Abysscula Twelve Maidens(アビスキュラ トゥウェルブ メイデンズ)
今回、だいぶ長いです。お気をつけて
ログレスの近くには、「ペラリス・フォレスト」という森がある。そこには野生の魔物や魔性の植物がたくさん生息している。一度森に入ったものは幻影と煙に巻かれ、ある特定の条件を満たさない限り、そこから出ることはできないとされる。
そんな森に、偶然迷い込んだ、一人の旅人がいた。髪は若干の赤毛で、体は少しやせ気味。大きめのバッグを背負い、今にも倒れそうになりながらふらふらと歩いていた。
そんな男の前に、突如として大きな館が現れる。
暗めの赤レンガの壁に、高い時計塔。それぞれの屋根の先にはガーゴイルの像があり、威圧感を放っている。
「なんだ、ここ……うっ。腹が…食べ物をもらうか……」
男がドアをノックすると、しばらくして、奥から、メイドの服を着た赤髪の女性が出てくる。
「すまない。ご主人を呼んでくれないか…」
「申し訳ございません、お客様。今、わたくしめのご主人は留守でございます。ですが、せっかく来てくださいましたもの。おもてなしさせていただきます。どうぞこちらへ。」
そういって男は、館の中へ案内される。
「ノワール。お客様よ。」
「はい。姉様。」
メイドに呼ばれて現れたのは、胸元と肩が露出した服を着た女。メイドに似ているが、髪色は少し暗い。何より、目が据わっている。その目に、まるで意識を吸い込まれるようだ。
「では、お客様。こちらへ。お部屋をご用意しております。」
そういい連れられたのは、豪華な家具が並ぶ部屋だった。特段広いわけではないが、不思議と包容力がある空間に、男はまたしても息をのむ。ただ、次に男の頭には疑問が浮かぶ。何せ、部屋の家具、壁紙、床、すべてが赤色なのだ。何か理由でもあるのだろうかと思いながら、男はソファーに座った。
すると…
「では、お客様。良い夜を。」
「えっー」
男が言葉を口にする前に、扉は閉ざされるのだった。
「どう?ノワール。」
「姉様。そうですね……ルクレツィアは喜びそうですよ。」
「ルクアはいつもよろこんでるでしょう?」
「上々、というわけではありませんが、上玉ではあると思いますよ。」
「そう。ならよかった。この頃アストリッドたちがうるさかったのよ。旦那様もなかなか帰ってきませんし。」
「姉様。顔に出ていますよ。それに……」
「角?」
「はい。姉様は、隠し事をすると隠している角がよく出ますので。カーミラほどではありませんが。」
「それは本人に失礼でしょう?」
部屋から出たノワールと呼ばれる女性とメイドが話していると、後ろから黒色の馬のようなものに乗った
少女が近づいてくる。
「あっ、ノワール!イヴ!!帰ってきたよ!」
「本当ですか?」
「……姉様。後処理はお任せを。ルクアには伝えておきますので。」
「いいの?」
「ええ。どうぞ。」
「アスタはアスタは?」
「アスタは私についてきて。姉様。」
「わかったわ。ルクアに伝えたら、アスタもこっちに来ていいわよ。」
「わかった!ノワール。」
「わかっていますよ。」
「ペラリス・フォレスト」。ログレスで育ったのなら、そこに近づく者はいない。
子供のころから親に「あそこに近づくな」といわれ続ける。
理由は単純。この森には、凶暴な魔物が数多く生息している。オーク、ゴブリン、ウォークウッド…。
その中に、一つだけ、異色を放つ存在がある。
暗い色の赤色煉瓦で作られた館だ。
そこには、単純な方法で意図的にたどり着くことはできない。無意識で迷い込むか、特殊な方法をとらざるを得ない。
「混沌、吸血鬼、淫魔、開門。」
森の中心でそう唱えると、その場に生えていた気が少しずつ揺らぎ、大きな館が現れる。
その表戸をコンコンとノックすると、中からメイド服を着た赤髪の女性が現れる。
「アビスキュラ12メイド」が長女、イヴ・ブラッドローズだ。
「おかえりなさいませ。ご主人様。」
「ただ今、イヴ。調子は?」
「皆元気ですよ。……ミレナは寝ていますが。」
「そっか。ならよかった。……お客さんが来たみたいだね。」
