Preparing for battle(プレぺリング フォー バトル)
敵襲の報が町中に伝わり、約一時間。
この町のセキュリティは、僕がいたころよりもはるかに向上していて、王であるプロメスが避難命令を出すと、ものの30分程度で住人たちは全員避難することができていた。
この町ログレスは、周辺…いや、世界全体でみても有数の巨大都市で、総人口は約5000万人にも上るはずなのだが…
「驚いてるみてぇだが、元をたどればお前のおかげだぞ?」
「あ、珍しく早いねトルナス。もう少し時間がかかると思ってた。」
実際、トルナスの称号「騎士団長」は、文字通り、王国の国防を担う王立騎士団の長。
その装備も、頑強な鎧と盾に、「切る」というより、どう見ても「たたき伏せる」に特化したような大剣。
そんな10分で着替えられれば上等という武装を、ものの5分で着替えてきたのだ。
「そりゃな。意外と着る機会は多いうえ、長が一番遅かったら、ほかがついてこねぇだろ?」
「それは確かに。で、僕のおかげっていうのは、どういうこと?」
「お前が作った「テレポーテーター」。あれがあるから、こんなに大人数が移動できんだ。」
「テレポーテーター」。移動系魔法である「テレポート」を、魔法を閉じ込めることができる石に付与し…なんやかんやしたもの。
ぼく個人の見解としては「大量に人を運べるだけだし、これならテレポート使ったほうが早そう」ぐらいだったのだが、これを学者たちに見せたら「すごいものだ!!!!!」と言って大金で買い取ってくれたのだ。
「あんなのが役に立つんだな~」
「お前、あんなのってな…」
「ん?あんなものだろ?テレポートの上位互換にもなってないよ。」
「今まで5000万人を一気に転送できるテレポートを見たことあるか?」
「…できるでしょ?」
「…」
「それ以上考えるな、トルナス。今は、目の前の敵に集中しろ。」
「それはひどくないですか?王様。ってか、でできていいの?」
「戦う者たちも我が国の住人。そして相手も相手だ。…俺だけじゃないぞ。」
そういってふりかえるプロメス王につられてその奥に視線を送ると、それぞれの服に身を包んだ四公爵(三人)が立っている。
「作戦とかは?」
「ねえだろ。」
「あるわけがないだろ?考えろ。こいつら相手は、お前が一番たけている。」
「まあ…でも、これか。ぱっと見でも、5,6種類の魔物が徒党を組んでる。でも、これなら…」
「行けそうか?」
「うん。基本的にパワープレイな感じだから、こっちも前に突っ込めば大丈夫なはず。遠距離攻撃の手段がある以上、こっちが有利位置をとれる。」
「おまえは…聞く必要もないな。わかった。任せろ。」
「聞いたか?おまえら。突っ込むぞ!!」
そういって、トルナス率いる王国騎士団の面々と、四公爵率いるこの絵騎士団が敵陣に突撃して、約10分。
「まあまあ、順調だ…な⁉」
本陣で様子を見ていたプロメスがしゃべろうとした瞬間、順調であったはずのこちらの軍が、突如”中央から”崩壊し始めた。
そしてそこから、黒、紫、ピンクが混ざったような色の竜巻が巻き起こる。
「…」
「そうか…お前、あれとずっと戦っていたのか。」
「そうだよ。…じゃ、そろそろ行こうかな。」
「大丈夫か?」
「もちろん。」
「……わかった。王がここに命ず。好きなだけ暴れて来い。—「最強の賢者」マチアス・M・アンブローズ」