enemy attack(エネミー・アタック)
どこかしらの廊下。
黒いタイルやレンガの上に、照明である蠟燭と、アメジストのような色をしたじゅうたんが敷いてある。
魔王城の廊下である。
この世界における魔王というのは、魔物の突然変異種のことに当たる。
何らかの原因により、ほかの魔物より強く、より高い知能を有し、他の魔物を統率するような動きをするものを、人は”魔王”と呼ぶのだ。
そんな強力な魔物たちが救う魔王城の廊下を、一人の”人間”が歩いていた。女性だ。
黒ベースの鎧に、赤ともピンクとも取れる色の模様が入っている。髪はプラチナブロンドの髪は蝶の髪飾りでとめられており、背には、一剣の剣を携えている。
その女性は廊下の一番奥にあった、大きな扉を開けた。
そこから見えるのは、”小鬼””鬼””人狼””飛竜人””猪”などの魔物たちだ。
それまで自由に話し合ったいたり、手合わせをしたりしていた魔物たちは、その女性が戸を開けるや否や、さっと視線をその女性に向けた。
「ご命令を。」
「許可が下った。準備を。今度こそ、ログレスはつぶす。」
「「「「「はっ!」」」」」
「よく来たな、賢者殿。いや、今は「賢者」マチアス・M・アンブローズのほうがよいか。して、何か成果は持ち帰ってきたのか?」
御前の間に入って早速のこの物言いに少しイラつきを覚えながら、僕は改めて御前の間を見渡す。
御前の間は、王が主に家臣や各国の要人などと会談、謁見するときなどにつかい、王の象徴ともいえる玉座のある部屋でもある。
そのため、城の内部、ほかのどこの部屋にも比べ物にならないような、豪華絢爛な装飾が施されている。
この部屋は謁見以外にも、普段から政治の動向を決める会議の場にもなるため、王の座る玉座のほか、四公爵たちが座る用の座席と机も、同時に用意されてる。
今僕に話しかけたのは、四公爵のうち、「最も嫌われている」と言われ、人当たりが悪いバルヴァーラ・クラドルポス公爵だ。
実際のところはそこまで悪い性格でもないのだが、四公爵のまとめ役でもある故のプライドとリアリスト的な一面がそう見せるのだろう。が、クラドルポス公爵がいなければ決まることのなかった規則があることもまた、事実である。
右手前にクラドルポス公爵、その奥にフォルド公爵。クラドルポス公爵の向かいには、政治の中でも、主に軍事、戦略を担当し、公爵のほか、「提督」の称号を持つ、ガヴォ・門政公爵が座っている。
その奥は空席で、そこに座るはずである、財政担当のマルダン・レジナルフェド公爵は今、ほかの国との交渉に臨んでいるところだ。
そして、四人の公爵が座る机の最も奥、僕とトルナスの向かいに鎮座しているのが、この国の王、プロメスエデ・A・ペンドラゴンだ。
「不敬であるぞ、クラドルポス。」
「同じ戦うものでありながら、戦場で提督の名を振りかざすお前のほうが不敬ではないのか?門政公。」
「よせ、二人とも。このような席。かような話をすることこそ不敬である。王と騎士団長、賢者の御前じゃぞ。」
「仕方がない。今日のほうは、近況報告と聞いているが、間違いは?賢者殿。」
「いえ、ありません。」
…それからしばらく、おそらく一時間ぐらいたっただろうか。
僕は公爵たち三人にみっちりと質問攻めをされ、隣でトルナスが寝息を立てていることにすら気づかないほどにつかれていた。が、その眠気は、人の弱点を突くのがうまいクラドルポス公爵の一言によって吹き飛ばされる。
「して、ずっとはぐらかしているが、そろそろ我慢の限界だぞ。賢者殿と騎士団長殿。」
突如名前を呼ばれたのと、場の空気が一気に張り詰めたのを境に、隣で寝息を立てていたトルナスも飛び起き、俺たちに視線を送るクラドルポス公爵の目が怪しく光る。
「…何が」
「何がとはまた、人をはぐらかすのもご上手なようですな。賢者殿。」
「こっちが質問してんだよ、公爵、先そっちにこたえてくれねぇかな。」
