Forbidden Magic(フォービドゥン マジック)
すさまじい衝撃音とともに、僕の放った水色の光弾と、レイダの放った黒色の光弾が交差し、互いの光弾を相殺していく。地上にいる兵士や魔族たちも動きを止め、突如として始まった、お互いの現状最高戦力同士の戦いを見守る。
「まぁ、当たるわけもないよね。」
僕は魔法陣を展開したまま、ルクル・ハルパスの先端に刃を作り、レイダの持つ剣に向けて振り払う。
「正面からすればいいものを。」
「正面から行けば、もっときれいに受け止められてるでしょ!」
レイダに受け止められたルクル・ハルパスの刃の先から、魔法陣ごと光の刃が広がる。『プラズマセクト』という、ルクル・ハルパスのためだけに作り出した魔法だ。
「……ッ」
僕はレイダのブラッド・ルミナを持つ手が若干緩んだのを見ると、そのまま杖を回して距離を取り、先をレイダの方に向ける。
「ヴェルディス・カテナ」
右手に持っている魔導書を開くと、そこの中から大量の翡翠色に光る鎖が、レイダに向けて飛び出す。レイダはそれを剣ではじきながらこっちに接近しようとするが、背に生える翼に鎖の一本がかかると、ほかの鎖もまるで引き寄せられるようにレイダを縛り付けた。
「トラホーレ・ヌクレウス」
とたん、レイダの体がから放たれた大量の魔力が、幾多にも重なった鎖をあっけなく粉砕する。
「よくそんな量の魔力を操れるね。」
「それはお前もだろう。口を開いている暇があるなら、さっさと私を倒してみろ。」
鎖を粉砕したレイダの後ろに大きな魔法陣が浮かび、そこから僕めがけて大量の光の剣が飛んでくる。『トラホーレ・フェルム』。レイダの一番の得意技だ。今まで戦った中で、もっとも強いと感じる技。
技量でも、テクニックでもない。この技は、レイダの持つ圧倒的な魔力と、勇者に選ばれた際に手に入れた加護のちからを申し分なく相手にぶつける、数と質量の魔法だ。
「セクトルプロテクタ」
僕は瞬時に防御魔法を展開すると一気にレイダに近づきもう一度光弾を放つ。
「ルーミンバリス」
―光弾は、確かにレイダに直撃した。だがその立ち姿に、一切のスキは生まれない。というか、もはや無傷だ。
『反魔法』。並の魔法使いならつけていて当り前レベルの、だがこの世で最も多用する名もなき魔法。
まず、魔法とは、この世のの空気中に存在する「魔素」という物質を体内に取り込み「魔力」に変換し、それをもう一度空気中に戻すことで発生する現象のことを言う。「魔力が多い」といわれるのはすなわち、「魔素を魔力に変換する効率がいい」ということ。例えばレイダは、普通1魔素につき1魔力であるところを、1000魔力ぐらいに変換しているのだ。
ちなみに、魔素を魔力に変換する器官は脳に備わっているが、それがなく生まれてくる人たちもいる。その人たちは、専用の「魔力変換装置」を使って変換する。
反魔法は、自分に向けて放たれた魔法—要は魔力の集合体の何%かを魔素に再分解することで、自分に当たる魔法の威力を消す、または軽減するという仕組みだ。
「やっぱり、反魔法は常につけてるよね。」
「当り前だ。当たったと思って油断したな。」
レイダは僕の懐に入り込むと、ブラッド・ルミナを下から振り上げる。
僕はそれを魔導書から出続けていた鎖を使ってぎりぎりでいなすと、ルクル・ハルパスが粒子状に分解し、僕の周りに13個の魔法陣を展開する。それは今までとは違って、すべてが翡翠色に光る電子回路で構成されている。
この世界にいる、かつての人類の遺産を研究する「技術者」たちの知恵と、「魔法使い」の力を合わせた武器、ルクル・ハルパスの正体は、槍兼用の杖ではなく、ある専用の技を撃つために徹夜で設計図を完成させた、立体魔法陣だ。
「レイダ。」
「なんだ?負けるつもりにでもなったか?」
「いや……この魔法、まだ未完成なんだよ。だから、よけてね?」
「敵によくもそんなことを。」
