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23話 生きる骸

 

「それで、敵さんの規模は?」

「荷馬車は大小合わせて5台なんですが、御者と人夫があわせて10名。戦闘員は少なく見積もっても40名はいるそうです」

「へえ、何を運んでるのか知らんが大所帯だな」

「規模が大きいため足が遅く、我々の狩り場……交易路に到達するまでに数日かかる見込みです。なので、その間に出来るだけ武器を強化して迎え撃ちましょう」

「いや、だめだ。こっちの頭数は敵の半数にも満たないんだ。どう頑張っても無傷ではすまない」

「では、一体どのように……」


 倍の兵力の敵と、平地で真っ向勝負するのは得策じゃねえ。こっちが優位に立つためには、団体さんがその物量を生かせない状況を作るべきだ。


「……ラザー王国側から交易路に入るルートは、確か山越えだったな?」

「はい。でも、それが何か?」

「細い山道を通るために、敵は必ず縦列を作る。隊列が伸びれば伸びるほど守りは手薄になり、真横から不意打ちを食らえば戦場は混乱するだろう。俺達は先回りして山道の両側に潜伏し、一行の到着を待って挟み撃ちにするんだ!」


 俺は喉から絞り出すように言った。情けないことに両手が微かに震えていたが、きつく握りしめて気付かない振りをした。


「アゼル。現地に早馬を送り、奇襲ポイントの選定を急がせろ!」

「承知しました!」


「くう~、それでこそ兄貴ッス。今から腕がなるッスねぇ!」


 アゼルの御意をかき消すように、年若の手下が浮かれた口調で言った。末席から聞こえた一際能天気なその声に、俺は眉を吊り上げる。


「おい、無邪気に喜ぶな! てめえのうっかりのせいで国境警備隊に踏み込まれたのを忘れたのか!?」

「うぐっ」

「だいたい犯行現場に女からの艶文(ラブレター)を落としてくるとはどう言う了見だ、おい? それも、ご丁寧にてめえの名前入りのな! マヌケにもほどがあるぞ!!」


 俺は鋭く睨み、吐き捨てるように言った。村人全員の命を危険に晒したこいつのミスに、心底腹を立てていたからだ。


 おまけに、警備隊の捜索がきっかけでシュカは脱獄に踏み切ったんだ。八つ当たりと言われればそれまでだが、恨み言の一つや二つ言っても罰は当たるまい。


「ほんっとうにすんません! 手紙なんて初めてで、嬉しくて、片時も離したくなかったんッスよぉ。今回は気を付けま」

「てめえはここで謹慎してろ。危なっかしくて連れて行けるか!」

「そ、そんなぁ……」


 捨てられた子犬みたいな目で見るな、馬鹿が。肌身離さず持っていたい気持ちは分からんでもないが、大事な手紙ならうっかり落とすなってんだ。


 懐にそっと忍ばせたスィナーンからの書簡のことを考えながら、俺は複雑な気持ちで吠えた。 


「ちぇー……兄貴、ご武運を」

「分かってる。総員、大至急身支度を整えろ! すぐに発つぞ!」


 そう号令して腰に下げていた短剣を振り上げると、手下達は「おう!!」と勇ましく応えた。そして、アジト内が途端に慌ただしくなる。


 地響きに近いそれをこれまでに何度も聞いてきたが、今回ばかりは身を切るような悲しい音だと思った。







「ちょいとお待ちッ!!」


 俺が苦悶の表情を浮かべた瞬間、芯のある強い声が喧騒を切り裂いた。


 大の男達がびくりと肩を震わせ、一斉に動きを止める。

 もちろん俺も例外じゃない。ぎょっとして、握りしめていた短剣を思わず落としそうになった。




「お、おかみさん!?」


 俺達の視線の先にいたのは、角ばった顔立ちの大柄な女性だった。

 大きくて頑丈そうな体格。キリッと釣り上がった太い眉。褐色の髪を固くひっつめにし、いかにも強そうな印象だ。


 しかし実際には、片足が不自由なため杖を手離せない。山の傾斜を利用して作った村だけに、本来なら村内での移動さえままならない状態だ。

 だからこそ、俺達は揃いも揃って唖然としたのだ。


「一体どうしたんですか。その足で麓まで降りて来るなんて……」

「アタシを見くびってもらっちゃ困るね。足の一本や二本なくても、行きたい所にゃどこへだって行くさ」

「はあ。まあ、そうでしょうけど」


 俺がモゴモゴと口籠り、顔色を窺っていると、おかみさんはドンと地面に杖を突いた。そして、声を強めて言った。


「アンタ達、今回の仕事は取りやめだ!」


「え!?」

「いつまた警備隊が侵攻してくるか分からないんだよ。アンタ達は稼ぎ頭だけど、村を守る戦力でもあるんだからね。しばらくは自重しな!」

「し、しかし!」

「こんな物騒なもんは捨てな、ラシード! アンタが今持つべきなのはこっち!!」


 おかみさんは俺の手から短剣を奪い取ると、代わりに熱々のパンを握らせた。

 状況がまるっきり理解できない俺は、「は?」と狼狽えてしまう。


「さあ、全員出てお行き! ただし、国境には行くんじゃないよ。当面の間、村を出ることは許さない。家に帰って親孝行でもしてな!」

「お言葉ですが、おかみさん。ラザー王こ」

「アゼル、アンタんとこは赤ん坊が生まれたばかりだろうが! 他所で戦争してる暇があるなら育児しな!」


 おかみさんはざわつく手下達にピシャリと言い放った。


「いいかい、これは()()命令だよ!?」


 アゼルは、スィナーンにも引けを取らないほど口達者な男だ。そのアゼルでさえ口を挟めない剣幕で、しかも、『村長命令』と言われれば逆らえるはずもない。

 手下達は項垂れ、ゾロゾロと洞窟を出て行った。


 何故かホカホカのパンを握らされた、俺以外は。


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