「はい……まだですが。」
「だろうね。ルクアのことだ。そんなすぐにはしないでしょ。それで、イヴ…」
「はい?」
不思議そうな顔をするイヴに、僕はイヴの側頭部からちょこんと出ている角を突っつくと、彼女はこそばゆそうに肩をピクッと震わせる。
「角、出てるよ?」
「あ……ノワールにも言われました。」
「そっか。じゃあ、余計なお世話だったかな。」
「い、いえっ。そういうわけでは…」
「そう?ならいいけど。」
「あ!マチアスおかえり!」
「お、ただいま。アストリッド。」
「向こうでみんな待ってるよ!ルクアが今料理中。」
「おっと。それじゃ先にみんなの方に行っておいた方がよさそうだね。僕は食べないし。」
「え~!なんで~⁉」
「こらアスタ。ご主人様を困らせないでください。」
「あ、ノワール。」
「おかえりなさいませ、主人様。」
「ただいま。案内頼める?」
「承知いたしました。アスタ、姉様。」
「は~い!」
「わかりました。」
僕がノワールについて広間に行くと、みんなが食卓についているのが見えた。
「「「「「「「「おかえりなさい!」」」」」」」」
「ただいま。ほら、イヴ。ノワール。アストリッド。座りなよ。」
三人が座ると、奥から楽しそうな顔でコック帽をかぶったルクレツィアがやってくる。手に持つ寸胴鍋には、紅色のミネストローネのようなものが入っていた。中身は……言うまでもないだろう。少なくとも、僕は食べないものだ。
アビスキュラは、とあることがあって生み出された、人工的な魔族だ。
基本となる人型魔族に、吸血鬼とサキュバスの遺伝子を入れることで生み出される。
アビスキュラは世界で13人だ。
「留守番、ありがとう。」
みんなが食べ終わって、それぞれの仕事に戻った後。
特にやることもなくなったイヴは、鐘のある塔の上で月を眺める僕の隣に立っていた。
「いえ。ご主人様に頼まれた留守ですから。今度は何を?」
「ログレスに杖を取りに行ってたんだ。途中で魔王軍が攻めてきて、帰りが遅くなっちゃったけど。ほらこれ。」
「きれいな杖ですね。お似合いです。」
「ありがとう。あ、そうだ。君たちにお礼を言うの、忘れてたね。」
僕がそういうと、どこからともなく、エレクターとピッチが出てくる。
「でも、今度はまたお留守番かな。」
「あら、司祭様。こんなところで何をされているので?」
「あ、エリシア。ごめんね。邪魔した?」
「いえいえ。ですが、もうじき鐘を鳴らす刻ですので。司祭様のお耳を壊すわけにはいきませんもの。」
「そっか。でも反魔法で守ってるから大丈夫だよ。」
「でも~。マチアス様、私たちといるときとか、よく外してるじゃないですか~?」
「ミレナだって、そっちのほうが嬉しいだろ?っていうか、起きてるの珍しいね。てっきりまた寝てるものだと。」
「私だって、起きてる時ぐらいありますよ~。あ~、眠い。」
「言葉に出ていますよ。ミレナお姉さま。」
「だって~。眠いものは眠いんだし~?」
「まぁ、ミレナが眠いっていうのは仕方がないけどね。四六時中、館を守ってくれてるわけだし。いつもありがとう。」
「えへへ~、それほどでも……ZZZ」
「寝るの早いですね。」
「ミレナなりに安心したんじゃない?それよりエリシア。そろそろだと思うよ。」
「あ……そうですね。では、少し席を外します。」
そういって離れたエリシアは鐘の方に向かうと、ゆっくりとその側面に手を触れる。すると、この世のものとは思えないほどにきれいな鐘の音が、幾層にも重なって聞こえてくる。
「やっぱり、エリシアはすごいなぁ。」
「だよな~。よくあんな音出せるぜ。俺がやったら楽器なんか絶対壊れるってのによ。」
「カーミラ、いつの間に。」
「あん?」
「というか、どうだった?あそこ。」
「ん~となぁ……あんまり手応え自体は感じなかったぞ?どうだ。足止めぐらいにはなったか?」
「うん。町もあれ以上責められることはなかったし、やっぱり、町から転移させた軍をカーミラたちに任せて正解だったね。」
「だろ?でも、感謝すべきはリリスとセレナだな。あいつらがいなかったら、誰を狙えばいいかもわかんなかったしよ。」
