脱獄王①
兵舎に隣接して建てられている建物がある。
総石造りで採光窓には鉄格子。
所謂、監獄である。
人が多ければ、それだけ良からぬ事をしでかす輩も多くなるわけで。
この監獄もかなりの大きさを誇り、加えて、その堅牢さで名が知られている。
その地下には、重犯罪者達が繋がれ、刑の執行を待っている。
目の前の牢屋に入れられている、この男も、幾度となく脱獄を繰り返しては捕まる事を繰り返し、今は、ここ王都の監獄に収監されることになった。
ここなら、脱獄なぞ、叶わぬだろうと。
脱獄王・ボルゾー。
人はそう、彼の事を呼んだ。
ボルゾーは、昔は冒険者で斥候職をしていた。
仕掛けられた罠を看破し、解除し、気配を察知し、パーティーを危険から守っていた。
また、自らの気配を消し、死角からの奇襲で先制の一撃を入れることもあった。
しかし、パーティー運が悪かった。
どんなに神経を磨り減らし、どれだけ心労を費やしても、彼と組むパーティーは、彼の仕事を評価しなかった。
戦闘で活躍する場が少ない事を理由に、報酬の配分を少なくされることが多々あった。
段々と心の奥底で燻るナニか。
ある日、やさぐれた気分で酒場の安酒を飲んでいると、声をかけられた。
これといった特徴も雰囲気もない、その辺にいそうな男。
『頼みたい仕事がある』と、一言。
見せられた小袋の中は、銀色の輝き。
ジャラリ、と中身が擦れる音に、思わず、喉が鳴る。
しかし、ヤバい臭いがする。
断ろうとすると、まぁ話だけでも聞いてくれと、普段飲まないような酒とつまみを注文される。
話だけなら、まぁ。と元々酒が入っている頭で、そう、判断した。してしまった。
男の話は簡単だった。
指定された屋敷の、裏口の鍵を開けて欲しい。
ただ、それだけ。
屋敷、といっても貴族の屋敷なんかじゃなく、この街の一角の顔役みたいなもの。
仕事をした後は、しばらくほとぼりが冷めるまで、街を離れてればいい。なぁに、冒険者だ。他の街までの護衛でもすれば一石二鳥だろう?
そう言って男は、袋の中から数枚取り出し、ボルゾーに握らせる。
まだ受けると言ってない、と突き返そうとしたが、あの程度の鍵ご開けられないのか?とバカにされると、沸き上がる反発心のまま、ふざけんな、見とけ!と逆に受けてしまっていた。
で、仕事はさっさと終わらせた。
多少古臭い造りではあったが、何のことはなかった。
時間通りにやって来た坂場の男は、笑顔でボルゾーに小袋を渡した。
流石だな。という言葉に、ボルゾーは久々に嬉しくなった。
その日は鼻唄混じりに酒場に寄り、いつもより良い酒を飲んで、
定宿で就寝した。
目が覚めると、牢屋にいた。
意味が判らなかった。
何かの間違いだろうと、思った。
昨日の仕事のせいか?と、背筋がゾクリとなる。
幸い、周りには誰もいない。
まず、手の関節を外し、手枷を外す。
陰毛を抜いて、魔力で硬化。
いつもの道具に仕上げる。
それで反対の手枷を外す。
足枷も同様だ。
これで四肢は自由だ。
鉄格子の鍵を開け、気配を消し、そっと外に出る。
斥候で鍛えた気配察知と気配遮断を駆使して、屋根へと身を隠す。
脱獄王、最初の脱獄だった。
何のことはない。
酒場ごとグルだった、という話だ。
腕の確かな斥候職。
現状に不満を抱えている。
それにボルゾーが該当した。
元々、その酒場が犯罪グループの息がかかっていた、というのも、ボルゾーの運の無さ故か。
で、敵対グループの幹部を襲撃する際の道具として、罪を擦り付ける相手として、利用された訳だ。
ボルゾーは街を後にした。
復讐するには相手がデカ過ぎる。
なら、関わらなければ、もういい。
冒険者のパーティーは、愛想を尽かしていたから、気にしなくて良い。
どこか他の場所で再起すれば良い。
そして、辿り着いた街で、ボルゾーは脱獄犯として、あっさり捕まった。
そして、あっさりと脱獄した。
幾度となく繰り返される、ボルゾーの脱獄の歴史が始まったのだ。




