Interference(インターフィアランス)
「と… いうわけで、その進攻、手伝わせてもらうよ?」
「……もう一度説明してくれ。」
「好意的な提案のはずなんだけどね…断わった、てことでいい?」
「そうではない。こっちに利があるのかを再確認したいだけだ。」
「どうかな。」
「信用に足らならそれでもいい。お前が断れば、有益な取引が無に帰すだけだ。」
「まぁいいよ。無駄なことはしたくないし。」
僕はいま、バグたちが住む城塞都市、《コングチュレンド》に進軍していたログレスの軍、それを率いる王国騎士団の団長、トルナスの前に立っていた… まぁ、浮いている、といった方が正しいけど。
今日の僕は、人間側の賢者としてではなく、アビスキュラの12人の頭としている。だから、もちろん人間側であるトルナスにバレる訳にはいけない。いちおう、アビスキュラは人にも魔王にもつかない中立の立場だけど、それ故にどちらの陣営からも敵対勢力として認識されている。
普段賢者として人間側にいるときは白地に青と金の刺繍があしらわれたローブを纏っているけど、今は同デザインの黒地に赤と銀のローブを着て、顔には、カーミラの元の種族「鬼」の顔があしらわれた仮面をつけている。もちろん、それでもバレないように、認識阻害の反魔法も付与している。
「じゃあ、もう一度いうよ?中立の立場でいる僕らとしても、ここまで成長されると、バグは邪魔だ。ど
うしようかと考えていたそんなときに、君達が進攻中と聞いた。僕は君達と協力したい。バグの町の捕虜と、その財の75%は君達の物だ。これが僕達が出す条件。何かある?」
「… 1つ。」
「なに?」
「何かあったら困る。お前たちは俺らの傘下にはいれ。」
その言葉を聞いて声を挙げるのは、特攻隊長のリリスだ。
「おい、人間。それはねえぜ。私らに指示できるのは主様だけだ。お前なんざに指示される筋合はねぇ。」
「待って、リリス。… その意見には納得だ。ただ、それならこっちからも追加で条件を出すけどいい?」
「なんだ?」
「1つ。アビスキュラの12人には、僕から指示を出す。君達から直接指示を出すことは許さない。2つ。もし何か、君たちのせいで1人でも被害が出た場合、僕は即刻裏切り、君たちもバグも皆殺しにする。戦塵1つ残さない。いいね?」
「わかった。それでいい。」
「きいたね?カーミラ。」
「ケッ。まあいいけどよ。 」
「どこに回して欲しい?」
「前衛が一番欲しい。後衛にもそれなりに。対空部隊にも何人か欲しい。」
「僕達13人しかいないんだよ?結局、全部のところに欲しいってこと?」
「そうなるな。」
「オーケー。じゃあ…とりあえず、カーミラとルクレツィアは前衛でいい?」
「おっしゃ!」
「わかったw。」
「アスタも前いきたい!」
「分かった。カーミラ、ルクア。」
「いいぜ。ちゃんとしろよ?アスタ。」
「分かってるし~!」
「あったんべーしないでください、 アスタ。」
「イヴきびしい~!」
「ノワールとエリシア、セレナは後衛を頼める?」
「承りました。」
「了解しました。司祭様。」
「……(グッ)」
「リリスとミレナは、後ろからの奇襲を。」
「ハァ…分かりましたよ。」
「ハァイ... 眠い……」
「コラッ。イヴ、ヴァレリア、ネフィラは僕と来て。」
「分かりました。」
「ご所望あらば。」
皆に指示を出してから、僕は3人をつれて、コングチュレンドの中心にある城へと向かっていた。
「センセイ様は何をするおつもりで?」
「城とかは勝手にむこうがつぶしておいてくれるからね。その間に、僕らはバグの王様でも倒しておこうか。」
「敵の軍勢を倒すのが目標では?」
「結局、大将首をとらないと、戦いっていうのは終わらないからね。アンデッドでさえそうなんだ。」
「なるほど…」
「それで、せっかくなら大規模な魔法でやりたいがために、わたししどもを連れてきた訳ですか?」
「そういうこと。1度でも大きなものを見せておけば、バグも、ログレスも、無闇にこっちに喧嘩を売ってくることはないでしょ?」
「どうかねぇ。」
「カーミラ、なんでここに?」
「向こうはさっさと終わりそうだったからな。アスタが暴れてて楽しそうだったから、先にルクアと城内に来たんだ。」
「なるほどね。で、さっきのはどういう意味?」
「人間なんか、どうせ自分のしたいがままに動くだけだ。私たちが一番知ってる。」
「少なくとも、警戒しておく必要があるのは事実ですね。」
「まぁね。でも、 今はバグに集中しよう。」
「わぁったよ、主様。私とルクアは城下で暴れまわっとくから、さっさと倒しちまってくれ。」
「分かった。頼むよ。」
