やっぱ、ファミリー層を狙いに行く
「えー、皆様にお知らせがございます」
冒険者ギルド、商業ギルド、魔法ギルドのマスター3名が並んで、お立ち台に立ち、大衆の前で説明を始める。
「この度、商業ギルド管理のダンジョンを開放する運びとなりました。冒険者ギルド、魔法ギルドの協力と秘技を用いまして、このダンジョン内には、モンスターが発生しない結界を設置してあります」
おぉ、と民衆がざわつく。
ダンジョンはモンスターが出る危険な所、というのが当たり前だったからだ。
「昨今の薬不足解消の為、皆様にもお力添えをお願いしたく、こうして今回のダンジョン開放についてと、その利用方法を御説明致します。興味のある方は、2時間後に商業ギルド大ホールにて、詳しい説明と手続きを行いますので、ご参加下さいませ」
商業ギルドのマスターはそう締め、一礼する。
ざわざわとしながらも、皆、何か新しいことが始まるらしい、と期待を膨らませる様子。
徐々に散り行く人々を見ながら、商業ギルドのマスターは両隣の二人に呟く。
「これでいいのか?」
「ああ。すまんな。毎回ウチがやっているとな、他の都市の冒険者ギルドからなぁ。当たりがキツくなってやりにくくなっちまう」
「で、巻き込まれた私は、どういう立ち位置何でしょうかね?」
魔法ギルドのマスターはジト目でライアスを見る。
「魔道具使って、結界張ってるって体を取る必要があったんだよ。だから巻き込んだ。ほら、これが詫びの印だ」
ライアスから、手渡された小袋を受け取り、中身を確認すると、魔法ギルドのマスターの顔が歪む。
「こ、れは……、何処で、これを?」
「貰った」
「この純度の魔石を譲るなんて……あり得ない。貴方、騙されていやしませんか?」
「ソレをくれた御仁は、その程度の魔石は腐るほどあるから、こんなつまらない物で本当に申し訳ないだとよ」
その言葉に、思わずゴクリと喉を鳴らす魔法ギルドのマスター。
そっと袋をしまい、ライアス殿とは良い関係であろうと心に決めるのであった。
指定の時間。
場所は商業ギルド大ホール。
大勢の人が集まっている。
一般的な仕事終わりの時間にしたためか、仕事着のまま来ている人も見かける。
「……あー、お待たせしましたー。それでは、商業ギルド管轄のダンジョンの利用説明を行いますー。私は商業ギルド員のセリーナと申しますー」
ギルド員━━セリーナがホール前方の壇上に上がり、説明を始めた。
拡声の魔道具を使用している為、大ホールの隅々まで、セリーナの声が届いている。
「今回開放するダンジョンには、先刻説明を致しました通り、モンスターは出現しないよう封印が施されています。ですので、お子様から御老人まで、心配なくご利用下さい。ダンジョンは、『草原エリア』『迷路エリア』『探検エリア』があります」
セリーナの手には、ダンジョンマスターから渡された資料を要約したものが握られている。
簡単には、以下の通りだ。
・草原エリア
数キロ四方に広がる草原。
丘と、水辺と、小さな森が点在している。
それぞれの植生に合わせた薬草が生えています。
ダンジョンの魔力を利用して栽培している為、
約3時間で、再び採取可能になります。
※効能は、天然物より低いです。
・迷路エリア
迷宮のようですが、罠はありません。
挑戦を始めて2時間で、強制排出されます。
ゴール到着もしくは強制排出で、迷路が変化します。
迷路には宝箱や魔石があります。
・探検エリア
複雑な構造の建造物があります。
自由に探検しよう。
探検エリアの存在は意味が判らないが、何か活用方法があるのだろうか?
商業ギルドとしては、目下、草原エリアでの薬草採取や迷宮での宝箱からのポーション(出ると書いてあった)が狙いだ。
多少効能が低くても、薬草は薬草。
濃縮すれば、天然物とそう変わりない物が作れる。と、錬金ギルドから報告書を受け取っている。
「ダンジョン内で手に入れた物は、商業ギルド特設窓口で換金可能です」
この一言に、ホール内にどよめきが響く。
「質問いいか?」
「はい、どうぞ」
一人の中年男性が手を挙げる。
「換金してくれるのは有り難いが、正直に言って、胡散臭い」
「あー、はい。言われると思ってました。」
セリーナは苦笑して、続ける。
「自分達で採取すれば、お金を払わずに済むのに、何故、お金を払って採取しようとしているのか?そうですね。単純に考えると、私達商業ギルド側が損をしていると思えます」
一旦、言葉を切って様子見。
「しかし、草原エリアに生えている薬草を探して、集めて、持って帰って……。正直な話、人手が圧倒的に足りません。絶望レベルです。なので、皆様の手を借りよう。という訳なのです。私達に変わって、皆様に薬草を集めて貰った方が、量が圧倒的に違います。……もう、定時で帰りたいんですよ」
最後に若干の本音。
通常業務の後に、薬草採取とか、もう、ホント、手が毎日薬草臭いのよ……。とセリーナは心の中で涙する。
「……なるほど、人手不足なら確かにな。ありがとう。続けてくれ」
男性は仕込みの通り質問を終える。
「他に、質問があれば……」
しばらく、セリーナとの質疑応答が続いたが、やがて質問は出尽くし、説明も混乱なく終わる。
ダンジョンの開放は明日の昼過ぎから、と告知し、説明会は終わった。
後は、ダンジョンが開放された後に起こる問題への対処だな、と、商業ギルドマスターはギシリと執務室の椅子に身体を預ける。
く、とグラスの水を飲み干すと、一息。
さて、サイは投げられたぞ、と。
翌日、ダンジョン解放と同時に多くの民衆が訪れた。
意外だが、エルフも多く来ているということで、興味本位で聞いた所、「王都は自然が少ないから」とのこと。
草原エリアに訪れて、草原で寝転がっていたり、木に登って潜んでいたり、思い思いの方法で癒されているようだ。
時々、薬草の見分け方や採取の仕方を教えていたりもしている。
ギルドに納品される薬草も、かなりの量になっている。
ほとんど儲けはない状態で、錬金ギルドや都の調合屋、病院などに流しているが、まだまだ数は足りないようだ。
商業ギルドマスターの手には、小袋がある。
中には純度の高い魔石が幾つか。
オークションへ出品すれば、今回の赤字の補填など雑作もない。
ダンジョンマスターから、とライアスに渡された物で、ダンジョン入場数で変動させるが、今のペースなら、月1で提供出来るらしい。
一度不安になった幹部達が、薬草買い取り額を下げることを打診してきたが、これを見せて黙らせた。
……さぁ、考えよう。
いかに無駄なく、不満なく、皆が笑顔でいられるような、ダンジョンの利用方法を。