「いいんだよ……この魔法は、君に向けてじゃないから。」
「なっ―!」
「『十三環原子崩壊』」
そう唱えれば、僕の周りを漂っていた魔法陣が戦場の四方八方に飛んでいき、高速で回転し始める。
そしてその間から翡翠色と黒色の雷のようなものが、隣の魔法陣に向けて発射される。そしてすべての魔法陣にそれが届いたとき。
「『ディケイ』」
僕がパンっと手を閉じると、今まで人間と戦っていた魔族たちは、跡形もなく消え失せていた。
「—お前……」
「安心して。近くの魔王城に移転しただけだった。失敗だね。本当は分解されるはずなんだけど。これは完成するまで封印かな。それで、レイダ。どうするの?兵士もいなくなったからみんなはこっちに来るし、魔王城も割と遠いから、援軍も時間がかかると思うけど。」
「—」
レイダは無言のまま、体にまとう魔力の量を増大させていく。
「ぬかったな、マチアス……私が無策だと思ったか!」
瞬間、後ろの町から、数えきれないほどの火柱が高々と上がる。ちらっと見ただけで、ざっと50。
「なるほどね……これが狙いだったわけだ。」
「私は安心して撤退させてもらうぞ。」
そういってレイダは勝ち誇ったような……でも、何かを頼むような視線を向けながら、魔王城に撤退していった。
「マチアス!」
「プロメス。トルナス。二人は先にみんなの避難を。早く!」
「了解。聞いたか!王国騎士団、全力で救助に入れ!一人でも死なせたら俺がぶっ飛ばす!」
「ハッ!」
「王国騎士団はいつでも仕事が早いね。プロメスも頼むよ。」
「もとよりそのつもりだ。それに……さっさと住人を避難させねば、お前も魔法を発動できぬだろ?また禁忌魔法をつかうのか?」
「火を止めた後でね。ごめんだけど、後処理はまた頼むよ。」
「あのなぁ……まぁいい。まずはさっさと火の手を止めるぞ。」
「わかったよ。」
「トルナス様。図書館回り、全員避難完了しました。」
「大通り付近も同じく。」
「市場付近もです。」
「宮城付近も完了です。」
「了解。……マチアス!」
「オーケー。」
トルナスからの報告を聞くと、僕は魔導書の2ページを開く。いろいろな種類が分岐してきた魔法の中の水に関する魔法をまとめたページ。そこに書かれた魔法陣を次々と展開していく。
「『ディルヴィウム・エテルナム』」
展開した魔法陣の中から、下手をすれば大洪水になる量の水が放出されていく。もちろん、このままならば、火は消えても、町の原型は跡形も残らないだろう。もちろん、解決策があるわけだけど。
「これで火は消えたかな。ほんとは段階的にやるんだけど……ここまで壊れたら、さすがに最後の4段階目を出すしかないかな。」
僕が開いたのは、魔導書の最後。777ページ。そこには「人類は使ってはいけない」とされた、時間を操る禁忌の魔法が記されている。もしこれを使った場合、そのものには死が与えられる。僕が禁忌魔法を使ったのも、今までに2回しかないはずだ。なぜ使ったかは、いつか話すことになると思うけど。
その時は、トルナスが何とかごまかしてくれたんだよね。ま、今回も使うけど。
「『段階的時間操作禁忌魔法』展開。」
そう唱えると、空中に浮く僕の足元に、777の魔法陣が積みあがっていく。黒、白、翡翠、赤、青……様々な色の魔法陣が、所狭しと複雑に組み合わさり、魔法の杖の形をした、50mほどの立体魔法陣を築き上げる。
禁忌魔法、『段階的時間操作禁忌魔法』は、その行使に必要である絶大な量の魔力と、複雑に絡まりあい、それを4段階に分割する過程で発生した大量の魔法陣ゆえ、本来の平面魔法陣の形を維持することが不可能。だからこそ、行使するものがイメージしやすく、そのうえで条件を満たすことができる、杖状の立体魔法陣になっているのだ。
下では、避難誘導が終わったプロメスとトルナスが言葉を交わしている。
「何度か使ったという話は聞いたが、これがうわさに聞く禁忌魔法の魔法陣か。」