その言葉をきいているのかいないのか、カーミうはこちらに手を振りながら、得物のメイスを担いで歩いていく。
「3人は、もう少し僕についてきて。城の上から魔法を落とす。」
コングチュレンドの城は特徴的構造をしている。廊下はまるで蜂の巣のように入りくんでいて、中には大量の兵士が、侵入者の行く手を阻むために厳重な警備を敷いている。
「いっぱつで吹き飛ばす。そのために、それなりの大きさの魔法陣を作らないといけない。僕は魔力供給に専念するから、3人は魔法陣をつくるのに集中して。」
僕が声をかけると、3人は手の平を合わせ、少しずつ半径1 m程度の大きさをした魔法陣を組んでいく。
僕は3人のまわりに防御結界と対魔法結界を展開し、その中で3人に魔力を供給していく。
魔法陣は、その形を組むだけでも魔力を消費し、その量は大きさに比例する。大規模な魔法を放とうとすれば放とうとするほど、それに使う魔力も多くなる。3人が3人、膨大な量の魔力を持っているけれど、それでもやっぱりたりない分はある。
加えて、魔法陣を組んでいるときは無防備になる。そこをカバーするのが、今の僕の役目だ。
1分もすれば、城上空に、想定以上に巨大な平面魔法陣が完成する。
「センセイ様。」
「わかった。準備できてる?」
「はい」
「もちろんですわ。」
「いつでも。」
3人が頷いたことを確認すると、僕はその魔法陣に魔素をいれていく。それに合わせて、城の上、魔法陣の下に、大きな黒色の魔球ができていく。3人が力を合わせてつくった、城を壊すためだけの、名も無き魔法だ。
「落ちろ。」
そういえば、空中に浮んでいた球は、1つの音をたてることもなく、城の方に落ちていきー
「諸行無常とは、こういうことを言うのでしょうね。」
「どうい意味ですの?」
「この世に存在する物はすべて、いつかは消えたり、無くなったり、滅んだりするという意味らしいです。東洋の国の、古い書物にかいてありました。」
「マチアス様。」
「うん。分かってる。」
僕が地上に降りると、死々累々とした惨状の中、1つだけ動く影があった。
「あなたが、バグの王様?」
バグといっても、まんま全てが虫というわけではない。主に基本形は人間とさして変わらない。ただ、頭に触角が生えていたり、トンボのような翅が生えていたり、昆虫のような堅い腕が6本生えていたりする。その容姿ゆえに嫌われることの多い人型魔族だけど、僕はそこまで嫌いではない。むしろ、文化面ではおもしろいと思う。
王は、ひときわ大きい。そしてもちろん、耐久力も高い。身体構造上、もともと防御力の高い種族だから、その王ともなれば相当だ。
「あの爆発に耐えれたのは、敵ながら称賛に値するよ。」
「アビスキュラ…か。」
「知ってるんだ。僕達も有名になったね。」
「魔族の中で、最も奇妙で謎に包まれた種族。いつ、誰の味方になるのかさえ分からん。その目的も、皆目見当が付かん。人間、魔族、魔物。今やお前たちは、最も警戒されている種族といってもいいだろう。」
「… そうなんだ……ねぇ。」
「なんだ?」
「頭領が誰か、知りたくない?」
「どうせここで死ぬ身。最期に、見せてもらってもいいか?」
その問いに応え、僕は付けている鬼の仮面を少し外す。
「け、賢者……か…」
「そうだよ。納得でしょ?」
「ああ……だが、なぜそのようなことを。二勢力の均衡を保とうが、お前には何の利も得もないだろうに……」
「やりたいことがあるんだよ。それには、人間が滅んでも魔族が滅んでも困る。技術力が落ちても困る。このまま現状維持が一番ありがたい。だからこうしてる。……もういい?」
「…ここであがこうと、教える気もないのであろう?その”やりたいこと”とやらを。」
「まぁね。みんなもびっくりするかもしれないし。」
「ならば……わしは、天国からそれを眺めさせてもらうとする。」
僕が王様の首をはねると、周りにいたバグたちも消え始める。根源たる王が消えたからだ。
魔族は特殊だ。”王””皇帝””棟梁”……それらの称号は、一見ただの名前だが、その本質は人間と大きく異なる。”王”は根源。その子孫たちの力の源。王位継承は、その根源を次の喪に託すこと。根源が途絶えれば、あとに続く子孫たちも絶えてしまう。だからこそ、根源たるものは強くないといけない。人間が醜く争い続ける”王”とか”覇者”とかいうのとはわけが違うんだ。
「人間のそういうところ、僕は嫌いだな。」
……まぁ、身勝手な行いばっかりするところ、もっと嫌いだけど。…………自分を含めて、になるんだろうけど。
「さ、みんな、帰るよ。いつ人間が襲ってくるかわからないからね。」
僕はみんなを集めると、本当に欲しかったものだけを持って、さっさと館に帰るのだった。