「そっか。わかった。明日、お礼を言っておくよ。」
「その方がいいと思うぞ。特にリリスの方は。あいついっつも不機嫌だけど、主様といるときは機嫌がいいからな。」
「そう?」
「それはどっちの疑問だよ?」
「ん~…どっちも?」
「なら、答えは決まってる。どっちも、だ。」
そんな話をして、次の日の朝。
「……?」
起きてみれば、僕のベッドの右側にイヴ。左側にアストリッドが寝ている。でも、どっちも苦しそうな顔だ。
「また、あの夢を見てるのか。」
僕は二人起こさないように魔導書を取り出し、その4ページを開く。人の夢を操る魔法が書かれたページだ。
「『ソムニアラ』」
『ソムアニラ』は、対象に穏やかな夢を見せる魔法。その人が見ている悪夢をゆっくりと、自然に、その人が受け入れやすいいい夢へと変えてゆく。
アビスキュラ12メイドの全員が全員、過去のある出来事のせいで、こうやって時折、トラウマのように悪夢を見ることがある。そういう時は、僕の部屋に来ていいよと言ってあるのだ。ほかの子に任せれば、その任された子も一緒にフラッシュバックしてしまうかもしれないからだ。
二人に『ソムニアラ』をかけると、それまで苦しそうに顔をしかめていた二人も、ゆっくりと力が抜け、すやすやと寝息を立てて眠り始めた。これなら、睡眠不足にはならなさそうだ。
僕が二人の睡眠の邪魔をしないようにゆっくりと部屋を抜けると、部屋の前に人が立っていた。
「リリス。どうしたの?」
僕がそう聞くと、リリスは怒り気味というか、少し不機嫌そうな顔をする。まぁ、正直こういう顔を、特にリリスからされるのはもう慣れっこだ。
「いえ。朝起きたらイヴ姉様とアスタがいなかったので、二人を心配して見に来ただけです。勘違いしないでいただけると。」
リリスは棘のある厳しい言い方でしゃべりかける。……ようは、二人が心配だったらしい。
「別に。逆に、リリスは僕がどう思うと思ってたの?」
「特には。ですが、面倒なことを考えられては困るので。」
「そっか。……リリス。カーミラが言ってたよ。助かったって。」
「ああ、あの事ですか。それならセレナに言うのが正しいともいますよ。」
「セレナもだけど、リリスも頑張ってくれたんだろ?その事実に変わりはないさ。」
僕がその頭に手を伸ばそうとすると、リリスはさっと頭を引っ込めようとした後……あきらめたようにその動きを止め受け入れる。
「ハァ……ったく。変なことしないでください。」
「ごめんごめん。じゃ、またあとで。」
「あ……はい。」
「ん?どうしたの?」
「な、何でもないです。さっさと行ってください!」
「はいはい。」
「セレナ……ここ、好きだね。」
僕がセレナの部屋に入ると、その天井は、まるでプラネタリウムのような様相を呈していた。ちなみに、セレナがどうしてもというので、僕が特注で作ったものだ。12人の部屋は、それぞれが最も適した環境で暮らせるように一人ずつの意見を聞きながら作ったから、もはや、同じ部屋はないといっても過言じゃない。正直、今見ても間取りが同じだとは思えない。
「あ…」
「おはよう。…って、ここはまだ夜みたいだけど。」
僕が冗談を言うと、セレナはこちらを向きながらうれしそうに微笑む。セレナは普段からすごく無口だけど、正直身振り手振りで大体の言いたいことはわかるようになってしまった。もちろん、うれしいことではあるけど。
「今日はいつ?」
僕が聞くと、セレナはその天井に移る星のうち、一点を動かずにいる星と、その周りをまわる7つの星を指さす。
「北極星と北斗七星…冬の星座か。これがオリオン座?」
「……(コクコクっ)」
僕の予想がうまいこと当たったのだろう。僕がそういうと、セレナは目をキラキラさせながら何度も首を縦に振る。
「セレナ、頑張ってくれたみたいだね。カーミラとリリスがほめてたよ。」
「………(///)」
それをきいて照れたのか、セレナは少し顔を赤くしながら僕の胸に頭をのせる。なでてやると、セレナはまんざらでもなさそうな顔をする。そのとき。
