第十八話・・愛宕神社辺り・・
第十八話・・愛宕神社辺り・・
愛宕神社へ向かう車内では、
福ちゃんからそこにまつわる昔話を読んでくれるように頼まれた。
今は昔の話です。
六日町のある人の家に小さなお地蔵様がありました。
ある時六日町で火事があり、
何処からかやってきた子供が火事を消したそうです。
さて、どこの子どもだろうと皆が不思議と思っていると
縁側に小さな子供の足跡がついていて、
足跡を辿っていくと地蔵様へと続いておりました。
それを見た人々はお地蔵様が火を消してくれたと言いました。
またある時は神社が火事にあい、
お寺の和尚様が一生懸命に水を汲んで神社に水をかけ消しました。
次の日村人達が和尚様にお礼を言いに行くと、
「はて?わしは、
昨日は檀家の法事があり出かけておったのじゃが」
と答えました。
村人達は昨日火事を消してくれたのは
いったい誰だろう?と思い神社をよく見ると
地蔵様の小さな足跡が残っていました。
村人たちは
「なんとありがたいお地蔵様でしょう。
皆でお祀りして拝もうではありませんか」
と言い、お地蔵様のいた家にお願いして、
愛宕様にこのお地蔵さまをお祀りすることにしました。
愛宕様は火防の神様で、
六日町の辺りに火事のないように御守りしてくださっているそうです。
どんどはれ
(参考資料鈴木サツ自選50話遠野むかしばなし)
「愛宕神社と言えば京都が有名だね。
確か七月三十一日に、お詣りすれば千日分のご加護があるらしいよ。
この愛宕様もきっと同じなんじゃないかな」
知識豊富な福ちゃんらしい答えだと感心しながら
「そうなのね、さっすが福ちゃん!
他の土地ならお地蔵様が生きているなんて信じられない話だけど、
遠野だと当たり前に感じるから
本当に不思議な場所なんだって益々思えるね、
それから、
足を煤で真っ黒にしながら人々のために火を消すお地蔵様のお話は、
私の尊敬している方が
この世の中で、人々を導くお地蔵様になぞらえて
地蔵道を提唱しているけど、
このお話を教えてあげたら
すんごく喜ぶだろうなって思ったわ、
すんごくほっこりするいいお話だったね」
「へ〜地蔵道か・・・なるほどなぁ」
福ちゃんが深く頷いている。
「遠野は古くから、
山間部と海岸地方をつなぐ交通の要所だけあって、
昔話の幅が広く感じるね」
運転席の一人が言った。
「いろんな土地の人達が集まる場所だったからかしらね」
と私。
「今ではパソコン一つで世界と簡単に繋がることができるけど、
昔は人の足で文化も運ばれたんだよ」
と福ちゃん。
「すべては人の力で出来上がっていたのね」
と私が言うと
「そうだね」
と言いながら福ちゃんが頷いた。
「それから周りを山で囲まれているから、
昔は大変な思いをして、ここまで辿りついたんじゃないかしら」
「遠野はね地理的に見ても、
北上筋から花巻、遠野への道筋はなだらかな登り道で
北上山系の中でも、最も通行の容易なルートだったみたいだよ。
さっき博物館で地図を見て思ったよ」
「そうなのか!それじゃ海からの道筋はどうだったの」
「三陸海岸に行く道筋には険しい峠道、
例えば仙人峠みたいな険しい道が控えていたけど、
距離を考えた場合
一番便利な道だったみたいだよ。
ただし、かなり困難な道だったみたいだけどね」
「当時の遠野の郷の賑わいは、相当なものだったんじゃないかしら」
という私の問いに
「はなちゃんさすがだね、
それに関しては出馬千頭、入馬千頭。という言葉が残っているそうだよ、
現在で言うならちょうど
経済センターみたいな役割を果たしていたみたいだよ」
福ちゃんの話を頷きながら聞いた。
「つまりこの遠野物語や昔話の持つ豊かさは、
他の地域から隔絶されて生まれたものじゃないって事なんだね」
運転席の一人が言った。
「そう言うことになるね。
もし孤立した地域だったら、
一つの固定した神話は生まれることはあったとしても、
こんなにたくさんの想像力豊かな民話は生まれてこなかったと思うよ」
福ちゃんが答えた。
「それってさ、オシラサマやカッパに現されているように、
人間と神様を同一平面状に置いて、
同じ時空を過ごしているように現したってことかな」
と一人が言った。
