や財宝を横領しないため。発見したものは全て雇い主に報告せよ、隠蔽は契約違反とみなす……そういった文言があった。

 別に珍しいものじゃない。どこの傭兵契約にだって存在するありふれた内容。


 でも……そうだよな? 

 私はディアマの傭兵である以上、ディアマ本人に直接説明責任があるよな? 

 私はディアマに雇われている身で、雇い主に隠し事なんて以ての外だよな? 


「──依頼の最中に、『魔王軍の活動』を示す、極めて重大な証拠を発見した」


「……! ……そういうこと!」


 この女は誰よりもルールを把握し、その目を搔い潜るために全力を注ぐような人間だ。

 だからこそ、それを持ち出されることの意味だってすぐ理解できる。

 この前は「壁が厚くて聞こえない」だなんて適当なこと言ってくれたが。確かに盗み聞きの証拠がなければ「知らない」で押し通せる。

 知らないと主張する人間にこちらから教えてしまうだなんて、様々な理由からリスクがあってできなかった。


 だが今回は違う。

 報告義務があるということは──報告を受ける義務もあるということ。

 本当は隠したいことでも……説明をしなきゃいけないのはどうしようもないことだ。

 そして受け取ってしまえば「知らなかった」は通用しない。

 この情報が存在することを、ディアマは認めざるを得なくなる。


 私達の契約は──『世界平和のため』という名目のもと契られた。

 この情報を知った上で私を金のために引き留める……それは契約違反に他ならない。


「……証拠はありますの?」


「ある。いや、あったというべきか。これを」


「……石ころ?」


「いや、魔王軍拠点について書かれていた石板だ。見ての通り破損してしまったが」


「……っ!」


 よし。

 今、確かに息を呑んだな。


「『うっかり』、ねぇ……よくもまぁ。わたくしの前でそんな白々しい嘘を」


「嘘ではない。事故だ」


「はいはい、事故ですわね。石板が粉々に砕ける事故。ええ、ありますわよねそういうこと」


 この石板に刻まれた内容は、私自身の目で確認した。魔王軍が使用していた拠点の情報が記されていたと確信しているが……「ついうっかり」破損してしまったので、もう読み取ることはできない。

 別に平常時だって適当な石ころで同じことができない訳ではないが、そんな偽証は私の矜持が許さない。

 そんな私が今こうしているのだから、情報自体は事実だと分かるだろう。


 そして、偶然にもこの破損のおかげで──この情報を他の第三者が読み取ろうとしても、あるいは悪用しようとしても不可能になる。

 もし、第三者に教えてしまっても、それ以外の人間にとっては信憑性がないから、限りなく無問題という訳だ。


「……仕方ありませんわね」


「! それじゃあ……」


「えぇ。契約は──終了で構いませんわ」


 ……! 

 よし! 


 随分あっさりと──いや、あっさりというのは違うな。

 仮面の奥の声には、確かに何か……惜しむような色が混じっている気がする。


「……くくく。契約は契約、ですものね。上手くやったものですわ」


 ただ、それでも、認めてくれた。

 彼女は、私が旅立つことを認めてくれたんだ。


「……ありがとう、ディアマ。今までずっと、本当に」


「あら? 急に、らしくないですわね? そんな素直に」


「本心だ。本当にありがとう。きっと世界を救って見せるから」


「行ってらっしゃいませ。せいぜい、頑張ってくださいまし」


「ああ、行ってくる」


 ちょっと締まらない幕引きではあるが──彼女は結局、いつも私を助けてくれた。

 それについての感謝は嘘じゃない。


 だから彼女のためにも、今こそ旅立ちの時だ。


 さあ、行こう。

 次の戦場が──救うべき世界が私を待っている。






「あっでもせっかくですし! あと数件でいいので片付けていきません?」


「……『私』のためと言うなら、流石に今は『私』の邪魔しないでもらえるか……?」

ここまで長くなるはずはなかったのに。

どうしてこうなってしまったのか……(自戒)


これで第6章終わりです。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

また1話、幕話をやって、その後7章に移ろうと思います。


可能であれば、感想や意見や評価やリアクションを頂けると嬉しいです。大喜びします。

それでは、次話以降も宜しくお願いします(´・ω・`)

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