「プロメス、助けてくれ。俺、何が起こってんのか一切理解できてない。」
「安心しろ。この仕組みが理解できるのは、この世に存在する4魔王と大魔王か。それこそマチアス程度だろう。」
「二人とも、退いておきなよ。じゃないと吹き飛ばされるよ。」
「お前が発動する前にすたこらサッサと逃げさせてもらうつもりだよ。」
「ちなみにマチアスは、4段階中どれにするつもりなんだ?」
「もう少し前のタイミングだったら、2でも行けたんだけど…今は4かな。」
「おいおい…」
「まぁまぁ。」
「そうは言うがなぁ。結局処理をするのは王である俺だぞ?」
「いつもありがとうございます。」
「まぁいい。それに、それはこちらのセリフだからな。たのむぞ。」
「わかった。じゃあ、どいておいてね。……段階開放《Ⅳ》」
段階を伝えれば、今まで杖の形を保っていた魔法陣は、時計に姿を変える。
「逆光の刻」
時計型魔法陣から放たれた光はあたり一帯を埋め尽くし、世界をモノクロに変える。僕が街に手をかざすと、そこだけが金色に輝き始め、洪水に流された町が元通りになっていく。もちろん町だけを戻しているから、火の手や水は無視している。あとは、町にある水を集めて、適当に分解してしまえば終わりだ。
「ふぅ……これで何とか―」
突然、僕の頭の中に、心臓を貫かれたような痛みが走る。禁忌魔法4段階目、逆光の刻を行使すると、その代償として記憶の一部を持っていかれる。それを阻止するために僕は少しだけ魔法陣を書き換え、痛みを感じるだけにしたんだけど……今は慣れたからいいけど、最初に使った時は3日ぐらい寝込んでいたらしい。
「魔法陣、霧散。」
僕が魔法陣を魔素に戻せば、周囲の時間は、元の形に戻った街を除いて元通りになる。正常に動き出す。
「さすがだな、マチアス。だが…」
「これ、どうするつもりだ?」
周りを見渡すと、魔法を出した時の衝撃のせいで、草が生えていた原っぱは荒野のような姿になっていた。
「まぁ、時間がたてば戻るよ。」
「だといいがな。」
「お前の使う魔法だ。一生生えてこねぇかもだぜ?」
「その時は、一つ笑い話が増えたと思えばいいでしょ?」
「だな。」
「何を言われても知らぬぞ。……もう行くのか?少しは休んでいけばいいものを。」
「僕はちょっとすごい旅人だよ。レイダ達魔王が次どこで暴れるかもわかんないし。それに、多分あの軍勢、囮だと思うんだよね。きっと、ログレス以外の同盟国が攻撃を受けてると思う。だから、そこを助けに言ってくるよ。……あいつらに邪魔されるかもだけど。」
「あいつら?」
「—アビスキュラか。」
「そう。」
アビスキュラ。つい最近になって現れた、新種の魔族。データもろくにそろっていないが、確かなことは、魔王陣営にも、反魔王陣営にも、どちらにもついていない、第3の勢力だということと、並の人間では到底かなわないような魔力を持っているということだけ……
「何はともあれ、気を付けて行け。」
「いつでも帰ってきてくれていいからな。」
「わかったよ。じゃ、行ってくるね。」
「あ、そうだ。」
「?」
「……いや、何でもない。」
「マチアス。トルナスが、ハナによろしく伝えといてくれとのことだ。」
「いってねぇよ!」
「了解。いくらか盛って伝えとくよ?」
「いらなぇよ!てか伝えなくていい!!」
「王の前でうそを吐くとは、剛毅なものだな。騎士団長様。」
「グヌヌ…」
「トルナスは何とかしておく。さ、行けマチアス。」
「わかった。じゃぁ今度こそ。またね。」
「お前、ややこしいこと言うなよなプロメス。」
「本音だろう?」
「まあ、そうだけどー?」
「どうした?」
「いや……なぁ、マチアスの服って黒だっけか?」
「—?何を言っている。白と青だろう?」
「いや……今一瞬黒に見えた気が…まぁいいか。」
あの12人は、どこかで図鑑みたいなのを出す予定です