「そうだね、神様と語り、動物と人間が結婚する話、
オシラサマの話も素直に受け入れる。
自然を恐れ、敬い、更に自然と一体となる。
凶作や天災に対しても
逆に明るい話で乗り切ってきた、
人間の底力を感じるね」
と福ちゃんが言った。
「その想像力の源になったのは、
多くの人達の経験や周辺の地域との交流で知った物語が
いろんな形で、積み重なったものなんだね。
それを子供が聞いてもわかるような昔話という形にして、
たくさんの戒めや教えを伝えてくれたものが、
一冊の本「遠野物語」として俺たちの目の前に現れたわけだ」
と一人が言った。
福ちゃんが
「・・遠野ってやっぱりすごい場所なんだよな・・・」
と独り言のようにつぶやいた。
車は愛宕神社前の駐車場に着いた。
目の前には愛宕神社の長い階段があり、
階段脇にある細道の先には五百羅漢、
駐車場の前には卯子酉様のお社がある。
「雨も強くなってきたし、もうすぐ夕方で暗くなると厄介だから、
愛宕神社か五百羅漢のどちらかにしよう」
「俺、五百羅漢が見たいな」
一人の言葉で五百羅漢を見ることに決まった。
五百羅漢は、
愛宕神社の脇道をしばらく登った先にあり、
今から二百年ほど前の天明年間(1781〜1789)
三千余名に及ぶ餓死者があった際、
南部家菩提寺の十九世義山和尚が
その惨状を憐れみ、
大小さまざまな自然石に、
読経しつつ五百体の羅漢を刻み、
なき人々の御霊を供養したと伝えられている。
「一人、福ちゃんちょっと待って」
脇道を歩き始めた途端、
目の前に広がる暗い森の中の気配に
遠野に来てから今まで感じたことのない恐怖を感じて、
私の足はピタリと動かなくなってしまった。
「どうしたの」
福ちゃんが心配そうに駆け寄ってきてくれた。
・・・ココハハイッテハイケナイ・・・
誰かがそう教えてくれたような気がした。
「私ここで待っていていいかな」
「うん、そうしな、はなちゃん顔色が真っ青だよ」
福ちゃんの言葉にうんと頷くのが精一杯だった。
「車で休んでいなよ」
そう言いながら一人が
私の脇を抱えて車まで連れて行ってくれた。
「はなちゃんさ、遠野に来てから急に見えないものが見えるようになったりして、
ちょっと疲れたんじゃないのか
あとは俺たちに任せて、ゆっくり休んでいなよ」
一人がそう言いながら頭をポンポンしてくれた。
「うん、そうするわ。ありがとうね」
二人が戻るまで私は車の中で横になることにした。
どうやら眠ってしまったらしい。
車のドアが開く音で目が覚めた。
「はなちゃん、行かなくて正解だったよ。」
福ちゃんが言い、一人が頷いている。
「石に刻まれた羅漢様の顔がとにかく凄まじかったよ。
叫んだり、泣いたり、怒ったり、笑っているのもあったんだけど、
とにかく作りものじゃない迫力というか、
実際に生きているように感じて、
石に宿る情念見たいなものを俺たちでさえ感じたくらいだから、
はなちゃんが見たら倒れるかもしれないなって
一人と話していたんだ」
「石と風と苔が重なって
なんとも言えない時代を感じさせる匂いが充満しててさ、
刻み付けられた人間の裏側の思いが凄い迫力で迫ってきてさ、
まるで見にきた俺たちを見抜いてるみたいだった。」
と一人が言った。
「普通五百羅漢と言えば立体的な像がほとんどなんだけど、
線刻でね。珍しいなと思ったよ。
立体よりも線で刻み込まれている仏様は、
彫り込んだ和尚の念仏が強く刻み込まれているようで怖いくらいだった。
近くを流れる小川の流れがまるで読経しているみたいに聞こえてくるから、
凄まじい執念を感じたよ」
福ちゃんはそう言いながら自分を納得させるように頷いている。
「この五百羅漢だけで写真集が作れそうだったよ。
はなちゃん、写真なら大丈夫だろう、後で見せてあげるよ」
一人が珍しく山以外で熱く語っているのを見て、
この時ばかりは実物を見に行けなかった事を少し後悔した。
「さて、次は目の前の卯子酉様だね」
愛宕様へは階段の下から一礼させていただいたその時、
気のせいだろうか、優しい風を頬に感じた。
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