脱獄王③
気が付けば、牢屋の中にいた。
しかし、牢屋といって良いのだろうか?
目の前には大きな鉄格子。だが、出入口に当たる部分はない。
窓は無いが、ドアがある。
開けると、小部屋に続く。
そこにはドアが更に二つ。
まさかのトイレと洗い場。
「何だ、ここは?」
思わず呟く。
そういえば、と。
寝かされていたベッドは、ふかふかと異常な柔らかさで、かけられていた布も素晴らしく良い手触りだった。
部屋の中央にはテーブルと椅子があるが、これも武骨ながらしっかりとした造り。
部屋の片隅には見慣れない台がある。
平らな板があるが、材質は判らない。
使い方も判らない。
目の前の鉄格子が、ここを牢屋的な存在であると主張していること以外、判らない。ということが判った。
「ようやく、目を覚ましたみたいだね」
女の声が聞こえ、顔を向けると、鉄格子の向こうに女がいた。
何がどうしてどうやったのかは、全くこれっぽっちも判らなかったが、オレが返り討ちにあった女だ。
「おかげさまでな。ぐっすり寝れたぜ」
「そりゃ良かった」
余裕かよ。
確かにな。
自分でも、完璧なタイミングでイケたと思ったら、あっさりやり返されたからな。
実力差は相当だろう。
だが、何故?オレは生かされている?
「何が目的なんだ?」
「目的?」
オレの言葉に女はキョトンとした顔になるが、ややあって、そうそう、と言葉を続けた。
「そこで生きている。ことかな?出来るだけ長く。死ぬまで」
「……何だと」
「ま、試し。なんだよね。あなたが最初だから。テストケースなのよね」
「てすとけー?なんだ?」
「あー、難しいこと考えなくていーよ。意味ないから」
こいつ、何を言っている?
そもそもこいつはなんだ?
「ほっほ、絶賛混乱中かな?それとも、まだここから出られると希望を捨ててないのかな?」
女は楽しげに笑う。
くそ。
情報が足りねぇ。
「うんうん。いいねぇ。只のアホより好感が持てますなぁ」
「そりゃどーも」
「では、そんなあなたに朗報です」
女は優雅にカップに口をつけると、ニコニコと微笑む。
こいつはアレだ。
アイツにとって朗報で、こっちにとっちゃ最悪ってやつだな。
「まず、ここは何処か?答えはダンジョンの中。階層は地下99階。モンスターの平均レベルは100以上」
……何だと?何を言っている?
レベル100なんて聞いたことないぞ。
冒険者のトップ層で、レベル80前後と効いたことあるが……
それで人外とか言われてるんだぞ。
「ちな、アタシはレベルでいうと500超えてるから。そこんとこ宜しく☆」
キャハー♪とウインクしている女。
こいつはいけねぇ。
絶望的だ。
オレのレベルは50代。
どんな間違いがあっても、敵う相手じゃない。
「おー、いいねぇ。いい絶望顔だねー」
何が楽しいのか、女はニコニコと笑っている。
「だけど、安心するといい。そこから出なければ、安全を保証しよう」
「何故、生かす」
「何故って、そりゃ。すぐに殺すより、生かしておいた方が実入りがいいからよ?」
「わかんねぇ」
「そうよねー。ま、簡単に言うとね。あなたがここで生きていることがワタシにとって、とても良いことだから。よ」
女は、にっこりと微笑む。
「その為の準備は頑張ったのよ?」
その言葉に、確信する。
あぁ、オレは、ここから逃げられない。と。
柔らかなベッドに倒れ込み、オレはそっと気絶した。
「え?あれ?あるぇ?」
女の戸惑いの声が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
どうせ、意味がない。
オレも意味がない。




