吸血鬼カミラ
すいません。
いつもより長くなってしまいました。
ヨーコはダンジョンのとある区画にやって来ていた。
全体的に薄暗いが、土壁はなく、広々としている。
自然溢れ、所々手が加わっているのが判る。
洋風の民家がポツポツとあり、牧歌的な風景が広がっている。
「おっちゃん、ちょっといいかな?」
「はいはい。なんでしょうかな?」
家畜に餌を与えていた男性に話しかける。
「姐さんは在宅?」
「?カミラ様ですかな?」
「そそ」
男性は少し思案するが、ヨーコの顔を見て、ハッとする。
「おぉ、ダンジョンマスター様ですか。これはこれは失礼を」
男性はヨーコに頭を下げると、お屋敷にいるはず、とヨーコに伝える。
ぱたぱたと手を振って男性と別れると、ヨーコは丘の上に見える屋敷へと足を進めた。
屋敷に着くとドアノッカーを鳴らし、出迎えた執事に用件を伝える。
程なく案内され、客間へと通される。
「姐さん、お久ー」
「うむ。かわりないかの?」
「変わりまくりだよー」
屋敷の主━━カミラは、質素だが丁寧な作りのドレスを身に纏ってヨーコを迎えた。
出された紅茶を一口。
ヨーコの顔が綻ぶ。
「いつ来ても、美味しいね。羨ましい」
「フフ、何よりじゃの」
微笑みはまるで聖母のよう。
しかし、カミラは吸血鬼である。
元々、近くの森の奥でひっそりと暮らしていたのだが、周囲の人間が増え、住みづらくなってきていた。
そこにユーキが現れた。
相対して判る絶望的な戦力差。
だが、領民を守るのが貴族の務め、カミラは戦いを挑んだ。
魅了の魔眼は無効化され、攻撃はいなされ、魔法はかき消され、それでも、カミラは引かなかった。
「まだ、やるかい?」
「フン、引けぬ戦いもあるのじゃ」
「判ってると思うけどさ。あんたじゃ、オレに勝てないよ」
「それでも、じゃ。
……最早、限界なのでな、これだけヒトが増えれば、我等の存在は知られてしまうじゃろう。そうなれば、狩って狩られて、互いが絶滅するまでの殺し合いじゃ」
カミラは、満身創痍の身体に鞭打って、再び構える。
「なれば、ここで果てるも、先で果てるも同じことよ」
「………」
「せめて一撃、そなたに食らわせてやろうぞ!」
飛びかかるカミラ。
だが、途中でその姿が霧散する。
直後、ユーキの背後からカミラが姿を現す。
背後からの一撃がユーキを襲う。
「ガッ!」
ユーキから尋常じゃない圧が放たれた。
全方向への魔力波。
間近でソレを食らったカミラは、膝から崩れ落ちる。
「クッ……届かぬか……」
「………」
くるりと振り返り、しゃがむ。
ユーキはカミラをまじまじと見つめる。
「……なんかさ」
「………」
「オレが悪役みたい」
「……何を今更……」
「なので………よっと」
「!!貴様、何をする!」
ユーキはカミラを持ち上げると、スタスタと歩きだす。
肩に担ぐ様は、まさに運搬。
カミラのような美女にするやつではない。
「ちょっと大人しくしててよ。まぁ、悪いようにはならないと思う。保証は出来ないけど」
「せめて、もう少しマシな運び方は出来ぬのか……」
「捨ててきなさい」
「えー、いいじゃん。スペース余ってるでしょ」
「そーゆーことじゃないの」
カミラな前で、ユーキと少女が揉めている。
ユーキに連れられ(運ばれ?)来たのは、ダンジョン。
部下から、近くにダンジョンらしきものがあると報告を受けていたが……。
周囲を囲むモンスター達。
何なのだ。アレは。
殆どが我より上ではないか。
強さにはいくらか自負があったが、世界は広いのぅ。はぁ……。
「誰がお世話するのよ。結局アタシでしょー」
「そうだね」
「むがー!」
「……ちょっといいかの?」
話が平行線のようなので、口を出してみる。
我はともかく、領民はなんとか受け入れて貰わねば。
「……と、いうことでな。我の命と引き換えに領民を受け入れては貰えまいか。我ならば、多少のDPは見込めるであろう。……このカミラ、伏して、お願い申し上げる」
「………グス」
しばらく伏していたが、返答はない。
これは、ダメだったかの。
「ほらぁ、もー。カミラさんだっけ。顔上げて、こっち来て。ほらここ座って」
少女は涙声で捲し立てると、我を引っ張り、側に座らせた。
いつの間にか豪奢な椅子が用意されていた。
何処にあったのだろうか。
ともあれ、良い方に話は進みそうだ。
なんか、周りのモンスターからの視線も、心なしか温かく感じる。
「ワタシはヨーコ。ここのダンジョンマスターよ。あなた達を受け入れます」
「ま、まことか。良かった……これで我が領民も生き延びられる…」
「うんうん。ひどいのは全部人間なんだよね。アイツ含めて」
「そなたは?人間なのでは?」
「ワタシはダンジョンマスターって生き物よ」
「左様か。民は100名程じゃが、大丈夫だろうか?」
「問題ないわ。環境も合わせるわ」
「有難い。これで憂いなく逝けるわ」
良かった。
これで我の仕事も終わりじゃの。
肩の荷も降りたわ。
「さぁ、一思いにやってくれ」
「嫌です」
えー。
ヨーコは我の手を取り、見つめてくる。
「あなたは、世間知らずのワタシの相談役になってもらいます」
「じゃが、それでは民のためのDPが」
「それはあそこのアホで賄うから」
「ハッハ、辛辣」
「やかましいわ。ほらほら、68階で暴れてきなさい」
「あいよー」
ヨーコは魔方陣を作りだし、ユーキに紙を棒状に折り畳んだ物を渡す。
ソレを受け取ったユーキと周りのモンスター達は、魔方陣へ次々と乗り込んで行く。
「さて、それじゃ、カミラさ━━姐さん達のエリアを設定しましょーかねー」
ヨーコはニコニコと何かを操作し始めた。
時折くるヨーコからの質問に答えながら、我らの安住の地となれば良いな、と思いを馳せる。
その為にも、ヨーコの力にならねばの。
「姐さん、聞いてる?」
「フフ、ヨーコが可愛くての。見とれておった」
「またまた。でね、ちょっと試したいことあってね」
「ふむ、なんじゃ?」
「献血って知ってる?」
「…知らぬな」
「簡単に言うとね。血を分けてもらうって仕組みなのよ。その代わり、ちょっとしたお礼をあげるの」
「血を売り買いするということかの?いつもの通り、ダンジョンに来た人間を襲うのと何か違うのか?」
「供給の安定化と、品質の向上かな?」
「安定化は判らんでもないが、品質とは?」
カミラは腑に落ちないのか、首を軽く傾げる。
くっそ、可愛いな。
「んー、姐さんは、健康的な生活をしているイケメン人間の血と、怠惰な生活をして、だるっだるに太った人間の血と、どっちがいい?」
「イケメンは判らんが、そうじゃな、冒険者のように鍛練をしている人間の血の方が、スッキリとしているのは確かじゃな。どっちか?というのであれぱ、迷うことなく前者じゃな」
「良かった。じゃ、話を続けるね」
と、ワタシはカミラに吸血鬼の為の献血のシステムを説明しはじめた。
もちろん、無料とかおやつとかじゃこの世界の人達は、献血はしてくれないだろう。
色々と考えないとねー。
で、ボルゾーシステム(仮)の運用が始まった。




