表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/9

I don't know(アイ ドント ノウ)

 これは、まだ私が「最強の勇者」と呼ばれる前の話だ。

 私は、没落した上級貴族の家庭に生まれた。没落さえしていなければ、もしくは、そこまでは無しにされない下級貴族であればそうでなかったのだろうが、話題になりやすい私たちの家は、それはそれは大層に嘲笑われていた。

 来る日も来る日も、許されるのは、己に降りかかる罵声を浴びることと、面倒ごとを押し付けられることのみ。学び舎にはかろうじていけてはいたものの、没落したものに対する軽蔑と、薄っぺらい突発的な好奇の目を向けられるばかり。教師も例外ではなく、基本的に、口答えは許されなかった。

 何とかして家庭をもとに戻そうとする父も、それを支えようとする母も、私が高等学校を卒業するころには、何者かの策略により、遺産だけになっていた。親戚や兄弟がおらず、財産の奪い合いになっていなかったことだけが、唯一の救いだろう。

 親が残して逝った金で、私は王国の騎士の育成をする大学に入った。

 別段深い理由があったわけではない。ただ、貴族から落ちた者がもう一度そこに返り咲くことは、少なくとも、あの時の私には難しすぎた。それなら、まだ体を張って戦った方が、幾分かましだろうとでも思ったのだろう。

 せめてもの意地で、私は大学で成績上位を取り続けた。それで何かが変わるわけでも、将来が約束されるわけでもないが、取っておけば、後々困ることも減るだろうと思った。


 私が通っていた大学には、騎士の育成以外に、もう一つの役割があった。それは、この世界に存在すると神の加護を持った、常人を卓越した者、「勇者」を捜すというもの。正直私はそんなものに興味はなかったから、特段気にしてもいなかった。もともと、騎士になるつもりもなかったし。習った学業だりなんだりを使って、適当に商売でもしようかと考えていた。

 そんなある日。突然教師から声がかれられ、また何か言われるのだろうと思い振り返ったら、「勇者」の査定を受けてみないかという話だった。その日は暇だったし、断る理由もなかったから受けておくことにした。

 結果は「適正あり」。

 自分でも正直驚いた。何せ、ほかの貴族の謀略に墜ちた貴族の娘が勇者など、聞いたこともなかったからだ。

 もう一つ驚いたことといえば、周りの態度の変わりようだった。

 まだ「あんなやつが」と文句を言っている奴らもいたが、大体の物は手のひらを返すように丁重にもてなし始めた。正直、気味が悪かった。今までそんな使いを受けてきたこともないし、受けるとも、受けたいとも思っていなかったからだろう。

 それから半月ぐらいたって、「魔王」を倒すための勇者一行のメンバーを募集した。自分のような没落貴族の下に人など集まるのかと危惧したが、意外にも、なかなかのメンバーが集まった。王国騎士団の団長候補に、国の諜報部隊育成学校のエース。それに、「最強の賢者」。最後の賢者だけは、あまり乗り気ではなさそうだった。

 旅に出てからは、4人で仲良くやっていたと思う。私を含め、全員が全員癖の強い面々だが、おかげで退屈することはなかった。魔王を討伐するまでは、このままなんだかんだやっているのだろうなと感じていた。

 あの日までは。


 正面にいるレイダの顔が、一瞬ひきつって見えたのは、気のせいだろうか。

 戦場の上に、服を風になびかせる人影二つ。魔族でも、ゴーストでもなく、両者、正真正銘の人間だ。勇者パーティーで一緒だった時にも、こうして本気で手合わせをしたことはなかったと思う。

 レイダは少し下に目をやってから、再びこちらの方を向くと、何もなかった空中から、大きな大剣が出てきた。

 黒色の鞘と赤色の柄、鞘と同じく黒光りする装飾類。真ん中には血のように真っ赤なルビーが埋め込まれ、鞘から抜かれた大剣は、レイダの背に生える鳥の翼と同じような、明るいピンクの光を放っている。

 レイダの愛剣、『ブラッド・ルミナ』だ。


「戦う気は満々みたいだね。」


 僕が手を掲げると、エレクターが何やら包みを上から落とす。それに包まれているのは、僕が鍛冶屋のおじさんに頼んで作ってもらった、新しい杖。『ルクル・ハルパス』だ。


「戦う直前に武器の調達。試し打ちもしていないとは、私も舐められたものだな。」

「別にそういうつもりはないんだけどね。……じゃ、」


 こうして、「最強の賢者」と「最強の勇者」の戦いが幕を開けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