脱獄王②
ボルゾーの前に男がいる。
「やぁ、元気かね?」
「あんたか?元気だが、自由がねぇ」
「それは当然だろう?諦めたまえ」
「やだね」
いつもの会話。
逃亡の際、手持ちの金が無くなる度に盗みを働き、その余罪が積もり積もって、今や死刑判決。
執行の日を待つばかりである。
しかし、ボルゾーの目には諦めた様子はない。
大臣は、ふむ、と顎に手を当てる。
「……お気に召すと良いのだがなぁ」
ポツリと漏らす言葉に、ボルゾーは何かが動き始める予感を感じた。
そして、改めて、気を尖らせた。
一瞬の、刹那のチャンスを逃すまいと。
「と、いうわけで、ボルゾーさんです」
「わぁい。来やがった」
「歓迎されてないのは判ったぜ」
ダンジョンの一角にボルゾーは連れてこられた。
のは、判った。
が、状況がよく掴めない。
目の前には一人の女。
派手でも、地味でもない。
何を考えてるのか読めない目と無表情。
この場に似つかわしくない服装。
町娘のようで、どこかの貴族の娘のような、作りは平凡、材質は一級品。
なにより、武器も防具も装備していない。
まるで、ダンジョンに散歩でもしに来たような。
「まぁ、受け入れたのはこっちだしね。
さてさて…、ふむふむ…。ほぅ…、
なるほど」
「何だよ、気持ち悪ぃな」
女はじろじろとボルゾーを眺めると、微笑みを浮かべる。
「いいでしょう。とりあえず、コレで試してみますかー」
女は、大臣とここまで護衛をしてきた男に了承の返事をする。
「とりあえず、1ヶ月。見てみるわ。それで問題なければ、また、ってことで」
「ありがたい。死刑執行は決まっているのだが、それまでの手がかかりすぎてな。引き取って貰えれば、後はそちらの好きなようにして貰って構わない」
大臣はホッと息を吐いている。
護衛の男は、なんだ?警戒してないな。こりゃ。
で、目の前には、女が一匹、と。
ボルゾーは静かに集中を始める。
「ま、なかなか活きが良さそうだから、頑張って欲しい所、かな?今後の運用に関わるし」
「こちらとしては、獄中で、罪の重さに耐えきれなくなって、自殺した。としておこうか。王都の監獄は付け入る隙がなく、絶望した。とか」
「うわ、悪い顔。役人怖いわー」
「はっはっはっ。あなたがソレを言いますか」
「はっはっはっ。違いな…くないわ、ちょっと待て」
今。
ボルゾーは、一気にスキルを解放した。
気配遮断、気配拡散、幻影投射、忍び足、瞬発力増幅、覚醒━━━。
狙うは隙だらけの女。
あの大臣が丁寧に応対する身分は、人質に使える。
護衛の男とは目があったが、動く気配はない。
足枷をしなかったのは、お前らのミスだぜ。
電光石火。
ボルゾーは目にも止まらぬ速さで、女に接近し、手を伸ばす。
「ぐぇ!」
ボルゾーは首を絞められ、中に吊られる。
ワンハンド・ネックハンギング・ツリー。
女の細腕で、軽々と。
「おいこら、ユーキ」
「ナイスキャッチ!」
「イェー!…違う!」
ぷらぷらとボルゾーを雑巾のように振り回し、女━━ヨーコはユーキを軽く睨む。
「護衛が見逃してんじゃないわよ」
「だって、オレ、大臣さんの護衛だから。こっちに被害無ければねー」
「か弱い女の子が狙われたんですけど?」
「ハッハ、何処?」
「くっそ」
「あー、その、キミタチ?」
キャイキャイとするヨーコとユーキに、恐る恐る大臣は話しかける。
「何?大臣さん?」
「そ、それ、死にそう」
血の気が引いて、ぐったりしているボルゾー。
うわ、とダンジョンに投げ捨てられた。
パタパタと手を振り、コワカッタワーと呟くヨーコ。
大臣はドン引きしていた。




