26話 スィナーンからの書簡①
※先日公開した25話ですが、大幅に加筆しました。事の顛末を知っている私が読む分にはいいのですが、読者の皆様には不親切な内容だったからです。
加筆して、少しは「???」を減らせたかと思いますので、もし宜しければもう一度読んでやってください。
推敲段階で気付かなくて申し訳ありませんでした。
【 スィナーンからの書簡 1通目 】
新愛なる我が君。
ご指示の通り、ご執心の姫君の近況を報告いたします。
織物を生業とする、マダム・アレキサンドラを覚えておいででしょうか?
昨年、我が村の綿花を破格の好条件で買い取ってくださった、気風の良いご婦人です。
この度、マダムの隊商と運よく鉢合わせましたので、交渉したところ、二つ返事で快諾してくださいました。
女主人が仕切る隊商であれば、姫君の精神的なご負担を減らせるかと存じます。
さて、肝心の姫君はと申しますと、我々の予想を裏切り、自力で交易路に辿り着きました。さしたる怪我や病気もなく、現在は乗り合いの馬車をお探しです。
(見た目よりも逞しい方で感服いたしました。「旅などできない」と侮っていたことを、伏してお詫びいたします)
マダムの隊商と合流し次第、改めて書簡をお送りいたします。
あなたの忠実なる僕より。
◆◇◆
【 2通目 】
新愛なる我が君。
件の姫君は、無事にマダム・アレキサンドラの隊商と合流。
事前の打ち合わせ通り順調に話が進み、都・グラナバードまで行動を共にすることに相成りました。
隊内は男ばかりなので、最初は戸惑っているご様子でしたが、面倒見がよく気さくな人柄のマダムとはすぐに打ち解けました。
また、先導役のラクダや駄馬との触れ合いも楽しんでいらっしゃるようです。どうぞご安心ください。
私は隊商の一員に扮し、内偵を継続しております。
マダムの衣類をお借りし、熟年の女性を装っておりますため、今のところ疑念を持たれてはいないようです。有事の際は攻勢に転じますが、当面はこのまま情報収集に努めて参ります。
◆◇◆
【 3通目 】
新愛なる我が君。
件の姫君に危険な兆候が見えますためご注進申し上げます。
何かと申しますと、姫君の睡眠時間が著しく短いのです。
慣れない環境のためか寝付きが悪く、やっと入眠してもうなされてすぐに目を覚ましてしまうようです。
そのため顔色は悪く、表情にも精気がありません。
何を尋ねても張り付いた笑顔ではぐらかされてしまいますが、毎夜声を殺して泣いていらっしゃる姿が痛ましく、マダムも気に掛けておいでです。
*
夕刻、害獣の襲撃を受けましたが、流石は百戦錬磨のつわもの揃い。圧巻の戦いぶりで狼の群れを一掃し、姫君の御身に危険はございません。ご安心ください。
◆◇◆
【 4通目 】
親愛なる我が君。
姫君の体調を考慮し、城塞都市・アッバースにて一晩宿をとることになりました。
急ぐ旅の最中にもかかわらず、マダムの心優しい配慮には頭が下がる思いです。
(私ごときが差し出がましいようですが、謝礼として綿花の増産を検討するべきだと思います)
また、マダムと二人きりでお話をした後は、姫君に少し笑顔が戻ったように思います。
気持ちの高ぶりを抑える効果のある薬草を煎じ、差し上げましたので、今日はこのまま熟睡できると良いのですが……。
*
さて、話は変わりますが。
お二人の会話に耳をそばだてておりましたところ、姫君は未だに嫁入りの際の従者や侍女のことを気に病んでいらっしゃるようです。
申し訳なさそうに手を合わせるご様子が気に掛かりましたので、『グラドールとの国境付近を狩場にしている盗賊は、戦死者を弔うそうですよ。女性と子供の殺生は良しとせず、秘密裏に逃がしているとも聞きます』とお伝えしてしまいました。
私の一存で勝手をして申し訳ありません。
ですが、私達はいつも、あなたの言い付けで埋葬用の穴を掘っています。それも、仕事の後で疲弊しきった体に鞭打ってです。
そこらの葬儀屋にも劣らないほど供養の手際もよくなりました。
私達はいつも骨を折っているのに、恨まれたままではかないません。姫君に本当のことを知っていただいても、罰は当たらないでしょう。
読んでくださってありがとうございます!
今回は一話分丸ごと手紙と言う少し変わった表現をしてみましたが、いかがだったでしょうか。感想などをいただけると嬉しいです。