「おっと、怒らせてしまったようですまない、騎士団長殿。いやなに、直接とは言わんが…五年前の、貴殿らのパーティーが解散した原因よ。」
「「っ…」」
「クラドルポス公爵!」
「それはこの場で言わぬといったではないか。」
「何、少し遊んでみただけだ。だが、」
「?」
「お前たちの支援も、そろそろ秘密裏というわけにもいかん。何せ、自分たちの税が、いつも何か、言われていないところにひかれているのだ。民が不満を持つのも当然のことだろう。そこだけ頭に入れておいてほしいところだな。」
「…わかりました。」
「ウィ。」
「ちょっと良いか?」
外に出て、城の中をまたトルナスと二人で歩いていると、突如後ろからフォルド公爵に声をかけられた。
「先ほどはクラドルポスが余計なことをした。まことに非難すべきことだ。すまない。」
「いえ、いいですよあやまらなくて。」
「どっかでは来ると思ってたしな。ああやってクラドルポス公に聞かれると、なんというか、重大性が違うような気がするよな。あの人、遊びといってたけど、実際しっかりした理由がないと聞かないからな。」
「そなたらにそう言ってもらえるとありがたい。王がお呼びだ。積もる話もあるだろう。」
そういって案内されたのは、通常時王が生活する「王の間」だ。
「ひさしぶりだな。マチアス、トルナス。」
「「…」」
「なんだよ、つれないな。」
「いや、そういうわけじゃないんだよ。でも…」
「これはさすがにな…」
僕たちの前にいるのは、この国を手中に収める王、プロメスエデ・A・ペンドラゴンのはずなのだが…
その服装は僕たちでもしないほどに崩され、部屋もあり得ないほど散らかっている。
「これが王とは…民たちが文句を言うのも納得だな。」
「えっ、まじ?文句言ってる?」
「いつものトルナスの冗談だよ、王様。」
「ああ、なんだ。後、王なんていいから。昔みたいにプロメスって呼んでくれていいよ。」
「そうか、じゃあ遠慮なく。」
「トルナスはやっぱり敬語な。」
「はっ⁉」
この世界は学校というか、魔術を学ぶところがあり、僕とトルナス、プロメスは同級生で、よく先輩や先生からは「三馬鹿」としてからかわれていたような気がする。それが今では、それぞれ「王」「騎士団長」「賢者」。世の中、わからないものである。
「—本当に。世の中、わからないものだな。」
「なんだ?プロメス。俺たちがこんな称号付きだからか?」
「いや、それもそうなんだが…」
「?…ああ。だな。」
「もう少しちゃんと見ていれば、その兆候もあったんだろうけど。」
部屋にたまりゆく、暗く重い雰囲気に耐えきれず、ふと窓の外を見る。
今は夕暮れ時。もうじき、学び舎の終業の鐘が鳴るのだろう。
そう、6,7年前の思い出に浸っていると、ふと、外の景色に見慣れないものを見る。
黒色の何か。鳥にも見えるが、それにしては量が多すぎる。
「—うっ…!」
「大丈夫か?プロメス。」
「ああ…だが、嫌な予感がする。」
「「時眼視」だね。」
代々王家には、未来を断片的にみることができる能力があるという。そしてその能力が発動する際は、頭に頭痛が来るのだという。もともとは、王家、もとい、国の大事をいち早く察知し、それを予防するものだったのだが、この頃は予知の範囲が狭くなっているらしい。
「…てことは」
トルナスが言いかけた時、王の間の扉が激しくたたかれる。
「プロメス様!」
「何事だ。」
「魔物どもが、大群をなして我が国に行軍中です!その数、約10万!!」
「…そっか。」
「…へ?」
「おい、困ってんじゃねえかよ、マチアス。」
「いや、だって…ね?」
「まあ…予想はしてたからな。」
「なんなら、今来てくれるのはラッキーってやつだろ。」
「だな。四公爵たちに至急連絡しろ、出陣だ。」
「ほかの騎士団連中にも頼む!あいつら言わねえといかねえから。トルナスからの命令だと言っておいてくれ!」
「わ、わかりました…」
『ついに来たか。今度はどんな手で来るかな…レイダ。』




