脱獄王 終
ガッツリと減ったDPに悲しい気持ちになった。
まだ、そんな気持ちになれるんだな、と改めて自分に感心する。
その後もトレーニングを続け、いい加減身体が悲鳴を上げ始めたので切り上げる。
端末を操作して、部屋に。
そして、洗い場で汗を流し、衣服を整えた。
約束の時間まで後少し。
柄にもなく、ソワソワする。
……しばらくして、部屋のベルが鳴る。
「約束の時間よ。今日は……3番にいらっしゃい」
女性の声。
言われるままに端末を操作して移動する。
勝手に移動出来ないからな。仕方ない。
転移が終わると、目の前には白衣を着た女性が佇んでいた。
はっきり言って、美人。
それも『妖艶な』と、頭につくやつだ。
漆黒の髪はアップに結い上げて、見えるうなじは色気が漂う。
少しタレ目な大きな瞳、泣きボクロが、もう、あざとい。
すっとした鼻筋、ぷるんとした唇。
もう、男の理想の一つを形作ったかのよう。
出るとこと引っ込むところの主張が、白衣ごしからでも判る。判ってしまう。
で、傍らにはベッド。
ドキドキが止まらない。
「さ、こっちにいらっしゃい」
白衣の女性に呼ばれ、ベッドに横たわるように指示を受ける。
彼女の白魚のような指先が、つ、と頬をなぞり、顎先へ。
そこから喉へと下り、首筋を妖しく、そ…、と撫でる。
「フフ、ちゃんといい子にしてたのね」
白衣の女性はふわりと微笑む。
その笑顔に、胸が苦しくなる。
女性はそっとボルゾーのシャツを捲る。
素肌に添えられる彼女の冷たい指先が、火照る身体に心地良い。
「今日は、どうするの?」
「い、イケるとこまで」
「フフ、お馬鹿さんね。死んじゃうわよ。
ダーメ♪今日も400ね」
「おなしゃす」
ボルゾーの左腕が消毒され、プスリと注射器が刺される。
そして、抜かれ始める赤い血。
「言いつけを守って、ちゃんと鍛えてるのね」
「わかりますか?」
「私達には、ね」
「凄いっす」
そう、彼女は吸血鬼。
しかも、このダンジョンで造り出された存在ではなく、この世界に元々いるタイプの方だ。
故あって、このダンジョンに居を構えている。
で、今はボルゾーから採血中。
しばらくして、採血が終わり、針跡をペロリと舐められると、あっさりと血が止まる。
舐め方、えっちなのはいけないと思います。
「はい。お疲れ様。次はまた一週間後ね」
「また、来ます」
「うふふ、無理しちゃダメよ。じゃ、はい、コレ」
「……あざっす」
笑顔の白衣吸血鬼にチケットを渡され、見送られる。
また、来よう。
また、身体を鍛えて、抜いて貰おう!
だが、今はコレだ!
ボルゾーはウキウキと部屋に戻ると、端末を操作する。
プルプルと何かを呼び出す音。
そして、
「毎度どーもっす。宅配サキュバスっす」
「あ、あの、チケット有るんですけど…」
「おぉ!流石っすね!旦那♪んじゃ、早速」
端末に新しいパネルが浮かび上がる。
そこには沢山の美女の肖像画がある。
何故か、は判らないが、皆、目元や口元を隠している。
何故だろう。妙に色気を感じる。
「えっと、1番のソフィアちゃんだけど……」
「え!?あー、ソフィアちゃんっすかー……」
通信先の『申し訳ない感』な声に、ボルゾーは気落ちする。
今日こそは、人気No.1のソフィアちゃんに来てもらうのだ!と気合いを入れていたからだ。
「あ、やっぱ、ダメすか……」
「申し訳ないっす。ソフィアちゃん、今日はちょっと気が乗らないっていうか……ちょっとワガママ言っちゃってるんすよー」
「あや、人気No.1ですからね…。色々大変なんすよね…」
「そうなんっすよー。今日は『人間』しか相手にしない!とか。
まじ、あり得ないっすよ」
「?」
「ちょっとプロサキュバス意識に欠けるっていうか、もう、ね!」
「あの…」
「なんすか!もう!」
「自分、『人間』なんですけど…」
「………」
「………」
「……はい!ソフィアちゃんっすね!」
「は、はい」
「では、五秒後にお伺いしまっす!
オールナイトチケットで!逝ってラッシャイ!」
チーン!と通信が切れる。
呆気に取られていると、背後から何かの気配が生まれ、同時に甘く、とてもとても良い匂いが部屋に溢れだした。
振り替えると、シスター姿の地味系な女性が佇んでいた。
あの初恋の、教会のシスターに、よく似ている。
つ、とボルゾーの側に歩み寄り、ふんわりと抱きつかれる。
「ソフィアです。……逢いたかった」
「あ、は、はい」
そっと、手を引かれ、ベッドへ誘われる。
「今夜は、優しくシテね?」
「はい!」
そのまま、優しく頭を撫でられながら、ボルゾーの頭は、ソフィアさんの柔らかな太もも枕へ沈み込んでいくのであった。
目を覚ますと、ボルゾーはむっくりと身体を起こした。
もう、何も出ない。
ソフィアさんは最高だった。
ボルゾーの人生で、味わったことのない《禁則事項》だった。
流石No.1かと、これがNo.1かと。
夢魔、恐るべし!
アレとか、ソレとか、夢とか関係なく、もう、もう!
ヨタヨタと身体を伸ばし、気合いを入れる。
吸血鬼献血でチケットを貰うためには、堕落した血ではダメなのだ。
その為にも、身体を鍛えて、健全な血にしなくてはならない。
次は、ミランダさんを指名するのだ。
ボルゾーのボルゾーに気合いが入る。
まだまだ死んでたまるか!と。
元死刑囚は、生を謳歌する。
脱獄王と呼ばれた男は、もう、いない。
ここからの脱獄は、いつの間にか、頭から消え去っていた。
そんな事よりも、次のチケットまで、一週間。
ボルゾーのボルゾーがやる気に満ちた瞬間だった。