「アハハハハハッ!何してんのさ!」
「わっ、笑わないでくださいまし!少し失敗しただけですわ!」
「そんなこと言ったって…フフフっ……ヒヒヒヒヒっ…」
セレナはその声を聴くと、一瞬肩をビクッとはねさせたあと、さっと僕の後ろに隠れる。なんにせよ、この部屋にいる二人、一人はまだしも、もう一人は、なんというか…セレナとはまったくもって逆の性格だからだ。
「ヴァレリアさん、ルクア。ここはセレナの部屋の前よ。少しは気を使ってあげなさい。」
「そういえばそうですわね。」
「ん~…でも入る!」
そういって部屋に入ってくるのは、料理人のルクレツィア。その後ろにいる二人のうち、最も優雅というか、華やかな服を着ているのがヴァレリア。魔導書を持っているのがネフィラだ。
「ほら、セレナも隠れちゃってるじゃないですか。ルクア。」
「ごめんごめん。でも聞いてよセレナ。ヴァレリアが新しい魔法見せてくれるって言ってたから見てたらね!フフフっ……」
「少し魔力操作を見誤って爆発してしてしまったんですの。」
その会話を聞いていると、僕の後ろでセレナが少し噴き出す。
「あ!セレナ笑った!」
「……っ!(フルフルフル)」
「ふふっ。嫌がることはありませんわよ、セレナ。ルクアは、少しおしゃべりなだけですから。」
「そのおしゃべりが少し苦手なんですよね、セレナは。センセイ様、おはようございます。」
「ネフィラにヴァレリア、それにルクレツィアも。おはよう。早いね?」
「それは旦那様もでございましょう?」
「まぁ、それはそうだけど…」
「いくらセンセイ様が魔力を持っているといえど、あまり睡眠をとらないとしんどいですよ?」
「そうだよ!この前ヴァレリアそれで倒れたんだから!」
「チョッ、それは言わない約束では…!」
「そうだっけ?まあいっか!」
「よくないです!」
「……(コクっ!)」
「アハハ…………ネフィラ。」
「なんでしょうか。あ、センセイ様に出された課題は、毎日欠かさずやっていますよ?」
「お、それはうれしいね。…少しイヴを……いや、全員、広間に呼んで。」
「「「……!」」」
「お祭りでもするの?」
「違うよ。」
10分後。広間。
普段はあまり集めることはないから、みんな、少し緊張した顔つきだ。……ルクアとアスタ以外は。
「少し、みんなに相談したいことがあるんだ。」
「なんでございますか?」
こうやってみんなで話し合うとき、12人の代表として話してくれるのは、長女のイヴだ。
「僕らの目的が何かは、覚えてるね?」
「アスタわかるよ!人間さんと魔王?さんの力を、五分五分?に保つこと!」
「正解。僕の準備が終わるまで、ね。なんだけど……バグって知ってる?」
「私、書庫の本で読んだことがあります。確か、身体に昆虫の特徴を持つ人型の種族だったような…」
「大体あってるよ。で、そこが人間の領土に侵攻を強めてるんだ。」
「ルクアわっかんない。もうちょっと簡単に言って、マチアス。」
「要は、……あー、魔王側が少し強くなってきてるってこと。」
「主人様……何か、諦めましたね?」
「ノワール。旦那様だっていろいろ考えているのですから、あまり言わない方がいいと思いますわよ?」
「もう聞こえてるから一緒よ。ノワールにヴァレリア姉様。」
「とにかく、僕はいったん勢いを止めたい。バグって、何せ数が多いからさ。盗られた土地はログレスのところだから、この前、王様が取り返しに行くって言ってたんだけど……何が言いたいかわかる?」
「要は、ログレスってとこに加担してバグんとこぶっ潰せばいいんだろ?」
「まぁ、そういうことなんだけど……」
「人数が多いから~……みんなで倒しにいこ~ってこと?」
「そういうこと。って、ミレナ起きてたんだ。」
「一応…」
「あ!マチアス!ミレナちゃん寝た!」
「すいませんね、ご主人様。」
「イイよ。締まらないのはいつものことだし……明日、出るよ。ログレスの進行に合わせたい。いいね?」
「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」




